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安士の閃き

宣伝作品なので、初心に戻って宣伝します。


『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』 コミカライズ五巻が今月発売しました。


そちらも応援よろしくお願いします!

 ――とんでもないことになってしまった。


 一つの嘘が大きく膨れ上がり、既に自分の手を離れてしまった。


 いつの間にか剣神などと呼ばれている男――【安士(やすし)】は、安アパートの狭い部屋で家族三人と暮らしていた。


 以前暮らしていた惑星から逃げ出し、今は辺境惑星に家族三人で移り住んでいた。


「――悪夢だ」


 安士は食卓に並んだ貧しい食事を見て呟く。


 言われて妻が眉間に皺を寄せる。


 安士が食事の酷さに文句を言ったと思ったようだ。


「食べられるだけで感謝しなさい! 誰の稼ぎで食べていると思っているの!」


「ひっ! ち、違うんだ。食事のことで呟いたのではなく、この状況に追い込まれたことに色々と思うわけでして」


 低姿勢の安士を見て、妻は小さく溜息を吐いた。


 小さな男の子が妻――母親におねだりする。


「お母さん、もっと食べたい」


「ごめんね。もうすぐパートのお金が入るから、それまで我慢してね」


 妻の【ニナ】は、サラサラした長い黒髪の持ち主だ。


 眼鏡をかけたお淑やかな女性で、以前は仕事をしながら安士や子供を養っていた。


 だが、移り住んだ惑星で仕事を見つけられずにいた。


 彼女の貯金で移住し、彼女の貯金で細々と食いつないでいる。


 今はパートをしているが、稼ぎが悪くて生活は貧しかった。


 ニナが安士を睨み付ける。


「大体、どうしてここを選んだのよ? 辺境惑星で発展していないし、不景気で仕事もない。オマケに重税で生活も苦しいだけじゃない」


 あまりに酷い惑星に移住してしまったのは、安士のせいだった。


「し、仕方ないだろ! 下手に発展したところに行けば見つかるんだよ!」


 安士がこんな酷い惑星に移住したのは――全てリアムのせいだった。


 テーブルの上に置かれた電子ペーパーには、動画が再生されている。


 それはグドワール覇王国の正式な発表だった。


『一閃流の安士を王宮の剣術指南役として迎え入れる! 情報提供者には相応の礼を出すと約束しよう。必ず安士殿を探し出せ!』


 少し前にリアムが、覇王国の元王太子であるイゼルを討ち取った。


 その際に一閃流の名が覇王国に広まってしまった。


 強さこそ正義! を掲げる覇王国では、自分たちの知らない最強剣術があると聞いて盛り上がりを見せている。


 結果、流石にリアムは召し抱えられないが、それなら師匠の安士はどうか? そんな流れになってしまった。


 そして、帝国ばかりか他国までもが「あの覇王国が求めるなら本物だろう」と、安士を捜し始めている。


 好待遇で召し抱えるという国や貴族たちが後を絶たず、加えて名を挙げたい強者たちが安士の命を狙っている。


「あいつのせいだ。あいつのせいで、俺は――ちくしょう!」


 リアムはアルグランド帝国の貴族である。


 しかも、力のある国を代表する領主になっていた。


 そんなリアムに手を出すよりも、安士の方が狙い目ではないか? 周囲はそう思って安士を血眼になって捜していた。


 ニナが子供の相手をしながら冷めた目を向けてくる。


「私からすれば嘘にしか思えないけどね。ヤス君が、帝国貴族の師匠だったなんて嘘でしょ?」


 安士は香具師――つまり芸人だ。


 そして、リアムに教えた一閃流という剣術は安士の嘘である。


 詐欺師のような手口でリアムに剣術を教えていたら、結果的に化物が誕生してしまった。


 そして、刺客として育てた二人の弟子も、化物のように強く育った。


 安士は弱くても、三人の怪物を育てた男である。


「俺だって信じたくないよ! リアムに刺客として送った弟子たちもどうなっているか分からないし、もう嫌だ!」


 安士が辺境惑星に来た理由は、リアムや刺客たちから隠れるためだ。


 こんな惑星に自分がいるとは誰も思わないはず! ――と、思ってだった。


 だが、移り住んで後悔している。


「――はぁ、それにしても生活が厳しいな」


 ニナが冷たく言い放つ。そこには、安士への日頃の不満が見えていた。


「なら、自分も働いたらどうなの?」


「うっ!? そ、それは、その――すみません」


 アルバイトはしているが、長続きもしなかった。


 その理由は税金だ。


 一日働いてもらえるのは、税金を引くと三割程度だ。


 これではやる気も出てこない。


 また、アルバイトの時給も本当に少なく、それでいて酷使される。


「こんなことなら逃げ出さなければよかった。これも全部リアムのせいだ。あいつが一閃流を広めるから」


 安士が後悔していると、ニナが食事を食べ終えて片付けをはじめた。


「本人が一流でなくても指導は出来るのね。その指導力が本物なら、いっそ道場でも開いてみれば? 本当ならね」


 ニナの発言を聞いて安士は顔を上げる。


「え?」


 驚かれたニナは、安士を見ながら説明する。


「だから、指導が出来るなら道場でも経営すればいいのよ。今話題の一閃流なら、高いお金を払って学びたい人は多いんじゃない? 三人も育てたなら、間違いなく成功するでしょ」


 リアム、凜鳳、風華の三人を安士は育て上げた。


 それは安士に育成能力があるという証拠でもある。


 まだ三人しか育ててないが、今のところ成功率は百パーセント。


 安士は自分に人を育てる才能があるのではないか?


 ――今になって気が付いてしまった。


「そ、そうか! 沢山育てれば俺の護衛にもなるし、金も手に入るな! いや、待てよ? そんなことをすれば、ここに俺がいると知られてしまうな」


 ブツブツと考える安士は、安直な答えを出してしまう。


「名前を変えればいいな! 元祖一閃流とか名乗って、俺も偽名で商売するわ! 最近は似たような名前の道場も多いし、きっとその中の一つだと思われるだろうからな!」


 武芸の師範としてそれでいいのだろうか? そんな顔をするニナだが、安士がやる気を見せてくれるのが嬉しかった。


「ヤス君ならきっと出来るわ。私も手伝う!」


「おう!」


 このニナという女性だが、いわゆる出来る女だ。


 真面目で仕事も出来るのだが――唯一の欠点は安士のような駄目な男に魅力を感じる点だった。


 こうして、荒れ果てた辺境惑星に元祖一閃流の道場が誕生する。



「働かずに食う飯は最高だな」


 朝食時。


 天城とブライアンに給仕をさせる俺は、朝から無駄に豪華な食事を食べていた。


 目の前にあるのはシンプルな朝食だ。


 前世風に言えば目玉焼きにトーストとサラダとスープみたいな内容である。


 しかし、その全ての食材が領内から選りすぐられた高級品だ。


 一個何万円みたいな卵をふんだんに使用したオムレツもある。


 ――ただし、ヨーグルトだけはブライアンの自家製だ。


 そんな食材の数々と、領内から集めた料理人たちが調理する。


 前世で言えば三つ星レストランのシェフたちを集めたようなものだ。


 そいつらに日替わりで料理を作らせている。


 一流シェフを食堂で交互に働かせるかのような所業だろう。


 これぞ悪徳領主の朝食だ。


 広い部屋には楽団がいて、朝に相応しい演奏を行っている。


 俺が食べ終わった皿を天城が下げつつ、先程の発言について質問してきた。


「旦那様、急にどうされました? そもそも、旦那様は毎日のように公務を行っていますが?」


 ブライアンまでもが、俺を見て心配そうな顔をしていた。


「連日の過度な鍛練でお疲れなのではありませんか? リアム様、このブライアンは心配ですぞ。今日は公務を休まれますか?」


 二人から見れば俺は働いているように見えるだろう。


 しかし、俺からすれば全て俺のためだ。


 全て仕事ではなく、自分のためだ。


「俺が真面目に仕事をしていると思ったのか? あんなの遊びだ」


 天城は普段通り無表情だが、俺の発言を疑問に思ったようだ。


「最近は悪ぶって振る舞うこともなくなり、領内経営に真面目に取り組んでいましたが?」


「遊んでいる暇がないからな。今はとにかく強くなりたい」


「――遊んでいるのに、遊んでいる暇がない? どちらなのでしょうか?」


「あまり深い意味はないから考え込むな」


 俺の返事に真剣に考える天城を見ていると、申し訳ない気持ちになってしまう。


 領内の仕事を遊びと言い切れば、ブライアンが渋い表情になっていた。


「領内の仕事を一番に考えていただきたいのですけどね。そもそも、リアム様に剣術は必要ありませんぞ」


 一閃流の鍛練ばかりにかまけている俺を、ブライアンが諌めてくる。


 だが、言われて改心するような俺ではない。


「断る。それに、もう少しで壁を越えそうな気がするんだ。同時に限界も感じているけどな」


 もう少しで壁を壊せそうな気もするが、俺の限界も感じ取っていた。


 これ以上は何をすればいいのか分からない。


 デザートのヨーグルトを食べていると、俺の影からククリが姿を見せてくる。


 ブライアンはククリが現れると顔をしかめる。


「ククリ殿、リアム様のお食事中ですぞ」


「理解していますとも。ただ、この用件は早急に、と命令を受けております。報告も最優先にすべきかと思いましてね。――リアム様、お食事中に失礼いたします」


 俺の隣で膝をつくククリに、食事をしながら声をかけた。


「調べ終わったか?」


「はい」


 手を止めて食事を中断した俺は、ククリに向き直って報告を聞く。


「師匠は見つかったか!」


 ククリを使って調べさせていたのは、師匠の行方だ。


 このままでは行き詰まると考えた俺は、ククリに師匠の行方を調べさせていた。


「それで、師匠はどこにいる? すぐに会いに行くぞ」


 このままでは俺は強くなれない。


 師匠に教えを請うために、俺から出向こうと考えていたのだが――ククリからの答えを聞いて興奮が憤怒に変わる。


「それが、一閃流の安士様を名乗る者たちが大勢いまして、特定には至っておりません。現在は特定を急いでおりますが、人手不足で時間がかかります」


 ククリたちは非常に優秀だが、問題はその数だ。


 あまりの少なさに、人海戦術が取れないという欠点を持っていた。


「部下を派遣してやる」


「既に使って調べさせております。確認は我々で行っていますが、有象無象が多すぎて時間を必要としております」


 派遣した部下たちでは、本物を見分けられないようだ。


 ククリたちなら見分けられるだろうが、そのククリたち一族が少なすぎる。


「――偽者共が調子に乗りやがって」


 俺が有名になってしまったために、偽者が一気に増えていた。


 やれ、真・一閃流! とか、元祖一閃流! とか。


 潰しても次々増えてくるため放置していたが、そのために師匠の所在が掴めないのは許せない。


 俺はゆっくりと立ち上がる。


「ティアとマリーを呼べ」


 ククリが俺の影に吸い込まれるように消えていく。


「御意」



 金髪の美女がメイド服に身を包み、満面の笑みを見せる。


「リアム様、呼んでくれてティアにゃんは嬉しいにゃん!」


 片足を上げて、いかにも可愛らしいポーズで「にゃんにゃん」言うのはティアだった。


 その隣では、紫色の髪をした美女が兎耳をピコピコと動かしている。


「マリーも嬉しいです、ぴょん!」


 メイド服姿で兎の真似をするマリーだが、二人揃ってメイド服を改造していた。


 ティアは猫耳と尻尾、猫らしい装飾をつけている。


 マリーは兎耳と尻尾、兎らしい装飾をつけている。


 無駄にクオリティーの高いコスプレ衣装を着て、恥を捨てた二人は互いに手を取り合って頬を寄せ合っていた。


「リアム様のメイドティアが、お呼びにより参上しましたにゃん!」

「リアム様のメイドマリーが、お呼びにより参上しましたぴょん!」


 普段は互いに殺し合いたい程に憎み合っている癖に、俺に命令されたために仲の良いふりまでしている。


 何度も練習したのか、二人の息はピッタリだ。


 呼び出した俺の横には、筆頭騎士であるクラウスが変わり果てたかつての上司二人から視線をそらしていた。


 以前はバンフィールド家を代表する騎士二人が、メイド服を改造してコスプレをしていれば目を背けたくもなるだろう。


 少し前まで恥ずかしがっていたのに、今はむしろ今の姿に誇りを持っていると言わんばかりにクオリティーを高めていた。


 きっとこれまで苦労しながら頑張ってきたのだろうが――そんなの今の俺には関係ない!


「俺の前でふざけているのか?」


 その言葉で二人が慌てはじめる。


「え!? 何かお気に召しませんでしたか、にゃん?」

「いっそ着ぐるみの方がよかったですか、ぴょん!?」


 俺の機嫌を取ろうとする二人は好きだが、今はそれよりも師匠だ。


「お前らは俺のメイドから解任だ。騎士に復帰しろ」


「え?」

「そ、そんな!」


 復帰を許してやると言ったら、きっと喜ぶと思っていたのにティアもマリーも青ざめた表情をしている。


「不満か?」


 ティアが小さく頷いた。


「はい。リアム様のお世話が出来ないのが不満ですにゃん」


 マリーは両手で顔を覆っている。


「リアム様に辱められないなんて、死んだ方がマシですぴょん」


 ――こいつら、優秀じゃなかったら本当にクビにしていたところだ。


 どいつもこいつも、優秀なのに癖が強すぎて嫌になる。


「文句を言うな。それから、にゃんもぴょんも止めろうっとうしい! お前らは現時刻を以て騎士に復帰だ。クラウス!」


「はっ!?」


 クラウスの名を呼んだ俺は、この二人に仕事について教えてやる。


「ティアはすぐに覇王国の国境に送れ。こいつに国境を任せる。残念な女だが、こいつは統治も出来るからな。一万隻つけて送り出せ」


「あ、それで私を呼び戻したんですね」


 以前まで国境は俺の片腕であるクラウスに任せていた。


 本当にこいつは何でも出来て優秀だ。


 クラウスが安堵した表情を見せていたが、ティアの方はすがるような目で俺を見てくる。


「リアム様も国境に行かれるのですよね? ね!?」


「馬鹿か? 何で俺が覇王国の連中の相手をしないといけない? クラウスを本領に戻すからお前を送るだけだ」


「そんなぁぁぁ!!」


 一人だけ国境に送られると聞いて、ティアが頭を抱えて泣いていた。


 次はマリーに命令する。


「マリー、お前には少数精鋭の艦隊を率いてもらうぞ」


「それは構いませんが? わたくしもどこかに派遣されるのでしょうか?」


 ブルブルと震えているマリーに教えてやる。


「俺の護衛だ。しばらく旅に出るからな」


 それを聞いたときのマリーの顔は、花が咲いたような笑顔だった。そして、すぐに崩れ落ちたティアを見下して愉悦する。


 勝ち誇ったマリーの顔を見ながら、ティアが歯を食いしばっていた。


 ――そんな二人はコスプレみたいなメイド服を着ている。


 クラウスが聞いていないと俺に詰め寄ってきた。


「リアム様? あの、私は何も聞いていないのですが? 旅に出るとはどういう事でしょうか?」


「師匠を捜すからしばらく留守にする。後は頼んだぞ、クラウス」


「――え?」


ブライアン(´;ω;`)「辛いです。元筆頭騎士と元次席騎士が、恥を捨ててにゃんぴょん言う姿が辛いです」


若木ちゃん(; ゜д゜)「私もちょっと引くわ。今回はツライアンさんの顔を立てて、私が代わりに宣伝するわね。……俺は星間国家の悪徳領主! 二巻 【12月25日発売】 をよろしくね」

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― 新着の感想 ―
またクラウスさんの胃が虐待されてる……
別のタバコ吸い魔王の某アニメを想像してしまった
[気になる点] 指導を3人も成功してきたって言っても2人は案内人が用意した人材だしリアムはワン公に見守られてる存在だしなぁ 少なくともかなりの潜在能力と固定概念とかが無い若い子どもにしか一閃流は教えら…
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