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勝利条件

俺は星間国家の悪徳領主! 3巻 は 好評発売中です!


Web版との違いをお楽しみください。


巻末のオマケは、前回評判の良かったメイドロボ量産機達の話になっています。

 開戦から数ヶ月。


 予想に反してカルヴァン派が勝利を重ね、優勢を保っていた。


 今回のように戦場が広い場合、艦隊はまとまらず分散する。


 それでも数万単位の規模で広大な戦場に分散し、敵と戦うわけだ。


 どの艦隊が宇宙基地や、衛星基地を奪ったとか。


 どの艦隊が敵艦隊を打ち破ったとか。


 毎日のように次々に報告が来て、それを処理するのが俺の仕事だ。


 もっとも、雑事は全てクラウスたちに任せている。


 ――任せた結果、いきなり敗北を重ねて劣勢に追いやられていた。


 軍監のテオドルに嫌みを言われても仕方がない――などと、俺は殊勝な心でいられるほど、出来た大人ではない。


「さて、お前らの言い訳を聞こうか」


 呼び出したのは筆頭騎士クラウスと、問題児ながら優秀なティアとマリーの三人だ。


 クラウスは椅子に座る俺の横に立たせて、ティアとマリーは正座をさせている。


 言い訳を聞いてやると言うと、即座にマリーがティアを睨み付ける。


「このミンチ女が原因ですわ! リアム様、すぐにあたくしに指揮権をお与えください。そうすれば、十年以内に勝利をお約束致します」


 戦争に十年。


 これは長いようで短い。


 この艦隊規模になってくると、下手をすると何十年と戦うことになる。


 数世紀も戦い続けたという悪い冗談みたいな話もあり、それだけ勝負を付けるのが難しい。


 最終的にどちらが優勢だったか判断し、交渉により勝敗を決めることも少なくはなかった。


 だから、マリーの言葉は「短い期間で俺に勝利を約束する」という意味だ。


 マリーに責任を押しつけられたティアの方は、眉間に皺を寄せている。


「黙れ化石! リアム様、確かに私に責任がございますが、汚名返上の機会をいただければ必ずや十年――いえ、八年以内に勝利をお約束致します」


 マリーが十年ならば、ティアは八年か。


 競い合っているようで何よりだが、俺はそもそも八年も我慢できない。


「遅い。二年以内にけりを付けろ」


 俺が期間を定めると、話を聞いていたクラウスまでもが目を見開いていた。


 ティアは視線をさまよわせている。


「そ、それは、リアム様がお望みならば叶えるために最大限の努力はいたします。し、しかし、二年というのはあまりにも短いかと」


 マリーも二年は無理と判断したのか、渋りながらもティアの意見に賛同する。


「悔しいですが、ミンチ女の言う通りかと。裏切り者の目星は付いていますが、奴らを排除するにも時間がかかります。あたくしの予想が的中していたとすれば、排除するにも相応の時間がかかります」


 ティアもマリーも裏切り者には気付いているらしい。


「そうか。お前らも裏切り者に気付いていたか。大変結構だ。気付かない間抜けなら待遇を見直していたところだ。そうだろう、クラウス?」


「は?」


 普段の返事よりも若干違和感があるが、クラウスは最初から裏切り者に気付いていた。


 俺の側でしきりにテオドルを気にかけており、睨みを利かせていたので間違いない。


「俺の方でも調べたが、グリン男爵にも怪しい動きが見えた。マリオン」


 指を鳴らすと、部屋のドアが開く。


 そこから現れるのは、フリルのついた服装に着替えさせられたマリオンだ。


 俺を見る目が涙目になっているので、衣装を褒めてやる。


「似合うじゃないか。俺のプレゼントは気に入ってくれたか?」


「相変わらず先輩は悪趣味ですね」


 衣装を用意したのが俺だと知ったティアとマリーは、妬ましそうな視線をマリオンに向けていた。


 マリオンは二人の殺気に怯え、慌てて小走りで俺に近付いてくる。


 そして、俺に聞かせた話をこの場でも報告する。


「先輩の命令通りに調べてきましたよ。グリン男爵家ですが、戦争などやっていません。領内が荒れているのも、その手腕による結果でした。先輩とは逆で、何をやっても失敗していますけどね。それから、親衛隊のテオドルとも何度も面会しています」


 役人時代の後輩であるマリオンだが、騎士としては二流でも諜報活動には向いていた。


 その能力を後方で発揮してもらったら、グリン男爵が釣れたというわけだ。


 この場にいる全員が気付いていたのだろう。


 声を上げて驚きもしない。


 可愛げはないが、無能がいなくて安心した。


「そういうわけだ。テオドルとグリン男爵は潰す。お前たちには、二年以内に勝利を目指してもらう」


 二年以内に戦争を終わらせろ――しかも、俺たちの勝利で。


 条件を出されて、これまで口数少なく黙っていたクラウスも重い口を開いた。


「リアム様、それはあまりにも無謀です。テオドル殿はクレオ殿下の親衛隊であり、グリン男爵はクレオ殿下が助力を約束した相手です。仮に二名とその配下を排除したとしても、二年は短すぎます」


 常識的に無理だとは知っているが――どうしても二年以内に終わらせたかった。


「――これは命令だ。二年以内に勝利して終わらせろ」


 二年以内と聞いてクラウスとティアが難色を示すが、マリーだけは決意した顔付きに変わる。


 俺を見る目がキラキラと輝いて感動しているように見えるのが、何故か無性に腹立たしい。


 内心を悟られないように、普段よりも尊大に振る舞うため脚を組んだ。


「お前らに問う。二年以内に勝利する策を言え。多少の犠牲は許容してやる」


 策はないかと問えば――ティアもマリーも「ない」とは言わなかった。


 実現、出来るとは思っていないが、それでも俺に策を献上する。


 最初はティアだ。


「敵主力に大打撃を与えれば、これまでの劣勢も跳ね返せるでしょう。そのためには、敵を誘い込む必要があります。一度後方へと下がり、敵が勢いづいたところで一点突破にて敵主力を打ち破ります。――ですが、敵が勢いづけば勝ち馬に乗ろうと途中参戦する貴族たちも出てくるでしょう。味方からは離脱する者が増えて、数の差は広がるばかりでお勧めは出来ません」


 他にも一点突破をするために、どの艦隊を狙えばいいのか悩ましい。


 敵主力だと思っていたら、全然違ったという場合が怖い。


 また、無理をするため味方の被害が大きくなるのも問題だ。


 今後を考えると、出来るだけ戦力は失いたくない。


 マリーの方は少し違う作戦を考えていた。


「国内の貴族同士で使うにはためらわれる手段ですが、別働隊に敵の本星を狙わせます。本拠地が攻撃されたとなれば、この場に出てきている貴族たちは戻らざるを得ません。敵が崩れたところを総攻撃すれば早期決着も可能ではあります。ありますが――この作戦は長期的に見てあまりお勧めできません」


「以前にバークリー家がやった手段だな」


 この場で次期皇帝を決める戦いに挑んでいるのに、俺が敵貴族たちの本星を狙えば後ろから撃ったような扱いになる。


 汚い手が嫌いなのではなく、そんなことをこの戦いですれば後ろ指をさされる。


 身内からも反対意見も出るだろうし、長期的に見ると俺の信用が失われるデメリットがある。


 暗黙のルールを破る卑怯者と呼ばれるだろう。


 あと、これをすると俺の本星にも敵の別働隊が流れ込むはずだ。


 俺は指を組んでニヤニヤする。


「確かにどちらも問題ありで採用できないな」


 採用できないというと、ティアもマリーも心なしか安心したように見えた。


 俺に採用させたくはないのだろう。


 俺は頼りになるクラウスに視線を向ける。


「さて、お前の意見はどうだ?」


 クラウスは無表情で少しばかり黙り込むが、俺の視線に耐えかねて口を開いた。



(何で私に期待するんですか!)


 クラウスは内心で焦っていた。


 リアムの「お前の策に期待している」という視線を受けて、「何もないです」などとは言えない。


 ティアもマリーも、採用されなかったがちゃんと策を述べた。


(とりあえず、リアム様が絶対に選ばない方法を言えばいいか? リアム様が選ばない作戦って何だ? 多少の犠牲は許容すると仰っていたから、軍の損害が増えても構わないという考えか? ならば、リアム様個人の評判に関われば――)


 クラウスは覚悟を決めて、リアムが絶対に選ばないだろう策を述べる。


「惑星シャルローを巡るこの戦争を放棄してはいかがでしょう?」


「何?」


 リアムが怪訝そうな顔をすれば、ティアとマリーがクラウスを見る目が冷たくなっていく。


 これまで負け知らずのリアムだ。


 その不敗神話に傷を付けるのが、二人には我慢ならないのだろう。


 だが、クラウスはこれを狙っていた。


「この戦争に勝利しても、結果はグリン男爵が領地を得るだけに終わります。ならば、我々は後継者争いにのみ集中します」


 リアムは不機嫌そうにしながらも、続きを話せと視線で語ってくる。


「敵はグリン男爵家の本星を目指しています。ここを奪われれば我々の敗北になりますが、その後に決戦を挑みます。理由は男爵の救出――など、苦しい言い訳になってしまいますね」


 説明しながら考えたクラウスの作戦は、敵を一箇所に集めて葬るというものだ。


 ティアやマリーの案も取り入れた形になっている。


 二人の話を聞いて思い付いた策であり、当然ながら深い意味などない。


 リアムが選ばないだろうし、二人が選ばせないだろうという考えのもとの発言だ。


 だが、リアムがこれに強い興味を示す。


「なる程――グリン男爵の惑星ならば、好き勝手に暴れても痛くも痒くもない。それに、どさくさに紛れて葬れるな」


 採用しそうなリアムを見て、クラウスは驚いた。


「リアム様?」


(え? 何で好感触?)


 クラウスが待ったをかけようとするが、先に動いたのはマリーだ。


「お待ちください! この作戦の最大のデメリットはリアム様の手腕が疑われることです。グリン男爵を守れなかったと責めを負う立場になります。裏切り者だと後で証明したとしても、表向きは敗北です」


 ティアもそれだけは認められないという姿勢を見せるが、リアムは立ち上がってクラウスに拍手をする。


「流石はクラウスだ。目的を達成しつつ、裏切り者共を処分する素晴らしい作戦だ。お前の策を採用する」


 決断したリアムにクラウスはドン引きした。


「本気ですか?」


(それをすると、ご自身の評判が落ちちゃうんですけど!!)


 再度確認をすると、リアムは愉快そうに笑みを浮かべる。


「あのグリン男爵に利益を与えるのもしゃくだと思っていたところだ。さて、それではすぐに段取りの話をしようじゃないか。――それからマリオン、この話を聞いたお前はしばらく拘束する」


 話を聞いていたマリオンが諦めた顔をすると、大人しく両手を前に出す。


「ここまで聞いて逃げられるとは思っていませんよ。戦争が終わったら、解放してくれるんですよね? あ、出来れば看守は可愛い女の子が良いですね。好待遇を要求しますよ」


「終わったら解放してやるが、可愛い女の子は我慢しろ」


「先輩のケチ」


 今後の方針を聞いてしまったマリオンは、しばらくリアムのもとで拘束されることになった。


 クラウスは自分がとんでもないことをしてしまったと後悔する。


「本当によろしいのですか? 勝ち方としては邪道になります。提案はしましたが、リアム様の評判を落とす策です。私はお勧め致しませんよ」


 リアムはクラウスに挑発的な笑みを浮かべる。


「結構なことだ。俺の評判が下がる程度で勝利が得られるなら、存分に利用すればいい。俺は言ったぞ――多少の犠牲は許容すると」


(ど、どうしてこんなことに!?)


 クラウスは血の気が引いた。


 まさかリアムが、自分の評判すら多少の犠牲と割り切るとは考えていなかった。


 良くも悪くも絶対的な存在のリアムは、その評判により得をしていることが少なくない。


 それを捨てても戦争を早期に終わらせる。


 ――クラウスはリアムを見誤ってしまった。


(最悪だ!)


 リアムが両手を広げて宣言する。


「さて、まずはカルヴァンとの戦いにけりをつけるとしようじゃないか」



若木ちゃん( ゜д゜)「あちし苗木ちゃん。他作品の主人公が思い切りが良すぎてドン引きしているの。リアムしゃん怖すぎワロタ……いや、笑えないわよ」


ブライアン(´;ω;`)「リアム様が親衛隊と争うのは辛いですが、二年で戦いを終わらせて戻ろうとするところにブライアンは安心しましたぞ。幸いです!」


ブライアンヾ(*´ω`*)ノ「そして発売されたばかりの【俺は星間国家の悪徳領主! 3巻】でございますが、好評なようでこのブライアンも一安心でございます。ですが、まだ油断できぬ状況ですので、これからも宣伝を頑張りますぞ」


若木ちゃん( ゜∀゜)「宣伝なら任せて『ウゼェ消えろ!』と言われても心が折れないあちし苗木ちゃんが、嫌になるくらい宣伝するわ」


ブライアン(;´ω`)「――それはちょっと」

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― 新着の感想 ―
リアム、信じてたぞ!!詰まらない戦争をさっさと終わらせて ロゼッタちゃんと結婚式だ!!
リアム様優しいですね。 可愛い女の子要求のところ私なら「わかった、鏡を置いてやろう」って言ってますね。
[良い点] クラウスさん安士と同じ異能持ちか何かですか?w
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