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ガーベラ

乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です も よろしくお願いします!


コミカライズ版が電子で安くなっているそうなので、まだ手に入れていない方はお買い得ですね。


俺は星間国家の悪徳領主! 1巻 も現在は割引されてお手頃になっております。

 グリン男爵の本星周辺。


 俺は椅子に座って地上で起きる戦闘の光を見ていた。


 宇宙から見下ろす地上では、降下した味方の部隊がカルヴァン派の連中を次々に撃破している。


 本星周辺に待機していた敵の艦隊だが、今はデブリになって漂っていた。


 周囲にいるのは離反したはずの艦隊――つまりは味方だけだ。


 集結した敵艦隊に合流した味方と共に襲いかかり、今は地上戦を観戦している。


「クルトの奴は張り切っているな」


 モニターでクルトの活躍を眺めていると、先程から酷く慌てたテオドルが俺に何度も怒鳴るように尋ねてくる。


「バンフィールド伯爵、これはどういうことですか!!」


「どう、とは?」


「既に勝敗は決したはずです! それをこのような騙し討ちをして」


 騙し討ちと言われるのは心外だ。


 だが、ここはとぼけてテオドルをからかっておこう。


「そうなのか? それは申し訳ないことをしたな。だが――これでカルヴァン派は大打撃を受けたわけだ。クレオ殿下が皇太子の地位を得るのも確実になる」


 俺が「これでクレオ殿下が勝利するのに、何の問題が?」と問えばテオドルが顔を真っ赤にして反論してくる。


「このような姑息な手で勝利したとしても、誰もクレオ殿下をお認めになりませんよ! バンフィールド伯爵、戻ったら責任を取っていただく」


 興奮して鼻の穴を大きくしたテオドルを見て、鼻毛が出ていることに気が付いた。


 俺は側に控えるクラウスに視線を向ける。


 クラウスを追い出したというのは嘘だ。


「俺は責任を取らされるらしいぞ、クラウス?」


「――表向き敗北となれば、致し方ないかと」


「酷い話だよな。これまでクレオ殿下のために、俺がどれだけ貢献してきたことか。その努力を認めてくださらないのは、俺としても寂しい限りだよ」


 ニヤニヤとテオドルの顔を見ていると、本人はクラウスを気にしていた。


「どうしてクラウス殿がこの場におられるのか!? この戦場から追い出したはずでは!?」


 テオドルに種明かしをしてやろう。


「あぁ、あれは嘘だ。お前が情報を敵に流していたのは知っていたからな」


「な、何ですって!? そ、そのような事実はありません。言いがかりです! 第一、私には動機がありません」


「――そんなものは関係ない。お前が俺を裏切った。それが全てだ」


「ち、血迷ったか、バンフィールド!」


 鼻毛が気になって会話に集中できないな。


 それにしても、俺を呼び捨てとはいただけない。


 俺はクラウスへと視線を向けた。


「お前もテオドル殿に何か言ってやれ」


「リアム様もお気付きに?」


 クラウスがチラチラとテオドルの鼻を見ていたので、鼻毛の話だろうか?


「そうだな。それで、お前の判断を聞かせろ」


 すると、クラウスもこれまでと思ったのか、過激な決断をする。


「――処理すべきかと」


 俺はクラウスなら、穏便に――裏で処理するように進言してくると思っていた。


 意外な判断に俺は驚いてしまう。


「お前がそう言うとは驚きだな。腹に据えかねていたのか?」


「いえ、そういうわけではありませんが」


 クラウスが少し戸惑いを見せるので、きっと裏切ったから処分すればいいと考えているのだろう。


 思いきりのいい奴だ。


 敵に対して容赦がないところはあるが、俺の部下として相応しい人材だ。


 やはりクラウスが筆頭騎士だ。


「そうだな。お前も賛成なら処理するとしよう」


 側にいたユリーシアが、俺の刀を手渡してくる。


 受け取ると、何をされるか察したテオドルが背中を見せて逃げようとした。


「誰かこいつを止め――ろ?」


 直後、テオドルが地面に倒れる。


 両の手足の腱を斬ってみた。


 立ち上がって近付く俺は、テオドルを踏みつける。


「師匠の領域にはほど遠いが――背中は見えて来たな」


 全盛期の師匠の実力が見えつつある。


 何が起きたのか理解できないテオドルだが、俺が殺さないのを見て気が大きくなったようだ。


 こいつは、俺が自分を殺せないと思ったのだろう。


「こんなことをして許されると思っているのか? 貴様はクレオ殿下に弓を引いた! このままで済むと思うなよ」


 強気のテオドルをからかってもいいが、あまり遊んでいるとブリッジが汚れてしまう。


「勘違いをするな。ここで殺さなかったのは、ブリッジが汚れるからだ。おい、こいつを俺の船から生身で放り出せ」


「な、何を言っている? 私を殺せば取り返しが付かないことになるぞ!」


 テオドルの言葉に、俺は刀を担いでから答えた。


「安心しろ。もう取り返しが付かないところまで来ているよ」


 俺が何を言いたいのか、テオドルは理解したようだ。


 だが、理解は出来ても――俺がここまでするとは思わなかったのか、酷く困惑した表情をしている。


「お、お前、まさか」


「連れていけ」


 兵士たちがテオドルを連れていくと、俺は刀をユリーシアに渡して座る。


 ユリーシアは顔を引きつらせていた。


「刀を持つ必要があったのですか?」


「無手では繊細な一閃が放てないんだよ。あいつを細切れにしたら、掃除が大変だろうが。――さて、そろそろいいか。クラウス、親衛隊を攻撃しろ。殲滅だ」


 俺が命令を下すと、クラウスが先程とは違ってためらっていた。


 何か気になることでもあるのだろうか?


「親衛隊を本当に攻撃してよろしいのですか?」


 テオドルを殺した時点で引き返しようがない。


 いや、色々と理由を付ければどうにかなるだろうが――ここで親衛隊を殲滅すれば、クレオに対して言い訳が出来なくなる。


 ――だが、それがどうした?


「あいつらに誰を敵に回したのか教えてやれ」


「――承知しました」



 クラウスは内心で焦っていた。


(鼻毛の話をした後に殺されるとか思わないでしょ!)


 話の流れから、クラウスは鼻毛を処理するようにリアムがテオドルに伝えてくれることを期待していた。


 まさか、一応は味方であるテオドルをこの場で殺すとは思ってもいなかった。


 それに、親衛隊を殲滅しろとの命令だ。


(これはまずい。いや、相手は裏切っていたが、そもそもこれをすると本当にクレオ殿下とは争うしかなくなるぞ。いや、だが――あぁ、もう無理)


 いくら考えても答えは出ない。


 何しろ、親衛隊が最初から裏切っていたということは――クレオが裏切っていたということだ。


(彼らをここで逃がしても、クレオ殿下との対立は避けられない。――もう手切れだろうな)


 今後のことを考えると不安ばかりのクラウスは、とりあえずリアムの命令を遂行する。



 その頃。


 クルトにより撃破された戦艦の格納庫には、案内人の姿があった。


 人型を取り戻した案内人は、瓦礫の山に埋もれた3588番を助け出している。


「ぬおぉぉぉ! 私の切り札がこんなところで!」


 格納庫はグチャグチャで、しかも各所から火花が散っていた。


 いつ爆発が起きてもおかしくない場所になっている。


 ただ、量産型アヴィド――ネオと名付けられた機体達は無事だ。


 一機は3588番の専用機で赤く塗装されているが、人工知能を搭載した機体は白く塗装されていた。


 三機とも無傷の状態だが、運悪く肉体のチェックをしていた3588番だけは怪我をしている。


「ごめんね。帽子さん。怪我しちゃった」


 あはは、と力なく笑う3588番。


 案内人は思う。


「お気になさらず。さぁ、リアムが来ています。貴女の機体までお連れしましょう」


(本当だよ! 何でお前が怪我をするんだよ! 本当なら、リアムに勝てなくても被害を出させるくらい出来ると思ったのに)


 案内人は最初から、カルヴァンとクレオの作戦が上手くいくとは考えていなかった。


 それでも、リアムに被害が出るならと協力していた。


 しかし、切り札の少女――たった数ヶ月で、今は十五歳前後の姿をした彼女は怪我をして能力が下がってしまっている。


 万全でもリアムに太刀打ちできないのに、これでは絶望的だった。


(ちっ! 仕方がない。こいつに地上部隊を足止めさせて、人工知能搭載型をリアムの艦隊にぶつけてやるか)


 そう考えた案内人は、少女に作戦を伝える。


「その状態では満足に機動騎士を動かせないでしょう? ならば、貴女は地上で敵の足止めをしなさい」


「足止め?」


「人工知能搭載型をリアムにぶつけるのです。地上で足止めを食らえば、敵に察知され対応される時間がそれだけ増えますからね」


「うん、分かったよ、帽子さん」


「良い子ですね。さぁ、お行きなさい」


 少女がコックピットに入り、シートに座ると赤いアヴィドがツインアイを光らせる。


 残り二機も起動すると、周囲の壁を押しのけるように破壊していく。


「――帽子さんの頼みだから、絶対に成功させるんだ」


 赤いアヴィドは二機が作ったスペースから空へと舞い上がると、クレオ派の軍隊が気付いて攻撃を開始する。


 ビームやミサイルが飛んでくる中、赤いアヴィドは両肩にマウントしたシールドを前面に向けた。


 直撃する前にミサイルは爆発し、光学兵器は曲がって当たらない。


「お前たちは空に!」


 残り二機のネオが大気圏を離脱するために速度を上げて上昇していくと、少女は見送ってから接近する敵に狙いを定める。


 敵からは困惑する通信が聞こえてくる。


『あれはバンフィールド伯爵の乗機か!?』

『データにはそのように』

『敵も同型機を用意していたのか!?』


 接近してくる機動騎士たちは、地上の空で戦うために翼を取り付けていた。


 少女の乗る赤いアヴィドの周りを飛び回り、攻撃してくるがそれらは全て届かない。


 赤いアヴィドに直撃する前に、全て爆発するかねじ曲げられてしまう。


 実弾兵器では装甲に傷一つつかず、かつてのアヴィドと同等の性能を見せていた。


『偽物の癖に性能は近いと見える』


 敵が斬りかかってくると、少女は赤いアヴィドに実体剣――刀を模したブレードを握らせて斬り裂いた。


「偽物じゃないよ。この子の名前はちゃんとあるんだ。私が勝手にそう呼んでいるんだけどね。――この子は【ガーベラ】。ちゃんと名前を覚えてね」


 その直後、周囲の機動騎士は斬り刻まれて爆散する。


「せっかく名前を教えてあげたのに」


 少女は怪我をした脇腹を手で押さえると、血の気の引いた顔で空を見上げる。


「私も誰かに名前を呼んで欲しいな」



 赤いアヴィドが出現した。


 しかも一閃流を使うらしいと聞いて、現場に向かったのはクルトの部隊だった。


 元々近くで待機していたのもあるが、味方がことごとく撃破されているためクルトが派遣されることになった。


 接近すると、クルトは赤いアヴィドを見て目を細める。


「細部は違うが、間違いなくアヴィドの同型機か。一閃流まで再現するなんて、いったい何をやったんだ?」


 リアムと同じ一閃流の使い手だろうか?


 そう判断したクルトは、味方に不用意に近付かないように指示を出す。


「距離を取って遠距離攻撃に努めろ! 絶対に近付くな!」


『りょ、了解!』


 だが、距離を取ればアヴィドの周囲に魔法陣がいくつも浮かび上がり、そこから銃口が自分たちに向けられる。


 実弾。


 ビームやレーザー等の光学兵器。


 それらが襲いかかる中で、クルトは歯を食いしばる。


(ここまで再現しているのか!?)


 似せただけではなく、限りなく性能を近付けている敵に驚嘆する。


 アヴィドはリアムが莫大な予算を注ぎ込んで作らせた機動騎士であり、量産には向かない機体だ。


 それを用意するだけでも大変だが、敵は残り二機もいる。


「こんな機体を三機も用意して、残り二機はリアムの所か」


 主力に敵が向かうのを阻止できずに悔やむが、相手がアヴィドなら仕方がないとどこかで諦める。


 ただ、距離を取る自分たちに赤いアヴィドが強引に距離を詰めてきた。


「機体性能まで似せたのか!」


 隣にいた味方機が体当たりで粉々にされるのを見たクルトは、自分が相手にしなければなぶり殺されると判断して機動騎士に剣を握らせる。


 そして斬りかかると、敵は刀で受け止めた。


 それを見てクルトは訝しむが、すぐに気付く。


「リアムと同じ技量はない。これならいける!」


 相手が一閃もどきを放ってくるが、リアムとの付き合いが長いクルトはそれを察知する。


「パイロットは似せただけか」


 赤いアヴィドを蹴ると、パイロットの声が聞こえてきた。


 接触した際に回線が開き、相手の顔が見える。


「その顔はまさか!?」


 あまりにも似すぎている。


 そのため、クルトはすぐに敵が何に手を出したのか気付いてしまった。


 そして、怪我をして不調なのもすぐに見抜く。


『偽物じゃない。この子はガーベラだ!』


 クルトは少女の声に驚く。


「女の子!?」


『3588番――私の目的はあなたたちの足止めをすること』


 赤いアヴィド――ガーベラがそのパワーで強引にクルトの機体を破壊しようとする。


 だが、リアムと何度も練習で戦ってきたクルトは、あまりに拙い一閃流の動きを先読みして避けた。


『どうして当たらないの?』


 不思議そうにするリアム似の少女に、クルトは憐れみながら答える。


「君の一閃流も操縦技術も、リアムにはほど遠いよ」


『嘘だよ。ちゃんと覚えたもん! いっぱい練習して、それで褒めて貰えたもん!』


 見た目よりも幼い言動や態度に、カルヴァン派が少女に何をしたのか察してしまった。


(リアムに勝つために禁忌に触れたのか)


 斬撃を放ってくるガーベラの攻撃を避けるクルトの機動騎士だが、レアメタルの装甲を持つ敵に決定打がなかった。


 だから、時間を出来るだけ稼ぐ。


 その内に、パイロットの方が先に駄目になってしまう。


 ガーベラの動きがちぐはぐになり、飛んでいることも出来ずに落下してもがいていた。


 クルトがその近くに機体を下ろすと、少女が泣いている。


『も、もう少し頑張らないと――ぼう――さんに――褒めて貰えない』


 誰かの名前を必死に呼んでいた。


 クルトがその様子を見て目を閉じると、味方がガーベラを囲んで武器を向ける。


 それをクルトが制した。


「止せ」


『しかし!』


「無駄だ。手持ちの武器では傷つかないよ。それに、この状態ではもう動かせないさ」


 クルトは少し考えてから、少女に話しかける。


「生きたいならハッチを開けなさい」


若木ちゃん( ゜д゜)「鼻毛の話かと思ったら普通に殺すとか、クラウスさんもビビるわよ」


ブライアン(´;ω;`)「胃痛仲間が辛そうで辛いです。でも、きっとまだ辛くなると思うと更に辛いです」


ブライアン(`・ω・´)「それはそうと、書籍版【俺は星間国家の悪徳領主!3巻】が好評発売中でございます。パワーアップした書籍版を是非ともお楽しみください」

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> 鼻毛が気になって会話に集中できないな。  ~~ >「――処理すべきかと」 > クラウスは内心で焦っていた。 >(鼻毛の話をした後に殺されるとか思わないでしょ!) > 話の流れから、クラウスは鼻…
クルト、悪徳領主なのに優しいな…
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