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釣り野伏せ

俺は星間国家の悪徳領主! は オーバーラップ文庫様 から 1~3巻 が 好評発売中です!


電子書籍もあるよ!

 リアムの乗艦であるアルゴスのブリッジ。


 そこでテオドルは、無表情を心掛けながらも内心では笑っていた。


(こんなにも早く崩れるとは、リアムの派閥の結束も脆かったな)


 ブリッジにはクレオ派の貴族たちの顔が、空中に投影されていた。


 彼らは一様に憤慨し、リアムを責め立てている。


『バンフィールド伯爵、これは貴殿の責任だ!』

『戻ったら覚えておけ』

『貴殿にはガッカリしたよ』


 開戦から半年が過ぎると、流れは完全にカルヴァン派に傾いていた。


 保有していたほとんどの支配地域を失い、後方に下がる味方の艦隊。


 中には逃げ出した艦隊も少なくない。


 カルヴァン派に寝返る貴族たちも現れてしまった。


 今は貴族たちがリアムを吊し上げている。


 だが――。


「言いたいことはそれだけか? ならばさっさと逃げ帰ればいい。俺だけでカルヴァンと勝負してやるよ」


 ――まだ若く血気盛んなリアムは、引き際を見誤っていた。


 味方が離反していくのを止められず、怒気を放って周囲を威圧している。


 誰が見ても勝負は付いた状況で、まだ勝ちにこだわっていた。


 テオドルは嬉しくてたまらない。


(そうだ。そうやって足掻いて血を流せ。この戦いが終われば、お前らは二度とクレオ殿下に逆らえないようにしてやる。伯爵家生まれのボンボンにはお似合いの結末だ)


 周囲を見れば、ティアとマリーが苦々しい顔をしながら俯いている。


「リアム様、これ以上は損害が増すばかりです」


「勝敗は決しました。撤退、もしくは交渉に入るべきかと」


 有能な二人の騎士が助言をするも、リアムは拒否してしまう。


「黙れ! お前たちに許されているのは、俺を勝利に導くことだけだ。――ティア、マリー、お前たち二人は開戦から失敗続きだったな? 俺に従えない無能には、負傷者の輸送を任せるとしよう」


 戦場で傷ついた人や兵器をまとめ、逃がす役割を与えられる。


 これにより、ティアもマリーも戦場から追い出されることになった。


 最後にはクラウスがリアムを諌める。


「リアム様、ここまでです。後方にはグリン男爵の本星が控えています。守りに徹したとしても、敵は我らの四倍以上の数を有しています」


 忠言に対してリアムは、宇宙海賊との戦いを引き合いに出す。


「なら問題ない。俺はこれまでにも数の差をひっくり返してきた。この程度は許容範囲内だ」


「ですが!」


「――クラウス、俺に従えないならお前も下がれ」


 リアムが有能な側近たちを全て追い出す姿を見て、テオドルは行動を起こす。


(思ったよりも早く終わったな。それにしても、腹心の部下を遠ざけるとは何とも好都合じゃないか)



 艦内で一人になったテオドルは、グリン男爵と通信を繋ぐ。


 敵に情報を流せば気付かれてしまうが、味方に通信を送っても咎められれば言い訳が出来る。


 話の内容は状況の報告だが、大事なのは前もって決めていたワードを使うことだ。


「こちらは危機的状況にあります。グリン男爵も覚悟を決めてください」


 この状況ならおかしくはない台詞に、グリン男爵が細目を大きく見開く。


『承知しました。私も出来る限り抵抗してみせますよ』


 追い込まれた状況の会話だが、前もって決めていた内容だ。


 意訳すれば「リアムが追い込まれた。降伏の用意をしろ」「OK」だ。


 最初から戦うつもりのないグリン男爵は、カルヴァン派が乗り込んできたらすぐに降伏するつもりだった。


 テオドルが最終確認をする。


「バンフィールド家から防衛戦力を派遣されていましたよね?」


『えぇ、彼らにも頑張ってもらいますよ。いや~、無理を言って借りた甲斐がありました』


 本星の守りが手薄だからと、リアムから強引に借りた艦隊がある。


 降伏後はカルヴァン派に引き渡す予定だが、抵抗するなら挟撃するつもりでいた。


「それでは、これで通信を終わります」


『そちらも気を付けて』


 通信が終わると、テオドルは下卑た笑顔になる。


「これで私も本物の貴族になれる」



 開戦から一年後。


 首都星に届いた知らせを受けて、カルヴァンは椅子から腰を浮かせてしまった。


 知らせを持ってきた貴族の若者は、瞳を潤ませている。


 カルヴァンが再度聞き返す。


「本当に勝ったのか!?」


「はい、殿下! 我らの軍はバンフィールド家の軍を退け、グリン男爵の本星を占領しました! グリン男爵は降伏。地上に残ったバンフィールド家から派遣された防衛部隊が抵抗を続けていますが、すぐに鎮圧できるとのことです」


 グリン男爵の本星を制圧したならば、この戦いは文句のない勝利である。


「あまりに呆気ない。バンフィールド伯爵には右腕のクラウスがいたはずだが?」


「スパイからの報告では、クラウスが諌めてもバンフィールドが勝ちにこだわったそうです」


 リアムがそんなことをするのだろうか?


 カルヴァンは安堵よりも不安の方が大きくなる。


「――クレオの様子はどうか?」


 若い貴族は浮ついた気持ちを切り替え、真剣な面持ちで報告してくる。


 彼もクレオの様子が気になっていたのだろう。


「暗部が見張っていますが、怪しい動きは見られないそうです。リアムと繋がっている様子もなければ、予定通りに動いているそうです。正直、こちらの方が不気味に感じていますよ」


 後継者争いでリードしていたクレオ自らが、後のないカルヴァンに降ると言えば誰もが信じられないだろう。


 カルヴァン自身、あの時は手を取るしかなかった。


 クレオをあの場で殺せば、リアムが違う誰かを擁立するだけだ。


 そうなれば意味がなく、そもそもカルヴァンが恐れていたのはクレオではなくリアムである。


 クレオと協力したのは、リアムよりも恐れる必要がないためだ。


 だが、未だに信じられずにいた。


 クレオも――そして、リアムの敗北も。


「味方には気を抜くなと伝えなさい。彼が――バンフィールド伯爵がこの程度で終わるなら、私たちはここまで追い込まれたりはしなかった」


 気を引き締めるように言うカルヴァンに、若い貴族も背筋を伸ばす。


「すぐに伝えます!」


「あぁ、私からも後で労うついでに釘を刺しておくよ」


 本来ならここで終わったと安堵できるのだが、あまりにも呆気ないためにカルヴァンは罠ではないかと不安に襲われた。


 若い貴族が執務室を出ていくと、頭を抱える。


「終わったはずだ。私は勝利したはずだ。それなのに、どうしてこんなにも彼が恐ろしいのか」


 この不安を取り除くためにも、カルヴァンは確実に勝利するまで喜べなかった。



 グリン男爵の本星。


 男爵家の完全環境都市――アコロジーの上空には、何千という宇宙戦艦が浮かんで太陽の光を遮っていた。


 その戦艦のブリッジでは、カルヴァン派の貴族――司令官が呆気ない勝利に浮かれている。


 数千隻を率いる分遣艦隊の司令官の一人だ。


「皇太子殿下から秘密兵器を送られたが、結局使わなかったな」


 副官も気が抜けている様子だ。


「秘密のままで終わるからこそ、秘密兵器ではありませんか?」


「そうだな。それに触らぬ神になんとやら、だな」


 カルヴァンから届けられた秘密兵器だが、その調整のために艦内のスペースが大きく奪われていた。


 扱いも難しく、専門スタッフが送られてきて基本的に司令官すらも詳細が伝えられていない。


 知りたくもあるが、あまり関わりたくないのが本音でもあった。


 司令官は地上に見えるアコロジーを窓から副官と一緒に見下ろす。


「それにしても、何とも荒れた領地だな。私も領主だが、ここより酷い領地ではないと断言できるよ」


「グリン男爵は大馬鹿者と評判です。クレオ殿下も、よくあの男を味方に招き入れたものですね」


「政治というやつだよ。もっとも、私もあずかり知らぬ上の話だがね」


 司令官には事情が伝えられていなかった。


 副官が今後の予定を確認する。


「それはともかく、あまりに鮮やかに勝ちすぎてしまいました。予定の立て直しが必要です」


「まだ終わっていないだろ? 地上にはバンフィールド家の部隊がいるはずだ。そちらに味方が向かっているはずだが?」


「すぐに片が付くそうです。グリン男爵が地上軍の規模を正確に報告してきましたからね」


「――本当に味方にしたくない男だな」


 戦争も終わりが見えて来た。


 安堵する二人だったが、数キロ離れた場所に浮かんでいた味方の艦艇が爆発すると何事かとそちらを向く。


 爆発しながら落下していく宇宙戦艦は、アコロジーの近くに落ちてしまった。


 副官がオペレーターに向かって叫ぶ。


「状況報告急げ!」


「上空からの攻撃です!」


「敵か? いや、だが、宇宙には味方がいるんだぞ」


 サイレンが鳴り響き、第一種警戒態勢に移行する中で光に貫かれ爆発していく味方が増えていく。


 上空に向かって攻撃を行う味方も現れるが、空から落ちてきたのは味方艦だった。


 落下する味方艦に押し潰されるように、味方が次々に落下していく。


「バンフィールド家か? 往生際の悪い」


 司令官が席について命令を出そうとすれば、オペレーターが敵の所属を明らかにする。


「ち、違います。これは――エクスナー男爵家の家紋です!」


 エクスナー男爵と聞いて、司令官は一瞬どこの家かと困惑した。


 そして、敵の中にバンフィールド家と親しい男爵家がいたのを思い出す。


「成り上がりの男爵家か!? 奴らは離反したはずでは――」


 直後、白い機動騎士が司令官の乗る戦艦のブリッジ前に現れると、右手に持っていた剣を振り下ろす姿見えた。


 そこで司令官の意識は途絶える。



 白い機動騎士のコックピットでは、パイロットのクルトが周囲の状況を確認しながら戦っていた。


「大気圏突入からの戦闘なんて無茶をさせるんだから」


 クルトの乗る機動騎士は、リアムから贈られた最新鋭機だ。


 量産機から特別にカスタムされた機動騎士は、白騎士と呼ばれていた。


 白く塗装された機体は、クルトの得意とする剣を持っている。


 同じ機体がクルトに続いて降下してくるが、他は灰色で地味な仕上がりだ。


 とても同じ機体とは思えない。


「敵の機動騎士が出てくる前に叩くぞ!」


 部下たちに命令を出せば、一斉に返事が返ってくる。


『了解!』


 クルトはアコロジーに一度視線を送ると、次々に味方の小型艇が降り立っているのが見えた。


 そこから武装した兵士たちが続々と降りてきて、地上戦を開始する。


「地上部隊の援護も忘れるな。グリン男爵を救出する重要な任務だ!」


『はっ』


 救出する――そう言いながら、クルトは内心で溜息を吐いた。


(命懸けで戦う部下に嘘を吐くのは申し訳ないよ)



 アコロジーに侵入したのは、ティア率いる陸戦隊だった。


「どこですか~、男爵様!」


 パワードスーツの機能を持つパイロットスーツ姿のティアは、右手にレイピア型の武器を持っていた。


 左手には拳銃を持ち、飛び出してくる敵がいると即座に撃ち抜く。


 ヘルメットの中では笑みを浮かべ、そして目を血走らせていた。


 バリケードを用意して抵抗する敵兵達を見つけると、ティアが地面を蹴ってバリケードを跳び越えた。


 敵だらけの場所に着地をすると、レイピアを振るって敵を斬り裂いていく。


 しなるレイピアの刃が、敵のアーマーを容易く斬り裂いていた。


 そして、運良く生き残った倒れた一人の兵士に近付いたティアが胸に足を乗せて押さえつける。


 敵兵は武器を捨てると両手を挙げた。


「た、助けてくれ! 俺は戦うように命令されただけなんだ!」


「男爵はどこだ?」


 レイピアで脅しながらティアが質問すると、敵兵は答える。


「あ、あいつならすぐに逃げ出した。隠れているのか、逃げ出したのかまでは知らない。俺たちには死んでも逃げる時間を作れと言っただけだ」


 ティアは敵兵を蹴って気絶させると、部下に拘束するように命令する。


「こいつを捕らえておけ。上空に逃げた乗り物は確認できるか? 小型艇でも、何でもいいわ。とにかく調べなさい」


 通信兵が確認すると、すぐに答えが返ってきた。


「全て拘束したそうですが、その中に男爵の姿はなかったそうです」


「そう。なら、隠れているのね。――必ず見つけなさい。リアム様は、奴には罪を償わせろと仰せよ」


 ティアが騎士や陸戦隊を引き連れて屋敷内を荒らし回っていく。


 すると、一人の兵士が何かに気付いた。


「――ここですね」


 兵士が見つけたのは何の変哲もない棚だが、それは隠し部屋への入り口になっていた。


 しかし、何かしら仕掛けがあるらしい。


「手の込んだ仕掛けをしています」


「あら、そう」


 ティアは兵士の話を聞くと、棚を蹴って強引に隠し部屋を発見する。


 そこにいたのはグリン男爵で、随分と豪華な隠し部屋の隅で怯えていた。


「ひっ!」


 積み上げられた希少金属の山。


 数々の骨董品などは、グリン男爵の財産なのだろう。


 ティアがレイピアを鞘にしまうと、グリン男爵は何を勘違いしたのか安堵する。


「も、もしかして、助けに来てくれたのですか? いや~、助かりました。カルヴァン派の貴族たちに捕まり、どうなることかと」


「それは良かった」


 立ち上がって近付いて来るグリン男爵に、ティアは笑顔で拳を叩き込んだ。


 殴られて吹き飛ぶグリン男爵が壁に激突すると、近付いて長い髪を掴み上げた。


 そしてわざとらしい台詞を口にする。


「あ~、何ということか! グリン男爵を助けるために突入したというのに、間に合わずに死なせてしまうなんて!」


「ま、間に合わずだと!?」


 自分を助けに来たのではないと知り、グリン男爵は逃げだそうとするがティアの握力から逃れられないでいた。


「お前を待っている者たちがいる。お前のせいで母星を荒らされた領民たちだ。相当恨まれているぞ。リアム様とは大違いだ」


 そのままグリン男爵を連れ出すと、陸戦隊が連れてきた領民たちの前に放り投げる。


 彼らは事前に話をしていた――グリン男爵を恨む領民たちだ。


 グリン男爵が逃げようとするが、領民たちが持った武器にふくらはぎを刺された。


「痛っ! いだい! だすげて!」


 グリン男爵を領民たちが囲むと、持っていた武器――それも銃器ではなく、剣や槍といった道具で全員が袋叩きにする。


 それらは屋敷の装飾品として飾られていたものだ。


「何が痛いだ! お前のせいで俺たちは――」

「お前のせいで俺の家族は死んだんだ!」

「何が改革だ。お前のせいで俺たちは!」


 グリン男爵の政治手腕が酷く、苦しめられた領民たちにより酷い姿に変えられていく。


 領民よりも頑丈な肉体を持っていたとしても、周囲はティアやリアムの兵士たちに囲まれていては逃げ場がない。


 その様子を見るティアは、不快感が顔に出ていた。


 副官がティアの不満に疑問を持つ。


「何か不満でも?」


 領民たちが領主を殺す――帝国では許されない行為に、ティアが作戦とは言え腹立たしいのかと副官が心配する。


 だが、ティアは違う理由で腹立たしかった。


「――どうせなら上で戦いたいと思っただけよ。出来ればテオドルの方を始末したかったわね」


 自分を苦しめたテオドルの方を殺したかった――ティアはそれが不満だった。


 副官が肩をすくめる。


「あちらはクラウス殿がうまくまとめるでしょう」


若木ちゃん( ゜д゜) 【感想欄閲覧中……】


若木ちゃん( ゜言゜)「たとえ人類が滅ぼうとも、生き残るのが聖樹である私よ」


ブライアン(´;ω;`)「辛いです。聖なる要素がない植物が、聖樹を名乗って辛いです」


ブライアン(`・ω・´)ノ「それはそれとして、Kindleのライトノベル売れ筋ランキングで 俺は星間国家の悪徳領主! 3巻が 2位 (4月27日調べ) にランクインしております。これも購入してくださった皆様のおかげ。このブライアン、感謝しておりますぞ」



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 二周目にして思ったのだが、機動騎士が灰色なのは迷彩効果を狙ってのことなのか
[一言] 「釣り野伏せ」、良いですね。 個人的に、戦国では島津推しなので、尚更。 そう言えば、妖怪「首おいてけ」もバンフィールド家と相性良さそうだし。
[一言] 釣り針に本拠惑星を使うなんてスケールの大きな釣り野伏だ(^_^)v 後の世にはオペレーション・鼻毛切りとでも呼ばれ……それはクラウスだけが知っている秘密www
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