八章エピローグ
本日 8月7日 は 「コミカライズ版 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 4 作画:潮里 潤先生」 の発売日!
そして、コミカライズ版23話の更新日!
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危なかった。
俺に反抗的なシエルが、連れて行かれるところだった。
一体、どこから情報が漏れたのだろうか?
ククリたちが俺の命令を無視するとは思えないし、そもそもシエルは放置していても問題ない存在だ。
俺を嫌って邪魔しては来るが、あいつの能力ではたかが知れている。そして、善人であるが故に執れる手段も限られていた。
あいつが悪党なら、俺はすぐに排除していた。
なりふり構わずというのは危険だからな。
俺にとってシエルは、手の平の上で転がすのに丁度良い女だ。
代わりなど簡単には見つからないし、探してまで側に置くのは違う気がする。天然だから価値が有ると言うか――まぁ、気分の問題だ。
「それにしても、一体どこから情報が漏れた? ククリたちに調べさせるか?」
執務室で情報が漏れたことに危機感を覚えていると、俺の部屋に資料を持ったユリーシアが入室してくる。
「リアム様、ロゼッタ様の親衛隊の件でご相談があります」
仕事モードのユリーシアは、スカートのスーツ姿で普段よりも出来る女という雰囲気を出している。
こいつ、普段から真面目にしろよ。
「ロゼッタの?」
資料に目を通せば、面白みのない普通の親衛隊が出来上がっていた。
悪くもないが、特別良くもない。
面白みのない、手堅い親衛隊になっている。
「ロゼッタらしい親衛隊だな。無難すぎてつまらない」
「これでも頑張ったんですよ」
頑張ったとか無意味だ。
「世の中、努力よりも結果だ。結果を出せ」
「酷いです! あ、なら一つ褒めてくださいよ」
「何を? お前を? 何で?」
どうして俺がユリーシアを褒めなければならないのか? こいつは俺のために働くのが当然の奴だ。何故なら、俺の金で好き勝手に暮らしている。
少しは働いてもらわないと、もったいない。
「シエルちゃんの件ですよ。ほら、あの子が裏でロゼッタ様の親衛隊にあれこれ口を出したのを調べたのは私ですから!」
自信満々に胸を張るロゼッタを見て、俺は唖然としてしまった。
椅子から立ち上がり、そしてユリーシアに近付く。
「おや、褒めてくれるんですか? なら、優しく――って、痛っ!」
得意気なユリーシアのおでこにデコピンをしてやると、両手で額を押さえて座り込んでしまった。
「何をするんですか!」
「何をしてくれたんだ、この残念女!」
涙目で不当な扱いに抗議してくるユリーシアだが、俺からすれば裏切り者がこんな近くにいるとか想定外だ。
こいつ、シエルが裏で動いていた証拠を掴み、エクスナー男爵に告げ口しやがった!
「この、この、この!」
人差し指でユリーシアの頬を突く。
「や、止めて。こんな扱い酷いです」
「この程度で許してやることに感謝しろ。今後、シエルの件には関わるな」
頬を手で押さえたユリーシアが、俺を見て唖然としていた。一体何に驚いているのかと思えば、斜め上の発想をする。
「わ、私には怒るのに、シエルちゃんは裏切り行為をしても許すんですか!? そんなにあの子が良いの!」
自分よりもシエルが愛されているのが許せないらしい。
――お前、俺をふりたいとか、そんなことを言っていたのに忘れたのか?
そもそも、愛なんてあったのか?
「確かにお前よりマシだな」
ユリーシアと比べると、シエルはまだ癒し枠だからな。ロゼッタに足りない成分を補ってくれる貴重な存在だ。
「そうやって他の女ばかりに目移りして!」
「いつお前に目移りした?」
ふざけやがって! 俺が夢中なのは天城だけだ!
ユリーシアと騒いでいると、今度はロゼッタがやって来る。
「ダーリン、話し合いは終わった? 実は親衛隊の件で――」
笑顔で入室してきたロゼッタだが、涙目で騒いでいるユリーシアを見て――冷たい表情になった。
ただ、冷たい視線はユリーシアに向けられている。
「ユリーシアさん、何をしているの?」
「私!? 私が悪いと思っていませんか!? リアム様が悪いんですよ! 私以外の女に目移りするから!」
――なんで、ナチュラルに自分が意識されていると思っているのかな? こいつは、本当に自意識過剰だ。
残念でなければ、もっと扱いは考えてやるのに。
それよりも、ロゼッタがこの状況を見て俺を疑わないのが怖い。普通、泣いている女がいれば、そちらを庇うはずだ。
信用とか、信頼が重い。
「ダーリンに迷惑をかけているようにしか見えません。大体、あなたは普段の態度が酷すぎます」
ユリーシアの普段の姿を知っているため、俺が悪くないと判断したようだ。
ロゼッタ――どうしてお前はそんなにチョロインだ?
もっと俺を疑えよ。
「もういい。それよりも、俺に何か用か?」
「あ、えっとね……シエルのことなの」
シエルの?
◇
父と兄に説教されたシエルは、自室で反省するように言われていた。
エクスナー男爵は『あんな立派な貴族は他にいないぞ! 何が悪人だ!』と言い。
クルトは『リアムに幾ら謝罪しても足りないくらいだよ。こうなれば、僕が性転換をして――』と言い出していた。
シエルは枕を涙で濡らす。
「お兄様の馬鹿! 誰もあいつの本性に気が付いていないじゃない!」
一番悔しいのは、今の自分がリアムに助けられたことだ。
エクスナー男爵に「幾らでも払うから許して欲しい!」と頭を下げたため、シエルの罪が有耶無耶になってしまった。
シエルはリアムに助けられ、今後もバンフィールド家が教育することになる。
そんな情けない自分に泣き、婚約者がいるのに本気で性転換を考える兄に泣き、目を真っ赤に腫らしていると――ドアが開いた。
鍵をかけていたはずなのに、そこにはリアムが立っている。
「よう」
ニヤニヤと笑っているリアムは、シエルの気持ちを察しているのだろう。
シエルが悔しくて泣いている姿を楽しそうに見ている。
「あ、あんた」
「メイドなら主人に挨拶くらいしろよ」
「誰が! それに、今は謹慎中よ!」
本来なら口答えをすることすら許されない立場のシエルだが、リアムはそれを見て楽しそうにする。
むしろ、大歓迎という様子だ。
「言っただろう? 誰もお前の言葉を信じないとな」
「くっ!」
リアムが悪人だと周りに言っても「お前大丈夫か?」と心配されるか、激怒されてしまうのが現状だった。
だが、シエルは諦めない。
「――必ずあんたの本性を暴いてやる」
リアムが善人であると周囲に誤認されていることを、必ず暴いてやるつもりだった。
それを聞いたリアムが、シエルに顔を近付ける。
「そいつは楽しみだ。精々頑張れよ、シエルちゃん」
「絶対に後悔させてやる! 私を助けたことを、必ず後悔させてやるんだから!」
兄を誑かしたリアムを、シエルは許せなかった。
クルトが本気で性転換を考え、自慢できるお兄ちゃんからお姉ちゃんになろうとしている。そんなの、シエルは絶対に認められない。
大好きな兄の目を覚まさせるために、リアムの本性を暴いてやるつもりだ。
「俺を後悔させたら褒めてやるよ」
強気の姿勢を崩さないシエルを見るリアムは、楽しくて仕方なさそうだった。
そして、部屋を出ていく。
シエルは涙を拭い、泣いている場合ではないと覚悟を決める。
「――必ずあんたの正体を白日の下にさらしてやるわ」
そんなシエルを、部屋の隅で見ている光があった。
淡い光で輪郭がぼやけている犬は、首をかしげている。
シエルがやる気を見せて、天井に向かって叫ぶと部屋から出ていく。
「お兄ちゃんをお姉ちゃんになんて、絶対にさせないんだから!」
◇
自室に戻った俺は、天城の用意したお茶を飲む。
この時間が一番落ち着く。
天城はお菓子の用意をしながら、俺に尋ねてくる。
「それで、シエルさんは立ち直ったのですか?」
「悲しんでいると聞いて焦ったが、あいつの心は折れていなかった。あいつは逸材だよ」
出来もしないのに、俺の本性を暴いてやると粋がっている。
その姿が、本当に可愛い。
チワワが虎に喧嘩を売っているような可愛さだ。
「旦那様、あまりからかわれては困ります」
「いいんだよ。それにしても――クレオの奴も裏で色々と動いているな」
「クレオ殿下ですか?」
「俺の援助した資金を気前よく貧乏貴族たちにばらまいている。ククリたちに調べさせているが、どうやら自分の手足になる連中を集めているようだ」
お飾りで満足するつもりか、それとも――。
天城が俺を見ている。無表情ながらも、どこか心配した様子だった。
「安心しろ。クレオは俺の敵じゃない」
「皇帝陛下と敵対しているのに、随分と余裕を見せていますね」
確かに帝国と戦えば、俺のような一領主などひとたまりもない。
だが、裏でコソコソ手を出してきたということは、大々的に俺とは争えないからだ。
もしくは、遊ばれているのか。
――ただ、気になることがある。
案内人が言っていた「真の敵」だ。
バークリー家を裏で操り、俺の敵になった存在が皇帝陛下なら全てに説明が付く。
これが事実ならライナス、カルヴァンなどよりも随分と強敵だな。
「クレオが神輿のままなら帝国は残してもいいが、そうじゃないなら――」
そこから先は口を閉じることにした。
真の敵が母国の皇帝である高い可能性が出て来たが、俺は勝つために動けば良い。
そして、勝つのは俺だ。
天城が俺を見る目は、どこか不安そうに見えた。だから、声をかけて安心させる。
「心配するな。勝てる見込みはあるさ」
「次々に敵が現れますね」
「本当だよ」
領地に引きこもって遊んでいる暇がない。いや、本当に遊んでいる暇がない。大学時代など、もっと遊びたかったのに。
だから、しばらくは首都星で遊び回るとしよう。
どうせ裏で皇帝が動いているのだ。敵を倒しても、また次の敵が現れる。
天城は、俺がクレオをどのように扱うのか聞いてくる。
「クレオ殿下へは忠告をするのですか? 放置するのはおすすめしません」
「放置だ。その方が面白い。健気じゃないか。俺と戦うために俺と敵対する奴らを集めてくれるんだぞ?」
俺と敵対する奴らは、基本的に善人だ。
俺たちは悪徳領主の集まりだから、それに反旗を翻すのは真っ当な貴族たちである。
クレオはそいつらを集めてくれる掃除機だ。
まとまったところで――消してやる。
「俺もしばらくは力を蓄えることにするさ。一閃流の継承者も育てないといけないし、それに――」
まだ俺の一閃は、師匠に遠く及ばない。
何かが足りないのだ。
「――師匠を探してみるか?」
今一度、師匠に教えを請う時が来たようだ。
イゼルを倒すことは出来たが、斬れない存在を斬る方法に届いたか怪しい。
色々と考えていると、天城が俺に報告してくる。
「クレオ殿下の件ですが、ロゼッタ様と同じ事をしていますね」
「ロゼッタと?」
「はい。親衛隊を設立するために、苦境にある騎士や貴族たちに声をかけているそうです。支援も行っていますよ」
「ふ~ん」
善人のあいつらしいわ。やっぱり、親衛隊を用意したのは正解だったな。
ユリーシアがいても、どうせ軍隊として体裁を保つくらいしか出来ないだろ。
「ロゼッタ様は丁寧に調査を行っていますから、ばらまきとは違いますけどね」
「どうでもいい。何か問題が出そうなら教えろ」
「承知しました」
天城が頭を下げ、そして上げると俺を見てくる。
「どうした?」
「いえ、こうして旦那様の側にいると、昔を思い出してしまいますね」
「昔?」
「はい。随分と長くお側で仕えさせていただきました」
思えば百年以上になるのか? 確かに長い付き合いだ。
ただ、一番がブライアンというのがちょっとなぁ。
「これからもよろしく頼むぞ」
「――はい」
シエル(#゜Д゜)「お兄ちゃんがお姉ちゃんになるなんて、私は絶対に認めないから!」
ブライアン(´;ω;`)「――リアム様の中で、このブライアンの扱いが酷くて辛いです」
ブライアン(´・ω・`)「さて、本日で八章は終了となります。まさか、他作品の宣伝のための本作が、本作のために宣伝するという意味不明なことになり、このブライアンも驚きました」
ブライアンヾ(*´ω`*)ノ「【俺は星間国家の悪徳領主! 1巻】が好評ということで、このブライアンは嬉しく思いますぞ。【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 6巻】もよろしくお願いします」
ブライアン(*´ω`)「俺は星間国家の悪徳領主!1巻 ですが、書籍化にともない大幅に加筆しております。Web版で楽しまれた読者の皆さんも楽しめるようになっております。是非、ご購入をご検討ください」
ブライアン(*´ω`*)ノシ「それでは皆様、次回は九章でお目にかかりましょう」
――八章はいかがだったでしょうか?
7月25日 俺は星間国家の悪徳領主! 1巻 発売!
7月30日 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 6巻 通常版&限定版 発売!
8月7日 コミカライズ版 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 4巻 発売!
――と、出版ラッシュになってしまいました(^_^;
両シリーズ、好評のようで作者としては大変嬉しく思います。これも読者さんのおかげですね。
ありがとうございます(*^▽^*)
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レビューもお待ちしております。
※ただし、規約は守ってね。
次回、九章はまだ未定ですが、年内には更新したいと考えています。
それでは、今後とも応援よろしくお願いいたします!