リアムVSイゼル
来週は「コミカライズ版 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 23話 作画:潮里 潤先生」が更新予定です。
コミカライズ 4巻の表紙は「ミレーヌ」! 8月7日発売予定ですので、こちらもよろしくお願いします。
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アヴィドが突撃したことで、覇王国軍の陣形が崩れていく。
だが、全体で見ればそれは僅かな範囲の出来事だ。
六十万を超える軍勢に、三万の軍勢が突撃したところで勝てるわけがない。
覇王国軍の狙いは、あくまでも十万の帝国軍――そして、その後方で待ち構えている惑星アウグルにいるクラウスだった。
そう、覇王国軍の狙いはクラウスだ。
カルヴァンでもなく、リアムでもなく、クラウスだ。
何故か?
それはクラウスという騎士が、とても有能だからだ。
クラウスを討ち取れば名は確実に広がる。
地方の有名人から、全国区の有名人に格上げになるようなものだ。
そして、クラウスを失った場合、帝国軍は人材面で大きな損失が出ると覇王国軍は考えている。
クラウスのように何百万の艦隊を指揮し、勝利できる騎士は貴重だ。
替えの利かない人材である。
だが――突撃してきたのが、そのクラウスが指揮するバンフィールド家の艦隊と聞けば、覇王国も戸惑う。
ブリッジにいたイゼルは、クラウスの突撃に衝撃を受けていた。
「たったの三万隻でこの俺が率いる六十万に挑むだと。智将と思っていたが、どうやら猛将の類か?」
目をギラギラと輝かせ、クラウスという騎士が気になって仕方がない。
食い破ると宣言して突撃してきた覇王国軍に、クラウスは自ら打って出てきた。
何よりも――。
「主君すら手駒にして勝利をもぎ取るその姿勢――気に入った! 帝国にはもったいない騎士、いや――将軍だ!」
――イゼルはクラウスが欲しくて仕方なかった。
そもそも、連合王国を破っているのにリアムの騎士――つまりは陪臣扱いなのが気に入らない。強者には強者に相応しい地位がある。
それがイゼルの持論だ。
部下の一人がイゼルに報告してくる。
「その主君であるバンフィールド伯爵ですが、機動騎士で先陣を切って我が軍に多大なる損害を与えています」
「クラウス殿と比べては物足りないが、敵も見事な騎士だな。我が軍の相手にとって不足なし! バンフィールド家の名は、俺も心に刻もう」
リアムの扱いは強い騎士止まりだった。
だが、次々に予想外の報告が舞い込んでくる。
「イゼル様! イゼル様直轄の十二天の一人ハジテーメ様が討ち死に!」
「何だと?」
十二天とは、イゼルが集めた騎士たちだ。
共に戦場を駆け抜けた猛者たちである。
イゼルの軍勢では中核を務めており、これまでにも多くの敵を屠ってきた一流の騎士たちだ。彼らは覇王国が造り出した最新鋭の機動騎士が与えられており、簡単に負けるような者たちではない。
イゼルは口角を上げた。
「誰が討ち取った?」
「リアム・セラ・バンフィールドです!」
イゼルの周りにいる者たちが、顔を見合わせて――そして笑みを浮かべる。
「強いな」
「伯爵にしておくのがもったいない騎士だ」
「わしがもっと若ければ、自ら討ち取りに行くものを」
強者が現れて興奮する一同。
イゼルが両手を広げる。
「まさに強敵! ここは俺自らが相手をしよう!」
まさかの総司令官の出撃宣言に、ブリッジのクルーたちが止めに入るかと思えば――逆に歓声を上げた。
「イゼル様が出撃されるぞ!」
「覇王国最強の戦士が出撃だ!」
「全軍に通達せよ!」
盛り上がる覇王国軍。
モニターに映し出されるアヴィドは、覇王国軍の機動騎士を次々に撃破していた。
◇
アヴィドに乗って戦場を駆け回っているが、一つ気が付いたことがある。
「覇王国軍はおかしい」
帝国でも鎌倉武士や島津みたいな扱いを受けていたが、その理由を実感していた。
アヴィドが左手で敵の機動騎士を掴み、握り潰して投げ付ける。
すると、次々に敵が群がってくる。
それらをブレードで斬り裂き撃破していっても、まだ群がってくる。
圧倒的な性能差を見せつけても、覇王国軍の機動騎士たちは向かってくる。
向かってきた機動騎士の頭を踏みつけるように蹴り、コックピットを撃ち抜いてやった。アヴィドの後方にはいくつもの魔法陣が浮かび、そこから銃口が敵を狙っている。
常にアヴィドの周りでは敵が撃破され爆発が起きているのに、それでも群がってくる。
海賊たちならとっくに逃げ出している頃だ。
「数の有利を悟っているからか? それにしても、こいつらには恐怖がないのか?」
近付いてきた機動騎士をレーザーブレードで両断し、その場を離れた。
大型のアヴィドを追いかけてくる敵機を引き離した俺は、切り札を使用することにした。
「お前ら雑魚にいつまでも関わっていられるか。アヴィド――コネクトだ」
『コネクト』
アヴィドの両目が輝き、後方に巨大な魔法陣が出現する。
そこから姿を見せる巨大戦艦は、アヴィドの本体だ。
巨大戦艦と合体するアヴィドに敵が群がってくるが、戦艦の数々の武器がそれらを迎撃していく。
姿を変えて人型になる巨大戦艦。
バークリーファミリーを壊滅させるために使用した俺の切り札だ。
「全て吹き飛ばせ」
巨大戦艦が人型になり、各部から攻撃を開始すると周囲にいた機動騎士や敵戦艦が次々に爆発していく。
巨大な腕にブレードを持たせ、近付いてきた敵艦を叩き斬った。
アヴィドに向かって覇王国軍の攻撃が集中するが、そもそもレアメタルの塊である。
ゲームに出てくる希少金属――アダマンタイトやオリハルコン製の装甲は容易に貫くことが出来ない。
胸部装甲が開き、そこにエネルギーがたまっていく。
「なぎ払え」
俺の言葉通りに、胸部から主砲を放ったアヴィドはそれを箒で払うかのように動かした。ビームの光が敵を払うように動き、遠くの敵まで破壊していく。
圧倒的な性能の差。
これが強者というものだ。
「お前らなんか、最初から敵じゃないんだよ!」
コックピットの中で高笑いをしていると、アヴィドが全身から攻撃を放つ中を突撃してくる機動騎士がいた。
一機だけで、ビームやレーザーなどの光学兵器を避け、ミサイルも避ける。
無茶苦茶な軌道が光を残して線を引く。
その線が複雑で絡まりそうだという感想を抱いている間に、敵はアヴィドまで接近してきた。
急速に接近してきたその機動騎士は、オープン回線で名乗りを上げた。
『我こそはグドワール覇王国王太子イゼル! リアム・セラ・バンフィールド伯爵に、一騎討ちを申し込む!』
名乗りを上げたイゼルを前に、俺は絶好の機会が転がり込んできたと――思えなかった。あまりにも不自然だ。
王太子が俺の前に出てくる? 本来なら敵の司令官がいる場所に突撃して、大将撃破で戦争に勝利するつもりだった。
それなのに、攻め込んできたのは王太子? 敵の総大将である。
また、総大将が一騎討ちを申し込んでくるなど、一周回ってギャグである。
「この俺に一騎討ちだと? 調子に乗るな」
内心、敵の馬鹿さ加減が怖くなっていた。
お前は俺との実力差も測れないのか? もしかして、名ばかりの王太子か? 実は影武者ではないのか?
ここまで常識が通用しない敵だとは思いもしなかった。
『実力を示せと? 良いだろう』
イゼルの機動騎士が持つのはランスだった。
鋭い円錐状の武器である。
それを横に振り、ポーズを決めていた。
『貴公ならば俺の全力を出すに相応しい! これが俺の――』
「黙れ」
イゼルに向かってアヴィドがビームやミサイルを放つと、爆発が起きた。
戦場で名乗りを上げるとは、どこの世間知らずだ?
やっぱり、覇王国って駄目だわ。
そんな感想を抱いていると、爆発の中からイゼルの機動騎士が姿を見せた。
ただ、大きさがおかしい。
先程よりも大きくなっていた。
『人の口上を邪魔するとは器量の小さい奴だ』
「あ?」
イゼルの乗る機動騎士だが、その姿が変化している。先程の人型とは違い、その姿は背後に六本の腕を持っていた。
巨大化に加え、合計八本の腕を手に入れたイゼルはアヴィドに向かってスピアを構えた。
その八本の腕には、スピア以外にも様々な武器を所持している。
『覇王国の王は最強。そして、王太子は最強の座につくに相応しい戦士に許された称号だ』
何を言い出すのかと思っていたら、自分が最強だと言い出した。
「覇王国の中の話だろう? 最強は一閃流――俺の師である安士師匠だ」
『一閃流の噂は聞いたことがある。君がその流派を名乗るなら――この場で証明することだ!』
イゼルの乗り込んだ機動騎士は、先程よりも更にスピードを上げて動き回った。
巨大なアヴィドでは追いつけない。
小うるさい蝿を追いかけ回すように、アヴィドが攻撃を行えば――どれもイゼルの機動騎士に当たらなかった。
「こいつ!」
『ふははは! 俺の愛機は最強なのさ!』
イゼルの持つ八本の武器それぞれが、強力な攻撃を放ってくる。スピアは投げれば回転して貫通力を高め、そのままアヴィドの装甲を貫いた。
「馬鹿な!」
アヴィドの装甲は希少金属だ。
それを貫くなど考えられなかった。
違う腕が持っていた輪っかのような武器は、投げ付けると数百に増えて襲いかかってくる。
アヴィドの装甲を斬り刻んでいた。
各所に設置された砲台やミサイル発射台――光学兵器を放つレンズは潰された。
コックピット内にアラームが鳴り響く。
『俺の愛機が持つ武器は、どれも古代の兵器だ。そして、俺の乗る愛機も同様に、古代の進んだ技術で建造された機動騎士だよ』
イゼルの乗る機動騎士は、現在では製造不可能な古代技術の塊だった。
◇
案内人は歓喜していた。
「現代の技術では建造不可能な古代の兵器――実に素晴らしいですね。アヴィド以上の性能を持っているのは間違いない!」
アヴィドもとんでもない人型兵器だが、イゼルの乗る機動騎士はそれ以上だ。
アヴィド以上の性能を所持している。
案内人の横で戦いを観戦していたグドワールは、たこ足をウネウネさせていた。
「この俺がイゼルのために用意した機体だ。イゼルは俺が手がけた最高傑作だからな」
最高傑作。
イゼルを生み出すために、どれほどの戦いが必要だったのだろうか? イゼル一人のために、何万、何十万、下手をすれば億単位の人間が犠牲になっている。
イゼルを生み出す環境。
イゼルを育てる環境。
イゼルのために用意した戦場に好敵手。
そのために多くの命が犠牲になっている。
ただ、イゼルはグドワールが用意した命懸けの戦場を戦い抜いた本物の猛者だ。中には、イゼルのように危険な戦場を用意され散っていった戦士たちもいる。
グドワールは興奮していた。
「イゼルはこの戦いが終わったら俺の手駒にする。はじめての手駒だ」
グドワールが育てたお気に入りの戦士。
その完成形がイゼルだ。
強くて当たり前だった。
案内人は口を三日月のように開いて笑い、そして拍手までしていた。
アヴィドがボロボロになっていく姿が、愉快でたまらないのだ。
「エクセレェェェントッ! ついにリアムもここでおしまいですね!」
グドワールがリアムを褒める。
「あいつも悪くない戦士だった。イゼルを完成させるための仕上げに貢献した偉大なる戦士だ」
それはイゼルのオマケという評価だ。イゼルのために今まで生きてきたという存在――そう、グドワールは認識している。
案内人は笑いが止まらない。
「どうだ、リアム! 相手は真の強者で、古代兵器の完全体だ! お前とアヴィドでは太刀打ちできまい!」
案内人とグドワールが眺める戦場で、アヴィドはズタズタに破壊されていく。
◇
バンフィールド家の艦隊には動揺が広がっていた。
『アヴィドのダメージ三十パーセントを超えました!』
『レッドアラートを確認!』
『敵機動騎士へのダメージが通りません!』
ブリッジでは、今まで一度も負けてこなかったリアムとアヴィドの苦戦する姿にクラウスも動揺する。
しかし、こんな時にリアムの代理が動揺していては大問題だ。
「落ち着け! すぐにリアム様を回収に向かう。その後、我々が殿となり、リアム様には離脱していただく」
すぐにリアムを戦場から撤退させようと考えたクラウスだが、何も忠誠心だけでこのような発言をしていない。
今、この段階でリアムが死んだら、各所で問題が次々に噴出する。
バンフィールド家の跡目問題をはじめ、クレオとカルヴァンの派閥争い。
リアムが死ねば、そのために帝国内が混乱するのだ。
ちなみに、生きていても混乱する。
(リアム様さえ生き残れば、バンフィールド家は揺るがない)
バンフィールド家の艦隊もまだ残っている。
クラウスよりも優秀な騎士たちもいるため、人材面でも問題ない。
当主のリアムさえ生き残れば、極端に言えば他の代わりがいるのだ。
ただ、リアムだけは代わりがいなかった。
「リアム様に呼びかけろ。すぐに脱出を――」
すると、リアムの声を拾う。
それはイゼルに向けたオープン回線だった。
『――やってくれたな、雑魚野郎。そこまで調子に乗るなら、本気で相手をしてやるよ』
「な、なっ!? リアム様! いけません。すぐに脱出を!」
リアムがまだ戦闘を継続するつもりであると知り、クラウスも慌ててしまう。
そんなクラウスの気持ちも知らないで、リアムはイゼルに言い放つ。
『捕まえて帝国に引き渡してやろうと思ったが――お前はここで殺す』
その宣言に、イゼルもやる気が出たようだ。
『嬉しいぞ、バンフィールド! 俺の本気を見て、なおそのような態度を見せたのはお前が初めてだ!』
こうして、リアムとイゼルの第二ラウンドが始まる。
若木ちゃん( ゜д゜)「……クラウスさんを失う方が組織的に痛手が大きいと思うの」
ブライアン(´;ω;`)「リアム様と胃痛仲間がピンチで辛いです」
若木ちゃん( ゜∀゜)「ピンチだろうと宣伝するのが後書きのアイドル苗木ちゃんよ! 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 6巻】は好評発売中! 電子書籍で限定版を狙うならBOOK☆WALKERがおすすめよ。BOOK☆WALKERで1~5巻までのセールもやっているから、この機会に揃えたいと思ったら利用してみてね」
ブライアン(´;ω;`) (……リアム様がピンチなのに、この植物は宣伝を止めません。辛いです)