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裏切りの安士

明日は九章エピローグを投稿して、今年の投稿は終了となります。


加筆で大ボリュームとなった書籍版【俺は星間国家の悪徳領主! 1~2巻】は好評発売中です!

 師匠との話し合いも無事に終わった。


 一閃流に悲願があったとはじめて知ったが、師匠の後継者と言われたのは素直に嬉しかった。


 あの巨大タコの他にも、類似の厄介な連中がこの世界にはウヨウヨいるらしい。


 悪徳領主たる者、降りかかる火の粉は払いのけるもの。


 俺の安全を脅かす奴らは一人残らず斬り殺してやると心に決めるが、問題は師匠すら及ばなかった敵がいることだ。


 師匠は俺よりも強い。だから、俺が倒したあの巨大タコよりも強い奴がいるのは確実だろう。


 それにしても、偶然習った剣術にそんな秘密があるとは知らなかった。


 案内人のサポートには脱帽ものだな。


 余計な宿命まで背負わされたようにも思えるが、知っていれば俺から頼んで習わせてもらっただろうから問題ない。


「一閃流の悲願はいい。だが、問題は――」


 俺が嫌そうな顔をしていると思ったのか、隣に立つマリーが体調を気遣ってくる。


「リアム様、やはり先に治療を受けた方がよろしいのではないでしょうか?」


「問題ない。それよりも――通せ」


 面会を求めてきた相手に応えるため、俺は応接室にいた。


 ドアが開くと、そこには目の周りを赤くしたロゼッタがいる。


 俺を見て安堵したのか、涙を流して側にやって来た。


 抱きつきたいのを我慢しているようだ。


「ダーリン、心配したわ! 怪我をしたと聞いたけど、大丈夫なの? すぐに治療をしましょう!」


 捲し立ててくるロゼッタは、俺が心配で仕方がないらしい。


 よりにもよって、俺を助けたのがロゼッタの親衛隊とか――案内人、助けてくれたのは素直に感謝しよう。


 だが――だが! こいつを呼ぶのはどうかと思う。


「今回は助かった。感謝しているぞ、ロゼッタ」


「ダーリンを助けられて良かったわ」


 ロゼッタの親衛隊の件は放置していたが、まさか二万隻まで増えているとは思わなかった。


 練度も質もそれなりだったが、張り子の虎である敵の艦隊よりは強かった。


 ロゼッタが援軍として駆けつけてくれたおかげで、勝利を確かなものにしたのは間違いないだろう。


 ――だが、俺はロゼッタに借りを作りたくはなかった。


「この借りは必ず返す」


 俺が悔しさを滲ませて呟けば、ロゼッタは指で涙を拭う。


「ダーリンが無事ならそれで十分よ。それに、私はこれまで沢山ダーリンに助けられてきたから、少しでも力になれて嬉しいの」


 嬉しそうなロゼッタの顔は、本心を語っているように見える。


 だが、俺の心が納得できない。


 よりにもよって、ロゼッタに借りを作ることになるなんて。


 俺は心の中で頭を抱える。



 安士は艦内をフラフラと歩いていた。


「終わった。俺の人生は終わった」


 医務室を抜け出した安士は、追いかけてくる愛弟子である凜鳳と風華から逃げていた。


 これからの人生を想像すると、嫌になってくる。


 何しろ、リアムの本星で軟禁生活だ。


 事ある毎にリアムや二人の弟子が押しかけてくるに違いない。


 気の抜けない人生がはじまろうとしていた。


「俺一人なら逃げられたのに」


 妻のニナは安士を逃がさないだろう。


 一度逃げだそうとして、ニナに包丁で斬られた恐怖を安士は思い出して震えた。


 また、息子の安幸は可愛い。


 情けない自分を父親として慕ってくれる良い子だ。


 そんな息子をリアムに人質に取られている。


「ちくしょう。俺の人生は、あいつのせいで散々だ」


 リアムの本星から逃げ出せたとしても、待っているのは名を上げたい腕自慢たちからの逃亡生活だ。


 また、帝国貴族や覇王国――更には他国までもが安士に剣神という虚像を見て召し抱えようと捜し回っている。


 リアムのもとにいても、そして逃げても辛い人生だ。


 だが、このままでは終わりたくなかった。


「あの野郎にせめて一矢報いたい。怒られない程度で何か嫌がらせをしないと気が済まない!」


 安士は器も小さいが、気も小さい男だ。


 小さな復讐をリアムに誓う安士だが、何やら視界を横切ったように見えた。


「ん? 犬でもいるのか?」


 犬は狭い通路に入ったように見えた。


 その通路を覗き込むと、奥の方に一人の女の子がいる。


 メイド服姿の女の子は、頭を抱えて悶えていた。


 ただ――犬の姿は見当たらない。


「このままだと全てリアムの思い通りになっちゃう!?」


 安士はその女の子を見ていた。


(この戦艦には、やたらリアムを尊敬する奴しか乗っていなかったように思ったが――やっぱり、いるもんだな)


 リアムに対して嫌悪感を持っている女の子――シエルを見つけた安士は、近付くと声をかける。


 無精髭のアゴを撫でながら、雰囲気だけは立派な剣士という姿を見せる。


「何やらお困りのようですな」


 声をかけられ顔を向けるシエルは、安士の姿を見て震え上がる。


「剣神! ――様」


 あのリアムが自分すら及ばぬと公言している安士を見て、シエルは今までの呟きを思い出したのか顔を青ざめさせていた。


 安士は心の中で仲間を見つけたと確信する。


(俺にリアムへの悪口を聞かれたと思ったな。そんなお前となら、色々とリアムに仕返しできそうだ)


「そう怯えないでください。実は――リアムについて話を聞きたいのです。実は拙者もリアムには色々と迷惑をかけられていましてな」


 安士の言葉にシエルは怪訝そうな顔をする。


「リアムが尊敬する剣術の師匠でしょう?」


「そのリアムのせいで有名になり困っているのです。そこで、小さな仕返しをしてやろうと考えていたのですよ」


 シエルは半信半疑ながらも、安士がこんなことで嘘をつくメリットはないと思ったのだろう。


 また、安士を仲間にできれば心強いと思ったのか、リアムについて話をする。


「――あいつ、世間で言われているような名君じゃないのよ。本心は悪人よ! 領民たちを馬鹿にしていたし、それに自分の気分で増税を決めたのよ。領民たちが苦しむって言ったら、あいつ苦しめばいいって!」


「ほ、ほほぅ」


(あれ? それって、下手な仕返しをするとまずいか? 仕返しをするにも、塩梅には気を付けないと駄目だな)


 そこで仕返しを止めないのが、安士という男だ。


 シエルは安士に真実を話す。


「みんな騙されているの。婚約者のロゼッタ様も同じなの。あの人はいい人なのに、リアムに騙されているのよ。リアムの奴、ロゼッタ様がいるのに結婚もせずフラフラ遊び回っているし」


 修行が終われば即結婚! の予定が、リアムのわがままで無期延期の状態になっている。


 それをロゼッタは許していた。


 シエルからすれば、ロゼッタはとても健気に見えているようだ。


「私はリアムが許せないの! お兄様やお父様たちもあいつに騙されて――」


 悔しそうにするシエルを見て、安士は腸が煮えくりかえる思いだった。


 そして、仕返しを思い付く。


「承知した。ここは拙者が協力しましょう」


 シエルは百万の味方を得たような、そんな笑顔を見せる。


「ほ、本当ですか!」


 安士はシエルの肩に手を置いた。


「拙者に任されよ」



 安士はシエルを伴って応接間へと乗り込んだ。


 そこにはリアムとマリー、そしてロゼッタとその護衛の女性騎士たちの姿がある。


 急に入室してきた安士に、護衛たちが一瞬殺気を放った。


 安士はその殺気に冷や汗をかくが、表情だけは平然として見せる。


「師匠に殺気を向けるな、殺すぞ」


「し、失礼しました」


 安士へ殺気を向ける女性騎士たちも、リアムに言われれば殺気を抑える。


 また、相手が安士と知って慌てて謝罪をしてくる。


 ロゼッタが安士を見て、スカートを持ち上げてカーテシーで挨拶をする。左脚を下げ、屈む仕草だ。


「婚約者から話を聞いております。私はロゼッタ。リアム様の婚約者です」


 ダーリン呼びを止めたロゼッタは、安士に敬意を払っていた。


 その姿を見て、安士は思う。


(金髪ドリルのお嬢様か。俺の趣味じゃないな)


 黒髪で知的な美女が好きな安士から見れば、ロゼッタは確かに美女だが趣味ではなかった。


 リアムは気まずそうにしている。


「師匠、どうされたのですか? 急ぎの用件なら、俺がうかがいますよ」


 何か用事かと尋ねてくるリアムは、この場から逃げ出したいように見える。


 安士は確かに小物だが、人並み以上に人の弱みを見抜くことができる。


(やっぱりそうか! こいつ、婚約者が苦手だな!)


 シエルから、リアムが公爵の爵位狙いでロゼッタとの婚約を決めたという話を聞いていた安士は、そこに愛などないと思っていた。


 また、リアムが結婚から逃げ回っているのも、シエルの話から推察している。


 狼狽えているリアムを見て、シエルが目を輝かせていた。


 リアムは、安士の後ろにいるシエルを見て一瞬驚き、すぐに苦々しい顔を見せた。


「何故、師匠とシエルが一緒にいるのですか?」


 怪訝そうな顔を見せるリアムに、安士はここが攻め時と思って仕返しを行う。


「リアム殿、聞きましたぞ! 婚約者がおられるのに、結婚もせずに逃げ回っているそうですね!」


「なっ!?」


 リアムだけではない。


 この場にいた全員が、安士のストレートな質問に絶句していた。


 マリーなど、これを言ったのが安士でなければ斬り殺していたかもしれない。何しろ、とても複雑そうな表情を見せている。


 そして、安士を止めに来た。


「安士様、この問題は当家にとってとても繊細な問題です。安士様が部外者とは申しませんが、出来れば触れることはお控えくださいませ」


 下手に出ているが、周囲も「その話に触れるな!」という顔をしている。


 リアムは良くも悪くも権力を一人で握っている。


 そのため、わがままが許される人物だ。


 だから、結婚式を挙げずに逃げ回っても、苦言を言える人物が少なかった。


 天城やブライアンが小言を言っても逃げ回ってしまえば、他の者では話も聞かない。


 そこに、安士が土足で乗り込んできた。


 リアムが視線をさまよわせ、ロゼッタが困った顔をしている。


 どうやら、リアムは敬愛する安士に問われ、困っているようだ。


(いける!)


 安士はリアムの反応から、この話題に触れても怒られないだろうと結論づけた。


 だから、安士にとって小さな仕返しをする。


 それが、バンフィールド家にとって大きな問題だろうと関係なかった。


「素晴らしい婚約者がいるのに逃げ回るとは、感心しませんぞ。貴族としての修行も終わり、何の問題もないというではありませんか? 何を嫌がっているのですか?」


 当然のことを言っている安士だが、内心は違う。


(俺は結婚して人生の墓場にいるのに、お前だけ自由気ままな独身生活とか許されるわけねーだろ! お前も結婚しろ! いや、待て!? こいつが家庭を持って、子供が出来れば俺に関わる頻度は下がるよな? 嫌がらせも出来て、実利もある――まさに一石二鳥の完璧な嫌がらせじゃないか!)


 安士は振り返ると、シエルにサムズアップしてみせた。


 これを見て、周囲の人間は察する。


 ――シエルが安士に事情を話してそそのかしたのだ、と。


 ロゼッタ以外の――リアムたちの険しい視線がシエルに集まる。


 シエルは安士を見て、首を横に振っていた。


 違う! そうじゃない! という意味にも見えたが、安士は都合良く解釈する。


 しょせん他人だ。夫婦でもないのに、意思疎通など出来ない。


(まだ足りぬと!? もっと踏み込んで良いということか? なら!)


 安士はリアムを見つめ、視線を自分に向けさせると逃げ道を塞ぐことにした。


「リアム殿!」


「は、はい!」


「一閃流の後継者が何と情けない! 今すぐに領地に戻り、結婚式を挙げるのです! 師として情けないですぞ!」


「い、いや、しかし、これはその――」


「問答無用! 今すぐこの場で、領地に戻り結婚すると宣言しなさい!」


 リアムが安士に気圧されて、項垂れてしまった。


「しょ、承知しました」


「リアム様!?」


 驚くマリーだったが、そこは性格に難があっても出来る女である。


 リアムの発言を少し前から録音しており、証拠を確保していた。


 そして、ロゼッタに近付く。


「ロゼッタ様、すぐに本星へと戻って式の準備に入ります!」


「え、えぇ。――え?」


 ロゼッタもこの展開についていけないのか、困惑しているようだ。


 安士がシエルに振り向けば、激しく首を横に振っている。


(まだ足りない? いや、これ以上は何が――はっ!?)


 安士は気が付いた。


(リアムにはもっと恥をかいてもらうとしよう)


 安士は次の悪戯を考える。


ブライアン(´;ω;`)「このブライアンがいくら言っても聞き入れてくださらなかったのに、安士の言葉で結婚を決めるとか――辛いです」


若木ちゃん(;゜Д゜)「――え? このまま結婚するの?」


ブライアン(*´ω`*)「それはそうと、今月発売となりました【俺は星間国家の悪徳領主!2巻】が好評なようで、このブライアンも一安心でございます」


ブライアン(´・ω・`)「書籍版では後書き劇場がないため、このブライアンの活躍の場が減ってツライアンですが、書籍版では巻末にオマケが用意してあります。――天城率いるメイドロボたちの日常があるのですが、意外にも好評だったということで――このブライアンは、喜んでいいのか、悲しんでいいのか判断に困っております」


若木ちゃん( ゜∀゜)「人気を取られて辛いのね! そして、この後書き劇場は この苗木ちゃん に乗っ取られて辛いです、と」


ブライアン(´・ω・`)「……」


ブライアン(´・ω・`)r鹵~<≪巛;゜Д゜)ノ ウギャー

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― 新着の感想 ―
安士、ストーリーに本当に絡まないから怖ろしく好きなように出来ますね… まさかの仲人ですよ。リアム、ロゼッタ…結婚おめでとう!!!!!
出きる女である(キリ!
わんわんおもとっとと結婚しろと思ってたのかw
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