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一閃流の敵

【俺は星間国家の悪徳領主!2巻】のご購入報告が次々届き、大変嬉しく思います。


ありがとうございます(^▽^)


今年一年も色んな方々に支えられてきましたが、読者さんたちの応援に大きく助けられました。


まだ更新は続くので、挨拶はここまでにしておきます(^_^;

 巨大なタコが急に現れて、俺たちに「存在してはならない」と言い出した。


 それより言いたい――何だこいつは?


 視線を仲間に向ければ、震える妹弟子たちの姿が見えた。


 本能的に構えているが、抜いた刃が震えている。


 エレンに至っては座り込み、戦意を喪失していた。


 俺の弟子が情けない! とは言えない。


 俺の影からククリが姿を現す。


「リアム様、お逃げください」


 俺を逃がそうとするククリの判断は正しい。


 だが、ここで逃げることなど出来ない。


「お前たちは下がれ」


 普段は余裕を見せるククリが焦っていた。


「ですが!」


「下がれと言った!」


 ククリが俺の命令に従い下がると、俺は巨大タコを見ている師匠が気になった。


「師匠?」


 師匠を見れば、震えることなく堂々と巨大なタコを見ていた。


 そこには恐怖もなければ怒りもない。


 そして俺に尋ねてきた。


「リアム殿には、奴が倒せますかな?」


 師匠が相手をするのではないのか?


 そう思ったが、俺の実力を確かめたいのだろう。


 タコは俺たちに向かってくるが、後ろに控えたアヴィドがフィールドを展開して俺たちを包み込み守る。


 巨大タコは禍々しい姿をしており、触れた代官屋敷の建物が腐食していく。


 口から吐く黒い蒸気は、見るからに毒々しい。


「――ギリギリですかね」


 元祖一閃流などよりも、巨大タコの方が強敵である。


 俺の一閃でも倒せるかどうか、感覚的には少しだけ足りない気がした。


 師匠が言う。


「では、頼みます。拙者はもう――戦えません」


「え?」


 師匠が戦えないだって?



 安士は達観した表情をしながらも、僅かな希望を自分の弟子たちに抱いていた。


(急に出て来たこの化物だが、こいつら人外だし倒せるんじゃね?)


 視線をチラリと凜鳳や風華へと向ける。


 だが、二人は怯えているようだ。


 そして、安士に助けを請うような視線を向けているではないか。


(馬鹿野郎! 俺はお前らよりも弱いんだよ! お前らが怯えるような相手に、俺が勝てるわけがないだろ!)


 リアムを見れば、不思議そうな顔をしている。


 落ち着き払ったリアムが腹立たしくて仕方がない。


 先程圧倒的な力を見せたアヴィドだったが、フィールドを展開して巨大タコを近付けさせないだけで精一杯のようだ。


 フィールドも徐々に押し込まれ、巨大タコは更に膨れ上がって巨大になっていく。


「一閃流!! お前たちだけはここで!」


 何故か自分たちへの殺意が高い。


(俺が一体何をした!? 確かに誇れる生き方はしてこなかったが、ここまで恨まれる事なんてしてないぞ!)


 先程、リアムに「もう自分は戦えない」と言った安士は、とりあえず命の危機を脱するために咄嗟に嘘をついた。


 自分が実力を隠していると思われて、この化物を相手に戦わされるなど悪い冗談だ。


 ならば、もう自分は戦えないと言えばいい。


「リアム殿の実力を拙者に見せていただきたい」


 とりあえずリアムに頼ってこの場を逃げ出したかった。


 リアムは目を見開いて驚愕しつつも、小さく頷くと前に出る。


 安士は心の中で願う。


(神様ぁぁぁ!! どうか、この場だけはリアムに助力してください! ここさえ逃げ切れば、後は自分の力で逃げ出しますから!)


 生き残っても逃げることを考え続ける安士だった。



 グドワールが真の姿を見せると、それを上空から案内人が見ていた。


「いいぞ、グドワァァァルゥゥゥ!! お前は最高だぁぁぁ!!」


 リアムたちの前に姿を見せて、なりふり構わず向かっていた。


 その巨体はアヴィドのフィールドによって防がれているようにも見えるが、実際はリアムの力によって近付くのに苦労している。


 領民たちの想い。


 そして、これまで助けてきた惑星の人々の想い。


 バンフィールド家にある聖樹や、その他諸々の人の願いがリアムを守っていた。


 それらが、希少金属の塊であるアヴィドを通して増幅され、フィールドが神聖な力を宿している。


 案内人から見れば、グドワールは火の中に飛び込んでいるようなものだ。


 自分ならば絶対に真似しないし、したくない。


 リアムに勝ったところで、グドワールの負った傷は癒えるのに長い年月を必要とする。最悪、ずっと苦しむことになるだろう。


 それでも、グドワールがリアムを殺そうとしたのには理由がある。


「ふ~、それにしても勘違いで私たちの領域に足を踏み入れるとは思いませんでしたよ。僅かとは言え、私たちに手が届く存在になるとか許されませんからね!」


 本当に僅か。


 指先だけが僅かに触れる程度だけ、リアムは案内人たちの領域に踏み込んでしまった。


 それも勘違いを重ね、高みを目指してきた結果である。


「ただの手品からよくここまで成長しましたね。ですが、ここまでですよ! さぁ、グドワール、私も助力するので必ず勝ってください!」


 案内人からも黒い煙があふれ出し、グドワールに支援する。


 グドワールが更に巨大化して、強引にリアムたちを飲み込もうとした時だった。


「――なっ!?」


 案内人はリアムの後ろに、光が収束していく光景が見えた。


 それはアヴィドよりも大きな人の姿へと変貌し、上半身だけが見えている。


 鍛え上げた肉体を持ったその人型は、まるで武神のような雰囲気を出していた。


 上半身は裸のようだが、口元は鎧武者のマスクで隠れているようだ。


 その手には刀を持っていた。


 具現化したその光の巨人の眼光は、案内人を睨み付ける。


「う、嘘だ。私に気付いて――ひっ!?」


 刀を抜いた光の巨人。


 その下でリアムも案内人を見上げていた。


「見つかったぁぁぁ!!」


 混乱する案内人は、グドワールを見捨ててこの場を離れていく。



 空を見上げたら案内人が去って行く姿が見えた。


「――勝ったな」


 どうやら今回の一件、いや――この全てを裏でサポートしていたのは案内人らしい。


 アフターフォローが万全すぎて、申し訳なくなってくる。


 元祖一閃流も、そして迫り来る敵艦隊も――案内人の助けがあれば必ず勝てる!


 全てに決着がついたと確信した俺は、持っていた刀をエレンに渡す。


 エレンは立ち上がれないようだ。


「し、師匠?」


 どうするのですか? そんな目を向けてくるエレンに、俺は答えずアヴィドを見上げる。


「アヴィド、俺の刀を寄越せ」


 アヴィドのコックピットから刀が飛んでくると、俺は左手を挙げて受け取った。


 お気に入りの刀だ。


 目の前に迫る巨大タコは、その巨大な瞳を血走らせて見開いている。


「その刀は!」


 この刀のことを知っているのか、随分と焦っているようにも感じる。


 俺の刀ならば斬れると感覚的に思ったが、どうやら間違いないらしい。


 あのゴアズから奪った刀は、かなりの代物だった。


 これも案内人のおかげである。


「俺が持っている中で最高の刀だ。こいつが一緒なら、お前にも届くと思っていた」


 エレンの頭に手を乗せる。


「エレン、お前にはこれまで本物の一閃を見せてやれなかったな」


「え?」


「ようやく俺も、お前の師匠として一人前だ」


 歩み出て刀を両手で目の前に持っていく。


 鞘から三十センチほど抜けば、刃に俺の瞳が映っていた。


 紫色の瞳が光っているように見える。


「まだ、刀は不要とは言えないが」


 俺を見ている巨大タコが焦るように体を大きくしていた。


 膨らみ、アヴィドが展開したフィールドを飲み込もうとしている。


「やはりその刀はゴッドオブゴ――」


 巨大タコの話を聞いている暇はない。


「一閃」


 刀を抜くのではなく、そのまま鞘に戻して音を鳴らした。


 すると巨大タコを一閃が斬り裂き、縦に両断してしまった。


 その切断面からは黒い煙があふれ出し、巨大タコの体はしぼんでいく。


「いぎゃぁぁぎゃあああぁぁぁ!!」


 絶叫が響き渡る。


「こんな――こと――なら――さっさとお前ら――を」


 巨大タコの体は空気中に霧散し、黒い煙が消えるとキラキラと黄金色に輝く粒が舞っていた。


 ――何だこの現象は? ちょっといい。いや、かなり好みだ。


 俺は刀を腰に提げ、そして振り返る。


 凜鳳が驚いた顔をしている。


「い、今のって――あ、兄弟子もしかして」


 風華は刀を手放し、その場に座り込んで涙目だ。


「怖ぇぇぇ。さっきの何だよ。あんなの、今まで見たこともねーよ。兄弟子もさ、なんかもう凄ぇし。意味分かんねーよ」


 エレンは両手を握り締め、俺を見て泣いている。


「し、師匠。おめでとうございます。師匠の一閃は、見えませんでしたけど。確かにこの目に焼き付けました」


 見えない斬撃。


 その正体は、誰にも見えない速度で斬ることではない。


 魔法で刃を作り出すことでもない。


 超常的な現象? ――それも間違いではない。


 ただ、どれか一つでも欠ければ実現しない技だった。


 全てを習得し、更に壁を越えてはじめてたどり着ける領域に一閃はある。


「師匠――俺もついに一閃流の奥義を会得しました」


 戦いも終わり、師匠に深々と頭を下げる。


 これは確かに、口で説明できるような奥義ではない。


 師匠や案内人が導いてくれなければ、俺はいつまでも元祖一閃流と同じように勘違いをした一閃を放っていただろう。


 これでは、以前に馬鹿にした剣聖を笑えないな。


 間違った鍛え方ばかりしていたのは、俺も同じだった。


 師匠はそんな俺に優しく接してくれる。


「お見事です、リアム殿。もう、リアム殿は拙者を超えました。何も言うことはありません」


「そ、そんな。師匠にはまだ及びませんよ」


 子供の頃に見た師匠の一閃は、今でも目に焼き付いている。


 あれこそが本物の中の本物だろう。


「いえ、リアム殿が一番です!」

「いや、師匠にはまだ勝てません」


「いえいえ、もうリアム殿が一番ですから!」

「俺の中では今でも師匠が一番です!」


「リアム殿が一番ですってば!」

「だから、師匠の方が――」


 俺と師匠が言い合っていると、小窓が開いてそこからマリーが俺に報告してくる。


『リアム様、大変です!』


「どうした? 苦戦しているなら、今から俺が――」


『い、いえ。敵の一部が同士討ちをはじめました』


「同士討ち?」


『はい。引き連れた傭兵団が裏切ったそうです』


 困惑するマリーの顔を見て、俺は面白くて仕方なかった。


 案内人がフォローしてくれる俺に、負けなどあり得ない!


「こういう時は確か――天運我にあり、だったか? そう驚くな。俺は勝つべくして勝つだけだ。お前も仕事をしろ」


『は、はい!』


 通信が切れる。


「さて、色々と話もしたいですが、まずは避難しましょうか。師匠、俺の母艦まで送り届けますよ」


「いえ、それには及びません。拙者にはこの惑星に家族が――」


 そこまで言う師匠に、エレンが答える。


「安士様のご家族は、師匠が保護していますよ」


「――え?」


 戦闘になってもいいように、先に奥方と安幸君は母艦に避難させた。


「安心してください、師匠!」


 俺がそう言うと、何故か師匠は遠い目をしていた。


「そ、そうですか」



 その頃。


 宇宙では、マリー率いるリアムのお忍び艦隊が戦っていた。


「状況はどうなっているの!」


 マリーの声がブリッジに響き渡るが、クルーたちも状況を把握しかねていた。


 オペレーターが報告を行う。


「敵の一部が造反したと思われますが、詳しい情報はありません」


 傭兵らしき三千隻の集団が、味方を攻撃して暴れ回っている。


 代官の父親――伯爵の艦隊も、身内から攻撃を受けて狼狽していた。


 マリーは冷や汗をかく。


(天運我にあり――リアム様のお言葉通りね)


 劣勢の状況だろうと、必ず勝利を掴むリアムは人知の及ばない何かに見守られているようだ。


 オペレーターが叫ぶ。


「アヴィドを回収しました! いつでも離脱できます!」


「正面突破! 旗艦を最優先で脱出させなさい! リアム様だけは、命に換えても守りなさい」


 文字通りの命懸け。


 敵に突撃して離脱を行う。


 多くの味方が撃破されるだろうが、それでリアムを助けられれば御の字だ。


「敵は崩れているわ。突撃陣形!」


 マリーが指示を出すと、ブリッジのモニターにリアムの姿が映し出される。


『旗艦は前だ。俺も出るぞ』


 傷だらけのリアムが不敵に笑っている姿に、マリーも命令を無視する。


「リアム様の命令でもこれ以上は聞き入れられません。わたくしの首をかけても、この場から離脱していただきます」


『――誰に向かって言っている?』


 リアムの低い声にブリッジが静まりかえるが、マリーはこれが忠義だと信じて進言する。


「リアム様が生き残れば、バンフィールド家は何度でも立ち上がれます。ここでリアム様を失えば、逆に二度と立ち上がれなくなるでしょう。わたくしは、自分の意見を曲げるつもりはありません」


 リアムは微笑する。


 マリーの答えが気に入ったようだ。


『お前の忠誠心は認めてやってもいいな。だが、俺をあまり侮るなよ。俺が劣勢だと決めつけていないか? 俺は必ず勝つ男だ』


 勝利を信じて疑わないリアムの映像に割り込むのは、傭兵団を率いるチェンシーだった。


『お久しぶりですね、リアム様』


 チャイナ服のような衣装を身にまとい、出現した映像をマリーは睨み付ける。


「お、お前は」


『傭兵団を率いて参戦しました。とりあえず、敵の数が多い方を叩こうと思ったのですが――逆に、これはリアム様と戦えるチャンスかと思いましてね』


 マリーは苦虫をかみ潰したような顔をする。


(よりにもよって、うちで一番の過激派が敵に回るのか)


 マリーも過激派だが、中でも精鋭はチェンシーのような戦いの中に生きている実感を得るタイプだった。


 強者に挑むことこそ至福の彼らにとっては、リアムを相手にする方が楽しめるだろう。


 ただ、チェンシーの言葉にリアムは目を細める。


『じゃれ方を知らない駄犬に用はない。来るならさっさと来い。全員踏み潰してやる』


 一歩も引かないリアムの返事を聞いて、チェンシーは頬を染める。


『この場は力を貸して欲しいと頼む場面では?』


『お前がいなくても俺は勝つからな』


 揺るがない自信を前にして、チェンシーは諦めたようだ。


『だからあなたは面白い。――そちらの指揮下に入りましょう』


 三千隻がリアムの指揮下に入ると、オペレーターが状況を伝えてくる。


「偽装していますが、全てバンフィールド家の標準装備です!」


 マリーはそれを聞いて、すぐに現状の打開策を思案した。


(敵の数が減り、味方が増えた。だが、この数の差は――)


 そこに――新しい貴族の艦隊が出現する。


 その数二万隻の大艦隊は、バンフィールド家とは違う家紋を掲げていた。


 それを見てリアムは、先程の余裕が消えて目を見開き狼狽する。


『――ど、どうして』


 リアムにとっても意外だったのだろう。


 その艦隊から通信が届いた。


『助けに来たわ、ダーリン!』



ブライアン(´;ω;`)「天運我にあり――ではありませんぞ、リアム様。どうしていつも、劣勢の状況で嬉々として挑むのか。――このブライアンは心配で辛いです」


若木ちゃん( ゜∀゜)「何でも斬れば良い! ってヤベェ奴が主人公で大変ね。でも【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】の主人公は奥手でシャイな内向的主人公だから大丈夫! そんな主人公だけど、やる時はやるから。――やっちゃうから」


ブライアン(´;ω;`)「精一杯の擁護、ご苦労様です。【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です7巻】も応援よろしくお願いしますぞ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 安士師匠。 [気になる点] 安士師匠。 [一言] 久しぶりに声を立てて笑いました! すごく面白い話をありがとうございます!!
[気になる点] そろそろ死んで 安土
[気になる点] 二言目には"とか"を使いますね。 沖縄県のご出身ですか? お好きなプロボクサーは"とか"ちゃんですか? [一言] 「やはりその刀はゴッドオブゴ――」 巨大タコの話を聞いている暇はない。…
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