表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/260

九章エピローグ

今年の投稿はこれで終了となります。


九章エピローグと31日が重なったのは偶然ですが、年内に九章が投稿できて良かったです。

「リアム殿――ロゼッタ殿が嫌いなのですかな?」


「そ、そんなことはありません」


 部屋には俺と師匠の二人だけとなっていた。


 師匠が俺と個人的に話をしたいと言うので、他の者たちを退出させた。


 そして、問われたのはロゼッタへの気持ちだった。


「ならば、どうして結婚しないのです?」


「それはその、好みだったのですが、今は違うと言いますか――俺を気遣い、優しい女性であるとは思うんですが、どうにも決め手がないと言いますか」


 師匠は納得したのか腕を組んで頷いていた。


「確かに少し重く感じるでしょうが、それもいいものですぞ。リアム殿も結婚すれば良さに気付きます」


 話が噛み合っていない気がするが、師匠に「ロゼッタが嫌がらせに耐えている姿が好きだったのに、従順になったからちょっと違うなって」などと言えなかった。


 俺は考える。


 俺は本当にロゼッタと結婚したいのだろうか?


 よく考えてみると、ロゼッタ以外で思い浮かぶ女性の顔は少ない。


 屋敷に美女は多いが、天城をはじめ思い浮かぶ面子の中にはエレンや凜鳳に風華――他にはセリーナの顔まで浮かんでくる。


 女遊びをするつもりが、あまりにも関わりが少ないため老婆の顔まで思い浮かんだ自分にショックを受けた。


 女のことを考えているのに、あまりにも少なくてクルトの顔まで思い浮かんだ。


 お前は男だ。違うカテゴリーだからあっちにいけ。


 ティアとマリーの顔も思い浮かんだが、あいつらこそ別枠だ。


 ニアスやユリーシアは残念枠だしな。


 チノ? シエル? あいつらは可愛い枠だから、女性という意識はない。


 だが、ロゼッタの場合は笑顔が思い浮かぶ。


「師匠――このままロゼッタと結婚していいのでしょうか?」


 マリッジブルーにでもなったような俺の発言に、師匠は笑みを見せる。


「誰しも不安はあるものです」


「俺の結婚理由は不純なものです。それでも、いいのでしょうか?」


 嫌がるロゼッタと結婚したいという不純な動機は話せなかったが、師匠は察しているようだった。


「爵位狙いでしたか? 貴族の方たちも色々ありますからな。リアム殿はロゼッタ殿がお嫌いですかな?」


 嫌いではない。いや、他の女たちよりはマシだろう。


 いつか裏切られるかもしれないのが怖くて、今まで保留にしてきただけだ。


「向き合うのが怖いんです」


「ならば、余計に向き合うことが重要です。強敵にも挑むリアム殿はどこにいかれたのですか? 恋愛では奥手すぎますな」


 師匠に恋愛相談をするとは思いもしなかった。


 恥ずかしくて顔が熱い。


 師匠は言う。


「いっそ熱烈な告白をするべきですな。相手のためではなく、自分のために結婚すればいいのです。黙って俺についてこい! これで完璧でしょう」


「――え? こ、告白ですか?」


「思いの丈をぶつけるのです、リアム殿!」



 師匠に言われた後、ロゼッタを俺の寝室に呼んだ。


 俺はソワソワしながら、ロゼッタを待っている。


「お、落ち着け、俺。俺は帝国一の悪徳領主だ。女一人に慌てないぞ。悪徳領主らしく告白すれば良いんだ。――悪徳領主らしい告白って何だ?」


 悪徳領主らしい告白とは何だろうか? 漫画やアニメに詳しい後輩も教えてはくれなかった。


 ウロウロする俺を見ているのは、天城だった。


「落ち着いてください」


「お、落ち着いている! 俺は歩きたいだけだ」


「そうですか。では、私はこれで失礼いたします」


 ロゼッタが来る前に、天城が部屋を出ようとする。


「お、おい、出て行く必要はないだろ!?」


「仮にも婚約者への告白ですからね。私の存在は邪魔だと思いますが?」


「お前を邪魔扱いする女はいらない」


 俺の言葉に、天城は複雑そうな表情を見せる。


 嬉しいような、残念なような、呆れたような。


「旦那様」


「何だ?」


「ロゼッタ様はお嫌いですか?」


「――嫌いじゃない。人間の中なら好きだな」


「今はそれでも構いません。どうか、幸せにしてあげてください」


 天城が部屋を出ていくと、しばらくして入れ違いでロゼッタが入室してくる。


「あ、あの、ダーリン?」


 落ち着かない様子のロゼッタが、ドアの前に立って俺の方を見てくる。


 前世で裏切られた過去も、もう百年という時間が過ぎようとしていた。


 いつまでも元妻に縛られる自分が情けなく思ってくる。


「戻ったら結婚するぞ。俺はお前の実家であるクラウディア家の爵位が欲しい」


「そ、そうね。ダーリンのお師匠様にも言われたものね。うん、私は賛成よ! それに――」


 爵位が欲しいと言われ、ロゼッタは少し悲しそうに微笑んでいた。


 結婚を決めたのも、師匠の言葉が理由だ。


 本人としてはそこに引っかかりを覚えても仕方がないのに、ロゼッタは健気だった。


「――公爵の地位は、ダーリンにこそ相応しいものだわ。その方が、私やお母様も嬉しいわ」


「そうだな。お前の爵位は俺に奪われる」


 ロゼッタが何も言えないのか俯いている。


 貴族らしい政略結婚であり、そこに愛がないと知って悲しんでいるのだろう。


 そして、静寂が続くとロゼッタの方から声を絞り出す。


「それでもいい。たとえ爵位にしか興味がなくても、私はダーリンと――」


 ロゼッタの話を遮り、俺は壁一面のモニターに投影された宇宙空間を見て声を張り上げる。


「俺は欲張りだ! 全てを手に入れないと気が済まない!」


「ダーリン?」


「俺は全てを手に入れる。クラウディアの爵位も! そしてお前も! ――に、逃げられると思うなよ。お、お前はずっと――俺のものだ」


 最後の方は声がか細くなってしまったが、ロゼッタが口元を抑えて涙声になる。


「逃げないわ! 絶対に逃げません。ずっと側にいます」


 振り返った俺は、泣いているロゼッタに歩み寄る。


 あ、悪徳領主として立派に告白したはずだ。


 ――たぶん。



 安士はリアムと別れると、清々しい笑顔を見せていた。


 どこかで飲んできたのか、ほろ酔い気分で歩いている。


「ふ~、面白かった」


 あのリアムが実は奥手だったと知り、先輩ぶって恋愛の指南までしてやった。


 気分が乗って色々と言ったが、全てはその場のノリだった。


 ついでにタダで酒も飲めて、安士として完璧だと思っていた。


 上機嫌な安士が廊下を歩いていると、シエルが走ってくる。


「シエル殿! 拙者の仕返しを見てくれました――かはっ!?」


 そんな安士に跳びかかったシエルは、胸倉を掴んで揺さぶってくる。


「違うって! どうして余計なことをしてくれたのよ! このまま戻って結婚したら、普通に話がまとまるじゃない! よりもよって、何で結婚を決めさせたのよ!」


「え!? 何で!? 程よい嫌がらせだったじゃないか!」


 安士にとっては嫌がらせでも、バンフィールド家――リアムにとってこれ以上はない慶事である。


「ロゼッタ様も、リアムの部屋から戻ってくるとどこか上の空だし! このまま話がまとまったらどうするのよ!」


「拙者に何を期待していた!? 大それた事が出来ると思ったのか!? 拙者だぞ!?」


「リアムを更生させるとか、色々とあったでしょう!」


 安士はシエルの無茶振りに言い返す。


「そんなことが拙者に出来るものかぁぁぁ!!」


 出来ないから安士は苦労しているし、これからも苦労する。


 シエルは涙目だ。


「出来る雰囲気を出していたくせに! この裏切り者ぉぉぉ!!」



 場所は変わって、チェスターが代官を務めていた惑星。


 そこには小さなタコが地面を這っていた。


「ふ、ふざけるなよ。この俺様が」


 小さくなって可愛らしい子供の声で喋るグドワールは、負の感情を求めてさまよっていた。


 失った力を取り戻すために、負の感情を探し回っている。


「ゴッドオブゴールド――あれを使った刀さえなければ、俺様がこんな情けない姿になることはなかった。これも全部、あいつが悪い」


 這いずり回るグドワールに足音が近付く。


 ワインとグラスを手に持った案内人だった。


 ワインボトルの中にある液体は、この惑星や先程までの宇宙での戦いで亡くなった者たちの負の感情だ。


 濃縮された恨み、辛み、憎しみが液体となっている。


 グドワールは脚を伸ばす。


「それを寄越せ! お前のせいで俺様は――ぐぎゃ!?」


 案内人はワインをグラスに注ぎつつ、グドワールを踏みつけた。


 中の液体は湯気のように黒い煙を揺らしている。


 それを飲む案内人は、グドワールを見下していた。


「せっかくかき集めたのに、渡すわけがないでしょう? グドワール、お前のおかげでリアムが更に強化されてしまいましたね。――この役立たずが!」


 案内人が液体を飲み干すと、グラスを投げ捨ててボトルに口をつけてそのまま飲み干した。


 そして、ボトルまで投げ捨てて――グドワールを掴み上げると口を大きく開ける。


「な、何をする!?」


 慌てるグドワールを、案内人はそのまま口に放り込んで――咀嚼して飲み込んでしまった。


「う~ん、血生臭い。だが、これで力が戻りつつありますね」


 案内人の体から黒い煙が出現して揺らめく。


 グドワールを食べて力を取り戻していた。


「リアム! 今度こそ私は間違わない。お前をこの手で――」


 そんな案内人の後ろに控えていたのは――犬だった。


 うなり声を我慢して睨み付けていると、犬が驚いて後ろを振り返る。


 空間が割け、そこから武者のマスクをした巨大な光の巨人が裂け目から案内人を覗き込んでいた。


 高笑いをしていた案内人が、不穏な空気に振り返る。


「はっははは! ――は!?」


 案内人が気付いた時には、裂け目を無理矢理こじ開ける光の巨人が右手に何かを掴んでいた。


 それを案内人に渡そうとしている。


 それを見て案内人は冷や汗が吹き出してくる。


「お、おま、それは――ひぃぃぃ!!」


 なりふり構わず逃げ出す案内人は、何もない空中を階段でも駆け上がるように宇宙へと逃げていく。


 だが、光の巨人が伸ばした左手に掴まれてしまった。


 光の巨人の左手は、案内人にとって猛毒だった。


 更に、熱した鉄の手で握られたような感覚に襲われる。


「ぎゃぁぁぁ!! 焼けるぅぅぅ!!」


 これだけでも痛いのに、光の巨人は右手に掴んだ光の球――リアムの感謝の気持ちを無理矢理押しつけようとしていた。


 空間を超えて――光の巨人が感謝の気持ちをデリバリーするようになった。


 普段よりもちょっと強引に感謝の気持ちを伝えようとしていた。


 何があったのか知らないが、そこには案内人への複雑な心境があるようだ。


 だが、感謝の気持ちに違いはない。


 それは案内人が大嫌いな――リアムの感謝の気持ちだった。


「ま、待て。待って! それは駄目ぇぇぇ!!」


 これを受け取ったらいくら自分でも致命傷を受けると直感で察した案内人は、胴体を捨てて帽子部分を切り離した。


 胴体が感謝の気持ちを受け取り、絶叫を発しながら消えていく。


「いぎゃあぁぁぁはわっぁぁぁぁ!!」


 黒焦げになり、そのまま感謝の気持ちの中で灰一つ残さず消えていく案内人の胴体。


 本体である帽子は、切り離されるとロケットのように火を噴いて宇宙へと逃げていく。


「本体さえ生き残れば!」


 だが、光の巨人は裂け目から案内人を見ていた。


「ひぃぃぃ!! こっちに気付いてるぅぅぅ!?」


 飛んでいく案内人を見送ると、光の巨人は消えていった。


 犬は首をかしげ、その場をグルグルと回ると一度お座りをして案内人を見上げた。


 宇宙へと向かいながら、何かを叫んでいた。


「私は絶対に諦めないからなぁぁぁ!! リアム、これで終わったと思うなよぉぉぉ!!」


 そうして案内人の姿が点になる、キラリと光って見えなくなった。


ブライアン(´;ω;`)「リアム様がついに! ついに! ブライアンは嬉しくて、もう涙が――涙がぁぁぁ!!」


若木ちゃん( ゜∀゜)「復活しないと思った? 残念! 耐性がついちゃったの! ツライアンさんが号泣している間に宣伝よ! 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 7巻】 は 【1月30日】発売よ! 来月からはモブせかを全力で宣伝するわ!」


ブライアン(´・ω・`)「……」


ブライアン(´・ω・`)ノシ「読者の皆様、これにて今年の投稿は終了となります。リアム様のご活躍を楽しんでいただけたでしょうか? それでは、皆様が良いお年を迎えることを祈っております」


若木ちゃん( ゜∀゜)ノシ「良いお年を!」



※これにて更新は終了となります。

次回更新は未定です(^_^;

書籍版のスケジュール次第ですが、また発売前に投稿になると思います。

そもそも発売前くらいにならないと書く時間ができませんからね。

ご了承ください。


さて、九章はいかがだったでしょうか?


▼下部に評価をする項目がありますので、お気軽にご評価ください。


評価をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 リアムが一生懸命ロゼッタをやんわりと貶めようとしているにも関わらず、結果的に最高のプロポーズになってしまう。  行き違い小説の真骨頂でしょうか。  グドワールは案内人に食べられましたが、結果的に心…
安士、まさかまさかの回でしたね… ビックリしました
なんか泣けた 声出して
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ