悪代官
各種通販サイト様で売り切れが続いている「俺は星間国家の悪徳領主! 01」ですが、重版が決定いたしましたので補充されると思います。
しばらくお待ちください(^_^;
お店によってはまだ残っているかも?
しばらくすれば在庫は復活すると思います。
惑星アウグル。
俺が代官として派遣された惑星は、随分と疲弊していた。
かつて惑星アウグルを治めていた貴族がいるらしいが、そいつらに対する俺の評価は限りなく低い。
「領主としては三流以下の糞野郎で、悪党として見ても見込みのないカス野郎だな」
周囲に浮かび上がったデータを見る俺は、何も考えずに搾り取るだけ搾り取ったという悪党としても品のないやり口に苛立つ。
真の悪党とは、領民たちを虐げていることに気付かせないものだ。
つまり、俺のような男だ。
少し前に、子作りデモなんてやりやがった領民たちに、お仕置きのつもりで増税してやったが、それにさえ気付かなかった。
いや、そこは気付け。もっと怒れよ!?
――まぁ、今はいい。良くないけど、領民たちを教育してもう少しだけまともにしないと、搾り取っていることにすら気付かないわけだ。
俺の領民ですらこれだ。
アウグルなど、そもそも暮らしが中世レベルである。
教育カプセルすら使用が許されていなかった。
俺の側にいるウォーレスが、やる気のない顔でデータを眺めていた。ウォーレスが見ても、一目で酷いと分かるのだろう。
「リアム、ここを軍事拠点にするなんて無理じゃないか? 領民たちを一斉に教育しても時間がかかるだろ?」
本来は現地の領民たちを作業員として、軍事拠点化を進めていく。
だが、グドワール覇王国が迫る中、悠長に時間をかけてゆっくりと軍事拠点を築くわけにもいかない。
何故か? 俺がカルヴァンなら、後ろに政敵がいる場合――俺はそこに敵を誘い込む。
政敵を敵に潰させて、俺自身は知らん顔をするのがベストだ。
ウォーレスもそれくらい気付いているのか、不安そうにする。
「覇王国の連中が抜けてきたらどうするつもりだ?」
「叩き潰す」
「心強い言葉をありがとう。リアムは本当に強気だよね」
ウォーレスは俺の言葉を信じてはいなかった。
普通に考えれば貧乏くじだ。
誰もこんな仕事は引き受けたがらない。
だが、俺は違う。そして、俺には勝ち筋が見えている。
最前線で戦っているカルヴァンではなく、首都星でふんぞり返っている連中が今回の標的だ。
まぁ、アウグルに来たのは、仕込みみたいなものだ。
しかも、今回必要になる仕込みではない。
俺は立ち上がる。
「バンフィールド家から移住者を募った。作業は俺の領民たちにやらせる」
「え、いいのかい? ここは帝国の直轄地だよ? 安定しても、きっと誰かがここの領主になると思うけど?」
覇王国を無事に退けた場合、惑星アウグルの統治が面倒になった帝国は成り上がりか独立したい貴族にこの惑星を与えるか売るだろう。
俺が幾ら時間と労力を注いでも、無駄になる。
ただ、悪党はこれを無駄にしないから悪党なのだ。
「どうでもいい。今は帝国のためにここに立派な軍事拠点を建造してやる。必要な資材は持ち込んでいる。さっさと宇宙港の建造に入るぞ。――さて、ウォーレス」
首都星で優雅に遊び回るウォーレスに腹が立ち、嫌がらせで連れてきた。
だが、こいつにも働いてもらうとしよう。
「お前は地上に降りろ」
「え!? う、嘘だろ、リアム!!」
指を鳴らすと、俺の部下たちがウォーレスを抱えてブリッジから連れ去っていく。
「地上に箱物を建造するつもりだ。前にもやっただろう? お前が適任だ。安心しろ――今度はお前の功績にしてやる。文官として出世させてやるよ」
将来独立するウォーレスにしてみれば、何の役にも立たない文官での出世なんて意味がない。それを理解しての俺の発言だ。
「ま、待って! 私は原始人みたいな生活は無理なんだ! せめて、衣食住が保障されていないと不安で眠れな――」
中世を原始時代みたいに言いやがって。だが、これが帝国の認識だ。
俺から見て中世レベルでも、ウォーレスから見れば大きな括りで原始時代らしい。
俺はウォーレスが消えて静かになったブリッジで、側にいる俺の騎士に話しかけた。
「お前にも働いてもらうぞ、クラウス」
「――はっ」
短く返事をして、他のことは話そうとしない。
この寡黙さがいい。
もう、何をすればいいのか理解しているようだ。
やはり、有能な騎士を連れてきて良かった。
どこぞの馬鹿二人は、有能でも性格に問題があるからな。
有能で性格も問題ないクラウスが、俺の中では一番の騎士である。
――さて、惑星アウグルに毒を仕込ませてもらおうか。
◇
バンフィールド家の艦隊から地上に降下するのは、移住者たちを乗せた宇宙船だった。
機材や資材を積み込んだ宇宙船が降下すると、それを見守っていた現地の代表であるお飾りの王族たちが不安そうにする。
王族たちは各国の代表ではあるが、宇宙船を持つ上位存在である惑星の領主には絶対に逆らえなかった。
領主は王族たちに自分を神として崇めよと教育しており、宇宙船から下りてくる人々は彼らにとっては神の使いに見える。
白く立派な髭を生やした王様の横では、美しい姫が不安そうにしていた。
「陛下、あんなにも神の使いの方々が来るなんて、何か大事なのでしょうか?」
「分からぬ。分からぬが――お前は今回の供物だ。その役目をしっかり果たしなさい」
「はい」
アウグルを支配していた領主だが、王を名乗らせた者たちに供物を捧げさせていた。
美しい王子や姫や、彼らが大事にする宝の数々だ。
それを目の前で踏みつけるように振る舞うという趣味を持っていた。
一際豪華な宇宙船から、小型艇が降りてくる。
王族たちの前に降りると、そこから背の高く立派な騎士が現れた。
神を守るに相応しい騎士の登場に、王族たちが一斉にひれ伏す。
それを見た騎士の部下たちが戸惑っていた。
「クラウス様、これは?」
「この者たちは代表者のようですが?」
戸惑う部下たちに、クラウスと呼ばれた騎士は説明する。
「以前の領主が自らを“神”と崇めさせていたそうだ。情報や技術を抑制していたおかげで、このようなことになっているのだろう」
周囲が「何と悪趣味な」と憤っていた。
王族たちは、今までとは違うやり取りに困惑を隠せない。
「大変失礼でございますが、発言をお許しください」
代表して白髭の王様が声を出せば、クラウスが許した。
「許そう。そして、全員立ちなさい。我々にそのような態度は必要ない」
王族たちがざわつく。これまでに、このようなことを言われたことがなかった。
戸惑う王族たちに、クラウスが続ける。
「今日よりこの地は、リアム・セラ・バンフィールド伯爵が代官として統治する。君たちに神として崇めさせていた以前の領主はもういない」
神がいないと聞いて、王族たちは更に不安がる。
顔を上げ、クラウスにその事実を確かめる。
「ど、どういうことでございますか!?」
クラウスは平然と告げる。
「君たちに分かりやすく説明すれば、君たちが崇めていた存在よりも更に上位のお方がこの地を代理で統治するということだ」
今まで自分たちが崇めていた存在よりも、更に上位の存在がいると知って王族たちの混乱は更に続いた。
クラウスが咳払いをする。
「そして、リアム様からの伝言だ。代表者を招いて話がしたいそうだ。君たちをリアム様の母艦へ招待する」
天の国に連れて行かれる。興味を持った王族もいれば、死んでしまうと青ざめる王族もいた。
◇
「馬鹿じゃねーの」
自分を神として崇めさせるとか、悪趣味すぎて笑えない。
俺も自分を悪党だという自覚はしているが、神を名乗るなんて恐れ多い。
俺にとっての神は――まぁ、今はいい。
クラウスからの報告を聞いた俺は、書類仕事の手を止めて今後の方針を変更することにした。
「俺が今までの神よりも上位の存在で、移住者たちは神の使いだって? 俺は敬われるのは好きだが、崇められたいとは思わないぞ」
クラウスはどこか安堵した表情を見せた。
「なくはない話です。自領で神として自分を崇めさせる領主の方たちがいると、噂程度には聞いていましたからね」
「最悪だな」
神を名乗るなんて許されない。
それは俺ですらしない悪事だ。
「リアム様がそのようにお考えで安心しました。ですが、想像以上に衝撃だったようです。王族――アウグルの王族たちは、この事実を領民たちに知らせるべきか悩んでいます」
それはそうだ。
今まで神だと思っていた存在が、まったく違うものだったのだからな。
信じたくない奴らも出てくる。
「しばらくは移住者が暮らす場所と、現地人が暮らす場所を分けろ。崇められて、その気になる馬鹿が出てくるぞ」
「承知しました。現地人への支援はどうしましょうか?」
当初予定していたのは、アウグルの住民たちへの手厚い支援だ。
前の領主って酷い奴だよね! 俺は君たちを支援するよ! 短い間だけどな!
――そんな感じで優しくしつつ、惑星の軍事基地化を進めて終わったら去るつもりだった。
別にそれでもいいが、移住者と現地人との間で面倒な争いが起きるかも知れない。
それでは俺の計画に支障が出る。
「予定通り行う。あと、アウグルの王族たちを集めろ。本当なら、さっさと地区代表とか、そんな風に役職を変更したかったのに」
これまで続けてきた生活が急激に変わりすぎると、ついていけない人間も出てくる。
時間をかけてゆっくりと変化させていくしかない。
前の領主も面倒なことをしてくれた。
やっぱり、発展を制限するとか無駄だわ。特に、貴族が趣味でやっている抑制とか、何の意味もない。
「思っていたよりも面倒だな」
さっさと発展させたかったのに、やっぱり帝国貴族って駄目だわ。
――俺もその一人だけど。
◇
アウグルの王族たちは、用意されたパーティー会場で度肝を抜かれていた。
声も出ない者が多いのは、自分たちの住んでいる惑星が丸かったことや、外の世界が一日中夜だったこと。
他にも、城よりも巨大な建造物が空に浮かんでいることだ。
それが数え切れない程も浮かんでいた。
白髭の王様が、リアムを前にして緊張していた。
リアムはフレンドリーに話しかけてくる。
「緊張するなと言っても無駄だろうから、俺から危害を加えるつもりはないと断言しておいてやる」
「か、寛大なお心に感謝いたします」
王様が震えているのは、以前に見かけた神を名乗った貴族よりもリアムが神々しかったからだ。
周囲にいる者たちも、以前は自分たちを見て馬鹿にして笑っていた。
だが、ここには自分たちを見世物にする者たちは一人もいなかった。
今まで自分たちが頭を垂れていた使用人たちが、逆に頭を下げてくる。
リアムは右手にグラスを持ち、酒を一口飲んだ。
王族たちも振る舞われた酒を飲むが、これまで飲んできたどんな酒よりもうまい。
感動している王族がいる中で、リアムが話をする。
「さて、お前たちに分かりやすく説明すれば、以前いた奴よりも俺は格が二つは上だ。すぐにまた格が上がって、更に四つほど上になるけどな」
これまで崇めてきた存在よりも格上とあれば、王族たちも信じがたい。だが、それだけの実力をリアムが示しているため、信じるしかない。
「こ、今後はどのように統治されるのでしょうか?」
代表して白髭の王が尋ねれば、リアムは小さく笑った。
「俺がここにいるのは短い間だけだ。その間は奪うことはせず、与えてやろう」
「与える? その、税はどのようにすれば?」
「いらん。しばらくはゆっくり休むといい。そうだな……お前たち王族から若者を出せ。俺の手元で教育してやる」
王が娘をチラリと見れば、近付いてきたのでリアムに紹介する。
「私の娘でございます。身内贔屓ですが、とても美しい娘です。どうか、お受け取りください」
姫がお辞儀をすれば、リアムは少し不快感を見せた。
何か間違えたかと焦る王に、リアムは酒を飲み干してから答える。
「勘違いをするな。俺の手元で預かるのは一年もない。すぐに送り返す。生憎と、俺は女に困っていないのでな」
リアムの台詞を聞いた周囲の者たちが「え!?」という顔を見せるが、リアムが睨むと全員が視線を背けた。
王たちは首をかしげるが、リアムは何事もなかったかのように話を続ける。
「遊びに来るつもりでいろ。世の中は広いと教えてやる。それはそうと、何か困ったことがあれば相談するといい」
「あ、ありがとうございます」
今まで自分たちにここまでしてくれた上位存在はいなかった。
王族たちは一体何が起きたのか理解できなかったが、今だけは安堵した。
リアムが王族たちを前に宣言する。
「今日からはこの俺がお前たちを守ってやる。何も心配する必要はない」
自信に満ちたその言葉に、上位存在たちを神と崇めるように教えられた王族たちは感銘を受けるのだった。
若木ちゃん( ゜∀゜)「崇められたと言えば、聖樹として共和国で崇められていたこの私よね! 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 6】がもうすぐ発売よ! 買ってね! そして崇めてもいいのよ!」
ブライアン(・ω・` ) (この植物、いい加減に帰って欲しいです)
ブライアン(´・ω・`)「ちなみに、乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です は BOOK☆WALKER様なら電子書籍でもボイスドラマの特典付きが手に入るそうですぞ。そして【8月4日】まで”乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です”もセール中でございます。一巻から揃えるなら今がチャンスですぞ。以上、ブライアンからの耳寄りな情報でした」