表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/260

元祖一閃流

ついに明日は 『俺は星間国家の悪徳領主!2巻』 の発売日!


書籍、電子書籍のどちらでも構わないので、ご購入よろしくお願いします!

 分厚く重たい門が吹き飛んだ。


 俺たち四人が歩いて中に入ると、そこで待っていたのは防衛用の無人機たちだ。


 一斉にレーザーを照射してくる無人機に対して、俺たちの一閃が襲いかかる。


 庭の木々や建物まで斬撃が及び、斬り刻まれていく代官屋敷。


 屋根の上にいたスナイパーを見つけた俺は、放たれた弾丸を斬ってやる。


「待ち構えていたか。それなりに耳は良いらしい」


 ゆっくりと歩いて進めば、非戦闘員の姿がない。


 俺たちが来ると知り、あらかじめ避難していたようだ。


 代わりに配置されているのは、用心棒や兵士たちだった。


 その手に武器を持って窓から姿を現せば、風華が一閃を披露する。


 一瞬で姿を見せた用心棒や兵士たちが斬られると、凜鳳が口を開いた。


「兄弟子、僕はこっちに行くよ」


 指し示した方向は屋敷の右側だ。


 風華が刀を抜いて、左側を示す。


「俺はこっちがいいな」


 その先に元祖一閃流の門弟たちの気配を感じる。


 俺たちが分散すれば、あちらから動くだろう。


「好きにしろ。ただし、元祖一閃流の師範がいたら俺に知らせろよ」


 風華がつまらなそうにしていた。


「早い者勝ちでいいだろ? 俺だって師範は狙いたいよ」


 凜鳳も風華の意見に賛成する。


「兄弟子ばっかり狡いよ」


 そう、俺は狡い男だ。


「それがどうした?」


 二人に微笑みかけてやれば、視線をそらした。


 了承を得られた俺は、エレンを連れて屋敷へと入っていく。


「元祖一閃流の屑共に、本物の一閃流を教えてやる」



 リアムたちが代官屋敷に乗り込むのを、案内人とグドワールは空の上から眺めていた。


「ショーの始まりですね」


 両手を広げる案内人は、リアムが自ら罠に飛び込んだのが嬉しくて仕方がなかった。


 もしかしたら食い破るかもしれない。


 しかし、この場には敵の大軍が迫っている。


 この場を切り抜けたとしても、リアムは袋のネズミだった。


 グドワールは一閃流同士の戦いに興奮している。


「争え。もっと血を流せ。争いこそが俺様の娯楽。お前たちの存在意義は、俺様を命懸けで楽しませることだ」


 人間をただの娯楽の道具にしか見ていないグドワールは、リアムがどのように死ぬのか興味があった。


 案内人は、リアムが死にさえすればどうでもいい。


「逃げ場はないぞ、リアム。今日がお前の命日だ!」



 風華は代官屋敷の中庭を歩いていた。


 リアムたちと別れて一人になると、襲いかかってくる無人機や用心棒たちを相手に進む。


 風華が進むだけで敵がバタバタと倒れていく光景は、常人には何が起きているのか理解しがたいだろう。


 風華が立ち止まると、数十センチ先にいくつもの一閃が放たれた。


 地面が斬り刻まれ、そして抉れる。


 顔を上げれば、建物の屋根の上に元祖一閃流の門弟たちの姿があった。


 その中には以前出会った高弟の一人がいた。


「本当に乗り込んできたのか? お前たちは本物の馬鹿だな」


 ゲラゲラと笑っている元祖一閃流の門弟たち。


 風華は僅かに口元に笑みを浮かべると、二刀で周囲を一閃によって斬り刻む。


 だが、相手も同門だ。


 その斬撃を一閃によって迎撃し、誰一人倒すことが出来なかった。


 風華はそれに驚かない。


 元祖一閃流の門弟たちは、そんな風華を見て勝利を確信する。


 何しろ、数にして十人だ。


 一人一人が風華に劣っていたとしても、数の差は圧倒的である。


 高弟が風華を見て口角を上げた。


「数が少ないお前たちが、戦力分散とは兵法を知らぬと見える。それとも、これまで敵がいないために自分の腕におごったか?」


 おごりを指摘された風華は、静かに二刀を抜いた。


 二刀を構える。


 一閃流は構えが存在しない流派だ。


 高弟が怪訝な表情を見せると、風華は不利な状況にありながら笑っている。


「口数の多い野郎だな。さっさとかかって来いよ、三下がぁぁぁ!!」


 風華の一閃が周囲に放たれ、それを先程と同じように防ごうとする門弟たち。


 だが、数人が防ぎきれずに斬られて血が舞った。


 高弟が驚いてそちらを見れば、持っていた刀が折れている。


 高弟が風華に視線を向け、奥歯を噛みしめた。


 対して、風華の方は納得出来ない顔をしている。


「三人かよ。思っていたより少ないな」


 再び構える風華を見て、高弟は味方に向かって叫ぶ。


「一斉に斬りかかれ! 反撃させるな!」


 本気になった敵を見た風華は、獰猛な笑みを浮かべていた。


「最初からそうすればいいんだよ」



 一方。


 凜鳳がいる方には一人の男がやって来た。


「僕の方は一人? こっちはハズレだね」


 たった一人が相手かと残念そうにする凜鳳に、相手は名乗る。


「俺は元祖一閃流の一番弟子だ。他の有象無象と一緒にしないでもらおうか」


 厳つい顔をした男は、自らを一番弟子と名乗る。


 凜鳳は少し興味がわいた。


 試しに一閃を放つと、男は凜鳳の一閃を弾いてみせた。


 二人の間で火花がいくつも飛び散るが、発生しているのは凜鳳の近くだ。


 押し込まれているのは凜鳳だった。


「一番弟子っていうのは本当みたいだね」


「小娘にしてはよくやる。俺の弟子にしてやってもいいぞ」


 男の申し出に凜鳳はキレる。


 凜鳳は紺色の長いサラサラした髪に、落ち着いた恰好をしているため清楚に見られることが多い。


 風華が派手な格好を好むため、対照的に見えてしまう。


 だが、感情に左右されやすいのは凜鳳の方だった。


 凜鳳から表情が消える。


「ゴミカスが、いつまでも調子に乗ってんじゃねーぞ」


 凜鳳が殺気を放つと、僅かに髪が揺らめいた。


 屋敷内の張り詰めた空気が一気に冷え込む。


 一番弟子はそれを見ても余裕だ。


 何しろ、自分は強いと信じているから。


「見てくれはいいから、俺の情婦にしてやろうと思ったのに残念だ」


 二人の間でまたしても火花が飛び散る。


 互いに一閃を放ち、ぶつけ合っていた。


 屋敷の廊下にはいくつも傷が入り、ガラスは割れて吹き飛ぶ。


 壁や天井、床も斬り刻まれていく。


 一番弟子が一歩踏み込むと、凜鳳が一歩下がる。


 それを見た一番弟子は、眉間に皺を寄せた。


「俺に逆らう奴は誰だろうと許さん。小娘だろうと、覚悟することだ」


 一歩踏み込むと、凜鳳は一歩下がる。


 凜鳳の表情は険しくなり、そして冷や汗を流していた。



 大きな扉を前にして、俺は立ち止まった。


「エレン、お前はここで待て」


「師匠?」


「――十九人。凜鳳と風華が相手にしている数を考えると、残る一人は奥にいる代官か? お前はこの場から離れろ」


「で、でも!」


「今のお前は邪魔になる」


 睨むとエレンは俯いて、この場から走り去っていく。


 その後ろ姿を見ていると、言いすぎたと思うが仕方ない。


 ――今の俺には余裕がないからな。


 一閃流の強い気配を感じ取り、俺は一人で門を開けて中へと入った。


 待ち構えていたのは、元祖一閃流の門弟十九人だ。


 大きな扉が音を立てて閉まると、金属の重たい音が聞こえた。


 どうやら鍵をかけたらしい。


「無駄なことをする」


 扉など一閃で吹き飛ばせばいいのに、閉じ込める意味が理解出来なかった。


 俺が前を見れば、数人の男たちが前に出てくる。


 他の奴らよりも強そうな連中だ。


「ようこそ、リアム殿」


「俺の名を呼ぶ時は「様」をつけろ」


 落ちぶれた一閃流など見たくもない。


 俺の態度に腹を立てた門弟たちだが、目の前の三人は違った。


 笑っている。


「これは失礼した。我らは元祖一閃流の高弟です。貴殿とは同門ということになりますね。先輩として敬いましょう」


 俺を先輩としながらも、自分たちが上に立っているという顔が気に入らない。


「御託はいい。どうして斬りかかってこない?」


 ニヤリと笑みを浮かべる高弟は、俺に取引を持ちかけてきた。


「簡単ですよ。命を助ける代わりに取引をしませんか?」


「――話くらいは聞いてやる」


「我らの主君である代官様は、リアム殿に憧れておりましてね。手を結ぶならば、この場は見逃してもいいそうです。ま、今後は代官様のために働いてもらいますけどね」


 俺に憧れている? それは確かに興味深い話だが、助けてやるとは図々しい。


 その上、俺に下につけと?


 ――代官風情が調子に乗るなよ。


「話にならないな。さっさと師匠を解放しろ」


「無理ですね。取引とは申しましたが、立場はこちらが圧倒的に上ですよ」


「何?」


 立場が上と確信している敵に対して、怒りがこみ上げてきた。


 高弟は現状について饒舌に語り出す。


「この惑星には六万もの艦艇が集結しつつある。全てカルヴァン派の領主たちの艦隊ですからね。貴殿を引き渡したらどうなるか楽しみですよ」


 俺の中でこいつらの扱いが決定した。


「そうか。なら、お前たちをここで倒して、俺は師匠を救う。それだけの話だ」


 高弟はかぶりを振る。


「交渉決裂ですね」


 元祖一閃流の門弟たちが、一斉に一閃を放ってきた。


 用意された部屋は、特別頑丈に造られていたのか傷が入る程度に終わる。


 俺のすぐ近くにも一閃が放たれ、床に傷が残っていた。


「十九人もが一斉に斬りかかってくるのは、随分と壮観だな」


 見えない斬撃。


 派手さよりも敵を殺すことを優先した流派の攻撃跡が、部屋中に刻み込まれている。


 高弟が俺を見てニヤニヤと笑っていた。


「まだ続けますかな?」


「当たり前だ」


 俺が駆け出すと次々に一閃が放たれる。


 先程までいた場所に傷がいくつも入り、俺は部屋の中を逃げ回る。


 直撃しそうな斬撃のみ迎撃するため、俺の周囲には火花が散り続けていた。


 俺の通った場所に花火が追いかけてくるような、何とも不思議な光景に見えるだろう。


 そんな俺の姿を見て、高弟が笑いながら馬鹿にしてくる。


「逃げてばかりでは勝てないぞ! 剣聖を倒した実力も大したことがないな!」


 同門の相手が難しいのは以前から知っていた。


 だが、数が揃うとここまで厄介になるのか。


 一人一人は凜鳳や風華に及ばないが、それでも十九人もいればこれまでになく危険を感じる。


「ちっ!」


 逃げ回る俺が柱を駆け上り、飛び跳ねて壁を走る。


 まるで忍者にでもなった気分だ。


 相手は俺を好き放題に攻撃してくるが、こちらは迎撃で手一杯。


 圧倒的に不利な状況が出来上がっていた。


 広間の中を逃げ回り続けていると、周囲が傷だらけになる。


 元祖一閃流の門弟たちが、俺を笑いものにしていた。


「これが恐れられていたリアムか!」

「俺たちの方が強いと証明されたな」

「元祖一閃流こそ最強剣術だ! リアムの首を取って証明してやれ!」

「リアムの首を取るのは俺だ!」

「いや、俺だ。首を取れば、代官様に褒美が貰えるからな!」


 誰が俺を殺すか競争まで始めていた。


 代官程度が用意出来る褒美などたかが知れているというのに、それ欲しさに俺の首を狙う馬鹿共が何と多いことか。


 気が付けば、俺が着ていた着物に傷が入りはじめた。


「こうも簡単に追い詰められるのか」


 自分の力量不足が嫌になってくる。


 これでは一閃流を極められない。


 刀を抜いて一人に斬りかかれば、相手の動きに違和感があった。


 俺の一撃を受け止めた相手は、随分と焦っている。


「ひっ!?」


 怯えたような顔を見せる敵だが、何時までも相手をしていると周囲から一閃が飛んでくるため飛び退いた。


 すぐに駆け出すと、俺が斬りかかった相手に高弟が罵声を浴びせている。


「何をしている、この恥さらしが!」


「す、すみません!!」


 一閃を放てるような剣士が、敵に接近されて簡単に体勢を崩した? 俺の方が強いとは思うが、それでもあり得るのか?


 疑問が次々に浮かんでくるが、雑念を振り払ってこの戦いに集中する。


「もう少し。もう少しで」


 限界が来て息が苦しくなってきた。


 体も悲鳴を上げている。


 敵の放つ一閃の中に飛び込み、ギリギリで避けても服に傷が入る。


 頬にかすり傷がつき、血が流れたが気にしない。


「あと少し。あと少しで――」


 敵も倒れない俺にしびれを切らせ、周囲に散開して囲んで叩くことにしたようだ。


 四方から一斉に放たれる一閃を全て迎撃出来ずに、俺は傷を負った。


 そこからは次々に敵の一閃が命中する。


 自分の血が舞うのを見たのは、師匠との厳しい修行の日々以来だ。


 周囲から声が聞こえてくる。


「やったぞ! リアムを倒したぞ!」

「まだだ! 傷が浅い」

「いや、もう動けないだろう。俺が首を取る」


 血を流し、膝をつく俺は、意識がボンヤリとしていた。


 辛く厳しい修行の日々が思い起こされる。


 不意に安士師匠の顔が思い浮かんだ。


 笑顔で俺に何かを言っている。


「そうだ。昔に――」


 安士師匠が俺に教えてくれた言葉がある。


 一閃を放てるようになり、練習ばかりしていた頃だ。


 どうすれば師匠のような一閃が放てるのか、頼み込んで聞こうとしたことがある。


 ただ、師匠は教えてくれない代わりに、ある事を教えてくれた。


『リアム殿、時には立ち止まって考えるのも大事ですぞ』


 俺はそれに首をかしげた。


『立ち止まって考えるのですか?』


『そうです。真実は一つとは限りません。物事は見方次第で色々な姿を見せます。今まで信じていたことも疑い、そして改善するのが武です。行き詰まった時には、まずは自分を疑いなさい』


『自分を疑うのですか?』


『そうです! まずは自分を疑うのです! いいですか? いいですね!』


 師匠との思い出を思い出した俺は、周囲の時間の流れが緩やかに感じた。


 疑う? 自分を? 俺の一閃流を?


 いつまでも師匠を超えられない俺は、きっと何か間違っていたのではないか?


 そもそも、最初に間違っていたのではないか?


「まさか――師匠は最初から刀を抜いていなかったのか?」


 俺が真実に気付いた瞬間だ。


 敵が俺の側まで来て刀を振り上げ、首に振り下ろそうとしていた。


 同時に、着物の下に着ていたトレーニングアーマーから電子音声が聞こえてくる。


『トレーニングアーマーが限界を超えました。強制的にパージします』


 今までにかかっていた負荷から解放された俺は、近付いた元祖一閃流の門弟を一閃ではなく刀で斬る。


 驚く高弟や門弟たち。


 だが、俺は立ち上がると天井を見上げた。


「真実とは残酷だな」


 俺は一閃流の真実に気が付いてしまった。


ブライアン(`;ω;´)「辛いとかそんなことの以前に――舐めプはしないって言っていたじゃないですか! このブライアン、今度という今度は許しませんぞ!」


若木ちゃん(;゜Д゜)「あ、明日は俺は星間国家の悪徳領主!2巻の発売日よ。よ、よろしくね。お爺ちゃん、落ち着いて」


ブライアン(´;ω;`)「も~ヤだぁ! 主人が剣術馬鹿で――辛いです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 免許皆伝の割に弱すぎ。 テレフォンパンチ多過ぎ 相変わらず会話中心の戦闘シーン 会話無しでも面白い戦闘書いてる人もいるんだけどなぁ。勿体ない。残念作家。 [一言] 読ませて戴き、あ…
2022/12/20 08:38 退会済み
管理
[良い点] ありもしない真理に到達するの草
[一言] 口数の多い野郎だな 今でさんざんペラペラおしゃべりさせてきたのに、とっても意外な台詞。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ