リアムの右腕
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パーティー会場。
ドレスを着せられたマリオンは、顔を歪めて不快感を示していた。
「――やってくれたな」
普段の中性的な印象は消えて、今は綺麗な女性としてこの場にいる。
可愛らしいドレスはリアムが用意したものだ。
マリオンの趣味ではないし、そもそもスカートもあまりはかない。普段スーツ姿なのは、その方が好みだからだ。
パーティー会場では、リアムが招待した客たちと談笑をしている。
口々に立派な宇宙港を建設したことを褒められ、上機嫌のリアムを見ていると腹立たしかった。
(ようやく当主の地位だって見えていたのに)
マリオンは生まれた時から女性だった。だが、オルグレン子爵家の当主になることを目指している。いや、いた。
本家筋の当主である辺境伯は、マリオンが当主になるのを絶対に認めないだろう。
辺境伯がマリオンに視線を向けずに話しかけてくる。
「お前を首都星に送ったのは、有力貴族からの支援を引き出させるためだ。誰が、首都星の後継者争いに加われと言った?」
当初、有力貴族から支援を引き出すのがマリオンの仕事だった。しかし、マリオンは欲が出てしまった。
「――ですが、リアムに協力した場合、後継者争いに巻き込まれてしまいます」
「国境に手を出すほど、首都星も暇ではない。後継者争いなど無視して、他の有力貴族を狙えば良かったのだ。不相応な夢を抱くから、面倒を抱え込む」
マリオンがリアムを裏切った理由は――首都星の後継者争いで恩を売り、その功績を持って本家筋の莫大な支援を約束させるためだ。
その功績でマリオンは子爵家の当主になるつもりだった。
伯爵家のリアムではなく、帝国そのものから支援を得られる道を模索していた。
ただ、辺境伯は不満そうにしている。
「おかげで支援は得られたが、バンフィールド家に借りが出来た。何かあれば、奴は我らを利用するつもりだぞ」
リアムが善意だけで支援しているなど、辺境伯は考えていない。そして、リアムも当然そのつもりだ。
マリオンが首都星で色々と動いていたことは、全て無駄になってしまった。
リアムが会場を出ていくのを見かけ、マリオンは慌てて追いかけようとする。
周囲が止めに入ると、辺境伯に言うのだ。
「もう一度だけチャンスをください」
◇
これ見よがしに会場を出て廊下で待っていると、ドレス姿のマリオンが慌てて飛び出してきた。
俺が待っていることに気が付き、驚きつつも平静さを取り戻そうとする。
「――リアム先輩、話があります」
壁に背中を預けた俺は、クツクツと笑ってマリオンの話を当ててやる。
「知っている。俺と交渉したいんだろう? 裏で動いている人間が誰なのか、とか。それと引き換えに何を望むつもりかは興味がないが――残念だが、もう知っている」
「え?」
マリオンは俺がハッタリを言ったと思ったようだ。
「ラングラン家と言うなら違いますよ」
マリオンの後ろにいるのはラングラン家――だが、その後ろにもいる。
そこまではマリオンも気が付いているだろうが、俺が知りたかったのはその更に後ろにいる本当の黒幕だった。
「お前みたいな手駒に教えられているのは、精々アナベル夫人止まりか? ま、考えればクレオ殿下の名前も出てくるだろうな」
クレオが俺の辺境行きを認めたから、そこまでは考えれば出てくる。
ただ、俺がわざわざこんな場所にまで出て来たのは、黒幕を誰か特定するためだ。
カルヴァンだと思っていたが、あいつは優等生だから可能性は低かった。
マリオンが驚いた顔をしている。
「知っていたんですか?」
「アナベル夫人の後ろに誰がいるかを探っていた。ま、結論は出たよ。それで? いったい誰が黒幕だと思ったんだ? あぁ、クレオ殿下は違うぞ。そもそも、この辺境行きを認めるように言ったのは俺だ」
「――な、何で?」
マリオンが持っている情報に、最初から価値などなかった。
「何で? 都合がいいからに決まっているだろうが」
そもそも、クレオは俺にラングラン家の事を相談していた。
俯くマリオンを見て、その横を通り過ぎる。
「俺を手玉に取れると思っていたお前が悪い。あのまま命令だけをこなしていれば、子爵家の当主になれたかも知れないのに――本当に残念だったな」
俺の言葉が引き金になり、マリオンが殴りかかってくる。
それを後ろに下がって避けたら、天井、壁、床――そこから黒い影が飛び出してきてマリオンを押さえつけてナイフを向ける。
ククリたちの一族だ。
俺の影からゆっくりとククリが姿を見せてくる。
ククリたちを見て、マリオンが目を見開いていた。
「あ、暗部だと?」
凄腕のククリたちを見て驚いているようだ。
カルヴァンと争った際には苦戦をしたククリたちだが、他と比べたら抜きん出た実力を所持している。
「殺さずに会場に帰してやれ」
その方がマリオンには辛いだろうからな。
◇
その頃だ。
カルヴァンたちの派閥に、リアム率いる艦隊の陣容が伝えられた。
ただ、問題はリアムよりもその配下だった。
カルヴァンが目を細める。
「クラウス――リアム君の右腕が来ているのか」
カルヴァンに評価されているクラウスだが、それも仕方がなかった。そもそも、連合王国との大規模な戦争が発生した際に――クラウスは総司令官代理をしている。
あの戦争に参加しなかった人間からは、クラウスがリアムやクレオの代わりに指揮を執ったと考えられていた。
カルヴァン派の貴族たちに動揺が走る。
「連合王国を短期間で追い詰めた男だぞ」
「無慈悲に、そして徹底的に叩いたと聞くな」
「そのような男を連れてきたとなれば、本気で我々を狙うつもりか?」
クラウスの知名度は味方よりも敵側で膨れ上がっていた。
カルヴァンはクラウスが後方にいることに冷や汗をかく。
(とんでもない策士が後方にいては、味方が警戒して満足に戦えないか)
クラウスほどの策士ならば、どんな手を打ってくるのかカルヴァンにも予想できない。
何しろ、長引くと思われた戦争を短期間で勝利に導いた男だ。
それに、その際にカルヴァン派の貴族たちを戦場で処理している。
カルヴァンたちにとって、クラウスとはとても危険な騎士だった。また、有能だからと引き抜きも出来ない。
カルヴァン派の貴族たちが大勢殺されており、派閥が仲間に引き入れるのを許さないからである。
カルヴァンたちが後方への警戒を強めることで意見をまとめていると、会議室の部屋の隅で若い貴族たちが集まっていた。
◇
「皇太子殿下はリアムを恐れすぎている!」
テーブルを囲む若い貴族たちは、カルヴァンのリアムに対する姿勢が弱腰であると憤慨していた。
彼らは家を継いだばかりの若い当主や、大貴族が名代として派遣した者たちだ。
キザな貴族が前髪を弄りながらある提案をする。
「このままリアムに好き勝手にされるくらいなら、いっそ覇王国とぶつけてやるのも面白いと思わないか?」
その提案に若い貴族たちが顔を見合わせていた。
「だが、皇太子殿下には拒否された作戦だぞ」
「馬鹿正直に通すわけじゃない。覇王国をおびき寄せ、弱い部分を見せて突破させる。増援を送るのが遅れれば、奴らは食い破って中に入り込むさ」
キザな貴族の提案を聞き、一人が気付いたようだ。
「囮には本気で戦ってもらうと? 知らせないのか?」
「奴らは獣のように勘が良いからね。必死に戦う者たちが囮の方がいい」
それは味方を使い捨てるという意味だ。
カルヴァンが拒否した作戦が、若手貴族たちに実行されようとしていた。
そんな場所にいるのは――案内人だ。
「リアムの場所まで案内してくれるなら丁度いいですね。グドワールに教えて、お気に入りの王子を突撃させるとしましょう。はぁ、こいつらに任せると根回しもせず、すぐにカルヴァンに気付かれそうですね。――私の方で邪魔をしますか」
グドワールの望みを叶えるために、案内人は若手貴族たちの作戦を手伝ってカルヴァンに知られないようにフォローすることに。
盛り上がる若手貴族たちを見ながら、案内人は冷めていた。
「――その程度でリアムがどうにかなると思っているのか? 本当に使えない連中ですね」
自分たちの作戦ならうまくいく! そう信じて疑わない貴族たちを見て、案内人は呆れるのだった。
◇
グドワール覇王国総旗艦のブリッジ。
グドワールは、物足りなさを感じつつも案内人が戻るのを待っていた。
お気に入りのイゼルが戦場に出ないものかと考えていると、覇王国の諜報員が持ち込んだ情報にブリッジが活気づく。
イゼルまでもが興奮していた。
「クラウス? クラウス・セラ・モントが戦場にいるのか!?」
イゼルにまで名前を覚えられていたクラウスだが、その情報は帝国からではなく連合王国経由で手に入れたものだ。
イゼルの部下たちも興奮している。
「連合王国を叩き潰した猛者だと聞いた」
「策士だと聞いたが?」
「どちらでもいい。そのような男ならば、強者を部下に持っているはずだ」
連合王国を完膚なきまでに叩いた男――クラウス。
そのネームドの登場に、イゼルも興奮を隠し切れていなかった。
「カルヴァンの首では物足りないと思っていたが、そのような大物がいるなら話は別だな。それで、クラウス殿はどこにいる!」
諜報員が調べた情報を伝えてくる。
「いえ、前線ではなく、後方に建設途中の基地にいるとのことです」
「前線にいない? 何故だ? クラウス殿ほどの騎士ならば、最前線に出すのが普通だろう?」
覇王国の感覚からすれば、カルヴァンよりも総司令官はクラウスが相応しい。
クラウスが艦隊を率いないことが信じられない。
諜報員が場所を報告する。
「それが、異様に守りの薄い艦隊の後方に位置しています」
それを聞いたイゼルは閃いたようだ。
「――そういうことか。我々をおびき出して叩くつもりだな」
わざと覇王国の艦隊をおびき寄せて、内側へと誘い込む。
参謀の男が首を鳴らした。
「おびき出された場所に待っているのは、連合王国を倒したクラウスですか。――悪くはない作戦ですね。イゼル様、どうされますか?」
イゼルは目をつむって微笑み、それから目を大きく開いた。
右手を前に出す。
「決まっている! 罠ならば食い破ればいい!」
作戦などない! と言わんばかりに、突撃を指示するイゼルに周囲は――大盛り上がりを見せた。
ブリッジの様子を眺めていたグドワールも、タコの足をウネウネさせて喜ぶ。
「ふふ――ふふふ! そんなに強い男がいたのか。リアムに、クラウス――帝国にもいっぱい強い奴がいるな。楽しみだな~」
イゼルがこれからリアムやクラウスと戦うと思うと、グドワールは興奮するのだった。
また、億単位で人が死ぬだろう。
それがたまらなく――グドワールは待ち遠しかった。
◇
惑星アウグル宇宙港。
執務室で仕事をするクラウスは、妙な寒気を感じた。
「最近妙に寒気が続くな。疲れているのか?」
リアムの無茶ぶりに苦しめられるクラウスだが、基本的に普通の日は真面目に仕事をして終わることが多い。
その日も、平凡な一日が終わろうとしていた。
だが、最近妙に嫌な感じが続いていた。
「はぁ、最前線に近い惑星に赴任したからかな? 早く家に戻りたいな」
本当なら筆頭騎士になどなりたくなかったクラウスは、何事もない平和な日々が続くことを祈っていた。
そもそも、自分の能力は突出したものがないと自覚している。
戦いが好きというわけでもなく、バンフィールド家で筆頭騎士をしているのが信じられないと思っていた。
「リアム様の修行期間が終われば戻れるし、あと三年――いや、二年だけ何事もなければ、無事に戻れるな」
リアムが辺境に行くと言い出した時はどうなるかと思ったが、クラウスは今回こそ平和に終わりそうだと安堵する。
しかし、嫌な気配だけは消えない。
「――仕事をするか」
仕事を終わらせて定時に上がろうと考えていると、部下から報告が入った。
『クラウス様、グドワール覇王国の艦隊が動きました! 惑星アウグルに向けて、大艦隊を動かしました!』
クラウスは遠い目をする。
(あ、嫌な気配はこれかぁ)
その態度が、部下には冷静沈着な筆頭騎士に見えたようだ。
大艦隊が向かってくるのに、落ち着いている筆頭騎士凄ぇ! という顔をしていた。
「リアム様には私から報告をする。軍の出撃準備を急がせろ。情報の収集も忘れるなよ」
『はっ!』
内心では凄く落ち込みつつも、仕事だけはするクラウスだった。
ブライアン(´;ω;`)「三嶋与夢のメモ帳の方に出張していたら、後書きを乗っ取られて辛いです」
若木ちゃん( ゜∀゜)「隙を見せた方が悪いのよ! 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 6】は通常版、限定版と共に好評発売中よ! 限定版にはドラマCDが付属するから、楽しんでね!」
若木ちゃん(´∀`*)「来月の第一週にはコミカライズ23話の更新もあるから、その前に22話をチェックするといいかもね。コミカライズ4巻は、ミレーヌが表紙になって絶賛予約受付中よ。こっちも買ってね!」