グリン男爵
明日は「俺は星間国家の悪徳領主!3巻」の発売日!
そしてメロンブックス限定版が、通販サイトにて売り切れとなったそうです。
またテンポなどに置かれている可能性もあるので、限定版狙いの方はそちらで探してもらうことになるかと思います。
他の特典ですが――
・オーバーラップストア B5書き下ろしSSペーパー
・全国の特約店様 B5書き下ろしSSペーパー
・TSUTAYA様 B5書き下ろし両面SSペーパー
・アニメイト様 A6書き下ろしSS付き4Pリーフレット
・とらのあな様 B6書き下ろしSS付き4Pリーフレット
・ゲーマーズ様 A6書き下ろしSS付き小冊子
・Wandergoo様 特製ポストカード(アヴィド)
・メロンブックス様 SS付き小冊子
・メロンブックス様 (有償) A3タペストリー+書き下ろし付きSS小冊子
グリン男爵家を救援するために出発する艦隊が揃ったのは、結婚式を三年後に控えた日だった。
総大将であるリアムも出発するため、その日はロゼッタも見送りに来ていた。
ロゼッタの周囲には、天城やブライアンの姿がある。
これはリアムが不在の間、ロゼッタが全てを取り仕切ると周囲へ見せるためだ。
リアムが信頼する二人が側にいて、支えていることをアピールしていた。
ロゼッタは、リアムに話しかける。
「ダーリン、無事に戻ってきてね」
リアムを心配するロゼッタは、祈るように手を組んでいた。
その姿をリアムは平然と見ている。
まるで自分が死ぬことなど考えていないような態度だが、これまで幾度も逆境から勝利してきたリアムには実績がある。
周囲もそれを傲慢とは思わず、むしろ尊敬の念を抱いていた。
リアムは心配するロゼッタをからかってくる。
「規模が大きな戦争は時間もかかる。結婚式が流れて残念だったな」
ロゼッタが結婚式を楽しみにしていたのを知ってこの台詞だ。
そんなリアムにロゼッタは首を横に振る。
「流れてもいいわ。ダーリンさえ戻ってきてくれれば、それだけでいい」
「――殊勝な心掛けだな」
からかい甲斐がないとふて腐れるリアムは、大勢の中からウォーレスを見つけると側に呼びつける。
「ウォーレス、ちょっと来いよ」
「何?」
リアムに対して気軽に返事をするウォーレスは、幼年学校からの付き合いだ。
リアムも気を許しており、ウォーレスは領内でも特殊な立場にいた。
また、イベント関係の仕事で才能を発揮し、今は結婚式の総指揮を任されていた。
リアムが耳打ちをすると、ウォーレスは少し驚いた顔をする。
「いいのか? 無駄になるかもしれないぞ?」
ロゼッタには何も聞こえなかったが、リアムは無駄になる何かをウォーレスに頼んだらしい。
リアムがロゼッタに視線を向けてくる。
「構わない」
そして、リアムはロゼッタに背中を向けて乗艦する超弩級戦艦へと向かっていく。
その後ろ姿にロゼッタが祈りを捧げる。
「神様、どうかダーリンが無事に戻ってきますように」
◇
グリン男爵家の本拠地。
そこは淀んだ空気が広がる場所だった。
グリン男爵の屋敷周辺は綺麗に整備されているが、そこを離れると貧民街が広がっている。
荒廃した惑星であるため、人が住める環境は限られていた。
これでも数百年前は自然豊かな惑星だったのだが、現在の当主が領地を継いでから極端に領内の環境が悪化した。
無理な開発により環境破壊が進み、それをどうにかしようと無理をして失敗を重ねてしまった結果だ。
今では、アコロジーがある場所だけが人が住める場所になっている。
そんなグリン男爵だが、どうしてこのような荒廃した惑星に住んでいるのか?
実は普段は首都星で暮らしており、領地を空けていることが多かった。
開発に失敗したため、領内経営にやる気が出ず放置している。
久しぶりにテオドルを連れて戻ってきてみれば、本拠地の状況が随分と悪くなっていることに初めて気が付いた程だ。
「これだけ酷ければ、リアムから支援を大量に引き出せそうですね」
そんな状況を見て、グリン男爵の言葉がこれだった。
テオドルもドン引きしている。
「さっさとシャルローに移住した方が快適ではありませんか?」
「移住は面倒も多いですから嫌です。それに、普段は首都星で暮らしていますからね。戻ってくることは多くありませんから我慢できますよ」
「我慢ですか?」
それはつまり、自分の領地で暮らす人々のことは一切考慮していなかった。
グリン男爵がテオドルと今後の打ち合わせを行う。
「それよりも、私の役目は出来るだけリアムの戦力をこの場に食い止めるだけでよろしいのですね?」
テオドルがそれでいいと頷く。
正直、グリン男爵家に戦力的な意味ではじめから期待などしていなかった。
「構いませんよ。どうせ負け戦ですからね」
「この戦いでリアムが負けたら、私にもそれなりの椅子を用意して欲しいですね。いい加減、この惑星にはうんざりしているんです」
グリン男爵だが、辺境の領地を捨てて首都星で暮らすのが目的だった。
そのためにクレオの計画に参加している。
テオドルはクレオの言葉を伝える。
「皇太子殿下が問題なく即位すれば、貴殿にも相応しい椅子を用意するとクレオ殿下は約束された」
グリン男爵は胸をなで下ろす。
「でしたら、リアムの戦力をこの場に釘付けにしておきましょう」
テオドルは笑みを浮かべ、グリン男爵と握手をする。
「頼みましたよ、男爵」
(生まれがいいだけのボンボンが。お前など、全てが終われば消えてもらうだけだ。精々、我らのために協力してくれ)
◇
グリン男爵家の本拠地。
そこに他よりも早く到着したバンフィールド家の艦隊の数は、数十万という規模だった。
順調に数を増やしているが、今回はかなり無理をしている。
覇王国との国境にも艦隊を派遣しているし、本拠地の守りも残さなくてはならない。
そこから三十万という規模をかき集められたのは、これも日頃の努力のたまものだ。
俺の領地が大きく発展したおかげで、これだけの規模の艦隊を維持できるようになった。
まぁ、錬金箱のおかげでもあるけどな。
ただ、錬金箱を以ってしても、ある程度の限界が見えつつある。
いくら資源を得られようとも、四六時中俺が錬金箱を使用してはいられない。
誰かに任せるのも不安だ。
これからは地力がなければ、発展は難しくなるだろう。
「さて、一番に乗り込んできてみたが――これは酷いな」
宇宙から見下ろした景色だが、とにかく酷かった。
アコロジーのみが人が住める環境で、修業時代に世話になったレーゼル家を思い出させる。
もっとも、あちらは資源採掘が理由だが、グリンの野郎は開発失敗で荒廃しただけだ。
「無能が勝手をするからこうなる。大人しく人工知能を頼れば良かったんだ」
超弩級戦艦のブリッジ。
床が映像を投影しているので、グリン男爵家の本星を見下ろす形になっている。
どんなに発展した文明も、トップが無能ならどうしようもないという見本みたいな領地に呆れるばかりだった。
そんな俺を気合の入ったティアがよいしょしてくる。
「その通りです! 凡人にもなれない無能には、まともな開発など出来ません」
俺は自分には出来ないことがあると自覚しているし、困ったら人を頼る。
それが出来ない奴は悲惨というのを何度も見てきた。
褒められて気分が良くなったが、問題なのは出迎えだ。
「それはいいが、俺たちの艦隊を受け入れる場所がないな」
三十万隻で乗り込んできたのは良いが、残念なことに受け入れる施設がない。
事前にしっかり確認していたのだが、親衛隊が問題無いの一点張りだった。
マリーが苛立っている。
「親衛隊の馬鹿共のせいで、我々は補給すらまともに受けられませんわ。責任者を呼び出しなさい!」
オペレーターに怒鳴るマリーに応えるように、グリン男爵の領地に入っていたテオドルから通信が入った。
『これはバンフィールド伯爵。予定通りの到着ですね。ですが、やる気を見せるならもっと早くに到着するべきでは?』
いちいち五月蠅いテオドルの意見は無視して、俺は受け入れ準備が出来ていないことに不満を述べる。
「やる気がないのはお前も同じだな。受け入れ準備が出来ていない」
『グリン男爵家は被害を受けていると報告したはずです。これから続々と味方が集まってきますからね。バンフィールド伯爵には、その手腕で基地を用意してもらいましょう。随分と得意だとうかがっていますよ』
何度か経験はあるが、参加させておいてこき使おうなどと腹立たしいことだ。
「まぁ、いい。お前らに最初から期待していないからな。おい、始めろ」
「はっ」
クラウスが短く返事をすると、艦隊から工兵部隊を乗せた艦艇やら特殊作業を行う艦艇が作業に取りかかる。
持ち込んだ物資で簡易基地の建造を開始していく。
惑星にも次々に艦艇が降下し、地上基地の建設に取りかかる。
だが、これでは焼け石に水だ。
今後集まってくる味方の艦隊は百万隻を超える。
対外戦よりも数は少ないが、国内の貴族同士の争いと考えればあり得ない数だ。
双方揃って、この戦いに意気込んでいるために数が膨れ上がっていた。
総大将である俺の横には、筆頭騎士のクラウスが立っている。
今日も落ち着いていて頼もしい限りだ。
そんなクラウスに俺は愚痴をこぼす。
「これだけ人、資源、資金を投入して得られるのがグリン男爵の新しい領地というのも悲しい話だな。クラウス、お前はどう思う?」
意地の悪い質問を添えてやれば、クラウスは平凡な返しをする。
「次代の皇帝陛下を決める戦いともなれば、惑星以上の価値があるかと」
俺は惑星シャルローを立体映像として手の平の上に投影する。
惑星をその手に収めた気分になれるから好きだ。
「俺には価値があるとは思えないけどな」
「リアム様、不用意な発言はお控えください」
クラウスの少し焦った顔を見て満足する俺は、シャルローを見ながら地球を思い出す。
「――俺は椅子よりもこの惑星が欲しいな」
◇
惑星シャルローを巡って戦争が始まろうとしている頃。
首都星では、クレオの姉であるリシテアが落ち着きのない様子を見せていた。
クレオが執務室で仕事を行っている部屋で、ソファーに座ったかと思えば急に立ち上がって部屋をウロウロとする。
クレオは小さく溜息を吐き、そんなリシテアに注意する。
「姉上が気にかけても勝敗は変わりませんよ」
それを聞いてリシテアは顔を真っ赤にする。
「だって気になるじゃないか! セシリア姉さんも心配していたんだぞ」
「婚約者のクルト殿が参加しますからね」
セシリア――リアムの親友であるクルトの婚約者にして、二人の姉である。
継承権を放棄してクルトと婚約をしている。
今はクルトの実家であるエクスナー男爵家で暮らしており、時々リシテアが連絡を取り合っていた。
「リアム殿にクルト殿――他にも沢山、死んで欲しくない人たちがいる」
リシテアの純粋な気持ちを聞いたクレオは――吐き気を覚えた。
(下手をすれば億単位の人間が死ぬ戦場で何を言っているのか。やはり姉上は甘いな)
クレオを守るため騎士になったリシテアは、人格的には善性だ。
だが、宮廷で生き抜くには甘すぎる。
だからクレオは、リシテアにカルヴァンと協力関係にあるとは教えていなかった。
「伯爵は強いですからね。必ず勝利して戻ってきますよ」
これまで幾度も逆境を跳ね返してきたリアムだが、今回は条件で見ればカルヴァンよりも優勢だった。――表向きは、だが。
クレオに言われてリシテアが落ち着きを取り戻す。
「そうだな。リアム殿は強いからな! それにしても、リアム殿は何でも出来るな。宰相も内政手腕を褒めていたと聞く。これなら、クレオが帝位を継げば、リアム殿の後ろ盾もあって帝国は盤石になるな!」
そんなリシテアの安直な考えに、クレオは心の中で嫌悪した。
「そうですね。そのために、伯爵の勝利を信じましょう」
(このままリアムが勝利すれば、帝国は安定する。きっと誰もが俺ではなくリアムを称えるだろうな。だが、俺は我慢できないんだ)
クレオはリシテアから見えない位置で手を強く握る。
(生きるためにすがった。おかげで俺は皇帝の椅子にまで手が届きそうだ。だからこそ思う。――全てが憎いと)
今までは生きることばかり考えてきたが、余裕が出来るとどうしてこうなったのか? と考えるようになった。
悪いのは誰だ?
自分を見世物にした皇帝か?
自分を男にした母親か?
いや、そもそもこの国が悪い――。
クレオの中で憎しみが日に日に積み重なっていく。
そんなクレオにリシテアは、世間話をするように話しかけてくる。
「いや~、本当にリアム殿は凄いな。まさに英雄だ。婚約者がいなければ、今頃はご令嬢達が放っておかなかったぞ。クレオ、お前だって――」
「姉上! 俺は男ですよ」
リシテアの話を大声で遮るクレオは、席から立ち上がって怒りを顔に滲ませていた。
しまった、と後悔するリシテアが謝罪してくる。
「す、すまない。そうだったな。お前は男だ」
「気を付けてください」
リシテアは申し訳なさそうにしながらも食い下がる。
「だが、お前だって本当は――」
「くどいですよ」
クレオはリシテアの話に耳を傾けず、苛立ちながら執務室を出て行く。
◇
クレオが用意した研究所には、覆面を着けた科学者達が集まっていた。
科学、魔法――様々な分野の専門家達が作り上げているのは、いくつも並んだカプセルの中に浮かぶ赤ん坊達だ。
そんな部屋にクレオが足を運ぶと、責任者が近付いてくる。
「殿下、残念ながらほとんどの個体が性能を発揮できそうにありません」
残念な知らせにクレオが目を細めると、責任者が言い訳をする。
「教育カプセルで収集した一閃流のデータをインストールしていますが、無理がたたって多くが命を落としています」
カプセルの中に浮かぶ赤ん坊達は、リアムの遺伝子から作り出されたクローン達だ。
だが、多くは成長する段階で死亡している。
「急激な成長も負担が大きく、寿命も長くはありません。一閃流のデータをインストールすると、脳にダメージを負う個体ばかりです。成功したとしても、数十年持てばいい方ですよ」
クレオは寿命の長さを考慮してはいなかった。
「構わない。今回の戦いに間に合えばいい。それよりも、これだけ量産して一つも成功していないとは情けないな」
「一人だけ生き残りがいます」
責任者がクレオを別室へと案内すると、僅かな間に見た目が十歳前後まで成長した髪の長い子供がいた。
クレオはすぐに違和感を抱く。
「いるじゃないか。だが、何かおかしいな。リアムに似ているが――まさか、女か?」
驚くクレオに責任者が頷き、生き残った少女の話をする。
「唯一の成功例ですが、当初は失敗作扱いでした。性別が違う以外は、最も完成形に近い個体です」
クレオが屈んで少女と目線を合わせる。
「――名前は?」
少女は首をかしげると、一度だけ視線をどこかに向けた。
それがクレオには、見えない何かを見ているように感じた。
そして、少女が口を開く。
「3588番」
名前は与えられず、番号で呼ばれているらしい。
「そうか。――君が生まれた目的は何だ?」
そう問いかけると、少女はニコリと愛らしい笑みを浮かべて答える。
「リアムを殺すため」
「――良い子だ」
クレオは立ち上がり、責任者と共に部屋を出ていく。
ブライアン(´・ω・`)「グリン男爵家を見ていると、リアム様が生まれる前のバンフィールド家を思いだして辛いです。それから、三巻の購入報告誠にありがとうございます。正式な発売は明日になりますが、このブライアンもコメントを楽しく拝見させていただいております。やはり一番の見所は――」
若木ちゃん|д゜)チラッ
若木ちゃん(#゜Д゜)「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です をよろしくね! 私も登場して活躍しているから読んで! そして書籍版のアンケートには『苗木ちゃん可愛い』って書いて!」
ブライアン(;`・ω・´) (もう復活して、他作品の宣伝をしやがった)
 




