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リアム開眼

メリークリスマス!


本日は 【俺は星間国家の悪徳領主!2巻】 の 発売日となっております。


Web版の読者さんにも是非とも書籍版を読んでいただきたいですね。


別件ですが、先日の感想が久しぶりに100件を超えました。


安士って人気だね(^_^;

 一番弟子と戦う凜鳳は、壁際まで追い込まれていた。


 長く綺麗な髪は一部が斬られ、服にも血が滲んでいる。


 それを見て一番弟子が、つまらなそうにする。


「これが最強と言われた一閃流か? 弱い、弱すぎるぞ。やはり、お前たちが強いのではなく、一閃流が凄かったということだな」


 凜鳳は黙って一番弟子の一閃を迎撃している。


 そして一番弟子は気付く。


「最強の流派を伝えるのは、俺一人で十分だ。お前たちやリアムを殺したら、一閃流を知る全てを殺して俺一人が一閃流を名乗る!」


 それは代官すら殺し、この最強の剣術を自分だけのものにするという宣言だった。


 一番弟子が凜鳳を殺して、計画を実行に移そうと考えたのだろう。


 深く踏み込んで一閃を放ってくる。


 だが、その瞬間だった。


 凜鳳も前に出て一番弟子を通り過ぎる。


 自分の一閃が凜鳳に届かなかったことに驚く一番弟子は、慌てて振り返る。


 凜鳳は小さく溜息を吐いていた。


「お前の動きを見ていたけど、正直に言って期待外れだったよ。しかも、出る杭を打つとか――器の小さい男だね」


「俺の一閃に苦戦したお前が何を言う!」


 凜鳳は一閃を放つと、一番弟子の頬に傷が入った。


 一番弟子が手で触れると、それはかすり傷だった。


 だが、今の一撃で理解したようだ。


 ガタガタと震えはじめる。


 そんな一番弟子を見て、ガッカリした凜鳳は俯く。


「元祖一閃流がどんな風に発展してきたのか調べたかったのに、本当に一閃以外は使い物にならないみたいだね。何もかもが足りないから、一閃の冴えもない」


 一閃だけ。


 他の全てを廃して、一閃だけを習得する流派と――凜鳳は理解した。


 一番弟子に向き直る凜鳳は、居合いの構えを見せる。


 慌てて一番弟子も構えるが、次の瞬間には両断されて左右に分かれて倒れた。


 床に血が広がると、凜鳳は冷めた目で一番弟子を見下ろしていた。


「堕落した一閃流は消えた方がいいね」


 そう呟き、凜鳳は歩き出す。



 中庭で七人を相手に斬り合う風華は、服もボロボロで傷だらけになっていた。


 七人に囲まれ一閃を放たれる中で、笑いながら戦っている。


 高弟がそれを見てドン引きしていた。


「どうして避けられる!? 何故、倒れない!」


 自分たちの方が数は多いのに、風華が倒れないのが不思議で仕方がないようだ。


 ただ、風華は戦いながら気付いていた。


 凜鳳が冷静に分析するならば、風華は野性的に感覚で学ぶ。


「お前ら、本当に一閃しか使えねーのな」


 急に風華が馬鹿にすると、門弟たちが顔を歪めて力んでしまう。


 これまで以上の威力で一閃が放たれるが、風華はひらりと避けてしまった。


「無駄なんだよ。ただ威力が上がっただけだ。一閃っていうのはさ――こうやるんだよ!」


 二刀を振ると、高弟を除いて三人の門弟が斬られた。


 全員が唖然とする中で、風華は二刀を肩に担ぐ。


「お前らの一閃は偽物だな」


 断言する風華に、高弟が刀を抜いて構えた。


「偽物ではない。本物の一閃流だ! 帝国最高の剣術だ!」


「いや、偽物だ。大事な物が抜け落ちて、一閃も錆び付いていやがる。お前らを見て、どれだけ師匠や兄弟子が怖いのか理解出来たよ」


 元祖一閃流にガッカリしつつ、同時に側にいた安士やリアムが恐ろしい存在だと再認識させてくれたことに感謝する。


 だが、それだけだ。


 手強い相手ではあった。


 そして、自分に足りない物を実感出来た。


「お前たちを見て理解出来た。一閃が出来ても足りないんだな。兄弟子が基礎を重視するわけだぜ」


 独り言を呟く風華に、高弟が焦ったように斬りかかる。


 本能が何かを恐れたのだろう。


 風華は動かずに目を細めるが、飛び込んできた高弟は粉々に斬り刻まれてしまった。


 それを見ていた他の門弟たちが、背中を見せて逃げようとする。


 風華の口元が大きく開いて笑みを作った。


「おいおい、それは駄目だろ? 一閃流が逃げたら――死んだ方がマシじゃね?」


 風華が門弟たちとの距離を詰めると、バラバラに逃げた彼らに一閃を放つ。


 それは一撃で仕留めるギリギリの力加減だった。


 正確に彼らの急所を斬り裂き、風華が着地した瞬間には全員が倒れていた。


 二刀を鞘へと戻し、風華は一度深呼吸をしてから自身の姿を見る。


「――まぁ、兄弟子とやった時よりマシだな」


 同門を相手に勝利した風華は、次の敵を探して移動する。



「真実はいつも残酷だな」


 着物はボロボロになっていた。


 その下に着用していたトレーニングスーツも、機能を果たせずに勝手にパージされてしまった。


 上着を脱いで、袴だけになった俺は上半身裸だ。


 傷から血が流れているが、致命傷ではないので放置する。


 右手に握った刀を鞘に戻した俺は、左手に持つと天井を見上げる。


 照明が眩しい。


 そして、今までの勘違いに自分が恥ずかしくなってきた。


「師匠は最初から刀を抜いていなかったのか」


 俺の気付きなど関係ないと言わんばかりに、周囲にいる元祖一閃流の門弟たちが一閃を放ってくる。


 俺は親指で鍔を少し持ち上げ、そして刀をパチンと小気味良く鳴らした。


 するとどうだ?


 高弟たちを含む十七人の門弟たちの体がバラバラに崩れ、床に倒れ込むと血を流した。


 血飛沫は発生しなかった。


 ――そして俺は、刀を鞘から抜いていない。


 ただ、音を立てただけだ。


 たったそれだけの行動で、十七人もが斬り刻まれ、部屋中に傷が入る。


 厳しい修行の末に辿り着いた奥義。


 力でも、技量でも、まして魔法だけでも足りない境地に、一閃は存在していた。


 今まで俺が放っていた技は、一閃もどきだったということだ。


「師匠が刀を持たないはずだ。――そもそも必要なかったのか」


 思い出してみれば、レーゼル子爵――今は男爵の領地で再会した時に、師匠は刀を帯刀していなかった。


 持っていなかった――のではなく、持つ必要がなかった。


 今の俺では無理かもしれない。帯刀しなければ、たぶん一閃は放てないだろう。出来たとしても、きっと失敗する。


「これが本物の一閃か」


 呟き、視線を生き残った奴に向ける。


 一人生き残っているが、何が起きたのか理解出来ていない顔をしている。


 俺はゆっくりと近付く。


 相手は怯えた顔をして、震えながら一閃を放ってくる。


 狙いが定まらず、避ける必要すらない斬撃ばかりだ。


「く、来るな! 来るなよぉぉぉ!!」


 泣き叫ぶ姿に、これが同じ一閃流かと思うと情けなくなってくる。


 男は俺が目の前に来ると、崩れるように尻餅をついた。


 床からアンモニア臭がしてくるが、気にせず問う。


「お前たちの師はどこだ?」


「へ?」


「元祖一閃流の師範だ。名前は? 居場所は? それから、俺たちの師匠は無事なんだろうな?」


 一閃の――真の一閃のコントロールが未熟で、一人だけ生き残っているのは悔しい。


 しかし、一人生き残っていれば話も聞ける。


「答えろ。お前たちの師匠はどこだ? 俺たちの師匠は?」


「だ、代官様と一緒に――」


 代官の側に強い気配は感じられなかったが、それだけ聞ければ問題ないと男の首を刎ね飛ばした。


 刀を鞘に収める俺は、パチンと音を立てた。


 すると、部屋を塞いでいた分厚いドアがバラバラに砕けて崩れ落ちる。


 どうやら俺は最初から間違っていたようだ。


 一閃流の極意とは、刀を抜かずに斬ることだった。


「さて、エレンを連れて奥へと進むか」


 一つの壁を越えられた。


 後は安士師匠を救出するだけだ。



「刀を抜かないってどういうことだよ!?」


 リアムを監視していた案内人は、目の前の出来事に理解が追いつかなかった。


 剣術なのに、剣を抜かないのが極意と言い出したリアムが信じられなかった。


 グドワールも同様だ。


「確かに剣を抜かずにすむのが最良という流派もあるが、これは違うだろ! 意味が違うだろ! 本当に抜かないって何だよ!」


 剣術でも、魔法でもない斬撃。


 リアムが辿り着いた答えに、案内人やグドワールは狼狽えていた。


 一閃流を沢山用意してリアムを倒そうとしたら、そいつらを倒して更に強くなってしまった。


 案内人にとっては悪夢である。


「グドワール、こうなれば――ひっ!?」


 案内人が次の作戦をグドワールと考えようとするが、本人は顔を真っ赤にして湯気を放出していた。


 リアムは、とにかくグドワールの好みではないらしい。


「血湧き肉躍る戦いを期待していたのに、こんなのが許されるものか! 潰す。リアムは必ずここで潰す!」


 最早、リアムの一閃流は剣術ではない。


 グドワールはそう判断すると、案内人をたこ足で掴む。


「や、止めて。苦しい!」


 掴まれた案内人が苦しんでいると、グドワールは八つ当たりのために締め上げる。


「お前が余計なことをするからだ!」


「何という理不尽!」


 理不尽とは言うものの、リアムがここまで強くなったのは案内人の干渉があったからだ。


 グドワールの怒りも間違いではない。


「こうなれば、何が何でもリアムを葬ってやる! あいつは駄目だ。放置すれば――必ず俺たちの敵になる! ここで消さないと、あいつの刃は俺たちに届く!」


 グドワールの放出した蒸気が、黒く変色して周囲に広がっていく。


 それは宇宙にまで伸びて、リアムの敵を呼び寄せる。


 案内人は締め上げられながら、その光景を見ていた。


(こ、これで、リアムも終わりだな)


 グドワールに苦しめられても、リアムが倒せるなら我慢する案内人だった。



 リアムを殺そうとする悪意ある存在が二つ。


 宇宙にまで届く黒い蒸気は、人には見えずに広がっていく。


 それを黒い戦艦の艦首から眺めているのは、犬の姿をした光だった。


 空気がなく、音が聞こえない宇宙で一鳴き遠吠えをする。


 その遠吠えは空間を超えて、届けるべき人に届いた。



「む? 犬の遠吠えが聞こえたような? そんなことはどうでもいいか」


 チェスターが誰かを待ち構える部屋には、まるで商品のように牢屋に入れられた安士の姿があった。


 本人は随分と焦っている。


「全員が負けたのか? 三十人全員が!?」


 部下からの報告を聞くチェスターの後ろ姿を見て、安士は鼻で笑っていた。


(お? もしや、敵対勢力が殴り込んできたのか? いいぞ、そのままこいつらを倒して、俺を助けてくれ。神頼みが効いたか?)


 捕らえられた安士は、毎日のように「誰かが助けに来ますように」と神頼みをしていた。


 何しろ自分では何も出来ない男だから、困った時は神頼みである。


 その願いが通じたと、安士はのんきに喜ぶ。


 チェスターの敵ならば、捕らえられている自分を助けてくれるかもしれない。


 そんな淡い期待を抱く安士は、妙な寒気を感じる。


 背筋が寒くて震えた。


(風邪かな?)


 今日は暖かくして寝ようとか、現実逃避をしていると部屋のドアが斬り刻まれた。


(む、助けが――へ?)


 期待に目を輝かせる安士だったが、ドアを斬り刻まれて崩れ落ちた場所から二人の人影が見えた。


 現れたのは――リアムだった。


 成長したリアムは、安士が知っている姿よりもたくましく成長していた。


 そんなリアムが、安士を見つけると姿勢を正す。


「師匠、遅くなりました」


 傷だらけのリアムが登場すると、安士も姿勢を正して正座をする。


 いかにも落ち着いたように取り繕うが、内心では絶叫していた。


(神様そいつじゃない!! そいつだけは駄目ぇぇぇ!! 早く追い返してよ!)


 よりにもよって、一番助けに来て欲しくない人物がやって来てしまった。


 リアムの後ろには赤毛の女の子の姿もある。


 その女の子は、リアムを師匠と呼んでいた。


「師匠、元祖一閃流の師範の姿がありません」


「チェスターに居場所を聞けばいい。――さて、師匠を連れ去ったのはお前か? 覚悟は出来ているんだろうな?」


 酷く冷たい声でチェスターを脅すリアムに、部屋が重苦しい雰囲気に包まれる。


 呼吸すらするのが難しくなり、安士は冷や汗が止まらなかった。


 だが、ここで終わらなかった。


「あれれ? 兄弟子が一番乗り?」


 姿を見せたのは、こちらもボロボロの凜鳳だった。


 ただ、部屋に入って安士を見つけると、満面の笑みを浮かべる。


「師匠だ! 師匠ぉぉぉ!!」


 大きく手を振る凜鳳の後ろから、部屋に飛び込んでくるのは風華だった。


 こちらも傷だらけになりながら、安士を見て嬉しそうに涙ぐんでいる。


「やっと。やっと会えた! 助けに来たよ、師匠!」


 安士は助けに来た四人を前に必死に微笑み、小さく頷いておく。


(俺はお前らに二度と会いたくなかったけどな! 何でリアムを倒すために送り込んだのに、一緒に行動しているんだよ!)


 意味が分からない状況に、安士は限界だった。


 だから、チェスターが何かを言っているが聞き流してしまう。


 チェスターはスイッチを持っていた。


「俺に近付くな! それ以上近付けば、お前たちの師匠は木っ端微塵に――なっ!?」


 スイッチを見せるチェスターだったが、リアムたちに見せつけた瞬間に粉々に砕けた。


 そして、安士の近くに床や壁から姿を見せる者たちがいる。


 仮面をつけたそいつらは、リアムの部下らしい。


「リアム様、爆破装置は解除しております。罠の類いも全て処理しました」


 リアムは「そうか」と呟くだけだ。


 そして、震えているチェスターに視線を向ける。


 怯えたチェスターは、リアムの威圧に耐えきれなくなって刀を抜いた。


「こ、この化物が!」


 未熟ながらも一閃が放たれると、リアムがそれを迎撃する。


 二人の間で火花が散る。


 チェスターが何度も一閃を放つが、それを全てリアムが迎撃していた。


 リアムは、アゴに手を当ててエレンに視線を向ける。


「丁度良い。エレン、お前がこいつの相手をしろ」


「――はい」


 エレンがチェスターの前に歩み出る。


ブライアン(´;ω;`)「……抜かないで斬るってなんでしょうか?」


若木ちゃん(;゜Д゜)「え? いや、私もちょっと理解できない」


ブライアン(´;ω;`)「……」

若木ちゃん(;゜Д゜)「……」


ブライアン(`・ω・´)「リアム様が奥義を会得して、このブライアンは嬉しいですぞ! そして本日はついに【俺は星間国家の悪徳領主!2巻】が発売となりました! 皆様、もうリアム様の活躍をお楽しみいただけましたか?」


若木ちゃん( ゜∀゜)「【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】とのコラボSSもよろしくね! モブせか7巻は 1月30日 発売だから、そっちもチェックを忘れずによろしく! 私活躍するから。多分活躍するから!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 抜かずに切る、安土が最初に見せたものである
[良い点] 第6感+神秘の第7感=見聞色 一閃=霸皇色
[良い点] そのうち帯刀せずに全てを斬るようになるの…? もう意味がわからないよ…
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