職場
明日はついに「俺は星間国家の悪徳領主!」の発売日!
既にお店で見かけている場合もあるでしょうが、正式には明日です(^_^;
なので、まだ近所の本屋さんにない場合も、まだ気にしなくても大丈夫のはずです。
ない場合は、取り寄せてもらえるのが確実ですね。
そうしてくれると、作者としても嬉しいです(*^▽^*)
通販でのご購入も大歓迎!
感想やコメントでも、ご購入の書き込みをいただくようになりました。電子書籍でご購入の読者さんたちは、明日から増えそうですね。
書籍の感想もお待ちしております。
そちらは活動報告の方がいいのかな? 活動報告も用意しておきます。
それでは、書籍の方も応援よろしくお願いいたします!
宮殿と言っても、職場には宮殿らしさがない。
ビル自体も装飾が少なく機能的で、働いている連中もスーツ姿だ。もっと宮殿に相応しい服を着ているのかと思えば、式典以外では普通にスーツだ。
宮殿内にはいくつもの部署がある。
それら全てを把握している人物はいないのではないか? そんな風に言われているし、実際に何の仕事をしているのか理解していない人間は多い。
俺は机で今日の分の仕事をゆっくり処理し、定時で上がれるように調整していた。
真面目にやるのが馬鹿らしいというか、自分が何の仕事をしているのかも怪しい。
全体の一部を見せられ、それを処理しているような感覚だ。
全体が想像できない。
エリート部署と呼ばれているが、実際は自分たちが何をしているのかも分かっていない連中の集まりだった。
「花形と呼ばれるだけの部署だな」
こんな話がある。
ある真面目で優秀な人物が定年まで宮殿で働き、引退する日が来た。
上司に呼び出され、お褒めの言葉を受けたそいつは一つだけ聞きたいことがあると言い出した。
何を聞いたと思う? 「自分は今まで何の仕事をしていたのでしょうか?」だ。
与えられた仕事はしてきたが、それが何なのかまるで理解していなかったわけだ。
真面目で優秀でも、全体の把握など出来ていなかった。そして、笑えるのが上司の返答だ。そいつはこう言った。「俺も知らない」って。
コントかよ!
「絶対に人工知能の方が効率的だよな」
無駄な仕事を人にさせているようにしか感じられない。
優秀な人間を無駄に浪費しているようにしか感じられないので、俺ならそのリソースで何をするか考えてしまう。
宮殿に出仕している時点でそいつは優秀だ。
能力、コネ、権力、財産――何かを持っていることを意味している。
よくコネを馬鹿にする奴がいるが、それは間違いだ。
コネも力だ。
俺は利用することをためらわないが、残念なことにバンフィールド家は両親や祖父母たちがやらかしてくれてコネがなかった。
おかげで俺は独自にコネクションを築いている真っ最中だ。
本当に腹立たしい連中だ。
ノンビリと仕事をしていると、飲み物を持ってきたマリオンがやって来る。
「リアム先輩は真面目ですね」
皮肉に俺は冗談で返した。
「そうだろ。他が不真面目すぎて、相対的に真面目に見えているけどな」
周囲にいる貴族たちは、仕事もせずにダラダラとしていた。まともな文官たちは大量の仕事を処理しているが、その隣で朝から今日はどこで遊ぶかと話をしていた。
マリオンから飲み物を受け取る。
「お前の仕事はいいのか?」
「終わりましたよ」
「さっさと終わらせれば、上司が追加で仕事を持ってくるぞ」
もしくは周りが手伝って欲しいと頼み込んで――来ないな。貴族に手伝ってと言ってくるような奴はいない。
実力差があればあり得るが、そんなことをするくらいなら周りにいる能力で採用された連中を利用すればいい。
俺だって利用するつもりだ。
「上司はリアム先輩を怖がって部屋から出て来ませんよ。聞きましたよ。研修先で上司やその上司まで一掃したとか?」
「俺をこき使おうとしたのが悪い」
「――ここでも同じ事をするつもりですか? 上司はカルヴァン殿下の派閥の関係者ですし、周りはリアム先輩が何かすると考えていますよ」
配属先がカルヴァンの派閥の関係者なのには理由がある。
クレオの派閥は地方出身者が多いため、宮殿内の文官が少ない。
そのため、クレオの派閥が支配する部署に入り込むことが出来なかった。
俺が楽をするためにも同じ派閥がいる部署に入りたかったが、それが出来ないほどにクレオの派閥は文官が少ない。
宮殿内にも影響力を伸ばすためにも、俺も行動を起こす必要があった。
「俺に逆らえば潰す。従うなら可愛がってやるさ」
「その発言はどうかと思いますよ。意味深に聞こえてきますからね」
上司は腹の出た中年みたいな男だ。
教育カプセルや、その他諸々の技術を使えばすぐにスリムになれるのにそれをしない。それすら面倒に考えている奴は、結構多いからな。
身だしなみに気を付けない奴っているだろ? そういうノリで外見を弄らない奴もいる。
俺の上司はそのタイプだ。
そんな上司を可愛がるというのは、確かに失言だった。
「従うならこき使ってやる」
言い直せば、マリオンが微笑む。
「それがいいですね。それより、今日の夜は付き合ってくださいよ。飲みに行きませんか?」
同期を誘うよりも、上司や先輩にたかれと思ってしまう。
ま、こいつの場合は仕事上の付き合いよりも、実家を助けられる権力者に近付くのが最優先だから仕方がない。
俺たちが話をしていると、ランディーの声が部屋に響き渡った。
「私の仕事に文句があると言うのか!」
「し、失礼いたしました! で、ですが、ここはランディー様に修正していただかなければ、申請が通りません。何卒。何卒!」
「ふん、忌々しい」
ランディーが書類ミスを起こしたようだ。
ただ、謝り倒しているのはランディーの教育係である先輩の方だ。
何十年もこの部署で働き、成果も上げているのにランディーの教育係に選ばれてしまったのが運の尽きだ。
新人のランディーの方が偉そうにして、先輩たちが肩身の狭い思いをしている。
こんな職場でも優秀な人材が逃げ出さないのは、首都星で役人であると言うのがステータスだからだ。
お役人様、と周囲が持ち上げてくれる。そんな立場を手放したくないという人間が多いため、こんな職場にもしがみつく。
マリオンが肩をすくめて見せた。
「ランディーさんは今日もご機嫌斜めですね」
貴族は隔離した方がいいのではないだろうか? いや、もしかしたら――この場所自体が隔離場所なのか?
◇
リアムが働いているビルの近くには、同じように役人たちが働くビルがある。
部署が違えば違うビルを用意する。
同じ部署でも課が違えば新しいビルを用意する。
星間国家とは規模が大きすぎて大雑把になりやすい。
ロゼッタはそんな場所で働いていた。
リアムと違うのは、しっかりと取り巻きたちが周りを固めていることだろう。
午前中の仕事を終わらせたロゼッタのところに、取り巻きである女性二人がやって来る。
「ロゼッタ様、昼食の時間です。今日は近くのレストランを予約しています」
「そうなの? ダーリンも呼んでいる?」
「リアム様は来られないそうです」
「そう。残念だけど仕方がないわね」
ロゼッタが席を立つと、そこを狙い澄まして先輩が声をかけてくる。派手なスーツ姿の女性は、取り巻きを六人も連れていた。
ロゼッタに向ける視線は好意的なものではない。
「あら、新人が我先に休憩なんて礼儀を知らないようね」
飾りのついた扇子を持って口元を隠している相手は、カルヴァンの派閥に所属する貴族の娘だった。
修行期間が終わっても職場に残り、出仕し続けている。
周囲にいる真面目な官僚たちは迷惑そうにしているが、ロゼッタがいる部署は女性が多い。
高貴な立場の女性たちが多いため、出来るだけ男性を排除した職場が用意されていた。
実際、ロゼッタのいるフロアは男子禁制だ。
勝手に入ろうものなら、エレベーターの前にいる警備の騎士たちに斬り捨てられる。
安心して娘たちを預けられると評判の職場だが――そこはカルヴァンの派閥が支配していた。
ロゼッタにしてみれば、敵地に送られたようなものだ。
「そのような礼儀があるとは初耳ですわね。独自ルールを押しつけるのは、止めた方がよろしいのではないでしょうか?」
しかし、ロゼッタは微笑みながら返した。
このようないびりにくじけていては、この先が厳しい。
「――あら、言うじゃないの。頼りの婚約者が近くにいるからと安心しているのかしら? ここに貴女の味方は少ないわよ」
相手の女性が扇子を畳み、それをロゼッタに向けて胸元を指し示す。
周囲にいる者たちの反応は様々だ。
目を背ける者。
ニヤニヤと二人のやり取りを見ている者。
他には注意深く観察している者。
以前のロゼッタならば気後れしていたかも知れないが、今は違う。
「それは残念ですわね。さ、貴女たち、お昼にしましょう」
自分の取り巻き二人を連れて、ロゼッタは職場を出ていく。
その後ろ姿を相手は睨み付けていた。
ロゼッタが見えなくなったのを確認して、大声で叫んでいた。
「何よ、あの態度は! 私を誰だと思っているの!」
ロゼッタにも聞こえるような声で叫んでいた。
廊下に出たロゼッタは、取り巻きたちが心配そうに尋ねてくる。
「ロゼッタ様、挑発してよろしかったのですか?」
「この程度は挑発になりません。相手の沸点が低かっただけですよ。それよりも、ユリーシアさんに連絡をしておきましょうか」
表向きロゼッタの味方は二人だけだが、サポートをするためにユリーシアも駆り出されていた。
◇
その頃。
ユリーシアはホテルの一室で忙しそうに机に向かっていた。
いくつもの画面が空中に投影され、それぞれ別の情報が表示されている。
一つはロゼッタの親衛隊選考の書類審査。
もう一つは、艦隊の装備を発注するための画面。
本来なら一人でやるような仕事量ではないのだが、ユリーシアは――有能だった。
普段は忘れ去られているが、出来る女だ。
他にも様々な仕事を一人で処理しており、その中の一つの画面にはロゼッタが働く職場の内部情報が表示されている。
片手間に色々と調べている。
「あ~あ、面倒な女性ばかりの職場も問題よね」
貴族の女性たちが集まっている職場は、その特殊な立ち位置から面倒事も多かった。
家同士の確執、本人たちの立場。
様々な理由で対立、共闘が行われ、それが日々移り変わっている。
ロゼッタの立場だが、クレオ派閥筆頭であるリアムの婚約者であるためかなりまずい状況だった。
「ロゼッタ様の仕事量が多いわね。わざとらしくどうでもいい仕事が増えている」
職場の情報を確認しつつ、ユリーシアはそれらの仕事を振りわけていく。
必要な仕事の中には、ただの嫌がらせも混じっていた。
「これとこれは不必要で、これは必要。あ~、こっちは書類を改竄しているから、修正するように連絡しておくかな」
六つの画面がもの凄い勢いで処理されていく。
そんなユリーシアの部屋にやって来るのは、ロゼッタの側付きであるシエルだった。
食事を持ってきたようだ。
「ユリーシア様、お食事をお持ちしました」
「あ、そこに置いてください。終わったら食べるので」
顔は画面に固定してシエルに返事をする。
シエルはそんなユリーシアに質問を投げかける。
「ユリーシア様は優秀だったんですね」
ユリーシアの手が止まったが、いくつかの画面は思考で動かしているためそのまま処理されていく。
振り返ったユリーシアは、シエルの顔を見た。
「え? それってどういう意味? 私、これでもリアム様に拾い上げてもらったのよ。優秀なのが前提なんだけど」
そもそも、貴族の跡取りの副官に選ばれるというのは、激しい競争を勝ち抜いた者に許される特権みたいなものだ。
無能は余程気に入られなければ、副官などになれない。
「いつも豪遊しているイメージしかありませんでした」
「だ、だって、命令が何もないから」
普段の暮らしぶりが酷く、シエルに無能と思われていたようだ。
シエルは、ユリーシアが確認しているロゼッタの騎士選考の画面に視線を向けていた。
「あの! ロゼッタ様の騎士は、能力よりも真面目さが大事だと思うんです! 不正を許さない、真面目な人たちを集めた方がいいと思います」
ユリーシアは、シエルが持ってきた食事に手を伸ばす。
サンドイッチを食べながら、色々と考えてしまう。
(この子、随分と編成に口を出してくるわね。実家が武官系だからかな? まぁ、能力よりも人柄重視は賛成だけどね)
そもそも、ユリーシアはロゼッタの親衛隊に能力を求めていない。
ロゼッタが目指しているのは、困窮する騎士家の救済だ。
自分が苦労してきたため、同じく苦労している騎士たちを救いたいのが大前提にある。
「別にいいけど、あなたが口を出しすぎると問題になるわよ」
シエルがロゼッタを利用して独自の戦力を手に入れようとしている、などとリアムに思われれば処刑されても文句が言えない。
この大事な時期だろうと、シエルの実家であるエクスナー男爵家と揉め事を起こしても――リアムには何の痛みもない。
そもそも、エクスナー男爵家はリアムの庇護下にあるような家だ。
切り捨てても面倒が一つ減るだけである。
「バンフィールド家の騎士団は我が強すぎます。ここは、平凡でも真面目な騎士たちを集めるべきです」
その言葉に、ユリーシアも納得する。
ティアやマリーをはじめとする優秀だが問題ありの騎士ではなく、能力は平凡でも真面目な騎士たちの方が使いやすいからだ。
「その意見は賛成するけど、元から能力よりも人柄重視の選考だから気にしなくていいわよ」
ロゼッタも救済目的であるため、能力など重視していなかった。
シエルはそれを聞いて安堵した表情を見せる。
ユリーシアはその表情を見て察する。
(ロゼッタ様の方針は聞いていたはずだから、私が余計なことをしていないか確認しに来たというところかしら? ――この子、思っていたよりまずいわね。リアム様に報告しておくか)
シエルに危険を感じたユリーシアは、リアムにこの事実を報告するのだった。
ブライアン(`・ω・´)ゞ「このブライアンも頑張って宣伝しますぞ! 明日はついにリアム様の活躍をまとめた俺は星間国家の悪徳領主!01 が発売です」
ブライアン(´;ω;`)「他作品の宣伝から始まり、今では本作の宣伝が出来るまでになりました。これも読者様のおかげです。感謝しております」
若木ちゃん(#・言・)「……私は何度だって蘇るわよ」




