賊
書籍版 俺は星間国家の悪徳領主!3巻をよろしくお願いします!
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「貴様、よくも師匠に告げ口してくれたな! お前なんか、こうしてやる~」
「痛いっ! 本当に痛いから止めて!」
俺【リアム・セラ・バンフィールド】伯爵は、執務室に少女を呼び出していた。
両の拳で少女【シエル・セラ・エクスナー】の頭部を挟み込み、グリグリと動かして罰を与えていた。
シエルの罪――それは、剣神と呼ばれる俺の師匠【安士】に、俺がロゼッタとの結婚を渋っていると知らせたことだ。
婚約者である【ロゼッタ・セレ・クラウディア】との結婚から逃げ回っていた俺だったが、シエルが師匠に全てを話したことで逃げ場を失ってしまった。
あろうことかシエルは、俺を追い込むために師匠を利用したのだ。
「はぁ、はぁ――今回ばかりは冷や汗ものだったぞ。まさかお前が、この俺を出し抜くとは思いもしなかった」
俺のグリグリから解放されたシエルは、頭部を手で押さえて涙目になりながらも睨み付けてくる。
「私だってこんな結果になるなんて思わなかったわよ!」
こうなるとは思わなかった? もしや、俺がこのままロゼッタと結婚しないと思い込んでいたのか?
残念だがそれはない。
「ふん! 俺はロゼッタの爵位が欲しいから最初から結婚するつもりだった。師匠に言われずとも、十年――いや、百年以内には結婚したさ」
本来ならば、貴族としての修行が終わった時点で俺は一人前扱いだ。
年齢的な意味合いではなく、社会的な意味で一人前と見なされる立場だ。
周囲はさっさとロゼッタと結婚して子供を――などと言ってくる。
人が宇宙で暮らせるようになったのに、まだ血縁を重視する社会というのは滑稽にも見えてくる。
だが、それがこの世界だ。
俺はこの世界で勝ち組であり、この立場を最大限に利用して楽しむつもりだ。
第二の人生は、誰に気を遣うこともなく自由に生きると決めている。
そんな自由を得るためにも、ロゼッタとの結婚は重要だった。
ロゼッタが持つ公爵位を得れば、俺は名実ともに帝国で指折りの大貴族様だ。
――本当ならさっさと結婚するつもりだったのだが、ロゼッタがあまりにも早く俺になびいてしまったために計画が狂ってしまった。
本来なら、俺を嫌うロゼッタと無理矢理結婚するはずだったのに。
シエルは頭部を手で押さえながら、変わらず俺に抗議するような視線を向けている。
「あんたの好きにはさせないからね」
ロゼッタは簡単に堕ちたが、こいつは未だに俺に抵抗してくれる。
その態度に免じて、今回は見逃してやるつもりだ。
師匠を利用したのは絶対に許せないが、シエルは交友関係のある領主貴族から預かった大事な娘だからな。
簡単に処罰できないし、この程度の抵抗はあった方が面白い。
それに、取り返しが付かない大きな損害は受けていない。
シエルには、その程度の悪戯しか出来ない。
「お前に俺が止められるかな?」
「絶対にみんなの目を覚まして、あんたが悪党だって教えてやるわ!」
「それは楽しみだ。お前の言葉が届くと良いな」
「ば、馬鹿にして! 私が必ずあんたの化けの皮を剥いでやるんだから!」
これだよ、これ! 悪党と正義を振りかざす奴の会話だよ!
だが――俺とシエルの言葉なら、多くが俺の言葉を正しいと判断する。
真実を知るシエルの言葉よりも、俺の方が周囲に信用されているからだ。
シエルでは俺を出し抜けない。
――今回の件に関しては、師匠が間に挟まってしまったために起きた事故だ。
「お前程度が俺にいくら抵抗したところで――ん?」
俺は視線をシエルから執務室の窓へと移す。
遠くで黒い煙が上がっている。
僅かな地響きも感じたから、爆発でも起きたのだろうか?
「事故か? いや、違うな」
「へ? な、何?」
シエルの方は何が起きたのか理解していない様子だ。
この鈍さこそが、こいつが俺の脅威にはなり得ない証拠でもある。
視線を床に移した俺は、護衛を呼ぶことにした。
「何が起きた?」
床に向かって質問する俺を見て、シエルは最初に馬鹿にしたような視線を向けてきた。誰に話しかけているんだ? そんな目をしている。
だが、床に黒い影が出現すると、そこから人が迫り上がってくる。
仮面を着けたククリの部下――【クナイ】だ。
「賊が侵入しました。周囲は既に我々が警備しております」
「――侵入されただと?」
膝をついて頭を垂れるクナイに、俺は目を細める。
ククリやその部下たちは少数ながらも優秀だ。
しかし、失敗は許されない。
「ククリはどうした?」
「頭領は現場にて指揮を執っております」
「終わったら呼び出せ。俺の屋敷に賊を入れやがって」
苛立って殺気が僅かに漏れると、シエルがガタガタと震えているのが見えた。
しまったと思い慌てて殺気を押さえる。
俺に恐怖して抵抗を止めないか心配したが、シエルは気丈に振る舞っていた。
いいぞ、お前は最高だ!
「クナイ、賊は全て片付けたんだろうな?」
再びクナイに視線を戻せば、普段ならば即座に返答するのに一瞬だけ言い淀んだ。
悪い報告が待っていると察し、更に腹立たしくなる。
「申し訳ございません。――賊たちは全て取り逃がしました。現在、賊たちの予想される脱出ルートを軍と協力して塞いでおります」
「手練れが送り込まれたのか?」
ククリたちを出し抜く手練れが送り込まれたと警戒を強めるが、クナイの様子がおかしかった。
「そ、それが、確認すら出来ていません」
「お前らが確認できていない? おい、賊たちは何をした? 天城やロゼッ――誰か狙ったのか? それとも財宝狙いか?」
一瞬、ロゼッタの安否が気になるが言葉を飲み込んだ。
「幸いにも怪我人は出ていません。ただ、盗まれたのはリアム様の遺伝子でございます」
「――何だと?」
誰にも被害が出ていないと聞いて安心したが、その後に俺の遺伝子が盗まれたと聞いて一瞬だけ唖然とした。
ククリたちを出し抜くような連中が、俺の首や財宝に目もくれず遺伝子を盗んだ?
何かの示威行為だろうか?
◇
バンフィールド家の本星近く。
そこには帝国の秘密特務艦が数隻存在していた。
格納庫には特殊部隊を含め、帝国の暗部から選りすぐった人材達が集まっている。
指揮をした男が試験管のような入れ物に入ったリアムの遺伝子を掲げる。
「思ったよりも簡単に手に入ったな」
周囲は安堵した表情をしていたが、あまりにも呆気ない結果に肩透かしを食らったような顔をしている者もいる。
「影の一族を見かけませんでしたね」
「数が少ないと聞いていたが、あまりにも呆気ないな」
「時代遅れの血に飢えた獣たちだ。暗殺以外の仕事が不得手なのだろう」
警戒していたククリたちバンフィールド家の暗部に遭遇しなかった。
そのことが、彼らの中でククリたちの評価を落としていた。
大事な主人がいる屋敷すらまともに守れないのか――と。
だが、彼らが無事に任務を果たせたのには理由がある。
「お、お前ら、誰のおかげで成功したと思っている。お前らがもっとうまくやれば、私がここまでダメージを受けずに済んだのに」
床に落ちていたのは、帽子だけの姿になった案内人だった。
ボロボロで焼け焦げた跡からは、彼らを守って苦労した様子がうかがえる。
せっかく回復した肉体は、リアムの遺伝子奪取作戦で失ってしまった。
彼らがククリたちと出くわさなかったのも、無事に遺伝子を手に入れたのも、全ては案内人が導いていたからだ。
案内人は帽子の姿で涙を流す。
「私が助けなかったら、お前らは何度も全滅していたからな!」
彼らを助けるために、案内人は帽子だけの姿になってしまった。
だが、案内人は涙を拭い、リアムの遺伝子を見上げる。
「しかし、その甲斐はあった。リアム――お前の敵は、お前自身だ!」
◇
『失態だな、ククリ』
特別に用意されたドーム状の部屋の中には、帝国の国境に置いているティアが映像と音声で参加していた。
大きく映し出されたティアだが、俺の前で許しを請うククリに冷たい視線を向けている。
周囲も同様だ。
マリーなど、腹立たしいのか腕を組んで斬りかかるのを我慢していた。
「賊の侵入を許したばかりか、逃げられるとは本当に役に立たないわね。暗部として恥ずかしくないのかしら?」
二人に責められるククリは言い返さず、俺にのみ謝罪をしてくる。
「この度の失態に関わった部下全員と、私の首を以て謝罪致します。ですが、我が一族はこれからもバンフィールド家に忠誠を誓います。何卒、我らに今一度機会をお与えください」
死んでわびると言いだしたククリを鼻で笑う。
だが、俺の側にいたクラウスがククリたちを庇う。
「リアム様、当家に彼らに代わる暗部は存在しません。処罰が重すぎれば、今後の活動に支障が出ます」
今まではククリたちが有能だったために、任せきりにしていたのが仇になった。
クラウスの言うことも一理あるため、ククリを見逃すことにする。
「お前らのこれまでの功績に免じて、今回は見逃してやる。――賊は見つけ出して必ず始末しろ」
「はっ!」
ククリが返事をすると、ティアもマリーも俺に何か言いたそうにしていた。
――ククリを俺がここで殺すなら、お前らなんかとっくに処刑しているよ。
場の空気が変わったと感じたクラウスが、次の報告をしてくる。
「リアム様、次の報告ですが」
「――クレオ殿下の襲撃の件だな?」
「はい。クレオ殿下が何者かに襲撃を受け、こちらが派遣した護衛が全て殺されています。騎士や兵士はもちろんですが、中にはククリ殿の部下三名も含まれています」
「全滅か」
俺がボソリと呟けば、周囲の視線がククリに向かう。
ククリは冷静を装いながらも、腸が煮えくりかえる思いだろう。
ティアが言う。
『無様だな。何か言ったらどうだ?』
ククリは何も言わなかった。
ギスギスした雰囲気の中で俺は思ったね。
この中で無様な姿をさらしていないのは、淡々と仕事をこなすクラウスだけだと。
すると、クラウスがククリを庇う。
「騎士や兵士たちも殺されています。敵は相当な手練れだったはず。ククリ殿だけの責任とは言えません」
クラウスの言う通りだ。
いつまでも話し合っているわけにもいかない。
さっさと目の前の問題を片付けるとするか。
「クラウス、クレオ殿下に新しい護衛を送れ」
「その件なのですが、クレオ殿下はバンフィールド家の護衛は不要と仰せです」
「何だと?」
「今回の件で被害を出したから忍びないとのことです。ただ、本音は我々が信用に値しないと考えているようです。独自に親衛隊を用意したとうかがっております」
護衛を任されながら、失敗してクレオ本人に怪我をさせた。
確かに大失敗だ。
マリーが眉間に皺を寄せている。
「我々が信用できないですって? これまでどれだけ人、物、金を用意してきたと思っているのかしらね? リアム様がいなければ、神輿にもなれなかった小僧が偉そうに」
ティアも同様に不満を隠そうともしない。
ただ、マリーよりも冷静だった。
『クレオ殿下に派遣した騎士や兵士は精鋭でした。それを破った敵はかなりの実力者と思われます。リアム様、この場にいる誰かを首都星に派遣するべきかと』
この場にいるのは主だった面子だ。
性格に問題はあっても仕事はこなすティアとマリー。
今回失敗はしたが、実績のあるククリ。
そして、一番頼りになるクラウスだ。
「クラウスを派遣できれば一番だけどな。ティアは動かせないし、マリーは本星の護衛を任せたい。となれば、余っているのはククリだけか」
ニヤニヤしてククリを見れば、本人が立ち上がる。
俺が何を言いたいのか察したのだろう。
「汚名返上の機会を頂きたく思います」
「――いいだろう。次はないぞ」
「はっ!」
「クラウス、ククリに預ける戦力を用意しろ。全てお前に任せる」
ククリを派遣することに決めたが、首都星に派遣するのは暗部だけではない。
失った騎士や兵士たちも派遣しなければならず、その選考はクラウスに任せることにした。
「はい」
平然と返事をするクラウスを見て俺は、「これだよ、これ!」と内心で思っていた。
美女だろうと性格に問題がある騎士はいけない。
ティア、マリー、お前たちの事だぞ。
ククリがクラウスに近付く。
「クラウス殿、是非とも用意していただきたい物がございます。すぐに打ち合わせを行いたいのですが?」
クラウスが俺を見てくるので、頷いてやるとククリと共に部屋を出ていく。
◇
部屋を出たクラウスとククリ。
クラウスだが、内心では怖くて仕方なかった。
(何で私が暗部と並んで歩いているのかな? この人たち怖いんだよ)
クラウスは何故かリアムからの信頼が厚く、色んな仕事を任されている。
だが、本人からすれば幹部扱いを受けている理由がまったく理解できない。
しかも、バンフィールド家の筆頭騎士という立場まで与えられている。
困っている内心を悟られないように無表情でいると、ククリが話しかけてきた。ククリの身長は高く、斜め上から見下ろされるように話しかけられる。
「クラウス殿、今回の件は借りということでいかがでしょうか?」
「貸しですか?」
「はい。クラウス殿が我らを庇ってくれたおかげで助かりました。そのお礼ではありませんが、誰か殺したい相手がいたら教えてください。クリスティアナでもマリーでも、邪魔な存在を消させていただきますよ」
クヒヒヒ、と笑っているククリを見てクラウスは思った。
(やっぱりこの人もあの二人に怒っているのか? いや、それよりも仲間内で殺し合いとか絶対駄目だろ!)
「――暗殺は結構です。私が困った時に助力してください」
「あの二人はあなたの地位を狙っていますよ。それこそ、チャンスがあれば必ずクラウス殿の命を狙うでしょうね」
(あの二人なら私を殺して筆頭の地位を狙いそうだな。今すぐにでも代わりたいけど、リアム様が認めるかどうか――)
ククリにティアやマリーから命を狙われていると聞いたが、クラウスは逆に殺そうとは考えなかった。
現状で誰かが欠ければ、バンフィールド家にとって大きな痛手になると理解していたからだ。
クラウスだって自分の命が大事だが、リアムに対して恩もある。
足を引っ張ることはしたくなかった。
もっと詳しく言えば、過激な派閥争いに関わりたくなどない。
「無用です。バンフィールド家のためにならない。それなら、代価は私を二人から守る、ではどうでしょうか?」
「――それでは、そのように」
クラウスはククリを庇ったことで、暗部ともコネが出来てしまった。
ブライアン(´;ω;`)「リアム様の遺伝子が盗まれて辛いです」
若木ちゃん( ゜∀゜)「そんなことより宣伝よ! 俺は星間国家の悪徳領主! 三巻 が今月25日に発売だからチェックしてね! あと、乙女ゲー世界はモブに――」
ブライアン(´;ω;`)r鹵~<≪巛;゜Д゜)ノ ウギャー
ブライアン(´;ω;`)「悪い植物は去りました。幸いです」




