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第九章プロローグ

本日より更新を再開いたします。


更新時間は 20時 を予定しています。

 貴族としての修行を終えた俺【リアム・セラ・バンフィールド】は、百歳を超えて自領へと戻ってきていた。


 本来ならば首都星で遊んでいたかった。


 クレオを神輿とした派閥の長でもある俺は、未だに老舗の高級ホテルを借り上げたままにしている。


 首都星での滞在先を手放せないでいるのは、今後も出向く予定があるからだ。


 これなら屋敷でも構えておけば――あれ? そう言えば用意した気がするな。


 色々と考えている俺だが、今いるのは広すぎる屋敷の中庭にある施設だ。


 中庭と言っても屋敷自体が広大で、中庭というか外にしか感じられない。


 その施設は俺専用のトレーニングルームだった。


「――来い」


 黒い鎧のようなアーマーを着用する俺は、右手に持った木刀らしき道具を妹弟子たちに向ける。


 オレンジ色の髪を後ろでまとめ、花が咲いたような髪型にしている【獅子神シシガミ 風華フウカ】が唇を舌でペロリと舐めた。


「死んでも知らねーぞ!」


 こちらを心配するような発言だが、表情は喜んでいる。


 嬉々として両手に持った刀を振るう妹弟子を前に、俺は即座に構えて木刀を振るう。


 この木刀と名付けた練習用の道具は、とても高性能な機能を持っている。


 アーマーも同様だ。


 だが、風華も、そして【皐月 凜鳳(サツキ リホ)】も紺色の長い髪を揺らしながら口角を上げて刀を抜く。


 二人が手に持つのは真剣だ。


「あはっ! 死んじゃえ!」


 兄弟子をなんだと思っているのか?


 二人は本気で俺に斬りかかってくるが――それでこそ、同門である。


 手に持った木刀で二人の斬撃を叩けば、そこら中で火花が発生した。


 一瞬にしてアーマーに傷がいくつも入る。


 叩き落とせず、避けきれず、もしくは余波で傷が入ったのだろう。


 飛び上がった風華が屋根に足をつける。


 無重力空間ではないが、逆さになって天井で屈み――勢いをつけて俺に向かって飛んでくる。


「斬り刻んでやる」


 目を血走らせ、本気で俺を殺そうとする風華だが、これは囮のようだ。


 視線を地面に向ければ、俺の懐まで入り込んだ凜鳳が抜刀術を披露しようとしていた。


 手数の風華。


 一撃必殺の凜鳳。


 手数で俺を足止めし、一撃必殺で俺を仕留める。


「くっ!」


 ――こいつらはそんな生易しい存在じゃない。


 風華の手数の多さは俺も認めるが、それは一撃一撃がどれも致命傷レベルのものだ。


 風華は凜鳳ごと、俺を殺そうと斬撃を放っている。


 そして凜鳳は、過剰とも言える必殺の一撃を俺と風華にお見舞いしようとしていた。


 苦し紛れに凜鳳の刀の柄を左手で握り抜刀術を止め、木刀で風華を撃ち落とすために斬撃を飛ばした。


 凜鳳はすぐさま俺を足払いして転ばせると、倒れた俺に刃を突き立ててくる。


「兄弟子を殺すのは僕だ!」


 突き立てられた刃を転がるように避けて立ち上がると、背中に寒気を感じた。


 後ろに風華が回り込み、二刀流で俺の首を落とそうと迫っていた。


 振り返りざまに木刀を下から斬り上げれば、風華の刃を弾き上げていた。


 がら空きになった腹部に蹴りを放つ。


 焦って力加減を間違えてしまい、風華は壁まで吹き飛んでしまった


「かはっ! お、俺が殺す。兄弟子は俺が!」


 壁にめり込み、口から血を吐きながら俺に向かってこようとする風華から視線を外した。


 振り返ってすぐに木刀を横に振り抜けば、飛んできた斬撃を弾いて火花が飛び散る。


 少し離れた場所には凜鳳が構えを見せていた。


 次々に飛んでくる斬撃は、一閃流の奥義である一閃だ。


「根比べをしようか! どこまで耐えられるか見物だよ!」


 手数、威力、どれも俺を上回っている。


 ケラケラと笑っている凜鳳は、一切の手加減を見せない。


 俺と凜鳳の間には距離がある。十メートルくらいだろうが、火花が散っているのは俺から見て三メートルの距離だ。


 明らかに俺が押し込まれている。


「お前もか!」


 斬撃を撃ち落としていると、反対側からも飛んできた。


 俺を中間点として、一直線上に凜鳳と風華が立っている。


 二人が俺に一閃を次々に打ち込んでくるため、俺のすぐ側で火花が散り始める。


 風華が一歩俺に近付いてきた。


「兄弟子もこれで終わりだな! 安心しろよ。一閃流は俺が繋いでやるからさ! エレンの面倒も俺が見てやるぜ」


 既に勝ったつもりでいるようだ。


 反対側に立つ凜鳳も一歩、一歩と近付いてくる。


「僕たちを侮った罰だよ。兄弟子のことは嫌いじゃなかったから、忘れずにずっと覚えておいてあげる」


 見た目は十代後半で、女子高生くらいにしか見えない二人。


 そんな二人は一般人から見れば刀を持って近付いてくるだけに見えるだろう。


 ただ、俺たちの間に火花が飛び散っているだけだ。


 俺はヘルメットの中で呟く。


「あと少し。もう少しだけ」


 既に体が悲鳴を上げていた。


 だが、先に駄目になったのは道具の方だ。


 凜鳳と風華の持っていた刀が砕け散り、そして俺の持っていた木刀も砕けた。


 アーマーからも電子音声が聞こえてくる。


『トレーニングアーマーが限界を超えました。強制的にパージします』


「ま、待て!」


 その直後だ。俺の停止命令も無視して、アーマーが弾け飛び、俺はインナースーツだけの状態になる。


 汗だくで呼吸も荒く、体中にかすり傷があった。


「くそっ!」


 俺はもう少しで何かを掴めそうだったのに、と床に座り込む。


 凜鳳が砕けた刀を見ていた。


「あ~あ、これで何本目だっけ?」


 風華は折れた刀を投げ捨てると、それらを掃除ロボットたちが回収していく。


「知らね」


 二人が俺に近付いてくる中で、俺は砕け散ったアーマーや木刀を見ていた。


「どれだけ金をかけて作っても駄目なのか」


 俺が用意したアーマーも木刀も、能力を向上させる物ではない。


 その逆だ。


 能力を制限する性能が優れた道具だった。


 体にかかる負荷を上げ、木刀はとにかく振りにくい。


 俺の実力を制限した状態で、妹弟子二人に「殺すつもりで来い」と言っていた。


 そうでなければ――俺は自分の限界を超えられそうにないからだ。


 震えた右手を開き、俺は見つめる。


「どうして俺は届かない。どうして――俺は師匠に届かないんだ」


 自分が情けなくなってくる。


 いくら鍛えても、いくら実戦経験を積んでも、俺は師匠の領域には届く気配すらなかった。


 子供の頃に見た「まるで刀を本当に抜いていないかのような斬撃」が、俺には未だに再現出来ていない。


 風華が口元の血を拭いながら、俺を慰めてくる。


「兄弟子は俺たちよりも強いし、いつか届くんじゃね?」


 そんな風華の態度を凜鳳は、何も理解していないと呆れていた。


「ば~か。慰めなんて兄弟子に不要だよ。そもそも、僕たちの言葉なんて無意味さ。――安士師匠の実力は、お前も見ているだろ? 兄弟子と比べてどうよ?」


 慰めなどいらない。


 師匠の実力を知っている俺たちにとって、それは侮辱になる。


 気まずくなった風華が顔を背ける。


「そ、そんな意味じゃねーし!」


 風華が俺から視線を外したのは、師匠と俺の実力差が離れていると気付いているからだ。


「お、俺だって安士師匠の実力に、兄弟子が及ばないのは分かるぜ。ってか、俺たちだって安士師匠の実力は測れないだろ。お前だって同じはずだ」


 凜鳳が頬を膨らませる。


「言われなくても分かっているよ。安士師匠の実力が、それだけ凄いってことしか僕たちには分からないからね」


 そう。師匠はとにかく凄い。


 あまりの実力差に、俺たちではその力量がまったく測れない程だ。


 普段見れば剣術初心者にも負けそうなのに、剣を抜けば敵なしだ。


 実際、何度も師匠と戦うイメージを行ったが――今まで一度も勝てると思ったことがない。


 帝国で剣聖と呼ばれる男を倒しても、それは変わらなかった。


「何が足りない。俺にはいったい何が足りないんだ? 俺は――もう限界なのか?」


 これ以上は強くなれないのではないか?


 そんな不安に押し潰されそうになる。


 悪徳領主として最高の暴力とも言うべき一閃流を手に入れたが、才能がないため中途半端に終わろうとしている。


 ただの悪人なら今のままでも十分だろう。


 しかし、俺はもっと強くなりたい。


 悪人として、そして師匠が俺に授けてくれた一閃流は大事に受け継ぎたかった。


 汗だくの俺に駆け寄ってくるのは、随分と大きくなったエレンだ。


 出会った時は小さかったのに、今では十歳に届くか届かないかの見た目をしている。


「師匠、汗を拭きます!」


「おう」


 エレンから俺は飲み物を受け取り、俺の体を拭くのを許してやった。


 飲み物で栄養を補給しながら色々と考えていたが――。


「エレン、お前はいくつになる?」


 ――エレンがいくつなのか気になった。


 同じように汗だくで息を切らしている凜鳳と風華が、俺が何を言いたいのかを察して黙っていた。


「も、もうすぐ三十歳です」


 三十と聞けば前世では立派な大人だろうが、この世界ではまだ子供だ。


 風華が肩をすくめて俺を見ている。


「兄弟子ってば過保護だよな」


 凜鳳は興味をなくしたように、端末を取り出してブログの更新をはじめていた。


「エレンは兄弟子が面倒を見ているから口出ししないけどさ。そろそろどうにかしないと、エレンは一閃流の剣士になれないよ」


 二人の話を聞いてエレンが驚いた顔をするが、すぐに気を引き締めて反論する。


「馬鹿にしないでください! 師匠のもとで十年以上も鍛えているんです。私だって基礎くらいは出来ます。ま、まだ、一閃は出来ませんけど」


 徹底的に基礎を叩き込んではいるが、エレンは一閃を放てなかった。


 それも仕方がない。


 俺でも二十年以上はかかっている。


 凜鳳が端末から視線を外し、エレンを見る目はとても冷たい。


 殺気を向けられエレンが怯むが、気にせず口を開く。


「そんな話じゃないんだよ。もっと大事な話さ」


 エレンが震えながらも凜鳳と俺を交互に見てくる。


「大事な話ですか?」


 風華があっさりと答えを言ってしまう。


「お前、まだ人を斬ったことがないだろ? いや、殺したことがない」


 エレンが目を見開いたのを見て、俺は思う。


 ――こいつが剣士になるには人を殺さなければならない。


 星間国家が存在するような世界で、何ともおかしな話ではないか。


 宇宙戦艦や人型兵器がある世界なのに、未だに剣で殺し合いをしている。


 度し難い話であるが、この道を選んだからには避けられない。


 俺は立ち上がってエレンの肩に手を置いた。


「近い内にお前の相手を見繕ってやる」


 エレンはショックを受けたように俯いていたが、師匠の俺には逆らえないため小さな声で返事をする。


「――はい」


ブライアン(´;ω;`)「皆様お久しぶりです。ツライアンではなく、ブライアンでございます。更新が再開し、皆様に再会出来てこのブライアンも幸いです」


ブライアン(*´ω`*)「そして 【俺は星間国家の悪徳領主! 2巻】 が 【12月25日】 に 発売となります。是非とも書籍版をご購入ください。今回はこのブライアンも大活躍……するかもしれません」

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― 新着の感想 ―
2対1でやってる時点でお察し 流派以前の問題のように見えるが
[気になる点] 別に魚でも捌けばいいじゃん。
2022/12/20 06:41 退会済み
管理
[一言] "乙女ゲー"では途中まで"殺しはイヤ"って言わせてたのに、今作では"殺せ"って言うのね。
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