惑星アウグル
通販サイトで売り切れが続いている「俺は星間国家の悪徳領主! 01」ですが、重版がかかりましたので八月上旬から中旬にはまた補充されるかと思います。
お店で手に入れる方が、まだ可能性があるかも?
「糞馬鹿野郎がぁぁぁ!!」
艦内にある執務室で叫んだ俺は、地上から上がってくる報告に苦しめられている。
報告してくるのは、地上生活を満喫しているウォーレスだ。最初こそ色々と文句を言っていたが、適応能力が高いのか楽しんでいた。
そんなウォーレスからの報告だが――。
『みんなに崇められて良かったじゃないか』
「誰が神のように崇めろと言った? 俺は生け贄なんて求めてないんだよ! 誰がいつ、生け贄を出せって言った!?」
アウグルの王族たちを前に言ったことは本当だ。
全てを与えてやるつもりだったし、惑星アウグルは俺が守ってやるつもりだ。
理由? その方が俺にとって都合がいい。それだけだ。
『新しい神に供物を捧げよ、だってさ。リアムのカリスマには脱帽するよ』
紅茶を飲みながら優雅に報告してくるウォーレスを殴りたくなった。
お前はクレオを見習った方がいい。
「クレオと血が繋がっているとは思えないな」
『何か言ったかい?』
「何でもない。とにかく、生け贄は止めさせろ」
『彼らが言うには供物だよ』
「どっちも同じだろうが! どっちもいらないんだよ!」
惑星アウグルを統治していた前領主だが、そいつは供物と称して若く美しい男女を捧げさせていたようだ。
悪趣味極まりない。
俺は自分を悪党だと自覚しているが、神を名乗ってまで悪さはしないぞ。案内人に悪い気がするからな。
まぁ、そんな前領主は帝国の法律で裁かれて、お家が取り潰されたけどな。
一体何をしたのか知らないが、滅んだ方がいい帝国貴族って多いな。
――俺もその中に含まれているけどな。
『ところでリアム』
「何だ?」
他の作業は順調なのに、前領主の残した負の遺産だけが俺を苦しめていた。
そう思っていたのだが――。
『君の領民たち。移住者たちがね――俺たちも負けていられないから、リアムの祭りをするって申請をしてきたよ。面白そうだから許可を出しちゃった』
悪びれもせずにそんな事を言い出すウォーレスは、きっとこんな場所に連れてきた俺への意趣返しのつもりだったのだろう。
それよりも、俺が自領から連れてきた移住者たちが、現地人に負けるかと張り合うと言い出した。――お前ら、どうしてそんなに馬鹿なの?
何でこんな辺境に連れて来られて、競って俺を崇めようとするの? そんなところで張り合うとか、本当に何なの?
「全部却下だ! 歪な宗教観はこの時点で一掃する! 何が貴族は神だ。胸くそ悪い」
神とはもっとそう――案内人みたいな存在だ。
ウォーレスとの通信を切り、俺は椅子に座って背もたれに体を預けた。
「あ~、最悪だよ。他が順調なだけに、余計に腹が立ってくる」
通信が終わったこともあり、先程まで黙って側に立っていた天城が話しかけてくる。
「旦那様、惑星アウグルは時間をかけて発展させる必要があります」
「そうだな。俺が代官をしている間は、あいつらの価値観は変わらないだろうな。ま、俺が優しく頼りになる代官だと印象づければそれでいい」
覇王国との国境に近くなってしまった惑星アウグルだが、帝国全体で見ると俺の領地から随分と離れている。
前世で例えるならば、東京と大阪だろうか?
いや、俺の地元も田舎の部類だから――山口と青森か? とにかく、ちょっと離れすぎて常識も変わってくる。
俺は地元で知らない奴がいないくらい暴れ回ってきたが、余所では「リアム? あ~、聞いたことあるような、ないような?」みたいな反応だ。
他県の知事の名前なんてあまり知らないだろ? そういうことだよ。
首都星でも知名度は上がっているが、遠く離れればその程度の認知度だ。
だから――俺はここでも目立つことにした。
古い例えで説明するならば、不良漫画で地元に他県の不良グループが乗り込んできたような展開だろう。
もちろん、乗り込んできた敵役は俺だ。
そして、勝つのも俺だ。
俺は負けるのが大嫌いだ。
「苛々するから、憂さ晴らしをしてくる。天城、軍に声をかけておけ。海賊狩りの時間だ」
「承知いたしました」
地元だと海賊たちが寄りつかなくなったが、俺を知らない奴らが多い場所だと入れ食い状態だ。
ちょっと少ない数でウロウロするだけで、海賊共が集まってくる。
海賊は俺のために名誉、そして財産を集めてくれる貴重な存在だ。
倒せるだけ倒してやる。
「建設中の宇宙港の部品にしてやるよ」
海賊たちの残骸は全て、俺が有効活用してやる。
そして、今回に限っては一石二鳥ならぬ一石三鳥というお得感がある。
◇
――その日、惑星アウグル周辺にやって来た海賊団は恐怖していた。
「何だ。何者だよ、こいつらは!?」
海賊団を率いる男が狼狽えているのも仕方がなかった。
数千隻という大規模な海賊団を率いている大海賊だ。
この辺りでは名のある海賊で、貴族たちも争うのをためらうような存在だった。
そんな彼の率いる大海賊団が遭遇したのは、見たこともない家紋が描かれた艦隊だ。
見たこともない戦艦や機動騎士は、どうせ中古品だろうと侮っていた。
しかし、味方の海賊船や機動騎士が、次々に撃墜されていく。
自分たちよりも少ない数の艦隊が、自分たちを蹂躙していた。
海賊たちが恐怖に顔を青ざめさせる。
「船長、もう無理だ!」
「こ、降伏してくださいよ!」
ブリッジのクルーたちが恐怖で混乱しているため、ここまでだと諦めた男は見知らぬ艦隊に通信を送った。
「敵に通信を繋げ。降伏する」
それを聞いて安心した海賊船のクルーたち。
この場で殺されるよりはマシ――もしくは、自分たちが持っている宝を差し出せば、許してくれると安易に考えていた。
そうした貴族は少なくない。
家紋を描いた宇宙戦艦の多くが、貴族所有の私設軍だ。
宝さえ差し出せばどうにかなると考えていた。
しかし、だ。
謎の艦隊からの攻撃は止まず、送り返された通信には若い男が椅子に座ってふんぞり返っていた。
ふてぶてしい態度を見せる。
『宝を差し出すと言ったらしいな?』
大貴族の跡取りだろうと考えた男は、下手に出てすり寄る態度を見せた。
「もちろんです。貴方様に全てを差し出します」
男は、目の前にいる人物が誰かを正確に把握していなかった。
何故なら、遭遇するはずもない相手だと名前を覚えてもいなかったからだ。
『ならば、全てをさし出せ。お前らの命も――全てだ』
笑みを浮かべる青年が通信を切ると、艦隊からの攻撃が増して海賊船が次々に沈められていく。
「あの野郎、俺たちを殺すつもりか!」
男が見た光景は地獄だった。
命乞いをする他の海賊船たちが、帝国貴族の私設軍に無慈悲に沈められていく。
「何で貴族がこんな」
この辺りの貴族であれば、この程度で手打ちにしてくれた。
むしろ、大きくなった海賊団と相手をするのは面倒だと、ある程度の金を用意すれば見逃してもくれた。
それなのに、この相手は自分たちを絶対に許さない。
男の乗る船が、集中砲火を浴びて爆散する。
その中で、海賊団を率いた男は呟く。
「いったいどこの誰だよ」
◇
少し大きな海賊団を潰すことが出来た。
「少数でウロウロすれば、面白いように釣れるな。今日は大漁だ」
海賊たちが入れ食い状態になり、俺はホクホク顔だ。
地元では海賊たちが逃げ出してしまうため、最近稼ぎが悪かった。
海賊たちにはもっと根性を見せて欲しい。
――はぁ、今後はこっちから大規模な海賊団を狙っていくしかないのだろうか? あれ? 良くないか? 大海賊団なら宝だって持っているだろう。
今後は積極的に狙っていこう。
貴族の修行も終われば暇になるから、少し遠出をしても大丈夫のはずだ。
ニヤニヤしている俺の横では、クラウスが立っていた。
「リアム様、戦闘で発生したデブリは回収されますか?」
「当たり前だ。全て回収してアウグルに持ってこさせろ。それから、第七兵器工場に連絡をしろ。どうせ在庫を余らせているだろうからな」
「第七ですか? 他の兵器工場を利用した方がよろしいのでは?」
クラウスは技術や性能に偏重気味の第七兵器工場よりも、他の兵器工場との取引を勧めてくる。
「別に良いんだよ。どうせ贈り物だ」
「――贈り物ならなおさら駄目な気がするのですが?」
時々、ニアスが買ってくれるまで帰らないと駄々をこねるから、何かあれば購入してやっているだけだ。
あと、アヴィドの整備は第七兵器工場しか出来ない。
そういう理由で利用しているだけだ。
「いいから、ニアスに連絡しろ」
「――了解しました」
クラウスが第七兵器工場に連絡を繋ぐように命令すれば、しばらくして俺の目の前に小窓が出現する。
慌ただしく準備したのか、寝癖の付いたニアスが眠そうな目をして映し出された。
『リアム様、いったい何時だと思っているんですか? さっき眠ったばかりなんですけど』
第七兵器工場の時間を確認すれば、まだお昼のはずだ。
問題ないと思っていたのに、眠っているとは思わなかった。
「お前、夜勤だったのか?」
『いえ、さっきまで趣味で設計図を用意していまして』
「趣味かよ」
『休暇中だったんですよ! 二日間ずっと設計図と睨み合って、さっきようやく眠ろうとしたのに』
俺が悪いみたいに言われているが、悪いのはニアスだ。
そもそも、俺との取引はニアスを通すことになっているため、休日だろうと対応するのがニアスの仕事だ。
――それに、そのための報酬も支払っている。
「寝ろよ」
『だから、さっき寝ようとしていたんです!』
クラウスが片手で顔を押さえている。きっと、ニアスの駄目な態度を見て呆れているのだろう。
ただ――眠る前だったのか、生活感あふれる色気のない姿にちょっと興奮する。だから、俺への不敬には目をつむることにした。
「そんなことより、どうせ在庫を抱えているんだろ? 買ってやるから送れよ」
『え? いいんですか?』
売れ残った兵器を買い取ると言ったら、目の色を変えやがった。
現金な奴だが、分かりやすくて良い。
「外見は多少取り繕えよ。贈り物だから、旧式は駄目だ。全て新型だ」
海賊狩りをした理由は俺のストレス発散と――軍事拠点建設の資材確保。
そして、現地の貴族に恩を売るためだ。
『贈り物ですか? 確か――リアム様が赴任したのは、覇王国の領地に近い場所でしたね』
「こちらから挨拶に出向くのに、手ぶらなのは申し訳ないだろ」
困っている地元の貴族様への贈り物だ。
『兵器を送るというのはどうなんでしょうね? まぁ、在庫がはけるなら問題ありませんけど』
本音を隠さなくなってきたが、こいつはこれでいい。
他の奴が同じ事をしたらすぐに処刑するけどな。
「急いで送れよ」
◇
覇王国と争う最前線。
そこでは、総司令官として派遣されたカルヴァンが、部下たちからの報告を聞いて驚いていた。
場所は軍人たちが揃った大会議室だ。
覇王国に対抗するための作戦会議中だった。
「リアム君が我々の後方にいるだと?」
カルヴァンが驚いた理由は、そもそもリアムを呼び出したのが自分ではないからだ。また、派閥の貴族や軍人たちも違う。
連れてきた役人たちも関わっていなかった。
何故なら――。
「どうしてそれを許した!」
カルヴァンがリアムを戦場に呼び出すことはない。
何故なら、戦場こそリアムの得意分野だ。
リアムは海賊狩りで名を上げ、数々の戦いで勝利している。
そんなリアムを後方支援のための基地に配置するなど、カルヴァンとしてもごめんだった。目の前には覇王国。そして後ろにはリアムだ。
戦場で挟撃されたようなものである。
カルヴァンが今後の対策を考えると、若く勢いのある貴族が手を上げて自信を見せながら発言する。
「皇太子殿下、いっそリアムをこの戦場で叩けばいいのです。覇王国を後方へと通し、リアムにぶつけましょう」
その意見に周囲も賛成――出来なかった。
軍人たちばかりか、貴族たちまで反対する。
「馬鹿な! そうなれば覇王国を帝国領内に通すことになる!」
「これだから若造は駄目なのだ」
「リアムに勝っても、覇王国に負けて殿下の評判が落ちては意味がない」
不評ばかりとあって、若い貴族は悔しそうな表情を見せた。納得できていないようだが、カルヴァンは周囲の反応を見て安堵する。
「今は覇王国に全力で対処する。後方へも目を光らせておくが、手出しは無用だ」
ここでリアムと争うことは、絶対に避けたいカルヴァンだった。
ブライアン(´;ω;`)「俺は星間国家の悪徳領主! でございますが、売れ行きが好調のようでございます。これも購入してくださった読者の皆さんのおかげでございます。このブライアン、大変感謝しております。このブライアンの後書きが、少しでも販売のお役に立てたのかと思うと嬉しくて涙が止まりません。……幸せです」
若木ちゃん(;゜Д゜) (ここで水を差して宣伝するのも……いや、駄目よ。私こそが後書きのアイドル! この後書きを乗っ取ると決めたからには、最後まで宣伝しないと)
若木ちゃん( ゜∀゜)「そして明日発売の『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です6』もよろしくね! 今回は豪華な限定版も発売されて、特典は【ドラマCD】よ!」
ブライアン(´;ω;`)ノシ