十章プロローグ
「俺は星間国家の悪徳領主! 3巻」 が 「4月25日」 に発売となります。
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自分はどこで間違えたのだろうか?
そんな疑問を常に抱くようになったのは、ゴミが積み上がって出来た山の頂上で膝を抱える案内人だった。
「リアムが私たちを倒す力を手に入れてしまった。これからどうすればいいんだ?」
リアムはグドワールを真の一閃? で倒してしまった。
それはつまり、案内人にも攻撃が届くという意味だ。
「このままリアムを放置した方がいいのか? し、しかし、それでは私の気が済まない! 必ず復讐してやると私は誓ったじゃないか!」
簡単に手が出せない存在から、下手に手を出すと自分が危うい存在にリアムはランクアップしてしまった。
それというのも、本来は存在しない一閃流という流派のせいだ。
「大体、あいつがおかしいんだ! 何が一閃流だ。あんな大道芸を本気にして、再現するなんて間違っている!」
存在しないはずの剣術を己の勘違いと技量で再現し、その実力は人の枠を超えようとしている。
本来ならば、リアムのような存在は作ろうと思っても作り出せない。
リアムは存在自体が奇跡だった。
「しかし、このまま私が近付けば消されてしまう」
案内人が身を震わせて思い出すのは、リアムが無意識に作りだした力の化身だ。己の強さを具現化した光の巨人は、案内人たちを見つけると問答無用で感謝の気持ちをぶつけてくる。
それはリアムが常日頃から案内人に感謝しているおかげだった。
無意識だろうと、光の巨人が感謝の気持ちを案内人に押しつけてくる。
人を超えた力を手に入れた今のリアムは、案内人が容易に近付ける存在ではない。
不用意に近付けば、感謝を押しつけられ消えてしまう。
「――こうなれば、現実世界でリアムを消す。その方が現実的だな」
自分で無理なら、同じ人間たちに消させればいい。
幸いにしてリアムには敵が多い。
彼らを支援してリアムを倒すというのが、今の案内人に出来る現実的なプランだった。
「でもなぁ――これまでに何度も失敗しているからな」
自分が支援した勢力がことごとく滅んでいるため、案内人は自信を失っていた。
案内人は重たく感じる体をゆっくりと立ち上がらせると、空を見上げる。
金属に囲まれた首都星の空には、夜空が映し出されていた。
一見するととても綺麗な夜空だが、全て人工物である。
一つの惑星を金属で包み込んだのが、首都星の外から見た姿だ。
「殻に閉じこもったこの帝国の首都星は、実に空気が淀んでいて素晴らしい。ここにいるだけで、リアムにやられた傷が癒えていく」
負の感情が大好きな案内人には、何千年もの間に積もり積もった人々の悪意や欲望がとても心地よかった。
自分たちを守るための金属の殻が、首都星をより淀ませている。
傷ついた案内人が体を癒すには、丁度良い場所だった。
「さて、そろそろ様子を見にいくとしますか。今一番期待できるのは――やはりカルヴァンでしょうね」
カルヴァン――アルグランド帝国の皇太子にして、リアムが擁立している第三皇子クレオと敵対する存在だ。
実質的にクレオには何の力もなく、後ろ盾となっているリアムと激しく争っている。
帝国内でも有数の実力者になったリアムに対抗出来るのは、現時点ではカルヴァンだけだった。
だが、そのカルヴァンにも問題がある。
「そんなカルヴァンも、リアムと比べれば見劣りが酷い。支援して勝てるかどうか? そもそも、支援したところで勝負になるかも怪しいですね」
案内人はこれまでにも、リアムの敵勢力に何度も助力してきた。
その度に敗北しており、実は案内人が助力しない方がいいのでないか? そんな風に考えたこともある。
しかし、手を出さなければ出さないで、リアムが勝利してしまう。
「とりあえず、様子を見るとしましょうか」
案内人は首都星の様子を探ることにした。
しばらくの間、余所の星間国家に滞在していたため帝国の内情には疎くなっている。
カルヴァンの動向も気になり、重い足取りで調査に向かう。
◇
後宮にあるカルヴァンの住む建物は、まるで宮殿のような外観をしていた。
後宮と言ってもとても広く、内部には高層ビルなども沢山ある。
一つの大都市が存在するような場所だ。
そんな宮殿の広間には、ククリの部下たちが倒れていた。
血反吐を吐きながら、ククリの部下の一人が見上げる先にはクレオがいた。
「リアム様を裏切ったな!」
赤髪のショートヘアーで、前髪の右側だけを長くしてアンバランスにしているのが特徴的な男だ。
中性的な美形であるために、男装ながら人によっては女性に見られるような容姿をしている。
そんなクレオは、これまで自分を守ってくれたククリの部下たちを冷たい目で見下ろしていた。
「伯爵には感謝しているよ。俺が今日まで生き残ってこられたのは、間違いなくバンフィールドのおかげだ。だが――あいつはもう用済みだ」
「お前だけでも――!」
ククリの部下が自らに仕込んだ爆弾を使おうとすると、何十もの刃が飛んできて貫かれる。
爆弾は起爆せず停止して、ククリの部下も息絶えた。
ここはカルヴァンの宮殿。
カルヴァン配下の暗部たちが、何百人とクレオを囲んでいた。
広間の大階段を降りてくるカルヴァンは、周囲を騎士たちに囲まれていた。
階段も半ばというところで立ち止まったカルヴァンは、クレオを怪しむような視線を向けていた。
「お前がここまでするとは思わなかったよ。このような裏切り行為、バンフィールド伯爵が黙っていないぞ」
リアムから派遣されたのは、貴重なククリの部下たちだ。
優秀だが数が少なく、しばらく増員の見込みもない。
そんな護衛たちを三人も差し出したのは、カルヴァンに対する誠意だった。
「覚悟の上ですよ。俺はあいつとは相容れない」
(そうだ。もう、後戻りは出来ない。リアム――俺はお前を受け入れるほど、器の大きな人間ではなかったようだ)
光の消えた暗い瞳をするクレオは、自分よりも強い権力を持つリアムが邪魔になってきた。
リアムの後ろ盾があれば安泰と思ってはいるが、添え物でいることにクレオも我慢が出来なくなってきた。
そんなクレオが、カルヴァンは信用できないらしい。
「その程度で盤石な地位を捨てるつもりか? お前は何がしたい? お前の立場ならば、何をせずとも皇太子の地位が手に入るはずだ。そのまま帝位に就けばいい。バンフィールド伯爵を追い落とすのも、皇帝になった後が普通だ」
これまで自分を擁立してきた忠臣を切り捨て、独裁を目論むなら帝位を手に入れた後がいい。
クレオの行動は、カルヴァンからして理解できないようだった。
本人もそれは自覚している。
「俺は皇帝になるよりも、あいつの下でいいように扱われるのが我慢ならないだけですよ」
だが――リアムの添え物扱いが我慢ならなくなった。
「男ならばこの世に生きた証を立てたい。誰かの添え物だったという事実を受け入れるくらいならば、あのバンフィールドを追い落とした方がいいと思っただけですよ」
カルヴァンはクレオに向け目を細めていた。
クレオの裏切りを疑っているようだ。
「かつて帝国には、味方を殺して裏切りを証明した者がいた。だが、味方殺しも含めて全てが敵を騙す計画だったこともある。護衛を差し出したくらいで、お前が本気で私に味方すると判断はしないぞ」
どこまでも警戒するカルヴァンに、クレオは肩をすくめた。
「兄上は肝が小さいようだ」
その言葉に周囲にいた暗部や騎士たちが武器を構えるが、カルヴァンが手を上げて制した。
「止めよ! ――クレオ、お前は理解しているのだろうな? 裏切りというのは、お前が思っているよりも重い行為だ。まして、裏切る相手が相手だぞ」
本気であのバンフィールド伯爵を――リアムを裏切るのか? カルヴァンの問いに対して、クレオは薄らと笑みを浮かべていた。
「兄上が帝国を手に入れ、俺が脇で支える。バンフィールドを頼るよりも、帝国は盤石となりましょう」
自らが帝位に就くよりも、クレオはリアムに勝利することを望んでいた。
カルヴァンの表情が苦々しいものになっている。
クレオは囁く。
「兄上――もう後がないのでしょう?」
それは、最初からカルヴァンがクレオの手を取るしかないからだ。
リアムに負け続けたカルヴァンに、もう後はなかった。
「――いいだろう」
決断するカルヴァンに、クレオは膝をつく。
「これよりは兄上の手足として動きます」
◇
やはり人間は素晴らしい。
柱の陰から二人の様子を見守っていた案内人は、感動すら覚えていた。
無理矢理感謝の気持ちを押しつける変人ばかり相手にしてきたが、本来人間とは合理的ではない生き物だ。
静観していれば全て上手くいく状況でも不満を募らせ、足を引っ張り合う。
案内人には、負の感情に囚われたクレオが眩しく見えていた。
「まだ人間には可能性があった。人間の敵はやはり人間だな」
クレオの歪んだ感情に案内人は何度も深く頷き、涙を拭う仕草を見せる。
「クレオ――そしてカルヴァン。お前たちが手を組めば、きっとリアムも危ういだろう。強いとは言っても、リアムもまだ辛うじて人間だ。一人では生きてはいけない」
帝国内の敵であるカルヴァンと、味方であるはずのクレオが手を組んだ。
理由はリアム討伐のため。
案内人が何も手を貸していない状況で、ここまでリアムに不利な状況が出来上がっていることに嬉しさがこみ上げてくる。
「私は人間の力を侮っていたようですね。お二人には、出来うる限りの助力をしましょう」
案内人が二人をニコニコしながら見守っていると、早速カルヴァンがクレオを試す。
「帝国最強の剣士でもあるバンフィールド伯爵に勝つ。口で言うのは簡単だが、クレオ――お前に何か考えはあるのか?」
カルヴァンたちですら失敗続きだ。
クレオに何か考えがあるのか聞いているだけだが、これは試験だった。
本気でカルヴァンに味方をするのか? また、クレオが役に立つのか?
立ち上がったクレオはカルヴァンに言う。
「最強の剣士には最強の剣士をぶつければ良いのですよ」
「そうだな。だが、帝国の剣聖四人の内、三人は既に一閃流にやられている。残り一人は国境から動かせない。この状況で誰をぶつけると言うのかな?」
その程度は誰でも考えつくが、成功の見込みは薄いと言われると、クレオが口に拳を当ててクスクスと笑っていた。
不気味な雰囲気を出しながら、その計画について話す。
「バンフィールドが持つ最強の機動騎士アヴィドを量産しましょう」
「あれは希少金属の塊だ。下手をすれば艦隊がいくつも用意できる」
「それだけの価値がある相手です」
「用意できたとしても、パイロットがいない」
「パイロットも用意すればいいのですよ」
カルヴァンが首をかしげると、以前から計画を考えていたクレオが空中に映像を投影する。
「リアムの操縦データを解析した人工知能を搭載します。そして、パイロットにはリアムのクローンを用意しましょう」
「な、何だと!? お前は正気なのか!? 両方とも禁忌とされる技術だぞ!!」
かつて人類を滅ぼしかけた人工知能。
そして、人のクローンという禁じられた技術。
アヴィドだけならまだしも、その二つを使用することにカルヴァンは嫌悪感を示していた。
そんなカルヴァンに、クレオは惑わすように語りかける。
「勝たなければ意味がありません。バンフィールドはそれだけ強敵だと言っています」
悩むカルヴァンは、クレオに現時点での達成率を尋ねる。
「どこまで計画は進んでいる?」
「人工知能の教育には着手しています。残念ながら、バンフィールドの遺伝子は手に入っていません。最悪、リアムの両親から遺伝子を採取してリアムを超える存在を用意します。兄上に望むのは、アヴィドを――いえ、アヴィドを超える機体を用意していただきたい」
悩むカルヴァンだが、このままリアムに負けてはどんな未来があるのか分からない。
簡単に死ねればまだいい方だ。
自分の未来が恐ろしくなり、そして禁忌に触れなくて良いならばとアヴィドを超える機体を用意すると約束する。
「いいだろう。機体の方は用意してやる。だが、バンフィールド伯爵が戦場に出てくるかな?」
「出てこなければ、用意した機体でバンフィールド家の軍隊を蹂躙すればいいのですよ。人の限界を超えた禁忌の機体ならば、必ずバンフィールドを滅ぼすことでしょう」
クツクツと笑うクレオに、カルヴァンは冷や汗をかいていた。
案内人は、どんな禁じ手も使用するクレオに感心していた。
同時に危うさにも気付いてしまう。
「ちょっと待て? 肝心のリアムの遺伝子はまだ手に入れていないだと? そもそも、今のリアムの機体にはマシンハートが積まれているんだぞ」
案内人は悩む。
このままでは、クレオとカルヴァンが負けてしまう。
勝率を少しでも上げるためには、リアムの遺伝子は必須だろう。
「こ、こうなれば私が助力するしかないか」
案内人が二人に協力を考えていると、クレオがカルヴァンの部下に命令する。
「そこのお前、俺を撃て」
「は? え?」
クレオの命令に困惑する部下だが、カルヴァンはクレオの思惑に気が付いて渋々ながら了承して撃たせることにした。
「欺くために自らも負傷する――そこまでするのか?」
カルヴァンに問われたクレオは、笑みを浮かべていた。
「ここまでする覚悟を褒めて欲しいですね。それに、俺が無傷では疑われますよ。いや、怪我をしても疑ってくるでしょうけどね。多少の負い目を感じてくれれば儲けものです」
リアムを欺くために自らも負傷する。
下手をすればこの場で本当に殺されるかもしれないのに、クレオはそれを恐れてはいなかった。
カルヴァンはそんなクレオの覚悟に嫌みで応える。
「血塗られた帝国の皇子に相応しい覚悟だよ」
「お褒めにあずかり光栄です」
カルヴァンの部下が拳銃を構え、クレオに向かって引き金を引いた。
ブライアン(´・ω・`)「リアム様が登場しなくて辛いです」
若木ちゃん( ゜∀゜)「ヒロイン(笑)の案内人さんは登場したけどね!」
ブライアン(´・ω・`)ノ「それはともかく 4月25日 は 俺は星間国家の悪徳領主! 3巻が発売となります。メロンブックス様で販売される限定版はまだ在庫がございますので、そちらを狙っているお客様は通販サイトをご利用ください」