真の勝者
乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 6巻 が 発売中です!
限定版が品薄ということで、ご迷惑をおかけしております(^_^;
ドラマCD効果は大きいですね。
前書きを見ている読者さんたちの中には、ドラマCDを楽しまれた方もいるのでしょうか? 楽しんでいただけたら幸いです。
バンフィールド家の艦隊は惑星アウグルへと帰還した。
三万隻の艦隊は数千隻を失い、今は葬式を行っている。
喪服を着用する俺は、慰霊碑の前に立っている。
クラウスが話しかけてきた。
「慰霊碑の前で何を考えているのです?」
慰霊碑を眺めている俺を不審に思ったのだろう。
普段は悪徳領主のくせに、こういう時だけ真面目になったのか、と。だが、俺にとっては死人こそが信じられる。
彼、そして彼女たちは俺のために死んだ。
それは忠誠心が本物だったという証拠だ。
きっと嫌だった奴もいるだろうが、俺のために死んだという意味では同じだ。彼らには俺を罵る権利があるし、恨んでもいい。
「何でもない」
こんな俺が「死者のために祈っている」と言っても信じないだろうし、死んでいった奴らには今更という話だ。
これは俺の自己満足に過ぎない。
「遺族には十分に報いるぞ」
「もちろんです」
慰霊碑に背を向けて歩き出せば、クラウスや護衛の騎士たちが俺に付き従う。
そこに、喪服姿のウォーレスがやって来た。
「リアム、大変だ!」
「どうした?」
「首都星で大問題が発生した! ほら、リアムがいた部署が汚職を告発されて取り潰しが決まったんだよ!」
ウォーレスが端末を操作して、俺に首都星で起きた汚職事件の記事を見せてくる。
俺が異動前にいた職場だ。
「あ~、そのことか。そろそろ修行期間も終わるからな」
「いや、どういう意味だよ? リアムのいた職場が取り潰されて一大事だよ。下手をすれば、帝国の調査官たちがここに乗り込んでくる」
ウォーレスは一大事だと騒いでいるが、心配はいらないので俺は歩き出す。不満そうにウォーレスが付いてくるので、理由を話してやった。
「内部告発をしたのは俺だ」
「え?」
「俺を追い出した職場が気に入らないから、汚職の証拠をまとめてやったんだよ。定時までに終わらせるのに苦労したぞ」
内部告発してやると決めたら、モチベーションが上がって仕方なかった。
立つ鳥跡を濁さずという言葉があるが、俺は職場を潰してやった。
俺を追い出す奴らはいらないし、そもそも俺に汚職の証拠を掴まれる方が悪い。
ウォーレスが頬を引きつらせる。
「気に入らないからって潰したのか?」
「それもあるが、本命は嫌がらせだ。――ラングラン家のランディー君は、これのおかげで大変だろうな」
俺と同様に修行がそろそろ終わろうとしているランディーは、今回の事件で修行期間がどうなるか楽しみだ。
慣例なら汚職に関われば、修行のやり直しだったか? あいつが俺に仕事を丸投げしてきた際に、それとなく仕込みもしたから――今頃はやり直しが言い渡されているかな?
この場合のやり直しは、不可能である幼年学校は省いて全てだ。
つまり――士官学校からのやり直しを意味する。
俺の職場にいた修行中の貴族たちは、全員揃って修行のやり直しだ。
ウォーレスがドン引きしている。
「君は鬼だな。ランディーの年齢を考えると――士官学校では浮くぞ」
「安心しろ。汚職でやり直しの時点で浮く」
基本的に二百歳を超えて修行が終わっていないと、周囲は「ないわ~」という雰囲気を見せる。しかも、汚職でやり直しという罰ゲームみたいな状態だ。
ただ、汚職をしても修行が終わっていないなら見逃されることも意味しており、帝国がどれだけ貴族に甘いのかが見て取れる。
やはり権力者は最高だな。
◇
首都星。
ランディーが修行として配属された部署は、机や椅子――全ての備品が取り払われ、もぬけの空になっていた。
汚職を調査する役人が、集めた貴族の子弟たちを前に宣言する。
「本来であれば帝国貴族としてあるまじき行為だ。だが、君たちは修行を終えていない半人前。修行のやり直しをすることで、今回の一件は大目に見よう」
宰相直属の官僚たちを前に、ランディーは悔しさに眉間にしわを寄せていた。
「ラングラン侯爵家の俺をこんな目に遭わせるというのか?」
その言葉に、官僚たちは鼻で笑う。
それがランディーの神経を逆なでるが、次の言葉で気にならなくなった。
いや、敵意を向ける相手が変わった。
「バンフィールド伯爵から伝言ですよ。『あと少しだったのに残念だったな』だそうです。異動したバンフィールド伯爵は、皆さんと違ってしっかり修行を終えて一人前になりました。立派だと思いませんか?」
かつてのリアムの同僚、後輩、先輩たちを蹴落とし、修行のやり直しをさせておいて自分だけ終えている。
リアムが高笑いをしている光景を想像し、ランディーの顔が赤くなった。
「あ、あいつが?」
「えぇ、バンフィールド伯爵が内部告発をしてくれましてね。あなたたちがどんな顔をしていたか教えて欲しいそうです。あ、皆さんこっちを向いてください」
内部告発の見返りにリアムが要求したのは、ランディーたちの悔しがる顔――つまりは画像だけだった。
そんなもののために、自分たちを再修行させるのかと皆が憤る。
「図に乗りやがって。こっちは派閥の――」
ランディーがそう言うと、部屋に入ってくる人物がいた。
首都星でリアムの代わりに動いている――ロゼッタだった。
周囲を護衛に囲まれており、その中には騎士服に身を包んだティアとマリーの姿もある。
リアムが不在であるため、メイドから解放されてロゼッタの護衛をしていた。
「ランディー殿、派閥の何ですか?」
「お、お前は――リアムの婚約者」
「ロゼッタです。お見知りおきを」
ロゼッタの声が殺風景になったフロアに響く。
全員の視線が集まったところで、ロゼッタが端末を操作する。
「クレオ殿下からのお話があるそうですわよ」
椅子に座ったクレオの立体映像が表示されると、ランディーが慌てて姿勢を正した。
「クレオ殿下、これは――」
言い訳をする前に、クレオが右手を挙げて言葉を遮った。
『ランディー殿、君には失望したよ。修行をやり直してくるといい』
「待ってください、殿下! これはリアムの――」
『バンフィールド伯爵の罠だと言いたいのかな? この程度の罠を見抜けない君が、派閥をまとめていけるわけがないだろうね』
失望されたと知ったランディーが、悔しさに俯く。
『バンフィールド伯爵は修行が終わって首都星に戻ってくる。代役ご苦労だったね』
クレオの立体映像が切れると、ランディーが膝から崩れ落ちた。
「どうしてだ。俺は――ラングラン家の跡取りだぞ。クレオ殿下とも縁が深いラングラン家を、切り捨てるというのか?」
ロゼッタがランディーを見下ろしている。
「勝ち馬に乗ろうとすることを悪いとは言わないわ。けれど、タイミングもその後の態度も失敗だったわね」
本来なら頭を下げて派閥入りし、リアムの下につく方が無難だった。それを、クレオの実母の実家という立場を利用したのがいけない。
これが最初からクレオを支えていれば――というのは、無駄な仮定だろう。
「――まだだ。まだ終わらないぞ」
ただ、ランディーは諦めていなかった。
ロゼッタは用件が終わったので、背中を見せて部屋を出ていく。
「そうですか」
もう、ランディーには興味を示してもいなかった。
◇
ロゼッタがもぬけの空になったビルを出ると、秘書をやっていたユリーシアが端末を操作しながら話しかけてくる。
「このビルは、汚職があってイメージが悪いから建て直すそうですね」
軽いノリでビルを建て直す話に、ロゼッタは興味を示さなかった。
「それよりも、こっちはどうなっているのかしら?」
視線を向けたのは、ロゼッタが世話になっていた職場だ。
女性しか入れないフロアで仕事をしていたが、ロゼッタの方も修行が終わる。
その成果は――。
「大丈夫ですよ。カルヴァン派の上司は左遷で、クレオ派閥で役職を埋めておきましたから。いや~、三年がかりで七割がうちの派閥ですよ」
――有能なユリーシアの活躍もあって、ほとんどの役職をクレオ派閥が握っていた。
ロゼッタたちが職場へと戻ろうとすると、クビになった元先輩がやって来る。
「あんたよくも!」
乱れた髪に酒の臭いをさせていた。
ロゼッタに近付く前に、マリーに遮られる。
それでも、元先輩は我慢できないのかロゼッタに絡んでくる。
「こんなことをしてただで済むと思わないでよ!今度はあんたが追い落とされる番よ。皇太子殿下の派閥が、このまま黙っていると思わないことね!」
彼女がクビになった理由だが、普通に横領だった。
貴族たちにはその認識すらないだろうが、勝手気ままに振る舞って好き勝手にしている。
そのツケを支払ったに過ぎない。
「そうですか。私はこの職場に未練がありませんので、修行も終わったことですから退職しますけどね」
自分がこだわっていた職場を興味もなく退職すると言い出すロゼッタに、元先輩は唖然として――少し間を空けてから金切り声でわめき立てた。
それを騎士たちが遠ざけていくので、ロゼッタが職場へと戻る。
ユリーシアが肩をすくめていた。
「恨まれましたね」
「やったのはあなたでしょうに」
「本気を出せと言われたので」
普段は駄目なところが目立つユリーシアだが、やれと言われればほとんどをこなしてしまう。それが、ロゼッタには普段から手を抜いているように見えていた。
「今後は言われる前に本気を出しなさい」
「適度に手を抜くのがいいと思いますけどね。ロゼッタ様は肩に力が入りすぎですよ~」
「あなたは普段から手を抜きすぎです!」
二人がそんな会話をしていると、ティアが報告を受けていた。耳に手を当てて、真剣な顔をしている。
ロゼッタがそんなティアの様子が気になった。
「どうかしましたか?」
ティアは耳から手を離すと、その表情は焦っているように見えた。
「――覇王国との戦争ですが、帝国軍が敗北しました。カルヴァン殿下の本軍は撤退し、軍にも大きな被害が出ています」
「え?」
リアムが派遣された国境での争いは、覇王国の勝利と伝えられてロゼッタの表情が青ざめる。
◇
惑星アウグルの宇宙港には、傷ついた艦艇が次々にやって来る。
近場で補給と整備を受けられるような場所を探し、さまよった艦艇たちが集結していた。
だが、予定を超えた数が集まり、宇宙港は混雑している。
俺の隣にいるウォーレスが、帝国軍の艦艇を見てゴクリと唾を飲み込んだ。
「どうして総大将を失って勝てるんだよ。イゼルはリアムが倒したんだぞ」
帝国軍が敗北した。
俺が戦っていた戦場は勝利したが、それ以外の戦場では帝国軍が敗北していた。
カルヴァン派の貴族たちも奮戦したようだが、覇王国軍の猛攻には抗えず撤退を決めてしまった。
「余裕のないカルヴァンが撤退を決めたか」
次々に報せが届くのだが、その内容を確認する限り――不自然な動きがあった。一部の貴族たちが、惑星アウグルに向かう覇王国軍を見逃していたようだ。
勝ったからといって許すつもりはないが、そんなことをしでかした馬鹿共が死んでいてはどうしようもない。
ウォーレスが俺にすがりついてくる。
「リアム、逃げよう! ここは後方の支援基地じゃない。もう最前線だ! 兄上だって撤退したんだ。私たちが逃げても誰も文句は言わない」
カルヴァンは優秀だったな。帝国軍の被害はそこまで多くはないが、勝てないと判断すると被害を最小限にするために撤退を決めた。
おかげで、惑星アウグルは最前線の基地になってしまった。
そして、置き土産を残していった。
「無駄だ。首都星から辞令が出た」
空中に浮かんだ電子書類を表示する小窓を、ウォーレスに向けて手で払う。すると、ウォーレスの顔の前に移動した。
内容を確認したウォーレスが白目をむいて気絶し、倒れてしまう。
そこに書かれていた内容は、修業が終わって一人前になった俺を最前線に配置するという内容だった。
覇王国の防波堤をやれという命令だ。
「帰ってランディーたちを煽るつもりだったのに、邪魔してくれたな」
カルヴァンは勝てないと判断し、俺に国境を押しつけて逃げ出しやがった。
これからどうするかと思案していると、慌てたクラウスがやって来る。
「リアム様、覇王国から使者を送ると連絡がありました」
「覇王国から?」
「はい。停戦に向けた話し合いをしたいと」
帝国から領地を大きく削り取ったので、ここで戦争を終わらせたいということだろうか?
「それから、覇王国は王太子イゼルを討ち取ったリアム様を名指しで交渉役に指名してきています」
「敵はもう戦勝国気分か? 気の早い連中だな」
「どうされますか?」
クラウスも冷や汗を流している。
ただ――面白そうなので交渉に参加してやることにした。
「首都星に連絡をしろ」
まったく、大規模な艦隊戦に勝利をしたと思ったのに、全体で見ればそれは一部の話に過ぎなかったわけだ。
俺が勝っても、他の戦場全てで敗北したら何の意味もない。
――だが、カルヴァンにとっても今回の一件は賭けだな。
ここで持ち直せないなら、皇太子の地位も失うだろう。
「――あ、そうだ。クラウス、ウォーレスを部屋に連れて行け」
「は、はぁ、了解しました」
クラウスに抱えられてウォーレスが連れて行かれた。
若木ちゃん( ゜∀゜)「Web版で完結して活躍の場がなかろうと、後書きを乗っ取って活躍し続ける私こそが乙女ゲー世界はモブに厳しい世界のアイドルよ! だから、今日も元気に宣伝をするわね!」
若木ちゃん(*´∀`)「『コミカライズ版 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 4巻』の発売日は『8月7日』よ。今週はコミカライズ版23話も更新で、ページ数は50pの大ボリューム!」
若木ちゃん(*´∀`*)「俺は星間国家の悪徳領主! で興味を持った読者さんは、コミカライズ版から入るのもいいかもね。――ちなみに、苗木ちゃんである私はまだ登場してこないから、ガッカリしないでね」
若木ちゃん(´∀`*)ノシ「シリーズ累計30万部の『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』をよろしくね!」
ブライアン(´;ω;`)「……辛いです」