背水の陣
※マリーの一人称を書籍と合わせて「あたくし」に統一させていただきます。
※Web版全体を改稿するよりも、先に話を進めることを優先させていただくことにしました。
※今後とも「俺は星間国家の悪徳領主!」をよろしくお願い致します。
『俺は星間国家の悪徳領主! 3巻』 は 好評発売中です!
通信機のモニターの向こうにいるのは、首都星に送ったククリだった。
そんなククリの報告に俺は苛立ちから目を閉じる。
「――第七兵器工場からアヴィドの量産機が奪われただと?」
『はい。カルヴァン派が帝国に接収させました。第七兵器工場には監視が置かれ、リアム様にご報告できない状態だったそうです』
モニターの向こう――ククリの更に後ろには、涙目のニアスがいた。
床に座って泣いている。
『私のレアメタルが』
見張られていたことよりも、レアメタルがなくなって悲しんでいる。
その姿を見たメイド服姿のユリーシアが、何とも言えない表情をしていた。
「その状況でよくレアメタルの心配が出来ますね」
『だって! おかげで備蓄していたレアメタルが、アヴィドの量産機に回されて計画が狂ったのよ! また一からやり直しだからって、こんなのあんまりよ! リアム様、追加のレアメタルはご用意いただけないでしょうか?』
図々しいニアスの態度に、流石のククリも困惑しているようだ。
俺の方を見てくるが、ニアスはユリーシアがメイド服姿であるのを疑問にも思っていないらしい。
それだけ、レアメタルを失ったのが堪えているのだろう。
ククリが俺の判断を仰ぐ。
『リアム様、ご指示を』
「今は忙しいから、レアメタルの用意は無理だな。それにしても、カルヴァンも随分と焦っているじゃないか。俺から量産機を奪って何を考えている?」
こちらの戦力を削るつもりなら、ハッキリ言って悪手だ。
元々妹弟子達をこの戦いに参加させるつもりはないし、あいつらも今は安幸君に夢中だから参加したがらない。
戦力を削る意味では失敗だし、帝国に無理矢理接収などすれば反発する奴らも出てくる。
別に俺を庇うためじゃない。
いつか自分の財産が奪われるかもしれないと、勝手に妄想して貴族たちが騒ぐのだ。
そんな俺の疑問にククリが答える。
『首都星にて情報を集めていますが、随分と無茶をしていますね。これまでのカルヴァン派とは思えない動きが見受けられます』
「この戦いに全力を出すためか?」
『はい。ですが、一番の理由はカルヴァンが追い詰められていることが原因です。リアム様、お耳に入れておきたい話がございます』
「何だ?」
◇
首都星。
宮殿の主がいる部屋から出て来たのは、疲労困憊という姿のカルヴァンだった。
部屋の外で待っていたカルヴァンの騎士たちが近付き体を支えようとするが、それを本人が拒否する。
「構うな」
「しかし、このままでは倒れてしまいます」
「よい。支えられている姿を見られれば、それだけで変に勘ぐる奴らも出てくる」
呼吸を整えてから歩き出すカルヴァンは、アルグランド帝国皇帝――【バグラーダ・ノーア・アルグランド】との面会を思い出す。
(即位してから父上も変わられたな。昔は優しい人だったが、今はその面影すらない)
カルヴァンの幼い頃の記憶には、優しい父親の姿があった。
しかし、皇帝に即位すると父親は人が変わってしまった。
(それだけ帝位には重圧があるのだろうな)
面会した際に感じた覇気に気圧され、話すだけでも気力と体力が削られる。
カルヴァンも鍛えてはいるが、その程度ではどうにもならない威圧感があった。
心配した騎士が尋ねてくる。
「皇帝陛下は何故皇太子殿下を呼び出したのでしょうか?」
急な呼び出しの理由を尋ねてくると、カルヴァンは歩きながら答える。
迷いを振り切るかのように早足で歩いていた。
「代理戦争で私が負ければ、皇太子の地位はクレオに譲るそうだ。――私の身柄はバンフィールド伯爵に委ねるらしい」
それを聞いて騎士たちの顔から血の気が引いた。
これまで幾度も対立してきたリアムに身柄を預けるということは、カルヴァンを好きにしていいという意味だ。
卑猥な意味ではなく、それこそこれまで積もり積もった恨みを晴らしても構わないという意味である。
敵対派閥に送られるカルヴァンは、最悪生きていることを後悔するかもしれない。
「や、やはり、接収の件でしょうか? 皇太子殿下、やはりクレオは裏切っているのではありませんか?」
「今更考えても仕方がない。今は勝つことだけを考えればいい」
(そうだ。私にはもう後がないのだから)
カルヴァンは自分の妻や子供達――家族のことを考える。
(私が失敗すれば家族も消される。それだけは、それだけは何としても)
そんなカルヴァンのもとに駆け寄ってくる貴族が現れる。
カルヴァン派の貴族であり、その表情は明るかった。
「朗報でございます、殿下!」
◇
「くそがぁぁぁ!!」
戦艦のブリッジで激怒するマリーが大声を出せば、自分の椅子を蹴飛ばして破壊してしまう。
モニターの向こうに見える光景は、クレオ派の艦隊の残骸だった。
オペレーターが怯えながらマリーに確認を取る。
「きゅ、救難信号を確認しました。こ、これより救助を開始します」
「急ぎなさい!」
マリーが苛立っている原因は、敵に裏をかかれて味方の艦隊が敗れたからだ。
急いで救援に駆けつけたが、間に合わずに敵にも逃げられた。
「ふざけやがって。クリスティアナのミンチ女がぁぁぁ!!」
壊れた椅子を大鉈で何度も切り刻み、ストレスをぶつけるマリーに周囲はドン引きしていた。
マリーが憤る原因だが、全体を取り仕切っているのがティアだからだ。
つまり、ティアの尻拭いをさせられている事への不満だ。
しかも失敗したとなれば、更に不満は募る。
マリーの副官がそんな姿に呆れた表情を見せながら宥める。
「落ち着いてくださいよ。マリー様の失敗ではありません」
「あたくしがリアム様に救援は間に合いませんでしたと報告するのよ!? それを我慢しろとでも言うつもり!? あのミンチの失策のせいで、リアム様の期待を裏切るなんて絶対に許せないわ!」
肩をすくめる副官だったが、薄らと笑みを浮かべる。
「好都合ではありませんか。――奴を蹴落とし、マリー様がリアム様の側に付けばいいのですよ」
「――それもそうね。救援が終わり次第、すぐに戻るわよ。リアム様にミンチ女の失策を報告しないとね」
「それがいいですね。開戦してから、こちらはずっと良いところがありませんから」
――開戦してから数ヶ月が過ぎているが、クレオ派は敗北を続けていた。
大勢的にはやや押し込まれている程度だが、それでも失敗が続けばリアムの評価が落ちてしまう。
マリーはそれが許せず、親指の爪を噛む。
「――ただ、あの女がここまで読みを外すのはおかしいわね」
普段からティアを敵視するマリーだが、それでも実力は評価していた。
副官が敵に優秀な指揮官がいることを指摘する。
「敵にも優秀な指揮官はいるでしょう。それに、カルヴァン派には後がありません。そのために強固なまとまりを見せているのではありませんか?」
「それもあるでしょうね。けどね、あたくしの勘が五月蠅いのよ。――こちらに情報を流している奴がいるってね」
スパイを疑うが、副官はそれをさほど驚かない。
「それはいるでしょうね。うちも送っているはずですよ」
「裏切り者はリアム様の身近にいると思うのよ。――テオドルを徹底的に調べなさい」
マリーの勘がテオドルの裏切りを察知する。
◇
その頃。
救援が間に合わず敗北を重ねたティアは、リアムの前で頭を垂れていた。
青ざめた顔で冷や汗をかいている。
その姿をリアムの横に立ち眺めるテオドルは、陪臣でありながら自分よりも好待遇を受けている女性騎士の情けない姿に内心で笑いが止まらない。
「開戦から数ヶ月。負けを重ねた気分はどうですか、クリスティアナさん?」
テオドルが発言すれば、顔を上げるティアが睨み付けてくる。
ティアの憎悪に気圧されるテオドルは、一歩後ろに下がってしまった。
「な、何ですか、その顔は!? 責任を感じてはおられないようだ。今すぐに首をはねてしまいなさい!」
テオドルの言葉を制すのはリアムだった。
「ティアは俺の騎士だ。お前に決定権はない」
当然のことを指摘されて腹立たしいテオドルは、軍監としてリアムを指摘する。
「それでは、誰が責任を取るのですか? クレオ殿下は敗北し続ける我が軍に失望されていますよ」
(まぁ、お前らの情報を流しているのは私だけどね)
心の中で下卑た顔をするテオドルだったが、リアムを挟んで反対側に立っているクラウスの視線に気が付き気を引き締める。
(――それにしても、自慢の騎士を投入しないとは何を考えている? この女騎士も一流ではあるだろうが、クラウスに比べれば劣るだろうに)
開戦からしばらく過ぎたが、リアムは未だにクラウスを投入していない。
クラウスはリアムの側で全体の調整を行うだけだ。
テオドルには、クラウスがその手腕を全力で発揮しているようには見えなかった。
(クラウスを投入しないという事は、まだ本気を出していないということか。若い騎士に経験を積ませている段階か?)
リアムの考えを推察するテオドルだったが、時折視線を向けてくるクラウスが不気味で仕方がない。
何か言うわけでもなく、静かに見ているのが――まるで裏切りを見破られているのかと思って怖くなる。
(やはりこの男は危険だな。こいつさえいなければ、すぐにでもリアムを死地に送れたものを)
敵に情報を流し、リアムを敗北させようとするが大きな成果は出ていなかった。
◇
嫌な時間が終わった。
クラウスは自室に戻ると、雑務を片付けてから愛用している胃薬を机の引き出しから取り出した。
「はぁ~、軍監のテオドル殿はもう少しマイルドに発言できないものかな。負け続ければ腹も立つだろうが、これではまとまるにまとまれない」
何かについてテオドルが口を挟むため、艦隊はまとまりを欠いていた。
「それより言うべきかな? いや、でも言えば恥をかかせるかな?」
クラウスはテオドルに気になることがあった。
それは――。
「でも鼻毛が伸びていますって言えば、きっと恥ずかしいよな。それとなく指摘しようか悩むよな。私以外の誰かが言ってくれないかな? リアム様はテオドル殿の顔をあまり見ようともしないし」
――テオドルの鼻毛が原因だった。
普段は見えないのだが、人を嘲笑う際に鼻の穴が広がり鼻毛が見える。
それに気付いてからというもの、クラウスは気になって仕方がなかった。
どうしてもテオドルが気になってしまう。
鼻毛を指摘するべきかどうか――クラウスには難しい問題だ。
「リアム様が気付けば言ってくれるんだけどな。テオドル殿も、リアム様の前ではあの顔をしないし」
いっそ鼻毛処理の道具を渡すかと考えるが、プライドの高いテオドルがそれに腹を立てるのは簡単に予想できた。
クラウスは悩む。
「――何で私はリアム様の側が定位置になっているのだろうか? 側にいなければ、気付くこともなかったのに」
雑務を処理しているだけなのに、何故かリアムの横が定位置のような扱いになっていることを疑問に思う。
自分がリアムの筆頭騎士であるのは知っているが、過大評価だと思っていた。
「あ~、胃薬が心に染みる」
愛用の胃薬を飲み、さっさと寝てしまおうとすると呼び出しが入る。
「こんな時間に誰だ? ――リ、リアム様!?」
クラウスはリアムに呼び出されてしまった。
ブライアン( ´・ω・`)「胃痛仲間のクラウス殿が、激務で辛いです。それにしても鼻毛ですか。やはり指摘してあげるのが優しさでしょうか?」
若木ちゃんm9( ゜д゜)「逆ギレして恨まれるに、私はウォーレスの命をかけるわ!」
ブライアン( ´・ω・`)「あ、はい。――俺は星間国家の悪徳領主!3巻でございますが、好評なようでこのブライアンも安心致しました。リアム様とロゼッタ様との出会いが描かれた書籍版3巻をよろしくお願い致します」




