大誤算
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リアムが安士を捜し回っている頃。
安士はプレハブ小屋のような道場に、拾ってきた木の板に墨で「元祖・一閃流道場」と書いて掲げていた。
「ふははは! これが俺の道場だ!」
「素敵よ、ヤス君!」
土地購入から建物の用意まで、全て嫁のニナが行っているが安士の道場だ。
安士は一銭も出していない。
それでも安士は、雰囲気だけは一流だ。
道着を着用した姿をニナが褒める。
「ヤス君の道着姿も似合っているわね」
「そうだろ! 何しろ人間は見た目だ。雰囲気作りは任せろ」
胸を張る安士に、ニナは真面目な話をする。
それは、道場の運営だ。
「でも、雰囲気だけで指導出来るの? ヤス君、強くないわよね?」
「化物みたいな弟子三人を育てた実績があるからな。手を抜いてそれなりに育てれば、俺も安泰だ。将来はどこぞの領主様のところで剣術指南役をしつつ、今度こそ骨の髄までしゃぶり尽くしてやるぜ」
「屑なところも素敵」
ウットリするニナを見て満足する安士は、今度こそ失敗しないと心に決める。
(バンフィールド家を逃げてから失敗続きだが、今度こそ楽が出来る貴族の家で面倒を見てもらおう)
一閃流の名前が欲しい貴族は多いだろうし、リアムという成功例もある。
ただ……貧すれば鈍す。
金を稼いで暮らすことを考えて、安士は大事なことを忘れてしまっていた。
一閃流の看板を掲げた安士のもとに、チラシを見て騎士がやって来る。
柄の悪そうな男だった。
「ここが一閃流の道場か?」
「早速の弟子入りかな? その通り。拙者が元祖一閃流の師範です」
安士は名乗らなかった。
剣神と知られると面倒になるからだ。
「あのバンフィールド伯爵と関係があるのか?」
「あ~、遠い親戚筋みたいな? 一閃流も色々ですからね」
「俺は強くなりたいんだが、ここで学べば強くなれるのか?」
「もちろんです! 拙者、こう見えても指導者として一流ですから!」
騎士がニヤリと笑う。
「そいつはいい。追放されたから、強くなって仕返しするつもりだったんだ。あの一閃流が学べるなら丁度良い」
安士が騎士の言葉を聞いて固まる。
「――え? 追放?」
「ちっとばかし、領民で遊んだら領主の野郎が怒ってよ。器の小さな領主だったぜ。そいつに復讐してやるんだ」
不気味な笑顔を浮かべる男を見て、ニナが安士の腕を引っ張る。
「ヤス君、だ、大丈夫なの?」
「し、心配ない。月謝を払ってくれるなら大事な弟子だ。と、とにかく今日からは拙者の弟子になってもらう。まずは礼儀から――」
「礼儀なんて騎士にいらねーんだよ! 大事なのは実力だろうが!」
「ごもっとも! な、ななな、ならば、すぐに修行に入りましょう」
「あのバンフィールド伯爵も学んだ剣術か。今から楽しみだぜ」
何故かいきなり、凶悪な男がやって来た。
◇
安士が道場を開いたのを上空から眺めている男がいた。
――案内人だ。
「安士、お前にはもう一働きしてもらうぞ」
その横にいるのは、タコに人のからだが生えた姿のグドワールだった。
「あいつが剣神か? 何の実力もない男にしか見えないが?」
グドワールも剣神と会えることを楽しみにしていたのだが、安士を見ると首をかしげていた。
「あいつ自身は強くないが、あいつはリアムや他二人を育てた男だ。強い奴を育てるのに特化している」
「そいつはいい! なら、俺様が強い奴らを大量に送り込んでやろう」
二人が安士に干渉して、強いが問題のある流浪の騎士たちを呼び込んでいた。
そして、一閃流を大量に用意してリアムを迎え撃つつもりだ。
案内人もグドワールも考えた。
リアムを倒すには、同じ一閃流の剣士を育てれば良い。
前回は二人だから失敗した。
だが、劣化しても数が多ければどうだ?
子供ではなく、一定の実力を持つ剣士たちがいれば、すぐに形になるだろう。
二人はそう考えていた。
「タイミング良く安士が道場を開いてくれた。もっと、もっと悪人を集めてやろう」
案内人が下卑た笑い声を出せば、グドワールも楽しそうにする。
「俺様の国も面白くなってきたところだが、ここで一閃流同士をぶつけるのも楽しそうだな」
強者たちの戦いが見たいグドワールは、八本脚をウネウネさせて喜んでいた。
案内人も上機嫌に負のエネルギーを安士の道場に向ける。
それに釣られるように、悪人たちが集まってくるだろう。
案内人はグドワールの力を借り、一閃流を学んだ剣士たちを量産する計画に乗りだしていた。
「我々が手を貸せば、一閃流を習得した猛者たちがすぐに育つでしょうね。実に楽しみですよ」
「強者同士をぶつけるのは血がたぎる」
強くなりすぎてしまったリアムを倒すために、案内人とグドワールは一閃流を学んだ悪人たちを大量に用意する。
◇
一方その頃。
違う惑星では、凜鳳が一人の剣士と向かい合っていた。
相手は剣を抜いているが、凜鳳は鞘から刀を抜かずに柄に手を置いていた。
煽るような仕草を見せている。
「さっさと来なよ。あんた、この辺りで一番強いんだろ?」
相手は顔に入れ墨を入れている男だった。
スキンヘッドでいかにも悪そうな恰好をしている。
そんな男が剣を凜鳳に向けるが、冷や汗をかいている。
周囲に倒れているのは、男が引き連れていた子分たちだ。
海賊に雇われる傭兵集団。
元騎士や剣士たちの集まりで、名のある男たちだった。
彼らが手を貸せば、領主たちの抱える私設軍が震え上がって逃げ出すとまで言われていた。
男は構えながら凜鳳に話しかける。
「噂の一閃流が、どうしてこんな場所にいやがる? お前らが荒らし回っているのは、バンフィールド家周辺と、覇王国だっただろうが」
リアムが名を広めた一閃流が、ようやく帝国全土に認知されつつあった。
凜鳳は右手を口元に当ててクスクスと笑う。
「ただの暇潰し」
その言葉を聞いて、男は踏み込んで距離を詰める。
男もかつては騎士として剣技を身につけ、戦場で生き残ってきた猛者だった。
そうして海賊騎士になってからは、用心棒として活躍している。
裏社会で名の知れた剣士だ。
(こんな小娘に!)
負けられない。
そう思って振り下ろした剣が、空を斬る。
剣は確かに凜鳳に届く距離だった。
しかし、剣が折れて根元から先がない。
すぐに距離を取る男の前で、凜鳳が折られた刃を右手で遊ばせていた。
「あ~あ、つまんないの。これなら、僕も兄弟子の方に行けば良かったよ」
「ぐっ!」
男が拳銃をホルスターから抜いて構えようとするが、いつの間にか腕から先がなかった。
「なっ!?」
驚いている男を無視して、凜鳳は折った刃を捨てて刀の柄に手をかけた。
刃を見せて男へと近付く。
「強い奴がいるって聞いたから、わざわざ兄弟子に頼んで譲ってもらったのにさ。これなら、ちょっと前の殺人鬼の方がマシだったよ。あいつはちょっと楽しめたかな」
「殺人鬼? まさか、ドニールか? 六剣のドニールが、お前みたいな小娘に!?」
周辺を騒がせていた殺人鬼が、何者かに殺されたという話は聞いていた。
だが、目の前の凜鳳が殺したとは考えていなかったようだ。
「六剣? あぁ、そんな二つ名があったね。貴族や騎士たちも恐れる犯罪者って聞いたから、少しは期待したんだけどね」
狡猾な男だった。
帝国から追われながらも、逃げ回って殺人を繰り返していた。
男は一つの噂を思い出す。
悪人を狩る剣士がいる、と。
ここ数年で噂になっていたが、物好きがいるものだと思っていた。
ただ、目の前の剣士が一閃流で、兄弟子と呼んでいるならば――。
「リアムが来ているのか? バンフィールド伯爵が、どうしてこんな――」
男の言葉はそれ以上続かない。
凜鳳が片眉を上げて不快感を示す。
「兄弟子を呼び捨てにしてんじゃねーよ」
刀を鞘にしまうと、男の首が落ちる。
その時だ。
凜鳳に通信が届いた。
空中に小窓が出現すると、映し出されたのは風華だった。
『いつまでかかってんだよ』
不機嫌そうな風華を見て、凜鳳は指で髪を耳の後ろにかけた。
「五月蠅いな。もう終わったよ。それより、そっちは終わったの?」
『兄弟子が飽きたって。マリーに後始末をさせるから、お前も戻って来いだと』
「兄弟子も飽きっぽいよね」
その場を凜鳳が離れると、迎えに来たらしい小型艇が待ち構えていた。
◇
千隻の黒い艦艇が、海賊たちを追い詰めていた。
指揮するのはマリー・セラ・マリアン。
かつて帝国で三騎士の一人とまで呼ばれた女性騎士である彼女は、二千年の時を経て石化から解放されリアムに忠誠を誓っている。
旗艦である戦艦のブリッジで、司令官として命令を出している。
「リアム様がお望みよ。一隻残らず破壊しなさい」
海賊の数は二千以上。
二倍以上の戦力差だが、リアムたちの艦隊はお忍びで旅行するために最新鋭の艦艇が揃えられていた。
マリーが指揮する艦隊は、海賊たちを次々に撃破していく。
オペレーターがマリーに報告するのは、海賊たちからの命乞いだった。
「司令、海賊から投降したいと申し出が続いていますが?」
ブリッジクルーたちはそれを聞いて「またか」という顔をする。
マリーは微笑みながら拒否を宣言する。
「海賊の命乞いは受け付けないわ。リアム様も飽きておられるのよ」
マリーの後ろでリアムは専用のシートに座ってくつろいでいた。
最初こそ海賊狩りに盛り上がっていたが、敵が弱いと知ると興味をなくしてしまっていた。
「それが、自分たちはある貴族と懇意にしていると。バンフィールド伯爵が暴れ回っていると知られれば、面倒になると脅してきています」
「――あら? 随分と目と耳がいいのね」
艦隊はバンフィールド家の家紋を掲げていない。
だが、情報を得て特定したようだ。
マリーがリアムへと視線を向ける。
どうしますか? という視線に、リアムは素っ気なく答えた。
「今の俺に木っ端貴族が逆らえると思うのか? 同じ派閥の貴族なら、賄賂を渡して終わりだ。敵対するカルヴァンの派閥なら徹底的に叩けばいい。日和見している連中なら、こちらから出向いて出方を見てやる。その海賊と繋げ」
「はっ」
オペレーターが返事をしてモニターに海賊の顔を映し出せば、リアムは太々しい態度のまま接する。
「どこの誰と繋がっている?」
『へへへ、そいつは秘密でさぁ。バンフィールド伯爵がここで退いていただければ、こっちも黙って見逃しますぜ』
相手はリアムが貴族同士の争いを避けると考えているようだ。
かつて海賊貴族と争ったリアムだが、今はクレオを掲げる巨大派閥のトップである。
しがらみも多いだろうと考え、貴族との繋がりがあると明かした。
「そうか。なら、お前たちを潰した後に調べるとしよう。もういいぞ」
通信を終えようとすると、海賊がギョッとする。
『おい、正気か!? 俺たちが誰と繋がっているか、分からないだろ! あんた、それでも貴族かよ!』
海賊に対してリアムは余裕の態度を崩さない。
「どっちでもいいんだよ。敵だろうと味方だろうと、どうにでもなるんだよ」
海賊は信じられないといった顔をしている。
『どうして、お前みたいな大物がわざわざ俺たちを狙うんだ。もっと大きな海賊団はいくらでもあるだろうが!』
自分たちがバンフィールド家に狙われるとは考えてもいなかったようだ。
リアムは微笑する。
「規模なんか関係ない。俺はお前ら海賊をプチッと潰すのが楽しいんだ。旅行していると寄り道したくなるだろう? あれと同じだよ」
『そ、そんな理由で俺たちを殺すのか?』
「お前たちは略奪をする時に、相手の気持ちを考えるのか? ――おい、通信を切れ」
通信が途切れると、マリーがリアムの側に寄る。
「リアム様らしい、素晴らしい振る舞いでした。このマリー、感動に打ち震えています」
頬を染めて喜んでいるマリーに、リアムが胡散臭そうなものを見る態度を取っていた。
「あ、そう。それよりも、手頃な連中がいないな」
リアムが黙って立っているエレンに視線を向けると、本人が緊張した様子を見せていた。
マリーもエレンに視線を向け、リアムの言いたいことを察したようだ。
「エレンの相手ですか? その辺の海賊を捕らえてきましょうか?」
リアムは首を横に振る。
「駄目だ」
エレンはそれを聞いて安堵した表情を見せてしまい、慌てて取り繕った。
だが、リアムはその表情を見逃さない。
マリーも肩をすくめている。
「安心しては駄目ですよ、エレン。剣士も騎士も、殺しは必須ですからね。斬ってこそ一人前です」
エレンは俯いてしまう。
「はい。あ、相手がいればすぐにでも」
「当然だ。一人前になれないなら、一閃流を学ぶ資格はない」
リアムの厳しい視線を受けて、エレンはいずれ相手を斬ることを想像したのか表情が優れない。
ただ、そんなエレンの相手は、リアムが決めることになっていた。
それなのに、手頃な奴がいないと、リアムはエレンの相手を見つけられずにいた。
ブライアン(´;ω;`)「リアム様が他領で治安維持をしていて辛いです。正直、戻ってきて欲しいです」
ブライアン(`・ω・´)「それはそれとして、【俺は星間国家の悪徳領主!】と【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】がコラボすることになりましたぞ。星間国家は25日に発売する2巻を購入すると、リアム様がモブせかの世界に行く特典SSが手に入ります」
若木ちゃん( ゜∀゜)「ちなみに、乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 7巻 は 1月発売よ! 購入すると、リオンしゃんが星間国家の世界に行く特典SSが手に入るわ」
ブライアン(*´ω`*)「12月と1月で連続刊行でございます」
若木ちゃん(;゜Д゜)「書店配布だから、電子書籍版では手に入らないと思うから注意してね。それにしても、星間とコラボするなんて……世の中って分かんないわね」




