出仕
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宮殿に出仕すると言っても、規模がでかすぎるためお城に出仕するというイメージよりも普通に職場に出勤すると言った方がいいだろう。
無駄に豪華なビルのロビーに来れば、新人たちの姿がチラホラ見える。
真新しいスーツを着用している文官たちだ。
俺のような貴族出身で、ろくな試験も受けずにエリートコースを歩める人間もいる。
普通の文官たちは、過酷な競争を勝ち抜いてこの場にいる本物の官僚たちだ。
そいつらを顎でこき使えるのが身分制度だ。
勝ち組万歳だな。
俺が来るとロビーにいた文官たちがざわつきはじめる。
大貴族である俺の登場に驚いているのかと思えば、そうではなかったようだ。
振り返ると、黒服たちに囲まれた赤いスーツ姿の男がやって来る。白いマフラーだろうか? それを肩にかけている。
文官として相応しいかと聞かれれば疑問だが、相手の立ち居振る舞いや周囲の人間の反応から貴族であると判断できる。
しかも、跡取り候補だろう。
年齢は俺よりも百歳くらい上だろうか? 貴族の修業は二百歳くらいまでに終わらせておけば周囲も文句を言わない。
そのため、俺より上の世代が普通に修行をしている。
こうして同期として顔を合わせる機会もあるというわけだ。
赤いスーツの男は俺など無視して歩き去って行く。
それを見送ると、俺も部下たちを大量に連れてくればよかったと後悔した。
「ふざけやがって。許されるなら言えよ。あいつの倍は用意してやったのに」
見えないところに控えている部下たちはいるが、赤いスーツの男のように目立つ部下たちは連れて来なかった。
だって、初日に護衛がいると保護者同伴に見られると考えてしまったから。
一人敗北感に襲われ、悔しがっている俺に声をかけてくる男がいた。
「有名なバンフィールド伯爵にお会いできて光栄ですね」
そいつはキザっぽいパンツ姿の貴族の子弟だった。
まるでホストのようなスーツの着こなしに加え、色気を出している。周囲の女性たちがこいつに向ける視線は、明らかに好意的なものだった。
女性たちの俺を見る目はどこか怯え、俺とは極力視線を合わせないようにしている。
俺を恐れているのはいいが、こいつとの扱いの違いは何だ?
「何の用だ?」
そいつは流れるような動きで俺に深々とお辞儀をしてくる。
いちいち、仕草がキザっぽい。
「僕は【マリオン・セラ・オルグレン】です。オルグレン子爵家はご存知ですか?」
頭の中にある貴族の家名を検索すれば、随分前に教育カプセルで叩き込んだ知識の中にオルグレン子爵家のものがあった。
国境を守るオルグレン辺境伯の分家だ。
辺境伯の寄子――つまりは血縁関係のある子分をしている。
正式には帝国の直臣だが、オルグレン子爵家は地元で強い本家のオルグレン辺境伯の子分もしている。
最近潰したが、俺が面倒を見ていた男爵家のような立場だな。
「グドワールとの国境にある領地だな」
「ご存知で安心しましたよ」
銀色のショートヘアーだが、前髪が長い。瞳の色は紫で、少し垂れ目で妙な色気を出した小生意気なガキ、というのが俺の第一印象だ。
「俺に何の用だ? お前の主人はどこだ?」
お前程度が話しかけてくるな。話しかけるなら、最低でもお前の主人を連れて来いというのをオブラートに包んで言ってやれば、小さく笑いやがった。
「辺境伯のご子息やご令嬢の方々とは修業の時期があわなかったんですよ。おかげで一人寂しく、宮仕えです」
「士官学校を出ていないから、駆り出されずに済んだのか」
マリオンは成人後に幼年学校に進み、次に帝国大学を進んで先に文官の道を選んだのだろう。
年齢は八十歳に届いていないくらいか? 俺にしてみれば後輩だ。
「耳が痛いですね。実家と本家の危機ですから、僕としても参加したかったのが本音です。ただ、軍隊経験のない小僧はお呼びではないそうです」
どうしてこいつが俺に話しかけてきたのか?
考えるまでもない。力のある貴族から支援を受けるため、もしくは増援を出させるためだ。
こいつは修業期間中に有力貴族に近付き、協力を得るために工作するつもりだろう。
「悪いが俺は暇じゃない」
「つれない人ですね。でも、これからは同じ職場なんですから、仲良くしてくださいね、リアム先輩」
人懐っこそうな笑顔を見せる辺り、まだ幼さを感じる。
年齢に似合わない妙な色気を持っているため、そこにギャップを感じる。周囲では、そんなマリオンに女性たちが強い興味を示していた。
「あの方、子爵家の出ですって」
「オルグレン家の分家なら名門よ」
「今年も凄いわね」
俺がやって来た部署というか――まぁ、俺がやって来たビルはエリートの集まる場所だ。
優秀な官僚たちはもちろんだが、将来の大貴族たちが修業のためにやって来る。
だから、ここにいる時点で貴族としても帝国が優秀と認めているということだ。
――付け届けを欠かさなかった効果が出たな。
宰相とは今後も仲良くしておこう。
俺が歩き出すと、斜め後ろをマリオンがついてくる。
長めの前髪を指で弄っている。
「人気の職場は貴族の見本市ですね。あそこにいるのは伯爵家の出身者ですよ」
「俺は現役の伯爵だ」
「おっと、あちらにいるのは侯爵家と縁のある家柄の方です。是非とも仲良くしておきたいですね」
「俺は将来の公爵だ」
どいつもこいつも、偉い奴ばかりで嫌になってくる。
少しは張り合おうと俺の地位を強調するが、虚しくなってきた。
マリオンが俺を見て笑っている。
「リアム先輩は負けず嫌いですね」
「負けているとは思っていないからな。それに、ここにいるのは跡取りじゃない控えだろ? 所詮はその程度だ」
俺の言葉を聞いていたのか、貴族の関係者たちがムッとした顔を向けてきた。
マリオンがわざとらしく肩をすくめて見せ、俺の名前を強調して呼ぶ。
「それをここで言えるのは、リアム先輩くらいですよ。流石はバンフィールド伯爵ですね」
こいつなりに周りに気を遣ったのだろう。
俺の名前を聞いて、露骨に視線をそらした貴族の子弟が多い。中には、俺のことを知らないのか睨んでくる馬鹿もいる。
俺が睨み返してやると、周囲が慌ててそいつを連れて行った。
「気が利くじゃないか」
マリオンを褒めてやれば、少し照れている。
「これくらい誰でも出来ますよ。それより、伯爵様が取り巻きも連れずに出仕なんてしていいんですか? せめて数人はつれてくると思っていたのですが?」
俺と同じように出仕しているロゼッタには、取り巻きたちが付き従っている。
だが、俺には不要だ。
いや――取り巻きがいない。
つい最近、引き締めのためにちょっと教育してやったところだ。
俺を舐め腐った男爵家や、俺を裏切った奴らがいた。だから、そいつらの子供は――非常に厳しいと評判の軍隊の再教育施設に全員問答無用で放り込んだ。
結果、俺の取り巻きはいなくなった。
ウォーレスは残るだろうと思ったが、あいつは腐っても元皇族だ。
宮殿では特別な仕事が用意された。
おかげで子分がゼロである。
――見える場所では、だが。
俺とマリオンがエレベーターに乗り込むと、二人きりになる。壁に背中を預けたマリオンは、俺に幼年学校での話題を振る。
「それより、一度聞いておきたかったんですよ。幼年学校の機動騎士トーナメントで、相手を殺したのは本当ですか? 他にも信じられない伝説がいくつもありましたよ」
「伝説? それはしらないが、デリックとかいうゴミは殺したな」
平然という俺を前にして、マリオンは「本当だったんですか?」と驚いていた。当時の記録があるだろうと思っていたが、教官たちが隠したそうだ。
幼年学校の汚点だから仕方がないだろう。
「第二校舎に殴り込んだ話は事実ですか? それから、第二校舎も規律に五月蠅くなったと聞いていますが?」
「規律は知らないが、殴り込んでやったのは事実だ」
あの時は暇だったから、クルトやウォーレスを連れて殴り込んでやった。
幼年学校での思い出だが、ロゼッタがチョロすぎて全て虚しく思えてくる。
あいつのためにどれだけ苦労したと思っているのか。
「優秀だと聞いていたのに、随分と悪さをしてきたんですね」
「成績さえ優秀なら教官共も黙っているからな」
「――リアム先輩は興味深いですね」
マリオンが俺を見る目は、品定めをしているようだった。
「お前に興味を持たれても嬉しくない。オルグレン家への支援は諦めろ」
「少しは気を持たせてくれてもいいのではありませんか?」
「俺は忙しいと言ったぞ」
本当に忙しいから、オルグレン家に関わっている暇がない。
エレベーターが目的地に到着したので二人して外に出れば、そこには今期の新人たちが集まっていた。
真面目に試験を突破してきた者。
コネや賄賂で入り込んだ者。
そして俺たち生まれながらの勝ち組である貴族たち。
入社式を行うような広場だが、まるでパーティー会場だ。立食パーティーの準備が進められている。
今日はこのまま宴会だな。
流石は帝国だ! 初日から仕事やら堅苦しい説明会は開かないようだ。
先程ロビーで俺を無視した赤いスーツ姿の男が、周囲に他の貴族たちを集めて談笑している姿が見えた。
俺が来るのを見て、左の口端を小さく上げて笑いやがった。
赤いスーツ姿の男の部下が俺の方にやって来る。
「バンフィールド伯爵ですね」
「そうだ」
「ランディー様が、是非ともご挨拶をしたいと」
「ランディー?」
俺の斜め後ろにいたマリオンが、小声で教えてくる。
「【ラングラン】侯爵家ですよ。【ランディー・セレ・ラングラン】です。――クレオ殿下の従兄弟で、侯爵家の跡取りですよ」
クレオ殿下の実母の実家はラングラン侯爵家だ。
つまり、本来であればクレオ殿下の後ろ盾になっていてもおかしくない家だった。
だが、クレオ殿下の後ろ盾は俺だ。
「未来の公爵に部下を使って呼び出すのか? お前の主人をここに呼べ」
黒服が明らかに狼狽えると、振り返ってランディーを見た。周囲も固唾を飲んで見守っている。
根負けしたランディーがこちらに歩み寄ってくる。
「失礼したね、バンフィールド伯爵。クレオ殿下が世話になっていると聞いて、従兄弟としても気になっていてね。こうして話が出来て嬉しいよ」
今まではクレオに皇帝の芽がないと判断し、支援をしてこなかったのにこの言い草だ。
ま、俺でも同じ事を言う。
「ご安心ください。この俺がしっかりとお守りしますよ」
笑顔を見せてやれば、ランディーが笑みを浮かべながら――俺に敵意を向けてくる。俺くらいの実力を得ると、相手が何を考えているのか察することは容易だ。
特に、実力もない奴の相手は容易い。
ランディーは部下から受け取ったグラスを俺に差し出してくる。
「これからはラングラン家もクレオを支援する。今までは互いに誤解があって、満足に支援をしてやれなかったからね。バンフィールド伯爵にも苦労をかけたね」
帝位に就きそうなクレオが、今頃になって惜しくなってきたようだ。
そうだよな。惜しいよな。
でも、渡さない。
「問題ありませんよ。クレオ殿下の派閥はよくまとまっています。ただ、ラングラン家が参加してくれるなら心強いですね。共に力をあわせようじゃありませんか」
ただし、お前は俺の下だけどな!
ランディーと乾杯をして、俺は酒を飲み干した。
ついにクレオの実家が出てきたな。
――いつか来ると思っていた。
ブライアン(´;ω;`)「リアム様にも後輩が! このブライアン、リアム様が立派に成長されて嬉しいですぞ。そして、そんなリアム様の幼少期時代が書籍となりました! 7月25日に発売で、Web版よりもパワーアップしております」
若木ちゃん( ゜∀゜)「私より先に宣伝するなんて十年早いわ! この苗木ちゃんの活躍する――」
ブライアン(´;ω;`)r鹵~<≪巛;゜Д゜)ノ ウギャー
ブライアン(´・ω・`)「……悪は滅びました」




