ロゼッタ親衛隊
悪徳VS外道 ということで 俺は星間国家の悪徳領主!【12月25日発売】 と 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です【1月発売】 がコラボすることになりました!
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リアムが一閃流の修行の旅に出て、三年の時が経とうとしていた。
その頃のバンフィールド家の本星では、大規模な艦隊が編成されつつあった。
宇宙要塞に出向いたのは、ロゼッタとユリーシアだ。
二人の後ろにはシエルの姿がある。
宇宙要塞のドッグには、第三兵器工場から購入した艦艇が並んでいた。
無重力の中で浮かんでいる戦艦たち。
ユリーシアが資料を持ちながら、兵器について話をしていた。
仕事モードなのか、普段の残念さが消えて別人に見えていた。
「最新鋭ではありませんが、現在主流のモデルで数を揃えています」
当初の予定では少数精鋭だったが、ロゼッタの希望を叶えて数を揃えていた。
自分と同じように苦労した人たちを助けたいと、騎士たちは基本的に苦境にある者たちを集めている。
クルーにしても同様に、行き場のない流浪の民たちを中心に集めていた。
だから、ユリーシアは再度確認する。
「ロゼッタ様の希望を叶えていますが、本当によろしかったんですか? 旗艦とその護衛艦以外は、特に見た目にこだわっていませんよ。旗艦だって他家と比べると地味ですし」
あのリアムだって旗艦は派手にしている。
ロゼッタの親衛隊は実に質素だった。
「最低限の見た目を整えれば問題ありません。飾り立てるよりも、実用性を重視してください。彼らには、困っている人たちを助けてもらいたいの」
ロゼッタが願った親衛隊とは、自分の周りにいる者たちではない。
困っている惑星の人々を助ける存在だ。
「ダーリンは帝国の中央で権力争いの最中よ。手が回らない部分もあるから、私の方で何とかしたいの」
「志は理解しますが、この規模ですからね」
数百隻ではない。
一万隻を超え、現在も増え続けている。
困窮した人々が多いのも理由だが、何よりもバンフィールド家で領地開発に力を入れているため移民を受け入れていた。
新しい開拓惑星に次々に入植させている。
ユリーシアは不安もあるようだ。
「既に親衛隊の規模じゃありませんよ。リアム様がよく認めましたよね」
バンフィールド家の軍隊の中に、ロゼッタ専用の軍隊が出現したようなものだ。
命令系統はリアムをトップにしながらも、実質ロゼッタが握っている。
二人が対立すれば、大問題に発展する。
二人が問題なくても、将来的に後を継いだ者たちが争いを起こす可能性がある。
ユリーシアは、それが気がかりだった。
「いずれ規模を縮小するように、リアム様に提案しますからね」
「構わないわ」
ロゼッタはそれでいいと即答するが、不満そうにしているのがシエルだった。
(早い内にロゼッタ様に民心を集めた方が良さそうね)
シエルはリアムに心酔する者たちが多い中、真実を知っている人物でもあった。
リアムが世に伝わっている善人ではなく、悪を自称する存在だ、と。
そんなリアムにこれ以上の力を持たせたくないため、一人暗躍している。
「ロゼッタ様、親衛隊を揃えても訓練だけでは足りませんよ」
「あら、そうなの?」
知識があっても士官学校を卒業していないロゼッタは、その辺りはユリーシアを頼るつもりでいた。
ユリーシアがシエルを見る目は、疑っているものだ。
だが、間違いでもないため否定はしない。
「訓練はあくまでも訓練ですからね。実戦はまた別物ですから、間違いではありませんよ。けど、勝手に動くのは駄目だと思いますね。リアム様が戻られてから、許可を取った方がいいですよ」
ロゼッタの親衛隊だろうと、勝手に動かしては駄目と正論を言われてシエルは考える。
(この人、普段は残念なのにこんな時ばかり! ……あ、そうだ!)
シエルはロゼッタを説得する。
「そのリアム様がいないために、助けを求めてくる人たちを悲しませています。ロゼッタ様、リアム様が手を出せない今が、親衛隊の活躍するチャンスですよ。そのために用意されたのですよね?」
親衛隊の存在意義だと言われて、ロゼッタは少し考える。
「そうね。ダーリンも”頑張っている”のだし、私も出来ることをしたいわ。沢山の陳情が来ているのだし、私に出来ることをさせてもらうわね。でも、重要な陳情は処理出来ないと思うけど」
親衛隊を動かすにしても、あまり派手には動かせない。
後でリアムの足を引っ張ることになるため、出来ても災害救助などに限られるだろう。
小競り合いなどの増援は避けなければならなかった。
「もちろんです! 困っている人たちを助けましょう!」
シエルは、あわよくばロゼッタの味方を増やすつもりでいた。
「そうね!」
やる気を見せる二人を見て、ユリーシアだけは冷めた目をしていた。
◇
二人から離れたユリーシアは、見張っているはずの暗部を呼び出す。
「……出てきてくれる?」
呼んではみたが、反応があるのか分からない。
いないかもしれないし、いるかもしれない。
ただ、すぐに仮面をつけた女性がユリーシアの影から顔を出してきた。
内心で悲鳴を上げるも、声には出さずに我慢するユリーシアがシエルの件を話す。
「放置して良いのよね? あの子、ロゼッタ様のやる気を利用して何か企んでいるわよ」
顔を出した女性はクナイだった。
リアムに名前を付けられた人物である。
「リアム様は監視に留めて好きにさせよ、との事です」
「本当に何を考えているのかしらね? バンフィールド家の軍部だって文句が出ているのよね?」
ロゼッタの親衛隊の規模が大きすぎると、軍部の中では危険視している将軍たちもいた。
ユリーシアと同じく、ロゼッタはともかく今後のために規模縮小を訴えている。
「軍部にはリアム様から許可が出ていると、押し切っております。――クラウス殿が抑えているので、問題ないでしょう」
面倒事はクラウスが処理している。
それを聞いてユリーシアが安堵する。
「国境から戻してくれて安心したわ。あの人がいなかったら、今頃は不満が爆発していたかもしれないわよ」
「そうなれば粛清対象です」
リアムに逆らうならば、身内だろうと粛清するのがククリたち一族だ。
ユリーシアは冷や汗をかく。
「そんなあなたたちでも、あの子は見逃すのね」
「リアム様のご命令ですから」
そう言って、仮面の女は影の中に消えていった。
◇
安士師匠を捜して旅をする俺たちは、次の惑星を目指していた。
日課としている鍛練が終わり、汗を流した俺は妹弟子たちと話をする。
「今日は何を食べるかな?」
色んな惑星を見て回るのは楽しいが、艦内の料理に飽きてきた。
飽きたというか、何か刺激が欲しいと思っている。
毎日違う料理が出てくるし、うまいから文句はない。
だが、刺激が欲しい。
毎日フルコースを食っていると、貧しい時に食べていた食事が懐かしくなってくる。
お茶漬けやら色々と試したが、他にも試してみたかった。
「こう、贅沢な料理じゃなくてさ。苦しい時に食べていた料理とか、何かないか?」
俺のリクエストは全て叶えてしまったので、妹弟子たちを頼っている。
風華と凜鳳が、顔を見合わせた。
「貧しい時って師匠に拾われる前か?」
「生ゴミを漁っていたから、あんまりいい思い出がないね」
――二人の地雷を踏み抜いてしまった。
普段の俺なら「俺を前に重い話をするな!」と一喝しているところだが、可愛い妹弟子たちを前にそんなことは言えない。
俺は、一閃流関連に関しては悪徳領主の信条は持ち込まないと決めている。
前世で何度もゴミを漁ったが、あれをもう一度やりたいとは思わない。
「師匠に拾われた後で考えろ」
凜鳳が腕を組んで考える。
「おいしかったものって言われても、食べられるだけで最高だったし」
風華は頭の後ろで手を組んで考えている。
「だよな。どれもうまく感じたな。師匠が作ったちょっと焦げた魚とか」
二人が決められないでいるので、俺はエレンに視線を向けた。
「エレンは?」
「え、えっと。その――ないです」
視線をさまよわせている姿を見て、嘘を言っていると見抜いた。
「嘘を言うな。何かあるだろ? 言えよ。言わないと今日の飯はエレンの嫌いな物で揃えるからな」
「ひっ! あ、あの、その」
エレンが慌てて好きな食べ物を言おうとするが、俺たちを見て答え難そうにしていた。
エレンが声を絞り出す。
「お母さんのご飯が食べたいです」
俯くエレンを見て、またしても地雷を踏み抜いてしまったと反省する。
見た目が十歳に届かないような子供が、親元を離れて修行の旅だ。
母親が恋しくなっても仕方がない。
今日は失敗ばかりだな。
「二人とも、何かないか?」
風華と凜鳳に助けを求めるような視線を向けるが、二人とも察してはくれなかった。
「食べられるなら何でもいい」
「画像とか動画で映えるなら、こっちはありがたいかな?」
何でもいいが一番困る。
飯の話に悩んでいると、風華が一つ思い出したようだ。
「あ、パンが食べたい」
「パン? 洋食か?」
「俺たちって師匠と最初に出会った時にパンをもらったんだ。安いパンだけど、俺たちには初めての味でさ」
風華が思い出の味を思い出し、懐かしそうにしている。
凜鳳も同様だが、こちらは頬に手を当ててウットリしていた。
「あの時のパンはおいしかったよね。生ゴミを奪い合っていた相手が、僕たちを殺しに来たから返り討ちにしたんだけどさ。そこで師匠に出会ったんだよ。師匠は、僕たちに優しく接してくれて、パンをくれたんだ」
風華が首をかしげている。
「あれ? 襲われたのを助けてくれたんじゃなかったか?」
「どっちでもいいよ」
いや、出会いがあやふやすぎないか? ただ、二人が師匠と出会ったのは随分と幼い頃だ。
記憶違いも多いのだろう。
だが、そんなにパンが恋しいのか。
「よし、料理長にはパンを作らせよう。どんなパンだ?」
「菓子パン!」
「僕はジャムのやつ!」
こうして、俺たちの飯が菓子パンになった。
◇
その日。
リアムの乗艦する戦艦の総料理長は、オーダーを待っていた。
伯爵家に仕える料理人の中でも、リアムの食事を用意するというのは大変なことだ。
当然のように実力が求められるが、更に料理人の中では地位も名誉も極めた者たちばかりが競い合っている。
実力もプライドもある料理人が、リアムからのオーダーを待っていた。
「総料理長、リアム様からのオーダーです!」
部下が慌ててやってくると、険しい表情を見せる。
「落ち着け! どんな料理だろうと、このわしが完璧に作ってみせる」
部下の慌てぶりに腹を立てるが、オーダーを聞いて総料理長が頭を抱えることになった。
「あ、あの、パンを作れと」
「パンに合う料理か? 漠然としているが、それなら問題ないな」
「いえ、パンです。パンだけです」
「――ん? お前は何を言っているんだ?」
パンだけを食べたいと言われても、総料理長は困ってしまう。
「その、あの――菓子パンを作れと」
周囲にいた料理人たちも固まる。
領内で頂点を極めた料理人に、菓子パンを作れと命令していた。
「そ、それで、これを参考にしろと」
用意された画像は、安く売られている菓子パンだった。
総料理長が困惑する。
「これは何か? わしを試しておられるのか? これをどこまで突き詰められるかと、リアム様がお求めなのだな? そうだな!?」
すがるような総料理長の言葉に、部下が首を横に振った。
「なるべく再現度を高めてチープに仕上げろとのご命令です」
総料理長がフラフラと倒れそうになるのを、周囲が支える。
そして、総料理長が命令する。
「ざ、材料を持って来い。ご命令ならば、わしが完璧に再現してやる。た、たとえ、それが安っぽい菓子パンだろうとな」
最高の人材に、チープな菓子パンを作らせるリアムだった。
◇
菓子パンが出てくると、凜鳳と風華がガツガツと食べ始めた。
「あ~、これだよ。これ」
「思い出の味よりおいしくないけど、こんなものだろ」
二人が喜んで食べているのを見て、エレンもかぶりつく。
俺の方に顔を向けてきた。
「師匠、クリームパンがおいしいです」
「そうか。好きなだけ食べろ」
「はい!」
三人に対して申し訳ない気持ちになった俺だが、謝罪の気持ちで用意した料理が安っぽい菓子パンで本当に良かったのか悩んでしまう。
うまいが――これは何か違わないだろうか?
ブライアン(´;ω;`)「辛いです。リアム様、一流シェフに作らせずに買えばよろしかったのではありませんか? 一流シェフの使い方を間違えるリアム様……辛いです」
若木ちゃん( ゜∀゜)「そんなことより! 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 7巻の宣伝をするわよ。ついにこの私が! 私が大活躍する可能性がなきにしもあらずの第七か――」
ブライアン「えい!」(´;ω;`)r鹵~<≪巛;゜Д゜)ノ ウギャー
ブライアン(´;ω;`)「……」
ブライアン(`・ω・´)「リアム様が活躍する 【俺は星間国家の悪徳領主! 2巻】 は 【12月25日】発売です。よろしくお願いしますぞ!」