裏切り者?
俺は星間国家の悪徳領主!01 ですが、重版がかかりました!
ありがとうございます!!
発売から二日で重版とかはじめてです。
これで通販サイトさんなどでの在庫不足は解消される――はず!
グドワール覇王国との国境――近くにある惑星。
近くと言っても、星間国家の規模での近くだ。
実際はとても遠い。
しかし、ワープ技術を使えば簡単にたどり着けてしまう位置にある。
そのため、前線が後退したこともあって、俺が派遣されてしまった惑星は重要拠点と見なされていた。
今まで前線の後方にある惑星の一つだったのに、重要度が増している。
それはつまり、帝国軍が押し込まれていることを示していた。
軍艦のブリッジ。
床がモニターとなり、眼下にはこれから重要拠点にする惑星が広がっていた。
高いところから見下ろすというのは実に気分がいい。
「重要拠点の建造に俺を派遣するなんて、帝国の人材不足も深刻だな」
ニヤニヤとしている俺を見て怒鳴ってくるのは、異動の際に無理矢理連れてきたウォーレスだった。
こいつは首都星で仕事らしい仕事もしないままに修行を終えようとしていたので、俺が連れてきた。
本人としてみれば、安全な首都星での仕事から最前線近くに左遷させられたようなものだ。
会社で言えば、本社から辺鄙な支社に異動したようなものだな。
しかも、その支社は働く場所すらない。
「リアムの馬鹿! こんな仕事は断れよ! それくらい出来る権力はあるだろう!?」
「確かにある。実際、握りつぶそうと思えばいつでも出来たからな」
「だったら!」
「あえてしなかっただけだ。そう怒るな。首都星では退屈していたところだ。こっちでカルヴァンの活躍を眺めるのも悪くない」
俺たちが見下ろしている惑星は、以前に統治していた貴族が取り潰されて領主不在の惑星になっている。
帝国も代官を派遣して統治をしようと考えていたが――正直言って、辺鄙な惑星を開発しても帝国には旨みが少ない。
わざわざ遠い惑星を開発しなくても、帝国の直轄地にはまだ多くの未開発惑星があるからな。
疲弊した惑星一つ手に入れたからと言って、嬉しくはない。
今回、俺は最前線を支えるに相応しい惑星に開発するため、その文官側の責任者として派遣されてきた。
帝国軍が派遣してきたのは、軍から三千隻。
そして、開発のための資材を運ぶ輸送艦隊だ。
艦隊を率いているのは少将だった。
今の俺は文官だが、軍に戻れば中将――いや、大将だったかな? とにかく、将来的に公爵になる俺は、軍でも偉い。
少将ごときがあれこれ文句を言える立場でもなく、実質的に俺がトップだった。
ウォーレスが文句を言っていると、その少将から通信が入る。
空中に投影された少将の立体的な映像が、敬礼を行ってきた。
見た目は二十代半ばだが、中身は一体いくつだろうか? 星間国家は見た目で年齢が決まらないから困る。
『代官代理殿、輸送艦隊が無事に到着いたしました』
「そうか。そのまま次の指示が出るまで待機させておけ」
『りょ、了解です』
通信が切れると、ウォーレスが少将に対して同情した表情を見せる。
俺に何か言いたそうにしていたため、こちらから聞いてやる。
「何だよ?」
「普通、こういう時は軍人の方が偉そうにするって聞いていたからね。リアム相手に、向こうが下手に出て来て複雑な気分になっただけだよ」
軍人からすれば、俺など貴族だろうと修行も終わっていない糞ガキでしかない。
本来なら指揮を執るのは自分であるはずの少将が、俺という小僧に下手に出ているのが可哀想に見えたのだろう。
ただ、これにはからくりがある。
普段から軍隊に賄賂――挨拶の品を贈り、軍隊からの払い下げの兵器を購入している。俺は帝国軍にとってお得意様だ。
そんな俺を怒らせたくないだろうし、何よりも俺は最前線近くに来るというのに丸腰で来るわけがない。
帝国軍三千隻に対して、俺の私設軍は三万隻も連れてきた。
いくら少将が強気の態度を取ろうとしても、これだけの数の差があれば黙るしかない。
文句を言えば潰される! と、思わせるのがポイントだ。
そして、今回はアヴィドもしっかり持ってきている。
――俺は結構本気だった。
「そんなことよりも、この惑星の状況だな」
ウォーレスの話を切り上げると、本人が「え、そんなに簡単に流すの?」と不満そうにしていた。だが、問題なのは軍人ではない。
俺たちの眼下に広がる惑星だが――実に酷い惑星だ。
以前の領主が無能だったのか、寂れた惑星だった。
悪党で領民たちから搾り取ったならまだ理解できるが、疲弊して今にも崩壊しそうな領地など駄目だ。
搾り取るにしても生かさず殺さず、が基本である。
それが出来なかった以前の領主は、俺にとっては無価値な存在だ。
悪党は強くなければならない。
それ以外はただのゴミだ。
「酷い惑星だな。手がかかりそうだ」
見下ろす俺がニヤニヤと笑えば、ウォーレスがドン引きしている。辺境に飛ばされ、何を喜んでいるのかと疑問なのだろう。
だが、俺は自前の艦隊を引き連れてきている。
艦隊の中には要塞級と呼ばれる巨大な移動要塞も存在していた。
田舎だろうと、どこだろうと、俺は贅沢な暮らしが出来る。
ウォーレスは肩を落とし、俺たちが派遣された惑星のデータを見た。
「本当にここを拠点にするの? 人口は一億もいないし、領民たちも疲弊しているよ」
前の領主の方針だが、貴族は神であると考えていたそうだ。
そのため、領民たちの暮らしは前世でいうところの中世レベルだった。
苦労している領民たちの姿を見るのが好きだったようで、このような歪な領地になっている。
そこを発展させろと言われたら、誰だって嫌がる。
実際、俺たちが派遣されるまで誰も手を付けてこなかった。
ただの領地なら問題もないが、最前線を支えるような惑星にしなければならない。
責任重大だ。
「問題ない。俺には勝算がある。もう一人が来るまでに、必要な仕事は終わらせておくさ」
ウォーレスがもう一人、と聞いて首をかしげた。
「私たち以外にも派遣される人間がいるのかい?」
「――あぁ、もうすぐやって来る」
◇
リアムが辺境惑星送りになった。
修行中に慌ただしく出発したとあって、首都星に残されたロゼッタも不審がっている。
ただ、だからと言ってロゼッタが騒ぎ立てることは出来ない。
リアムが異動を受け入れ、辺境惑星に嬉々として向かったからだ。
そのおかげで、クレオ派閥は派閥のまとめ役であるリアムを欠いてしまった。
カルヴァン不在とあって大人しかった者たちも、これを好機と見る。
ロゼッタの先輩も同様だ。
ロゼッタが仕事をしていると、わざとらしく机に腰掛けてきた。
「聞いたわよ。あなたの婚約者が辺境に飛ばされたみたいね。いったい、どんなミスをしたのかしら?」
辺境送りなど、首都星で働く役人たちには罰ゲームみたいなものだ。
それなりの立場で派遣され、首都星に戻れるという確約でもなければ貴族は受け入れない。
辺境送りイコール、左遷と同じだ。
「カルヴァン殿下を支援するために、重要な任務だと聞いていますわ。もしや、それを左遷されたと言うのですか?」
お前たちのトップの尻拭いをしていると告げると、先輩の顔はみるみる赤くなっていく。
「言いたいことはそれだけかしら? 婚約者のいないあなたなんて、怖くないと理解しているの?」
ここまで露骨な態度を見せるのは、リアムが恐ろしいからだ。
首都星でその力を見せつけたリアムに喧嘩を売る貴族は少ない。いない、と言い切れないのがこの国の現状でもある。
嬉々として決闘を挑む騎士もいれば、リアムのことを知らない貴族もいる。
帝国が広いために、首都星の状況を知らない者たちも多い。
先輩が机から降りて、ロゼッタを立たせようとすると声がかかった。
フロアにいる警備をしている女性騎士だ。
「ロゼッタさん、お客様です」
「私に?」
ロゼッタは先輩を無視し、職場の外へと出るとそこに待っていたのはマリオンだった。
右手を挙げて人懐っこい笑顔を向けてくる。
廊下に出たロゼッタは、マリオンを連れて部屋の一つに入った。
そこで向かい合って座る。
「ダーリンの同僚の方よね? 私に何か用かしら?」
マリオンは不敵な笑みを浮かべていた。
ソファーから立ち上がると、ロゼッタに近付く。
不用意に近付かれたロゼッタだが、少し戸惑って――そのまま抵抗しないことにした。
マリオンがロゼッタのアゴを指で持ち上げる。
「これからリアム先輩を追いかけて首都星を離れます。それにしても、こんなに美しい婚約者がいるのに、放置するなど考えられませんね。僕ならあなたを悲しませたりしませんよ」
口説いてくるマリオンに、ロゼッタは戸惑いを見せていた。
「ダーリンにはダーリンの考えがあるわ。それよりも、他に用がないなら戻らせてもらうわよ。私も忙しいの」
マリオンは小さく溜息を吐いて、ロゼッタから距離を取った。
「それは残念。――さて、用件でしたね。リアム先輩を追いかけるので、その際に何か伝えることでもあるかと思いましてね」
つまり、たいした用件はなかったということだ。
リアムに伝言でもあれば、通信を使えば問題なく話が出来る。
「本当のことを言ったらどうなの?」
「思っていたよりも鈍いですね。口説きに来たんですよ」
挑発的な笑みを浮かべるマリオンを見て、ロゼッタは何とも言えない表情をする。
「冗談は止めて欲しいわね」
「今はそれでも構いませんよ。それはそうと、このままではリアム先輩は命を落とすかもしれませんよ」
「――どういう意味かしら?」
マリオンは前髪を指先で遊ばせ、とぼけて見せる。
「秘密です。もしも、僕の誘いを受けてくれるなら、教えても構いませんよ」
そんなことが出来るわけがない。
不愉快に思ったロゼッタは、マリオンを部屋に残して出ていく。
マリオンはロゼッタのそんな姿を見て、肩をすくめていた。
廊下に出たロゼッタは、通路の物陰に向かって壁を背にして立ち止まった。
ロゼッタの影から姿を見せるのは、仮面を付けたククリの部下だ。
ロゼッタが命令する。
「あの子のことを調べられる?」
ククリの部下は、それは出来ないと拒否を示した。
「リアム様より、放置しろと命令を受けております」
「放置しろですって?」
「はい。リアム様のご命令がなければ、ロゼッタ様に近付いた時点で取り押さえておりました」
ククリの部下は女性だった。
クナイとは別の者だ。
「不快ならば、釘を刺しておきますが?」
「いいわ。ダーリンの邪魔はしたくないの」
「承知しました」
ククリの部下が影の中に消えていく。
◇
ロゼッタがいなくなった部屋で、マリオンは誰かと話をしていた。
「――えぇ、失敗しました。手強いですね。別に本気ではなかったのでしょう? それに、本命は別ですよ」
相手の声は聞こえてこない。
空中に浮かんだ小窓のような画面も真っ暗だ。
マリオンが一人呟いている。
「手はず通りに僕がリアムを見張ります。これまでだって成功したでしょう? 何も心配しなくていいですよ。――はい」
マリオンはロゼッタにちょっかいを出したが、成功するとは考えていなかった。
通信が切れると、シャツの首元を緩める。
「僕としてはどちらでも構わないんだけどね。でも、あそこまで拒否されたのは久しぶりだったな」
ロゼッタに見向きもされなかったのが、少しだけ悔しかった。
中性的な顔立ちで、アイドルと見間違うような姿をしたマリオンだ。
自分の容姿には自信があり、これまで狙った女性は全て手に入れてきた。
「ちょっと悔しいな。――この恨みは、リアム先輩で晴らさせてもらうか」
口角を上げて笑うマリオンは、表情を取り繕ってから部屋を出る。
ブライアン(´;ω;`)「重版もかかる人気の【俺は星間国家の悪徳領主!01】に涙が止まりません。このブライアンも嬉しいですぞ。え? マリオン殿? あ、そちらは――」
若木ちゃん( ゜∀゜)「後書きのアイドルは私よ! 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 6】もよろしくね! もうすぐ発売よ!」
ブライアン(´;ω;`)「この植物、いつまで居座るのでしょうか? 辛いです」