覇王国戦
乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 6巻 こちら【限定版】が品薄状態らしいです。
マイクロマガジン社ストア「通販サイト」にて、若干数が残っているそうなので、書籍で手に入れたいけど地元にない! という読者さんは是非ご利用いただければと思います。
そして「俺は星間国家の悪徳領主! 1」も同様の状況です(;゜ロ゜)
ご迷惑をおかけしております(_ _)
惑星アウグルの宇宙港には、次々に味方の艦艇が集結していた。
その様子を母艦のブリッジから眺める俺は、椅子に座って苛立っていた。
「貴君の策は見事なり。この上は、正面突破にて食い破らせていただく――グドワール覇王国王太子イゼル。――クラウス、随分と高く評価されているじゃないか」
苛立っている理由は、俺よりもクラウスが目立っているからだ。
連合王国との大戦争で活躍したこともあり、クラウスはネームドだ。
それも覇王国ではとびきりらしい。
――どうして俺ではなく、クラウスが有名になっているのか? しかも、カルヴァンよりも価値がある! みたいな敵の反応に腹が立つ。
クラウスはどこか遠くを見ていた。
「連合王国との戦いでは、リアム様は不参加でしたからね。今回の戦いで、リアム様の名前を広めればよろしいかと」
前回は連合王国にわざわざ俺が出向くまでもないと不参加だったが、今になって少しだけ後悔する。
だが、クラウスの言う通りだ。
まともな意見が出てくるから、こいつを側に置いてよかった。これが、ティアやマリーだったら「あいつらぶっ殺してやりますよ!」と、根本的な解決を提示しない。
筆頭騎士をクラウスにして良かった。
「それもそうだな。アヴィドの出撃準備をさせておけ。それから、艦隊はどうなっている?」
「バンフィールド家の三万隻は出撃可能ですが、帝国軍から派遣された少将の艦隊はアウグル防衛を盾に出撃を拒否してきました」
覇王国の大艦隊が迫る中、出撃せずに逃げ支度に入っていた。
まぁ、三千隻では心細いだろう。
俺だって逃げ出す。
クラウスは俺の命令を待っていた。
「――こちらの要請を拒否したという記録は残しておけ」
「出撃させないのですか?」
「邪魔になるから必要ない。指揮下の艦隊に繋げ」
俺の言葉で周囲に数多くの小窓が出現し、映し出されているのは全てバンフィールド家の将官クラスの軍人たちだった。
部下を前に演説をするわけだが、元来――偉い奴の話は長くて聞くに堪えない。
ジョークで笑わせようとするが、失敗すれば愛想笑いをする方が気を遣う。
だが、演説が好きな奴はそれすら心地良い。
自分の権力を実感できるからな。
何を言えば良いか、どう言えば伝わるか? そんなことはどうでもいい。目の前にいる部下たちには、給料分の働きをしてもらう。
そして、俺に愛想笑いをすればいい。
「海賊退治ばかりで腕がなまったお前らに朗報だ。覇王国の方からこちらに出向いてきてくれた。狙いは俺ではなく、ここにいるクラウスなのがしゃくだけどな」
クラウスは無表情だが、俺は部下たちの反応など無視して続ける。
ちゃんと聞いているとか確認しなくていい。聞いていない奴が悪いし、そもそもたいした話をするつもりはない。
偉い奴が「頑張ろう!」と言ったところで、成功するのは一握りの人物たちだ。多くの偉い奴は失敗していることすら気付いていない。
名演説は別だが、俺は名演説をするつもりがない。
自分が気持ちよければそれでいい。
「待っているのは性に合わない。全軍突撃だ」
軍人たちが敬礼するのを見て「あ、こいつらさっさと終わらせようとしているな」と気が付いてしまった。
俺を急かすんじゃない!
腹が立ったから無視して演説を続けてやる。意味のない話をダラダラと続けてやるよ!
「敵は覇王国! 奴らは帝国の領土に大義もなく侵攻してきた連中だ。そんな奴らに相応しい罰を与えてやれ! ――全員、惑星アウグルを見ろ」
ご丁寧に惑星アウグルの縮小された立体映像が、俺の目の前に来る。
俺は惑星アウグルを手で下から支えるような仕草をする。
惑星一つの命運を握っているような感覚だ。
「ここは俺が面倒を見た惑星だ。つまり、ここは今――俺の領地だ! 代官だろうと、自領を守るのが貴族である!」
嘘である。旗色が悪くなったら真っ先に逃げるのが帝国の貴族だ。
「お前らは俺の部下。俺の剣であり盾である!」
道具のようにこき使ってやるという意味を込め、軍人たちを剣と盾にたとえた。
「逆らうな。従え! そうすれば、俺がお前たちに勝利を与えてやる。逃げればこの惑星が敵に蹂躙されるだろう。それだけは何としても食い止める!」
こいつらはきっと、俺が代官だろうと領地を見捨てない素晴らしい領主に見えているだろう。だが、俺の本音は違う。
惑星アウグルには投資し、時間もかけてきた。それが奪われるとか、そんなことは許されない。アウグルの住民が大事とか、そんなことではない。
俺が統治した場所を蹂躙するとか、大罪である!
そして、俺が負けるなどあり得ない。
案内人の加護がある俺が負けるなど、絶対にあり得ない。
それから、一閃流は負けてはならない。
最強であると知らしめなければならない。
「覇王国に俺の名を知らしめろ。奴らに誰が最強なのか教えてやれ!」
軍人たちがピクリとも動かない。――ま、こんなものか。
こいつらもきっと早く終わらないかな~とか、もうメッセージでよくね? みたいに考えているだろう。
俺も聞く側の立場なら同意見だ。
時間も押しているので、今日はここまでにするか。
「――全軍出撃。覇王国の艦隊を叩き潰せ」
俺の言葉で艦隊が動き出す。
◇
覇王国の艦隊が目指すのは惑星アウグルだ。
その進路上にある艦隊は、本部――カルヴァンからの命令がないため、動くに動けなかった。
司令官が叫ぶ。
「総司令部は何をしている! 敵は目の前に迫っているのだぞ!」
実際に目視できる距離にはいないが、情報を集めると交戦可能距離に迫っていた。
その数はどこからかき集めたのか六十万隻だ。
他の場所でも帝国軍と睨み合っているため、全軍で突撃は無理だったらしい。
しかし、十万隻もいない場所に六十万隻で覇王国は攻め込んできた。
総司令官のカルヴァンがいるわけでもなく、重要拠点があるわけでもない。
惑星アウグルはまだ準備中だ。
そんな場所を本気で狙うと、帝国軍も考えてはいなかった。
「覇王国の連中、カルヴァン殿下の首ではなくクラウス殿の首を狙うか」
リアムの右腕にして、連合王国に鮮やかに勝利したクラウスは帝国軍でも有名だ。その手腕は学ぶべきとされ、クラウスの名前は帝国軍で広がりつつあった。
十万にも満たない艦隊を集結させ、司令官はどう動くべきかを思案する。
「味方への援軍要請はどうなっている?」
司令官の言葉に、オペレーターは泣きそうな顔をしていた。
「先程から呼びかけているのですが、ノイズが酷くて繋がりません」
どうして繋がらないのか? もしや、敵に遮断されているのか?
そうなれば、覇王国の動きが速すぎる。
味方が取り囲まれている可能性もあった。下手に逃げ出せば、そこを狙われて全滅する可能性もある。
「味方に救援を呼びかけ続けろ! 本部も奴らの動きを掴んでいるはずだ!」
大艦隊が動けば嫌でも気が付く。
本来なら本部が素早く援軍を送るか、撤退を命令してくるはずだ。
どうしてこのようなことになっているのか、司令官にも判断が付かなかった。ただ、貴族たちのやり方を知っている司令官は、嫌な想像をする。
(我々を突破すれば惑星アウグルへはすぐだ。まさか、貴族たちが我々を利用するために捨て駒に?)
カルヴァンとリアムが争っているのは軍人たちも知っており、そのために政争に巻き込まれたと気付く。
司令官に向かってオペレーターが叫んだ。
「敵艦隊ワープアウト! そ、その数、想定以上です!」
司令官は肘掛けに拳を振り下ろす。
「全軍――」
徹底的に時間を稼ぐ作戦を命令しようとすると、違うオペレーターが大声を出す。その声は少しばかり明るかった。
「味方がワープアウト! か、数は――三万! こ、この家紋は!?」
後方から味方が次々にワープアウトしてくると、そのまま前進し続ける。
帝国軍を素通りし、移動しながら陣形を整えていく。
艦隊の動きで、練度の高さが司令官には理解できた。
帝国軍ではなく、貴族の私設艦隊で高い練度を持つ軍は少ない。カルヴァン派でも多いとは言えないが、自分たちの後方に誰が存在するのかを思い出す。
「バンフィールド家か!」
すぐにノイズ混じりの通信で、リアムの姿が映し出される。
ただ、リアムの背景がおかしい。
「機動騎士のコックピットだと!?」
司令官が驚いて呟いてしまうと、リアムは口角を上げて笑ってみせる。
『まだ無事だったか。丁度良い――俺に従え。全ての命令はクラウスが出す』
それだけ言って通信が途切れる。
幾ら貴族だろうと、帝国軍に命令するにはそれなりの手続きが必要だ。
ブリッジクルーたちの視線が司令官に集まる。司令官は苦々しい顔をするが、バンフィールド家の総旗艦に繋げと命令を出す。
それは、自分では味方を全滅させてしまうという判断からだ。
「この艦隊ではどうせろくに戦えない」
帝国軍としては、重要度が低いために練度も兵器の質も低い艦隊を集めていた。数合わせだけの艦隊だった。
司令官は思う。
(我々は、最初から捨て石にされるために配置されていたのか)
◇
バンフィールド家の総旗艦。
そこでは、ブリッジでクラウスが次々に命令を出していた。
「帝国軍の艦隊には支援を要請!」
(ムリムリムリ!? あんな艦隊の質だと、覇王国の艦隊相手に溶ける!!)
帝国軍の実力を知り、慌てて支援に回すことにした。
敵への牽制になればと考えたためだ。
「敵艦隊への突撃と同時に機動騎士全機出撃! リアム様は絶対に出撃させるな。出撃するとしても後だ! 親衛隊は絶対にリアム様を出撃させるなよ!」
(何で総司令官が機動騎士に乗り込むの!? 覇王国相手に突撃とか、信じられないんですけど!!)
命令しつつもクラウスは混乱していた。
何しろ、リアムの命令は酷くシンプルだったからだ。
つまり、バンフィールド家のお家芸となりつつある“突撃”だ。
敵の大将を狙って全軍で突撃する、というのがリアムの作戦だった。
(無理だって! 普通に戦っても負けるのに、それが覇王国相手なんて無理だって!)
軍隊だけはガチ! と評判の覇王国だ。
いくら理解しがたい国家だろうと、軍隊の強さだけは本物だった。
そんな相手にリアムは突撃しようと考えている。
だが、親衛隊からの通信が届く。
『クラウス様、申し訳ありません』
「ん?」
『リアム様が“一番槍は俺だ”と言って、親衛隊を押しのけて出撃しました』
「え?」
目の前を見れば、バンフィールド家の艦隊の先頭に出る一機の機動騎士が姿を見せる。
両肩に大きな盾をマウントしたその姿は、間違いなくアヴィドだった。
クラウスの頬が引きつる。
(何をしているんですか、リアム様ぁぁぁ!! ――これ、もう駄目だ)
――遺言を書いてきて良かったと思うクラウスだった。
◇
アヴィドのコックピットが懐かしく感じる。
「最近はお前にも乗る機会が減ったな」
そう語りかけてやれば、アヴィドのエンジンが返事をするように唸りを上げる。
海賊相手では性能を全力で発揮できず、最近は出番がなかった。
あってもあっさり終わりすぎて、アヴィドは暴れ足りなかったのだろう。
操縦桿を握りしめる。
モニターに映し出されるのは、敵の艦隊と出撃してくる機動騎士たちだ。
バンフィールド家の艦隊が敵艦隊へと突撃しようとしている。
そして、先頭に立つアヴィドに攻撃を集中させる。
戦艦、機動騎士から放たれる光や実弾兵器の数々。
それらはアヴィドに届く前に霧散するか、爆発して消えていく。
その中を何事もないようにアヴィドが進む。
「また性能が上がったな。喜べアヴィド――覇王国相手ならお前の本気を出せるかも知れないぞ」
アヴィドのツインアイが光を放ち、その手にレーザーブレードを握る。
光の刃を振り下ろすのは、数キロ離れた距離にある敵の戦艦だった。
宇宙では至近距離と変わらない。
だが、レーザーブレードの届く距離ではなかった。――普通ならば、だ。
「アヴィド、お前と俺の名を覇王国に教えてやれ。帝国で誰が一番強いのか、奴らの頭に叩き込め!」
アヴィドがレーザーブレードを振り下ろせば、その出力により光の刃は扇子が開いたように斬撃の後に続く。
敵戦艦を両断するついでに、三機の機動騎士が巻き込まれて爆発していた。
敵艦の爆発により、大量のデブリが発生して飛び散る。
それがアヴィドのフィールドに当たってキラキラと輝いていた。
戦艦を叩っ斬ったアヴィドに、覇王国の視線は釘付けだ。
「リアム・セラ・バンフィールドだ。相手をしてやるからかかってこい」
アヴィドが左手でかかってこいとジェスチャーをすると、激怒した敵の機動騎士たちが群がってくる。
帝国軍よりも基本的な練度は高いが、直情的すぎる。
面白いように集まってくるため、それらを全てアヴィドがレーザーブレードで斬り裂いた。
数十機が爆散し、アヴィドの後方から味方の攻撃が覇王国の艦隊に降り注いだ。
「覇王国の諸君。俺を楽しませてくれよ」
アヴィドの後方にいくつもの魔法陣が出現し、そこから武器が姿を見せる。
一斉に火を噴くと、周囲の敵が全て吹き飛んでいく。
――お前らに、俺の名前を忘れられなくしてやるよ。
若木ちゃん( ゜言゜)「――乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です だって人気だもん。シリーズ累計30万部突破したもん。限定版とか品薄状態なんですけど!」
ブライアン(´・ω・`)「あ、はい」
若木ちゃん( ゜言゜)「今月は潮里先生の『コミカライズ版23話』も更新するから、いくらでも巻き返しが出来るわ。何がリアムよ。私の方が人気よ!」
ブライアン(; ・`ω・´) (辛いです。植物がリアム様に対抗意識を持って辛いです)