代理戦争
俺は星間国家の悪徳領主! 3巻の発売が迫っております。
毎回数万字単位で加筆していると、毎回大幅加筆って言っていいものか悩みますよね。
いったい何万字から大幅加筆なのか? そんなことを考えています。
伯爵の結婚式ともなると時間がかかる。
来月結婚するわ~、なんて軽いノリなど許されない。
関係者に出席してもらうためには、数年前から準備をするのが当然とされている。
別に無視して勝手に結婚式を挙げてもいいが、貴族というのは無駄にプライドが高い。
何で俺を呼ばないんだ! と、いきなり激怒する奴らもいる。
あと、質素な結婚式を挙げると「あいつの家、実は貧乏なのか?」などと侮られる。
前世よりも冠婚葬祭が非常に面倒になっていた。
「リアム様、ロゼッタ様との結婚式を挙げると発表すると、こんなにも沢山の参加希望者達が現れました。このブライアンは、嬉しくて涙が止まりません。今のバンフィールド家は、アリスター様が治めておられた以上の隆盛ですぞ」
バンフィールド家だが、百年ほど前までは田舎の貧乏伯爵家と認識されていた。
それが、俺の誕生と共に大いに発展して帝国でも指折りの大貴族だ。
「思ったよりも楽な道だったな」
「それはリアム様だからですぞ。普通の伯爵家が同じ事をしたとしても、当家と同じ結果になるとは思えません」
執事のブライアンには悪いが、この成功には全て裏がある。
「俺は運が良いんだよ」
「運だけではないと思いますが?」
――そう、全ては俺を守る案内人のおかげだ。
俺をこの世界に転生させてから、何度も助けてくれるいい奴だ。
最近はあまり出てきてくれないが、何度か見かけているので俺のために動いているのは間違いない。
「それにしても、たかが結婚式に参加したいと申し込む奴らが随分と多いな」
「これを機に当家と関わりたい者たちもいますからな。残念なのは、当家と縁を結んで甘い汁を吸おうとする者たちが多いことです」
ブライアンは多くの参加希望者たちの資料を見ながら、その残念な家の一つを見る。
俺と同じく辺境の田舎貴族だが、莫大な借金を抱えていた。
借金が膨れ上がりすぎて返済できないために、俺から支援を受けたいのだろう。
「図々しい奴らが多いな」
「それだけ当家が頼りになると思われている証拠でもありますけどね」
「端金を渡して子分にするのも面白そうだ」
「まさか、精査せずに全員を招待されるのですか?」
真面目で善良な奴らに興味はない。
何しろ、俺は悪党だからな。
悪い奴らと手を組むべきだろう。
「これからこき使ってやるさ」
「いや、しかしですな――」
ブライアンは招待に反対らしい。
俺を必死に説得しようとするので、面倒だから招待しなくてもいいかと考えていると緊急の通信が入ってくる。
「こんな時に誰だ? 天城!?」
緊急の通信を入れてきたのが天城だと知った俺は、慌てて許可を出す。
俺の正面に投影された映像には、天城のバストから上が表示された。
『旦那様、緊急の用件につき失礼致します』
「お前ならいつでもいい。それより、何が起きた?」
普段なら俺を訪ねてくる天城が、わざわざ通信を使って報告をしてくるのが気になった。
『首都星にて動きがありました』
「――クレオ殿下絡みか?」
目を細めて真剣な顔をすれば、ブライアンも背筋を伸ばして緊張する。
『はい。クレオ殿下のもとに男爵家から陳情がありました。領主貴族同士の領土問題です。一つの惑星を巡って、男爵家と子爵家が戦争に発展したそうです』
「珍しい話じゃないな」
惑星一つを巡って貴族が争うのは珍しい話じゃない。
その惑星にレアメタルでも発見されたか、遺跡でも発掘されたのか――とにかく、貴族同士がその惑星を巡って争っている。
帝国では毎日のようにどこかで争いが起きているため、クレオに陳情が来てもおかしい話ではない。
『確かに珍しい話ではありません。しかし、男爵家と敵対する子爵家は、皇太子殿下に助けを求めました。皇太子殿下の派閥は、全面的に協力すると発表しています』
「何?」
天城から資料のデータが届けられ、俺の周囲に表示される。
それを確認すると、少し妙だった。
「レアメタルが発見されたのはいいが、問題はこの程度の問題にカルヴァンがわざわざ本気を出したことだな」
何と説明すればいいのだろうか?
市町村同士のいざこざに国家が本気を出した、みたいな?
国が動く理由もないというか、国から見ればどうでもいい話だ。
精々、仲介をすればいい話だろう。
それなのに、本気で軍隊を派遣しようとしている。
「――クレオ殿下は何と言っている?」
『首都星では、協力は惜しまないと男爵に約束したそうです。旦那様を総大将に、軍を派遣すると公言しています』
「余計なことをする」
ここまでの話を聞いて、ブライアンが狼狽する。
ただ、俺と天城の話を遮ることはしなかった。
俺はすぐに行動に移ることにした。
「クレオ殿下も勝手なことをしてくれたな。天城、すぐにクラウスを呼べ」
『承知しました』
通信が終わると、黙っていたブライアンが苦々しい顔をする。
「当家が大事な時期だと知りながら、勝手に戦争を起こすとは何を考えておられるのか。話し合いでも解決出来た問題ですぞ。それを、リアム様を総大将にするなどと」
俺がロゼッタとの結婚式を控えていると、当然ながらクレオも知っていたはずだ。
男爵家と子爵家の争いに、第三皇子と皇太子殿下が本気で協力すると宣言した。
これはつまり、クレオとカルヴァンの代理戦争だ。
表向きは男爵と子爵の争いだが、この戦いで継承権争いに決着をつけるつもりなのだろう。
クレオ殿下がさっさと終わらせたいと願ったのか、それともカルヴァンが焦っているのか――とにかく、双方が争う理由を探していたようだ。
「――さて、どうするかな」
大きな派閥同士の争いというのは時間がかかる。
下手をすると何十年と続いて、結果的に勝負が付かないこともある。
ある意味、結婚式が流れるには好都合な展開ではあるけどな。
◇
リアムの屋敷には、ヘンフリー商会から女性の幹部が来ていた。
試着室を訪れた女性幹部は、純白のドレスを着て鏡を見ているロゼッタに笑顔で説明をしている。
「いかがでしょう? ミスリルを使用した糸で作られたドレスです。職人の高度な技術により軽くて丈夫に作られています。魔を退けるミスリルを使用していますし、縁起物ですよ。お値段も相応ですが、ロゼッタ様にこそ相応しいドレスかと」
馬鹿みたいに高価なドレスは、下手をすると機動騎士が買えてしまうような値段だった。
ロゼッタは頭がパンクしそうになる。
「ま、眩しい。本当に淡く光っているわね」
ドレスの淡い輝きに、ロゼッタはちょっと目が痛かった。
刺繍は全てリアムの好きな黄金で作られた糸である。
ただ――こんなドレスがいくつも用意されていた。
高価なドレスが並ぶ試着室で、ロゼッタは次々に衣装の確認をしている。
その様子を見守るのは、マリーだった。
「う~ん、予備としては問題ないわね。これ以上の品はないのかしら?」
女性幹部はマリーに問われ、少し慌てていた。
「こ、これ以上の品となりますと、当商会にはございません。今回のためにデザインした一点物ですから」
「当日に問題が起きることもあるわ。せめて二着は用意しなさいな。お色直しもあるから、もう数種類は欲しいわね」
「こ、このランクをですか!? 普通はもっとランクが落ちても、自分好みのドレスを用意するものですが?」
「お黙りなさい! リアム様からはそれだけの予算を預かっているわ。ロゼッタ様好みのドレスを用意すれば良いのよ」
「は、はい!」
マリーがあれこれ言っているが、ロゼッタの方は限界だった。
高価すぎる品に囲まれて、思考がおかしくなっている。
「マリー、そんなにいらないと思うの。結婚式でしか着用しないし、それなら最低限のランクで可愛いドレスが欲しいわ」
(た、たった一回しか使わないのに、この値段はおかしいと思うの)
ロゼッタに言われると、マリーが上半身だけ振り返って笑顔を見せてくる。
理解してくれたかと安堵するロゼッタだったが、マリーは再び女性幹部に向き直ると睨み付けていた。
「最高ランクのドレスを可愛らしく仕上げなさい。後で資料は送るから、最低でもデザイン案を三百は用意して」
一流デザイナーに何百とデザインさせるだけでも、とんでもない金額が動く。
ロゼッタはマリーを止めようとする。
「マリー、もういいわ。このドレスを気に入ったから、これでいいわよ」
「妥協なんて駄目です! これは一生に一度の晴れ舞台ですわよ」
何を言っても聞き入れてくれないマリーに、ロゼッタもタジタジだ。
すると、マリーに緊急の通信が届く。
「こんな時に誰が――リアム様!?」
マリーがすぐに端末に届いたメッセージを読むと、先程までのテンションが下がって露骨に落ち込んでいた。
そんなマリーを心配したロゼッタが話しかける。
「どうしたの、マリー?」
「ロゼッタ様、もしかすると結婚式は中止になるかもしれません」
「え?」
「首都星で動きがありました。クレオ殿下とカルヴァン殿下が代理戦争を行う準備を進めています」
「え、えっと」
ロゼッタはマリーが何を言いたいのか理解する。
(多分、ダーリンも参加するのよね? 大きな戦争になりそうだから、きっと時間もかかる。だから、結婚式は間に合わないわね)
ロゼッタが俯くと、周囲にいたメイド達もかける言葉がなかった。
だが、ロゼッタはすぐに顔を上げる。
「ならば仕方がありませんね。マリー、ダーリンに呼び出されたのではなくって? すぐに向かいなさい」
「――よろしいのですか?」
マリーはこのことに抗議しないのか尋ねてくるが、ロゼッタは首を横に振る。
「ダーリンが決めたことなら、私は文句を言わないわ。それに、今が大事な時なのでしょう?」
「今のお言葉は、必ずリアム様にお伝えしておきますわ」
マリーが部屋を出ていくと、ロゼッタは少し悲しそうに微笑む。
「また結婚式が延びちゃった」
◇
第七兵器工場。
バンフィールド家との付き合いがある帝国の兵器工場では、リアムが妹弟子達のために用意した量産型アヴィドの基本フレームがいくつも用意されていた。
量産機の建造に関わっているのは、リアムと親しいニアス――ではなかった。
「え? この機体を全て買い取るですか? い、いえ、これらは全て、バンフィールド伯爵の依頼で建造している物ですから無理ですよ。新規で依頼していただかないと」
やって来たのはカルヴァン派の貴族だった。
「全て知っている。それでも命令しているのだよ。すぐに運び出してもらうぞ」
予備も含めて三機分の基本フレームに、貴族が連れてきた整備兵たちが取りついた。
建造を任された男性が待ったをかける。
「お待ちください! そんなことをされては困ります。それに、まだ完成していませんよ」
「仕上げはこちらでする。お前たちはデータを渡せばいい」
「ですから、そんなことを言われても困るんです!」
リアムからの依頼で建造しているアヴィドの量産機を奪われたとなれば、第七兵器工場の信用に関わる。
男性が抵抗すると、貴族が拳銃を抜いて発砲した。
レーザーの光が男性の足を貫いた。
「あがぁぁっ!」
苦しみもがく男性を横目で見ながら、貴族は口角を上げてアヴィドの基本フレームを見上げる。
無重力空間で、アヴィドの基本フレームが運び出され始めた。
「基本フレームは全て希少金属か。これだけでもかなりの価値になるな」
フレームだけの機体は、装甲がなく部品がむき出しになっていた。
整備兵たちは加工前の希少金属も運び出していく。
撃たれた男性が、太股を押さえながら貴族に怯えた顔を向けていた。
「こんなことをしたら、バンフィールド伯爵が黙ってはいませんよ」
貴族は両手を広げる。
「大変結構! そのバンフィールド伯爵を倒すために、お前たちの機動騎士が必要なのさ」
「な、何を言っているんですか?」
貴族は黙って立ち去るが、整備兵たちが男性に近付くと電子書類を見せてきた。
「あの機体は帝国軍が接収する」
「どうして軍がそんなことをするんだ? あの機体は量産機だろうとワンオフ機だ。軍で運用するような機体じゃないはずだ」
量産機と呼ばれてはいるが、予算度外視の機動騎士に変わりはない。
リアム以外では妹弟子達が辛うじて操縦できるような機体であり、軍で運用するには向かない兵器だ。
だが、整備兵たちは答えずに去って行く。
ブライアン(´;ω;`)「結婚式が流れそうで辛いです。ロゼッタ様がお可哀想で――」
ブライアン(´・ω・)「そんなロゼッタ様とリアム様の出会いを描いた書籍版【俺は星間国家の悪徳領主! 3巻】が【4月25日】発売となります。加筆されたお二人の出会いを存分にお楽しみください」




