覇王の娘
【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】が【重版】することになりました!
今回は6巻と一緒に4巻も重版します!
発売してすぐに重版……本当にありがとうございますヽ(*´∀`)ノ
グドワール覇王国の使節団が、惑星アウグルに来たのは三ヶ月後のことだった。
宇宙港に乗り込んできた使節団は、思ったよりも普通の格好だった。
もっと修羅みたいな連中が来ると思っていたのに、普通の連中だった。
首都星から派遣された役人たちが、交渉を行い停戦するための条件を決めていく。
俺の出番? ――そんなものはない。
これは帝国と覇王国の問題だ。
敵が俺を指名したから参加しているだけで、発言権はない。
発言もしない会議に連日参加させられ、派遣された役人たちが覇王国との間に三十年の停戦期間を得ることに成功したと喜ぶ姿を見せられた。
長いようにも感じるが、この世界では長くも短くもない。
交渉が終われば、次はパーティーが開かれる。
そこだけは俺の出番というか、宇宙港を管理している俺に「パーティーの用意をするように」と命令が出ていた。
パーティーの準備はウォーレスに丸投げしておいた。
◇
パーティー会場で俺は、隣に着飾ったマリオンを侍らせていた。
ドレス姿が落ち着かないのと、俺への苛立ちから険しい表情をしている。
「そんなに女物の服装が嫌いなら、性別を変えろよ」
この世界では性別だって選べる。
それをしなかったマリオンの言い訳は面白かった。
「僕は今の自分が好きですからね。今の性別に不満を持ったことはありませんよ」
「女が好きなのに?」
普段から「女を食い散らかしている!」みたいに言っていたから、男になりたいのかと思っていたがそうではなかった。
「女の自分で女の子を愛したい。それが僕の願いです」
「理解できないな」
「そうでしょうね」
マリオンは自分の性別が好き。でも、女の子も好き。
だから、そのまま当主の地位を狙ったようだ。
「大人しくしておけば当主になれたのに、馬鹿な奴だな」
「――あんたのせいだよ」
恨みがましい声を出すマリオンは、俺がラングラン家のランディーにやった悪戯を聞いて悔しがっていた。
マリオンが勝てると見込んでいたランディーは、最初から俺に負けていた。
悔しがるマリオンを見ているのは気分が良い。
俺を利用しようとする女は嫌いだが、悔しさを見せてくれるから気分がスッキリする。
――そして、こいつは利用価値があった。
「それで覇王国の目的は?」
「いきなり仕事の話ですか? 相変わらず真面目ですね」
「生かしてやったんだ。俺のために働け」
「言ってくれますね」
「頼むよ後輩。いや、マリオンちゃん」
「その呼び方は止めて欲しいですね」
「なら、さっさと報告しろ」
パーティー会場に呼び出した理由だが、蚊帳の外に置かれたのが悔しかったので個人的に色々と調べてやった。
現地の人間であるマリオンには色々と伝手があり、それを使って調べさせた。
「――停戦で利益があるのは、別に帝国だけではないようです。王太子イゼル殿が亡くなられた後ですけど、軍をまとめたのは血を分けた肉親たちだそうですよ」
総大将が討ち死にしたのに、覇王国の軍隊はその後も戦って帝国軍を破っている。
その理由が、イゼルの肉親たちが奮戦したおかげらしい。
「兄弟愛ってやつか?」
「覇王国を理解していませんね。総大将が死んだと聞いて、その下の艦隊を率いる司令官たちが何と思ったか知っていますか? ――ここで活躍すれば次は自分が王太子になれる、ですよ」
イゼルの死を悲しむことはなく、むしろラッキーと考えていたわけだ。
やっぱり覇王国って駄目だな。
マリオンは何も知らない中央から派遣された官僚たちを見ている。停戦期間をもぎ取れたと浮かれているのが、腹立たしいのだろう。
「もっと詳しく調査をすれば、領地だって少しは取り戻せたでしょうに」
これは官僚たちが無能という話ではない。領地を奪われて無能に見えるが、彼らからすれば国境の領地がいくらか削られようが、覇王国相手に戦争をしない方が利益は大きいからだ。
他国との国境が気になって仕方ないだろう。
いずれ取り戻せばいいとか、いっそそのままでもいい、というのが彼らの本音だ。
「イゼルの後釜を狙っているわけか」
「覇王国は、ここから骨肉の争いが待っていますよ」
そんな事情で停戦を申し込んできたのかと呆れる。
話し合っている俺たちのところに、背の高い女がやって来る。
黒のスーツはスカートではなくパンツで、鍛えている体つきをしていた。
銀色の長い髪が歩くとサラサラと揺れている。
鋭い目つきに、青い瞳は力強さを感じさせる。
気の強そうな美女が俺たち二人のところにやって来ると、マリオンは趣味ではなかったのか視線をそらしていた。
相手の女性はマリオンの態度を気にも留めない。
「連れが悪いね」
マリオンの態度を謝罪すると、相手が許した。
ただ、興味は俺にあるようだ。
「こちらも、その女には興味がない。我の興味があるのはただ一人――貴公だ」
随分と独特な口調の女性は、それが似合うような雰囲気を持っている。
武人、という印象が強い見た目をしているが、中身も同様のようだ。
「何の用だ?」
か弱い女性を相手にするように接すれば、きっと激怒するタイプだ。そう思って口調を変えてやれば、嬉しそうな顔をする。
ただ、笑みはどこか獰猛な獣という雰囲気があるけどな。
「王太子を殺した男をこの目で見たかった。あれは、妹の私から見ても傑物だった。兄は我の誇りだったよ」
そんな優秀な兄を殺した俺に、決闘でも挑むのかと思っていたら――予想の斜め上を行かれてしまう。
「感謝している」
「は?」
いきなりお礼を言われて困惑する俺だったが、マリオンの方も同様だ。聞き間違いをしたかと混乱している。
「ありがとう。兄を殺してくれて」
「お前、兄貴が誇りだと言わなかったか?」
「言ったな。我は兄を尊敬している。それは今も変わらない。本来なら、兄を殺すのは我だったが――兄よりも強い男がいたと知れた。やはり宇宙は広いな」
先程と同様に興奮しているが、俺を見る目が熱っぽい。
今にも告白してきそうな乙女の顔で、彼女は言う。
「我が這い上がるまで待っていろ。今度は我がお前を殺す。それから、遺伝子をくれ」
「――何言ってんだお前」
いきなり現れた美女が、俺の中でティアやマリーと同じカテゴリーに分類された。どうして見た目はいいのに、残念な奴らばかり集まってくるのか?
「強い遺伝子が欲しい」
「断る」
「何故だ?」
本当に不思議そうに首をかしげる女性を前に、マリオンが咳払いをする。
「華やかなパーティーでするような話題じゃないね。これ以上は無粋だと思うよ、覇王国の姫君」
マリオンの言葉に俺は驚いた。
え、こいつが覇王国の姫なの!? 確かにイゼルの妹と名乗っていたが、義兄弟的な何かではなく? 本当に?
女性が小さく溜息を吐き、残念そうにしていた。
「失礼した。しかし、我の国では普通の会話なのだが、余所では通じないのか。これがカルチャーショックというやつだな」
「ショックを受けたのは俺の方だよ」
初対面の相手に遺伝子をくれとか、どうしたらそんな思考になるのか?
女性がここではじめて名乗る。
「我は【アリューナ】だ。気が向いたら覇王国に来い」
イゼルの妹アリューナが去って行くが、その背中に俺は呟く。
「絶対に行かない」
ここ最近で一番驚かされてしまった。
宇宙は広いな。いきなり遺伝子を寄越せと言われたのははじめてだ。知らない間に遺伝子を回収された経験はあるけどな。
マリオンが引きつった笑みを浮かべている。
「思い出しましたよ。覇王国では強者の遺伝子を欲しがるそうです」
「先に言えよ」
「いえ、僕もはじめて遭遇したもので。リアム先輩、覇王国に行けば大人気ですよ」
お断りだ。
「それで、リアム先輩は首都星にはいつ戻るんですか? 僕も連れて行ってくださいよ。誰かさんのせいで、実家に居場所がないんです」
「自業自得だ。だが、戻るなら支度を済ませろよ。すぐに出発するからな」
◇
首都星の後宮。
クレオが暮らしている高層ビルにやって来たのは、激怒したアナベル夫人だった。
「これはどういうことなのか説明しなさい!」
アナベル夫人は、実家の跡取りである甥っ子のランディーが修業のやり直しが決まって憤慨していた。
本人の心配ではなく、自分の醜聞に関わってくるためだ。また、ラングラン家から抗議を受けている。
クレオは執務室で電子書類を処理していたが、手を止めて顔を上げる。
「横領は罪ですよ、母上」
「誰もがやっている事でしょう! 慣例を大げさに騒いで、それで自分の後ろ盾を失うなんて馬鹿な真似をして!」
「馬鹿、ですか」
クツクツと笑うクレオを見て、アナベル夫人は背筋が震えたようだ。
赤い顔が青くなる。
その様子を見て、クレオはゆっくりと説明する。
「最初からラングラン家は当てにしていませんよ」
「何ですって?」
「調子が良くなればすり寄ってくる。そのような態度で、信用できると思っていたのですか? 俺が過去を水に流し、全てを受け入れるとでも?」
アナベル夫人は、クレオの雰囲気が変わった事もあり言葉を詰まらせる。
その様子を見て、クレオはアナベル夫人に告げた。
「俺が喜んであんたに従うと本気で考えていたなら、お目出度い頭をしているな」
「親に向かって何て口の利き方をするの! そもそも、お前なんか――」
アナベル夫人が言い終わる前に部屋に入ってきたのは、姉のリシテアだった。
「クレオ、バンフィールド伯爵が到着した。すぐに面会したいそうだ」
リシテアがリアムの名前を出したことで、アナベル夫人も気が付いた。
「まさか、私たちを罠にはめたの?」
クレオは鈍い人だと思いながらも説明する。
「そうですよ。俺がバンフィールド伯爵よりも、ラングラン家を優遇すると本気で考えていたのでしょうけど、普通にあり得ません」
「ち、血の繋がりを無視して――」
クレオは冷たい笑みを浮かべた。
「――血の繋がった者たちで殺し合っているのに、何を言っておられるのですか?」
クレオがアナベル夫人を置いて部屋を出ていこうとする。だが、それに腹を立てたアナベル夫人がクレオに言うのだ。
「お前が思っているよりも帝国の闇は深いわよ。いったい誰がお前の命を狙っているのか知れば、きっと絶望するわ」
笑い出すアナベル夫人を残し、クレオとリシテアは部屋を出ていく。
◇
「今回は助かったよ」
アナベル夫人の次にクレオが応対したのは、リアムだった。
リアムは椅子に座って紅茶を飲んでいる。
「こっちもランディーに悪戯が出来て気分が良いので問題ないです」
職場を一つ潰してこの言い草である。
クレオは内心では、そんなリアムが羨ましくて仕方がない。
(君はいつも余裕がある。どんなことにも動じないな)
クレオは今回の一件について話をする。
そもそも、クレオも今まで何もしてこなかったラングラン家と、バンフィールド家を天秤にかけるようなことはしない。
最初からリアムに知らせて、二人で対処を考えていた。
「ラングラン家が俺の後ろ盾になる話をした際、君は好きにさせろと言っていたね。こうなることを予想していたのかな?」
リアムはカップを置くと、面倒なことをした理由を話す。
「ラングラン家の裏にいる後ろ盾を探っていましたよ。カルヴァンかと思いましたが、どうやら違うようです」
「――カルヴァン兄上も大変だよ。戦争に負けて、君が総大将を討ち取ったから余計に立場が悪くなっている」
カルヴァンが負けただけなら何の問題もなかったが、リアムがイゼルを討ち取ってしまったために面倒になっていた。
最初からクレオを出していれば、戦争に勝てていたのではないか? そんなことを言い出す者たちが増えていた。
「カルヴァンは運がないですね。疫病神でも側にいるのかもしれません」
リアムの冗談にクレオが笑う。
ただ、その次の言葉には笑えなかった。
「あ、そうだ。ラングラン家の後ろ盾ですが、皇帝陛下でしたよ」
「――何だと?」
「うちの暗部がしっかり調べてくれましたよ。アナベル夫人も皇帝陛下が後ろ盾なら強気な態度を見せるわけですね」
何事もないように言うリアムを前に、クレオは驚きを隠せない。
「父上が俺を?」
「これで本当の敵が分かって良かったですね」
リアムは「真の敵は皇帝陛下ですか~」とのんきに言っている。
「――父上が敵になるなら、俺の地位など簡単に吹き飛ぶぞ」
「そうさせないための俺ですよ。まぁ、今は力が足りませんからね。しっかりと勢力拡大に努めましょう。――それはそうと、随分と貧乏貴族たちに恩を売っているそうですね」
リアムの目つきが鋭くなると、クレオはこれまで考えてきた言い訳をする。
「ラングラン家の目を誤魔化すためだよ。君からの支援を散財するように使い、関係が悪化しているように見せていたのさ。姉上にも今回のことは黙っていたから、演技をして見せたのさ。だが、君にまで黙っていたのは謝罪しよう」
「別に構いませんよ」
リアムと手を組んでいたクレオだが、弱小貴族たちに支援をしていたのはクレオの意志だ。そこには、明確な目的がある。
ラングラン家への目くらまし、ではない。
(本当に君は強いよ。何でも出来て、俺など――私などただのお飾りなのだろうね。だが、いつかは――)
クレオがラングラン家を頼らなかった理由は、リアムに勝てると思わなかったからだ。
そして、クレオは今回の一件を利用して貧乏貴族たちに恩を売った。
いずれ自分の影響力を強めるために、準備に入っていた。
クレオの前で紅茶を飲むリアムを前に、笑顔を向けながら腹の中では冷徹な顔をしていた。
(いずれ君に勝たせてもらおう。俺はお飾りのまま終わらない)
若木ちゃん( ゜∀゜)「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です が 【重版】決定よ! 今回は6巻と一緒に4巻も重版するの! 見たか! これが私の宣伝力よ!」
若木ちゃん(・∀・)「【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】シリーズは好評発売中! 今週はコミカライズ版の4巻が発売されて、23話も公開されるわ」
若木ちゃん(;・∀・)「今回の23話は50pに迫る勢いで、大ボリュームで苗木ちゃんもビックリしたわ。是非とも楽しんでね。あと、コミカライズ版 4巻も購入してね」
ブライアン(´・ω・)「先生、こちらです」
ユメリア(´∇`)「若木ちゃんを迎えに来ました!」
若木ちゃんΣΣ(゜Д゜;)「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?!!?!??????」