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劣勢

 時は少し戻る。


 宇宙を移動する大艦隊が存在した。


 それはロゼッタの親衛隊だった。


 リアムのように最新鋭の装備を揃えるよりも、現在の安定した主力兵器で揃えられた艦隊だ。


 クラウディア家の家紋が描かれている宇宙戦艦が、二万隻も揃うと壮観だった。


 ブリッジからその様子を見るロゼッタは、居心地悪そうに専用のシートに座っている。


 リアムの妻であるために、専用シートはまるで王妃が座るような豪華さだ。


 機能を重視したシートに装飾が施されている。


「こんなに数を揃えて良かったのかしら?」


 頬に手を当てるロゼッタの悩みを紛らわせるのは、メイド服を着たシエルだった。


「問題ありません! これもロゼッタ様を慕う者が多い証拠ですから!」


 苦々しい顔をしてシエルを見るのは、ロゼッタの軍事的サポートをするユリーシアだった。


「予算は足りましたけど、それにしても多すぎますよ」


 ユリーシアの話を聞いて、ロゼッタも流石に申し訳ない気持ちになった。


「そうよね。ちょっと多すぎるわよね」


「ちょっとじゃないです。下手な伯爵家よりも軍事力を持っていますよ」


 ユリーシアに訂正され、ロゼッタが縮こまる。


「このまま訓練に出かけて良いのかしら?」


 今回は全軍を率いての大移動だ。


 ある意味、ロゼッタの軍事力を見せつけるのが目的である。


 これを計画したのはシエルである。


「問題ありません。ロゼッタ様の親衛隊が、どれだけ素晴らしいかを――あれ?」


 その時だ。シエルは話を中断すると、辺りをキョロキョロと見回した。


 ユリーシアが腕を組む。


「急にどうしたのよ?」


「い、いえ。犬の鳴き声が聞こえたような気がして」


 ユリーシアが呆れた顔で小さく溜息を吐いた。


「チノなら屋敷でお留守番ですが?」


 犬族のチノは屋敷でメイドをしている。


 この場にはいないと言われ、シエルがかぶりを振る。


「違います! 本物の犬の遠吠えのような――」


 すると、オペレーターたちが騒ぎ出した。


「ロゼッタ様。当家の艦隊から救援要請が届いています」


 ロゼッタが表情を改める。


「救援? どこの艦隊ですか?」


「それが、データには存在しますが、詳しい情報が開示されません」


「私の権限で開示しなさい」


「はっ!」


 そうして開示された情報に寄れば、リアムが編成した特殊艦隊だった。


「これは――リアム様の艦隊です!」


「ダーリンの!?」


 オペレーターが状況を確認する。


「カルヴァン派の貴族たちと戦闘状態に入ったそうです。戦力差は六十倍以上!」


 騒ぎ出すブリッジ。


 ユリーシアは、慌てて連絡を取る。


 ロゼッタの母艦に乗り込んでいた司令官が、命令を出していた。


「本星に救援要請を急げ!」


 ロゼッタは立ち上がる。


「親衛隊は全艦でダーリンの救出に向かいます」


「ロゼッタ様!?」


 司令官が驚き、すぐに本星に戻るように説得を開始しようとするとロゼッタは首を横に振った。


「私が決めたことです。助けに向かいます!」


 司令官がロゼッタの覚悟に折れて、親衛隊がリアムを助けるために向かう。


 シエルは思った。


(あ、あれ? 何で私の計画で、リアムが助かるの?)



 ――これは間違っている。


 現れた二万隻の大艦隊を前にして、俺は文句を言いたくなった。


「ち、違うぞ。これは違うぞ、案内人!」


 マリーとの通信を切り、アヴィドのコックピット内で俺は頭を抱えていた。


「どうして、このタイミングでロゼッタが出てくる! 他の奴で良いだろうが!」


 よりにもよって、ロゼッタに助けられるとは思いもしなかった。


 ひとしきり身悶えした俺は、操縦桿を握り締める。


「こうなれば八つ当たりだぁぁぁ!」


 押し寄せたカルヴァン派の貴族たちに八つ当たりをするため、俺はアヴィドを発進させた。



 その日のことを後にリアムと敵対したパイロットが語る。


「あの日のことは今でも夢に見る。――悪夢だよ」


 パイロットは、リアムが出撃する前に撃破されて宇宙をさまよっていた。


 流されて遠くから戦場を見ていたそうだ。


「コックピットのモニターが生きていたんだよ。外の様子を見ていたが、あの戦場の話は誰も信じてくれないだろうな。俺だって信じたくない」


 動画は残っていても、合成だろうと言われてしまう。


 それほどに信じられない光景だった。


「あのアヴィドって機体が通り抜けると、少し遅れて味方が爆発していくんだ。斬り刻まれて、味方が爆発に飲み込まれる。奴が通った後に、尾を引くように爆発が起きたんだ」


 パイロットは酒をあおった。


「伯爵家の艦隊が撤退しようとすると、裏切り者の傭兵団が退路を塞いで逃げ場がなくなった。降伏だって申し出たさ。俺のコックピットにも届いていた。――だが、奴らなんて言ったと思う?」


 降伏を申し出る伯爵家の艦隊に対して、リアムの艦隊を率いるマリーは冷たい目をしてこういったそうだ。


『降伏は受け入れない。貴様たちはここで終わりだ』


 パイロットは泣きながら笑っている。


「おかしな話だろ? こっちの数は裏切り者が出ても五万はいたんだぜ。それなのに、敵は半分以下の二万四千だ。二倍以上の差があるのに、俺たちは蹂躙されたんだ。俺は――俺はそれを見ていることしか出来なかった」


 パイロットに、戦闘が発生した理由を尋ねる。


「戦った理由? 上が決めたことだ。そんなの俺が知るわけがない。――だが、噂なら流れてきたな。伯爵の馬鹿息子が、リアムの師匠を捕らえたらしい。ほら、あの一閃流だよ。それに激怒したリアムが、乗り込んできたってね。あり得ないだろ?」


 噂話を誰もが否定した。


 帝国でも指折りの貴族である当時のバンフィールド伯爵が、わざわざ辺境に乗り込むなどあり得ない。


 きっと他に理由があるはず――パイロットはそう思っているようだ。


「味方の艦隊に爆発の光が起きるんだ。対して、敵の方はそんな光が見えない。うちの艦隊は張り子の虎だが、まさかそこまで弱いとは思わなかった。数が揃えば勝てるって慢心していたんだよ」


 パイロットはその時の光景を思い出したのか、手が震えていた。


「バンフィールド家にはヤベェ騎士たちがいる。噂では知っていたんだ。だが、戦場で本物を見るまで実感できなかった。あいつら、実力も相当だよ。だけど、一番怖いのは戦闘に魅入られているんだよ。自分が死ぬのも怖くない奴らっていうのが、一番怖いんだぜ。途中から出て来たネームドは特に酷かった。チェンシーだよ。あの女、昔は戦場で敵味方関係なく暴れ回ったんだ。それが、リアムの下では大人しい忠臣だぜ? 信じられるかい?」


 当時からリアムは劣勢の状況で勝利してきた。


 それを知らなかったのかと問う。


「信じていたら、最初から挑まないだろ? 戦場の与太話だと思っていたのさ。多少強い程度で、話に尾ひれがついたと思っていたのさ。それでも六十倍だぞ。こっちもそれなりに警戒して数を揃えたのに、蹂躙されたんだよ」


 パイロットに、戦場のリアムについて尋ねる。


「リアム? バンフィールド家の領民たちにとっては、間違いなく名君だろうさ。羨ましくて涙が出てくるね。俺たちの領主は酷い男だったからな」


 酷い男だったから――過去形だ。


 何があったのだろうか?


「――死んだよ。生き残った俺たちが領地に戻ると、伯爵と跡取り候補たちがみんな死んでいたんだ。口封じって噂だが、何が起きたのか俺たちも知らない。ただ、殺され方はかなり酷かったらしい」


 まだ質問を続けようとすると、パイロットは席を立つ。


「もういいだろ。この話は思い出したくないんだ。俺は二度と、バンフィールド家やリアムには関わらないって決めたんだよ。戦場で色々と見てきたが――あれが本物の化物だ」



 戦闘が終わり、片付けを部下たちに任せた俺は艦内でくつろいで――いなかった。


 戦闘が終わると、マリーが泣きながら俺の手当てをしている。


「リアム様のお体に傷が――傷が――このマリー、自分の不甲斐なさが悔しいですわ。死んでお詫びいたします」


「馬鹿かお前は? いいから手当てを続けろ」


 こんなことを言っても、忠義心あふれるマリーは勝手に脳内で「わたくしを許してくれるリアム様素敵!」と考える。


 素晴らしき社畜根性に反吐が出る。


 前世の俺は一時期社畜だったから、社畜というのが嫌いだ。


 世の中はシンプルが一番だ。


 期待せず、働いた分だけ給与を払う。


 これでいい。これがいい。


 手当てを終えた俺は、服装を正して用意した畳の上に正座をする。


 既に凜鳳も風華も正座していて、エレンも俺に続けて正座をする。


 向かい合っているのは師匠と、その家族だ。


「師匠、ご無事で何よりでした」


 俺が頭を下げると、凜鳳や風華も頭を下げる。


 何故かエレンだけ渋っている気がしたが――これは後で叱らないと駄目だろう。


 安士師匠が笑っている。


「あははは――助けていただき感謝しておりますぞ」


 寛大な師匠だ。


 だが、俺たちは気になることがあった。


 先に口を開くのは風華だ。


「師匠! どうして元祖一閃流の奴らに捕まったんだよ! 師匠なら、あんな雑魚共なんか一太刀だろ!」


 ――そう。どうして師匠は捕まってしまったのか?


 そして、凜鳳は安士師匠の身を案じている。


「それに戦えないってどういうことさ!? あんなに強かった師匠がどうして!」


 二人の疑問に加えて、俺はもう一つ尋ねる。


「師匠、残念ながら元祖一閃流の師範は取り逃がしてしまいました。代官と一緒にいると思ったのですが、ククリたちに調べさせても所在が掴めませんでした」


 俺たちの質問を聞く師匠は腕を組んで目を閉じた。


 そして、更に気になるのはあの巨大タコだ。


「それにあの化物です。一閃流を目の敵にしていました。何かあったのですか?」


 俺は初対面のはずだ。


 それなのに、相手は俺のことを知っていた。いや、一閃流を知っていた。


 存在してはならないと、敵意をむき出しにしていた巨大タコ。


 安士師匠は目を開けると、俺たちの疑問に答えてくれる。


「全てをお話しする時が来たようですね」


 師匠が俺たちに、一閃流の秘密について語りはじめる。


ブライアン(*´ω`*)「俺は星間国家の悪徳領主!2巻 が 好評なようで、このブライアンも一安心でございます。リアム様の活躍を書籍版、Web版ともにこれからもお楽しみください」


若木ちゃん( ゜∀゜)「来月発売の 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です7巻 もよろしくね!」

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― 新着の感想 ―
安士、観念したか。 大丈夫、多分痛くしないようにゴニョゴニョだぞ!
全てをお話しする時が来たようですね マジで草 詐欺師としてあまりにも一流すぎる
>「全てをお話しする時が来たようですね」 もう草まみれだ
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