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悪代官

悪徳VS外道

「俺は星間国家の悪徳領主!」と「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です」

のコラボ情報の詳細は、活動報告に掲載しています。

 俺たちがやって来たのは、クレオ派閥に所属する領主の本星だ。


 派閥内では末席に位置する子爵の惑星を訪れた俺は、豪華な屋敷で土下座をする子爵たち一族を見下ろしていた。


「随分と阿漕(あこぎ)な真似をしてくれたな」


 子爵が震え上がっている。


「も、申し訳ございません!」


「謝れば済むと思うなよ」


「ひっ!?」


 師匠を捜して訪れてみれば、一閃流を名乗る剣士を指南役に招いていた。


 真・一閃流を名乗ったその男は、奥義である一閃を道具で再現していた。


 下手な手品よりもお粗末で、わざわざ出向いたら俺たちを見て「一閃流を名乗る偽者か? さっさと帰れ」などと言って来た。


 その態度に凜鳳と風華がぶち切れてしまい、子爵の屋敷に乗り込むと言い出した。


 正直、最初は俺も子爵を認めていた。


 貧富の差が激しい惑星で、民を苦しめ貴族たちは贅沢な暮らしを送っていた。


 これぞ正しい悪徳領主の姿である! そう思って、同じ派閥の仲間なのだから、お前の所の一閃流は偽者だと注意してやるつもりでいた。


 それなのに!


「お前の騎士や兵士が俺に武器を向けた。理解出来るか? お前は、派閥の長であるこの俺に武器を向けたわけだ!」


「お許しください。お許しください、バンフィールド伯爵!」


 巨大派閥に与して、おいしい思いをしようと思っていたのだろう。


 俺は別に責めない。


 最低限の協力をしてくれるなら、むしろ手を結んでも良かった。


 それなのに、子爵は俺たちを見て「伯爵がこのような所にいるはずがない。偽者だ!」と言い出した。


 安士師匠の弟子を名乗る偽者に手を貸して、この俺を殺そうとしやがった。


 ――絶対に許せない。


 屋敷の広間では、安士師匠の弟子を名乗った男が凜鳳と風華に蹴りを入れられている。


「誰が師匠の弟子だって? 僕はお前なんか知らないよ」


 凜鳳の蹴りが偽弟子のお腹に入ると、苦しみながら謝罪をする。


「も、もう許して」


 許しを請う偽弟子の頭を踏みつける風華、血走った目で見下ろしていた。


「偽者が、俺たちを偽者呼ばわりだ? てめぇは兄弟子や俺たちばかりか、師匠の名前にも泥を塗りやがった。香具師が調子に乗ってんじゃねーぞ!」


 足の力を強めると、偽弟子の頭部が軋んだ嫌な音を立てていた。


 俺は子爵に吐き捨てるように言う。


「お前には、明日から派閥の席はない」


「そ、それは困ります。何卒、何卒お許しを!」


「助けて欲しいならカルヴァンでも頼れ。俺に武器を向けたお前が悪い」


「バンフィールド伯爵が、お忍びで旅行されていると知らなかったのです! 知っていれば、このようなことにはなりませんでした」


「――だから? それで? 俺がお前を許すことはない。嫌ならいつでも戦争だ」


 余裕ぶっている俺だが、実は子爵の状況は調べている。


 経済力、軍事力、その他も調べた結果――こいつは雑魚である。


 だから、クレオ派閥に参加した。


 他の派閥は見向きもしないような、本当にどうしようもない家だからだ。


 戦えば俺が確実に勝てる。


 何なら、連れてきた艦隊でも勝てる。


 上空にはマリー率いる艦隊が存在し、いつでも子爵家を滅ぼせる状態だ。


 子爵が泣きながらうずくまる。


 どうやら逆らう気力もないらしい。


 俺も面倒を片付けてさっさと次に行きたいので、ここまでにしておこう。


 暇があったら確実に潰していただけに、残念で仕方がない。


「次に調子に乗った真似をしたら、本気で滅ぼしてやるから忘れるなよ」


 子爵の一族に対しても威圧すると、全員が怯えた顔で何度も頷いていた。


 やはり、強力な力で他者を虐げるのは気分が良いな!



 帝国首都星にいる宰相が、バンフィールド家に忍ばせたスパイからの報告を受けていた。


 スパイは屋敷の侍女長であるセリーナだ。


 通信で会話をしているが、宰相は困惑を隠せなかった。


「伯爵は一体何をやっている?」


 貴族の修行が終わり、すぐに結婚式を行い公爵になると考えていた。


 しかし、領地に戻ってからまったく動きがない。


 領内に力を注いでいるとは聞いていたが、実情を聞いて宰相は変な汗が出ていた。


 セリーナが報告を続ける。


『前回は同じ派閥の貴族の領地に向かい、そこで領内の状況を視察したそうです。同じ派閥の貴族として相応しくないと、派閥から追い出しましたね』


「貴族の修行が終わったと思えば、剣術修行と世直しの旅か? 伯爵は本気か?」


 カルヴァン派閥と激しく争い、優勢を勝ち取ったクレオ派閥。


 だが、その派閥をまとめるリアムが帝国の中央から姿を消している。


 睨みを利かせる存在がいないため、カルヴァンの派閥が息を吹き返しつつあった。


 ただ、セリーナは、悪いことばかりではないと考えているようだ。


『クレオ派閥の視察を行い、結束を高めているのでしょう。事実、リアム様が視察を行っていると聞いて、気を引き締めた領主たちは多いそうです』


「伯爵が来ると知れば恐れもする。だが、いつまでもフラフラしてもらっては困る。バンフィールド家の本星はどうなっている?」


『クラウス殿を本星に置き、領内の発展に努めております』


 クラウスの名前を聞いて、宰相も落ち着きを取り戻す。


「覇王国との国境から戻したと聞いたな。代わりがクリスティアナならば問題ないだろうが、出来ればそのままクラウスに国境を任せたかったのが本音だ」


『宰相も高く評価されているのですね』


「伯爵の右腕だからな。あのような人材がまだ埋もれていたとは、やはり宇宙とは広い。帝国の直臣に取り立て、重要なポストに置きたいくらいだ」


 宰相もクラウスを高く評価し、直臣に取り立てたいと考えていた。


「伯爵のところには優秀な人材が多くて羨ましい限りだ。だが、多すぎるのも問題だな。――セリーナ、クラウス殿の引き抜きは可能か?」


『それとなく確認しておきましょう』


 宰相がクラウスを引き抜こうと動き出した。



「――おかしい。何かがおかしい」


 バンフィールド家筆頭騎士のクラウスは、与えられた執務室で頭を抱えていた。


 帝国から直臣にならないかと誘いが来ていた。


 そして、重要なポストを用意する、とも。


 クラウスの引き抜きでバンフィールド家との関係を壊さないように、帝国が対価を用意するという状況だ。


 リアムに重要な役職を押しつけられ、何とか乗り切っているクラウスには信じられなかった。


「少し前まで、仕官出来ずに苦労していた私が帝国の直臣? しかも好待遇で? ――無理だ。絶対に無理だろ」


 今ですら責任が重すぎるのに、更に責任が重いポジションなどクラウスはごめんだった。


「ここは丁寧にお断りするか」


 どうして自分がこんな状況に追い込まれているのかと、不思議に思うクラウスだった。


 そんなクラウスの執務室に、一人の騎士がやってくる。


 入室の許可も取らずに入ってくる人物は決まっているため、クラウスは「またか」と呆れて溜息を吐いた。


「チェンシー、毎回許可を取れと言っているはずだが?」


 不機嫌そうなチェンシーは、クラウスの話を無視して用件を話す。


「――むしゃくしゃするわ。戦いたいから敵を用意して」


 リアムに敗北し、興味を失われたチェンシーの相手は凜鳳と風華だった。


 だが、その二人はリアムが旅に連れ出している。


 欲求不満で我慢出来ないようだ。


「またなのか? 少し前もそう言って、無理矢理海賊の討伐に参加しただろうに」


「バンフィールド家の家紋を見て逃げ出した奴らよ。ストレスの解消にならないの」


 目が血走っているチェンシーを見て、クラウスは思った。


(このまま放置したら、味方と決闘でもしそうだな。暴れられても困るから、外に出しておくか?)


 そこでクラウスは思い付いた。


「リアム様への陳情の中に、海賊討伐の依頼がある」


「また海賊?」


「話を聞け。バンフィールド家としてではなく、傭兵として参加しろ」


「何故?」


「相手がカルヴァン派の貴族だからだ。表立って手を結べば、こちらもあちらも不利になる。お前は血の気の多い連中を率いて傭兵として参加しろ」


「いいわ。政治には興味がないし、暴れられれば満足よ」


 去って行くチェンシーを見て、クラウスは安堵した。


(本当なら拒否する依頼だったが、リアム様もいないからな。あいつらを外に出しておく方が安全だ)


 血の気の多い騎士たちに戦場を。


 そんなつもりで、クラウスはチェンシーたちを領地から追い出したつもりだった。



 安士にピンチが訪れていた。


 プレハブ小屋の道場の中で、安士は強面の弟子たちに囲まれて正座している。


 落ち着いた素振りだけは見せている。


「まさか、お代官様がこのような場所に来られるとは思いませんでした」


 笑みを浮かべる安士だが、内心では叫びたかった。


(何でこんな大物がうちの道場に来るんだよ! こっち来ないでぇぇぇ!!)


 目の前にいるのは、安士たちが暮らしている惑星の代官だ。


 二十代半ばの姿をした背が高く鍛えた体を持つ男は、安士を見てふてぶてしい態度を見せている。


「お前の弟子たちが披露した技を見せてもらった。偽者ならば処刑してやろうと思ったが、本物のようだな」


 強面の弟子たちが、安士よりも代官にすり寄っている。


「お代官様が、お前を指南役にと誘ってくださったんだ。当然受けるよな、安二郎?」


 安二郎とは、安士の偽名だ。


 弟子に呼び捨てにされるが、安士は文句を言わない。いや、言えなかった。


「これは過分な評価をしていただいたようですな」


「お前の弟子たちを見て確信した。お前は本物なのだろ?」


 この場にいる弟子たちは三十人。


 全員が一閃を習得してしまい、皆が安士よりも強かった。


 下手な騎士など、相手にもならない強者ばかりになってしまった。


 しかも、揃いも揃って悪人ばかりだ。


(どうしてこんなことになってしまったんだ? リアムたちですら何十年もかかったのに、たった数年で習得出来るって何だよ)


 代官は安士を見て、リアムの名前を出した。


「かつて、リアム・セラ・バンフィールドは、一閃流を得て荒廃した領地を復興して今の地位を得た。その力で惑星を支配し、強者へと上り詰めた」


「――ですな」


(よく知らないが、この人が言うならそうなんだろうな)


 同意するも、安士はそうだったかな? と疑問を抱いていた。


 ただ、違いますと言っても機嫌を損ねてしまいそうなので黙っておく。


「俺はこの惑星を領地に持つ伯爵家の人間だ。だが、俺の上には何十人と兄たちがいる。おかげで俺は、こんな貧乏な惑星の代官だ」


 野心旺盛な若い代官は、リアムに(なら)って一閃流を極めて成り上がろうと考えていた。


 貴族の若者たちにとって、リアムの出世は一種の憧れになりつつある。


 一閃流の偽者が増えてしまったのも、リアムに憧れる者たちが増えているからだ。


 安士は代官を見る。


「それで、拙者に一閃流を教えろと?」


「そうだ。俺はこんな惑星で終わる男ではない」


(いや、貧乏な惑星って言っても、お前が搾り取っているから発展しないだけだろうが。リアムの小僧は、その辺がしっかりしていたぞ)


 目の前にいる代官こそが、この惑星の発展を妨げている張本人である。


 名前は【チェスター】。


 伯爵家に生まれながら、辺境惑星の代官をしている野心あふれる男だった。


 ただ、安士に拒否権などない。


 何しろ相手は、この惑星を支配する代官だ。


「微力ながらお手伝いさせていただきましょう」


「感謝する。お前は今日から俺の剣術指南役だ。お前の弟子たちは、今日から俺の騎士として召し抱えてやろう」


 それを聞いて、粗暴な男たちが声を上げて歓喜する。


「今日から俺たちが騎士だってよ!」


「一緒に成り上がりましょうぜ、チェスター様!」


「一閃流があれば、俺たちに怖いものなしだぜ!」


 そんな弟子たちを見て、安士は思う。


(何でこんなことになったんだろう?)


ブライアン(´;ω;`)「みんな頭を抱えていて辛いです。――でも、安士だけはザマァでございます」


ブライアン(`・ω・´)ゞ「そして、発売日まで残り五日となった 俺は星間国家の悪徳領主!2巻 をよろしくお願いいたしますぞ。リアム様の活躍がWeb版よりパワーアップした 2巻 は 12月25日発売です」

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― 新着の感想 ―
>リアムに重要な役職を押しつけられ、何とか乗り切っているクラウスには信じられなかった。 あの丸投げ無茶ぶりを全部乗り切ってるんだから評価に偽り無しだな
ほほう……ここへきてまた似たような名前が…… チェンシー リアムの部下でリアムを殺したい狂戦士 チェスター 成り上がりたい伯爵家出身の代官
指導力に磨きがかかってるw
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