世直しの旅
12月25日
【俺は星間国家の悪徳領主! 2巻】
1月30日
【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 7巻】
二ヶ月連続発売です。
今回も頑張ったよ(ヽ´ω`)
「これで訪れた惑星はいくつだ?」
降り立った惑星は、これまた酷い場所だった。
凜鳳に風華、そしてエレンを連れて歩く俺は着物姿の浪人スタイルだ。
訪れた街には活気がなく、惑星を治めている代官の手腕がしれてしまう。
「どいつもこいつも、搾り取ればいいとか馬鹿なのか?」
最初こそ「良くやっているな!」と思っていたが、こうも同じ状況が続けば嫌にもなる。
ただ搾り取るのは二流以下である。
風華が領民たちの顔を見てから、俺に視線を向けてくる。
「やっぱり、兄弟子って凄かったんだな」
「何が?」
「兄弟子の領地ってさ、領民の顔が違うんだよ。活気があるだろ? 他の惑星も見てきたけど、何て言うかみんな目が死んでるし」
目が死んでいるのは、搾取されていると理解しているからだろう。
やはり二流は駄目だな。
「俺の領民たちは、搾り取られていると分からない馬鹿共だからな」
あまりの馬鹿さに震えたこともあるが、俺はこの惑星の代官よりもうまくやっている。
凜鳳は歩きながら端末でゲームをしていた。
「それより、本当にどうするのさ? 今回で最後なんだよね?」
師匠を捜す旅も今回で終わりだ。
天城に怒られてしまったからな。
◇
「旦那様、いつまで旅を続けられるのですか?」
「師匠を見つけるまで、俺は戻らないからな!」
艦内にある自室で俺の世話をする天城は、領内に残らなかった。
もう、自分たちが手を出す必要はないと。
「クラウス殿に任せきりではいけません。お戻りください」
天城の強気の態度に、俺も何時までも弱気ではないというところを見せたかった。
「なら、一度だけ戻ってやる」
「――いい加減にしてください」
無表情の天城が俺を見つめてくる。
その目は、まるでわがままな子供を叱っているような目だった。
俺には分かる。
「い、嫌だ」
「領地に戻って、ロゼッタ様との結婚式を挙げましょう。公爵位を受け継ぐのではなかったのですか?」
「爵位だけ欲しい」
「駄目です」
「ど、どうしても?」
「旦那様、お立場をお考えください」
天城が譲らず、俺は今回が最後と決める。
「分かった。次で終わりにする」
「では、そのように本星に連絡いたします」
◇
――こうして、師匠を捜す旅は終わりを迎える。
「せめて手がかりは掴みたいよな」
溜息を吐く俺は、目的地である一閃流の道場を目指していた。
元祖を名乗る偽者がいるらしく、そこの門下生たちはとても強いと評判になっていた。
代官が自分の騎士に召し抱えたそうだ。
凜鳳がゲームを終えて、背伸びをする。
「ねぇ、次に誰が何人やるか決めない? どうせ偽者だよ」
風華たちは、本物の師匠がいるとは思っていなかった。
「師匠が何人も育てるとは思えないし、今回も偽者だろ」
これまでいくつもの惑星を旅してきたが、出会えたのは偽者ばかりだ。
俺たち以外の一閃流とも出会えていない。
一閃流は最低でも三人の弟子を取る。
師匠にも師匠がいるため、同門たちがいてもおかしくはない。
だが、不思議と会えずにいた。
「同門に出くわすかもと期待していたんだが」
一閃流の同門であれば、交流を持っても悪くない。
凜鳳も興味が出てきたようだ。
「僕も兄弟子やエレン以外の同門とは会えていないね」
風華は期待するような目をしていた。
「俺は興味があるな。他の一閃流ってどんな感じかな? 兄弟子はどう思う?」
そんなのは決まっている。
「師匠が高潔だったからな。同門も気高い感じじゃないか? いっそ修行で山にでもこもって、発見出来ていないだけかもな」
こうしている今も、他の同門たちは技を磨いているのだろう。
頭の下がる思いだ。
しばらく歩いて街の様子を見ていると、エレンが何かに気付いた。
「師匠、この建物は少し変です」
「ん? 確かに少し色が違うな」
壁をよく見ると色が違う。そうした柄なのかと思えば、建物に斜めの線が入ったようにそこから色が微妙に違った。
風華が地面を見て、凜鳳は周囲を確認している。
活気のない領民たちが、俺たちを見て怯えている。
いや、視線の先にあるのは刀だ。
壁に手を当てて確認すると、斬られた後に修復したような印象を受けた。
「まさか」
最後に来て手がかりを得られるかもしれない。
そう思っていると、子供が飛び出してきた。
その手には石を持っている。
「父さんを返せ!」
子供が持っていた石を俺に投げつけてくると、エレンが前に出て石を斬った。
その一撃を見て、風華が拍手をする。
「お見事! エレンもそろそろ一閃が使えるんじゃないか?」
凜鳳は刀に手をかけていた。
「それはいいけどさ。――兄弟子に石を投げるとか、躾が出来てないよね?」
血の気の多い妹弟子たちだが、子供相手に刀を抜きはしなかった。
俺の方は周囲を見て領民たちの反応を見ている。
「今の見たか?」
「あいつらも代官の騎士なのか?」
「関わるな。殺されるぞ」
どうして俺たちを見て、代官の騎士と判断したのか? それに、エレンは未熟だが、一般人に見える斬撃ではなかったはずだ。
見えない斬撃を繰り出したエレンに驚いていない?
俺は石を投げた子供に近付く。
「おい、どうして俺たちに石を投げた?」
「と、父さんを連れていったからだ!」
震える声で俺に意見する子供に腹立たしくもあるが、度胸だけは認めてやる。
それに、こいつは貴重な手がかりだ。
エレンが俺に石を投げた子供を睨んでいた。
「師匠に石を投げるなんて許されません」
「――なら斬り殺すか?」
俺が問えば、エレンは驚いた顔をして視線をそらした。
「い、いえ」
やはり、この子は優しすぎる。
無垢な民を殺させれば、心に不要な傷を負ってしまうだろう。
それに、エレンは大事に育てすぎてしまった。
エレンは強くなりすぎてしまい、その辺の相手をぶつけても修行にならない。
エレンに相応しい相手を見つけるのが、困難になってしまった。
俺は凜鳳と風華に視線を向けて、周囲へ聞き込みをするように促す。
「どうやら手がかりがあるようだ。お前たちも聞き込みをしろ。俺はこの子に色々と聞くことがある」
二人とも何か言いたそうにするが、黙ってこの場を離れる。
俺は男の子に鋭い視線を向けるが、泣きそうになりながら我慢しているので扱いに困ってしまう。
「男の子の扱いなんか知らないぞ」
前世の子供は女の子で、面倒を見ているエレンも女の子だ。
「俺に石を投げた罪は、詳しい事情を話せばチャラにしてやる」
ちょっと強引に男の子を連れて、俺ははなしを聞くことにした。
◇
男の子の家に向かうと、そこは狭いアパートだった。
人が宇宙に進出している世界なのに、暮らしぶりは前世よりも少し古い感じがする。
この惑星では、人々の暮らしが制限されているようだ。
「安幸! どうして騎士様に石なんて投げたの! 申し訳ありません、騎士様。どうかこの子の命ばかりはお助けください!」
パートから帰ってきた母親の名前はニナさんだ。
自分の子供である【安幸】が、俺に石を投げたと知って顔面を蒼白にしながら謝罪をしてくる。
本当だったら打ち首ものだが、この惑星には何か手がかりがあると踏んだ俺は情報収集を優先する。
「謝罪を受け入れる代わりに、話を聞かせてもらおうか」
「話ですか? 私に話せる事なら」
母親は随分とやつれている。
安幸の父親が連れ去れた事と関係があるようだ。
「お宅の息子は俺を見て父親を返せと言った。それはどういう意味だ?」
母親が目を伏せてから、俺たちに視線を向けてくる。
俺たちの真意を測っているようだ。
「安心しろ。俺たちは旅行客だ。ここに来たのも昨日だよ」
俺たちが何の関係もないと知ったのか、安幸が俯いて「ごめんなさい」と呟く。
どうやら、本当に勘違いをしていたようだ。
母親が俺たちの立場を聞いて、重い口を開いた。
「数日前に主人がお代官様の騎士たちに連れて行かれたんです」
「この惑星の騎士たちに? どうしてご主人は狙われた?」
「そ、それがその」
母親がまた言い難そうにすると、安幸が立ち上がって声を大きくして俺たちに事情を訴えてくる。
「父さんは元祖一閃流の奴らに連れて行かれたんだ!」
「や、安幸!」
母親が止めようとするが、安幸は止まらなかった。
エレンが俺に話しかけてくる。
「師匠、もしや元祖一閃流とは同門でしょうか?」
「――可能性はあるな」
あの店を斬った斬撃の跡を調べたが、確かに気になる点が多かった。
俺たちとは違う一閃流がこの惑星に存在していたのか?
安幸は涙を腕で拭いながら、俺たちに助けを求めてくる。
「父さんは――あいつらに連れて行かれたんだ。あいつら、父さんに『よくも今まで騙してくれたな』って」
「騙した? お前の親父は何か悪さでもしたのか?」
母親の方に視線を向けると、僅かにだが反応を示した。
代官相手に何かして、騎士を派遣されたのかと思っていると安幸が否定する。
「父さんは悪さなんてしないよ! 確かに駄目なところも多いけど、僕には優しい父さんだ!」
「だが、それならどうして連れて行かれた?」
何か理由があるのかと思っていたら、安幸から凄い情報が飛び出てくる。
「あいつら、父さんを見て『こんな所に剣神がいるとは思わなかった』とか、そんなことを言っていたんだ」
「剣神だと!?」
一瞬、師匠を差し置いて剣神を名乗る男がいるのか! と、頭に血が上りかけた。しかし、よく考えてみるとおかしい。
この部屋には剣士の痕跡がない。
本当に普通の家なのだ。
これが剣神の住まいだろうか? 疑問が頭に浮かぶと、安幸が言う。
「あいつら、父さんのことを『安二郎』って呼んでいたんだ。僕の父さんは安士って名前だから、人違いだって言ったのに。僕がそう言うと、今度は喜んで連れていったんだ」
気付いたら俺は立ち上がっていた。
隣にいたエレンも立ち上がり、俺の方を見ている。
俺はエレンに言う。
「エレン、凜鳳と風華を呼べ」
「は、はい!」
◇
その頃。
凜鳳と風華は聞き込みをして、この惑星に一閃流を名乗る剣士たちがいる事を知った。
凜鳳が周囲に鋭い視線を向けている。
「まさか、最後に同門と出会うとは思わなかったね」
風華は気を抜いたようにお団子を食べながら歩いていた。
「だな。それにしても元祖一閃流だっけ? うちとはどんな関係かな?」
安士の一閃流を引き継いだ自分たちと、元祖を名乗る一閃流の関係が気になって仕方がないようだ。
ただ、凜鳳は微笑して立ち止まる。
「本人たちに聞けば良いよ」
そのまま振り返ると、そこには腰に刀を提げた男が立っていた。
随分とキラキラした着物姿で、腕に自信があるのか凜鳳と風華に侮った視線を向けていた。
男の後ろには、取り巻きらしい男たちの姿がある。
そんな男たちはならず者にしか見えなかった。
「俺たちのことを嗅ぎ回っていたのはお前たちか? 可愛いお嬢ちゃんたちじゃないか」
下卑た笑みを浮かべる男たち。
周囲にいた領民たちは、慌てるようにこの場から離れていく。
昼間の街中だと言うのに静まりかえると、凜鳳が男に問う。
「あんた、元祖一閃流?」
「いかにも。元祖一閃流、高弟の一人だ」
高弟とは、優れた弟子を指す言葉だ。
風華が団子を頬張り、串を引き抜いてゴミ箱に投げ捨てた。
「同門発見だな。でもさ、後ろに子分を引き連れているのは、品がないよな」
一閃流としてどうなのか? そう思っていると、高弟は腕を組む。
「この者たちは拙者の弟子たちだ。いずれも貴族出身や商家出身の若者たちよ」
それを聞いて風華は口を閉じた。
凜鳳が片眉を上げる。
「――あんた、金のために一閃流を利用しているね」
金持ちに一閃流を教えていると聞き、二人は憤りを覚えた。
期待した同門は、一閃流の志を捨てて地に落ちている。
ならば――自分たちが介錯してやろう、と。
凜鳳が一閃を放つと、高弟は驚いた顔をする。
だが、男の目の前で火花が散った。
凜鳳の一閃が防がれてしまった。
高弟の弟子たちが驚いていた。
「今の技は一閃?」
「こ、こいつらも元祖一閃流の門弟ですか?」
「見たことがないぞ」
弟子たちが狼狽えると、高弟が一喝する。
「狼狽えるな! 元祖一閃流の高弟である拙者が負けるわけがない。小娘共、拙者に刀を抜いたことを後悔させてやる」
凜鳳の顔から表情が消える。
「口数が多いんだよ。同じ一閃流でも、お前たちは随分と堕落したようだね」
風華の目は血走っていた。
「――殺す」
その瞬間、三人の間で火花がいくつも散った。
だが、二対一であるため、高弟の分が悪い。
「くっ!? 拙者を超える実力だと!?」
徐々に追い詰められる高弟。
だが、凜鳳も風華も急いで高弟との距離を取った。
一瞬で後ろに飛び退くと、次々に斬撃が飛んできて地面や建物を斬り刻んでいく。
風華が建物の屋根を見上げた。
「こいつら、全員が一閃流かよ」
建物の屋根にいたのは、着物姿の騎士たちだった。
全員が刀を所持している。
凜鳳と風華を見下ろし、一閃を放とうと構えていた。
その内の一人が声をかけてくる。
「まさか、俺たち以外の一閃流をこんな田舎で見るとは思わなかったぜ。それよりも、このまま続けるか?」
見下す男に凜鳳が腹を立てる。その態度は、このままやれば自分たちが勝つと確信しているものだった。
「舐めやがって。全員まとめて――」
それを風華が止める。
「ここまでだ」
止める風華に、凜鳳は今にも斬りかかりそうな殺気をぶつけた。
「あん? 尻尾を巻いて逃げろって言うの? 一閃流が背中を見せていいわけないだろ? お前も殺すよ」
姉妹として育った存在ですら、一閃流に泥を塗るなら殺すという覚悟を見せる。
だが、風華も引かない。
「兄弟子がすぐに戻れと命令だ。状況を伝えたが、それでも戻れってよ」
リアムに戻れと命令され、凜鳳は頭に血を上らせながらもこの場は引くことにした。
「――必ずお前らは殺してやる」
二人がその場から一瞬で消えると、高弟たちも二人を追いかける。
「逃がすな! 絶対に殺せ!」
ブライアン(´;ω;`)「辛いです。世直しに夢中で、本領をお留守にするリアム様……辛いです。正直、大人しく領地で悪徳領主ごっこをして欲しいですぞ」
ブライアン(`・ω・´)「それでも今週は 【俺は星間国家の悪徳領主!2巻】 の発売でございます。Web版より増量した、リアム様の活躍にご期待ください!」