八章プロローグ
今月の新刊情報!
【俺は星間国家の悪徳領主! 01】が【7月25日】に発売します! 既に店頭に並んでいる地域の読者さんもいらっしゃるようですね。
宣伝のためにはじめた作品なのに、書籍化して宣伝しているという状況には作者の自分も驚きを隠せません。
続いては
【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 06】が【7月30日】発売です! こちら、限定版にはドラマCDが付属します。
ついにリオンやルクシオンに声がついたよ!
また、こちらは電子書籍でもボイスドラマをダウンロードできるようになっているようです。購入するサイトさんをしっかり確認してください。ダウンロードには期限がある場合もあります。
今月は二冊が発売で、来月には【コミカライズ版 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です04】が【8月7日】発売です。こちらもよろしくお願いいたします。
アルグランド帝国の首都星は、惑星全体を金属がおおっているため灰色の惑星だ。
中身も建物が多く、基本的に灰色である。
全てを人工物が管理する惑星だ。
感心はするが、俺としては緑が少ないので落ち着かない。
空に投影されるのは、青空。
首都星では災害など起きず、雨も決められたように降り注ぐ。
全て管理された惑星というのは、人間にとってとても居心地がいい。そして、そんな首都星に暮らしたいという人間は多い。
そのため、人口密度が高い。
前世でたとえれば、田舎に住むのか都会に住むか――それをもっと極端にしたようなものだ。
本当に寝るだけのためのアパートが多いし、ホテルだって一般人はカプセルホテルが基本だ。
だが、このリアム・セラ・バンフィールドは違う。
貴族という権力を持ち、そして莫大な財も築いた。
地位、名誉、金――それら全てを手に入れた悪党である俺が首都星で暮らすのは、老舗の高級ホテルだ。
伝統もある高級ホテルの一番いい部屋を貸しきるのではなく、ホテルそのものを貸し切って使用している。
無駄に貸し切って首都星で贅沢を満喫していた。
そんな俺は、朝からスーツに着替えている。
仕事着であるため装飾は最低限だが、俺の着る服は全てオーダーメイドで馬鹿みたいな値段のするスーツばかりだ。
鏡の前に立つと、天城が俺の身だしなみをチェックしてくる。
「旦那様、身だしなみのチェックが終了しました」
毎朝、天城に身だしなみをチェックさせる。服は使い捨てでも、天城は違うからな。
「前のスーツが好みだ」
「それでは、明日には新しいスーツをご用意いたします」
気に入らないから全て取り替えろ! そんな命令も許される。
だって俺は偉いから。
無駄に金をかけて作らせ、気に入らなければ袖すら通さない。
何て勿体ないのだろうか。だが、それが許されるのが、この世界の貴族である。
「そろそろ出るぞ」
出仕の時間が迫っている。
今の俺は、宮殿で文官として働いている。帝国大学を卒業し、その後は二年の研修期間を経て――しばらく領地で休んでいた。
文明レベルの低い惑星に召喚されるというアクシデントもあったが、あれも悪いことばかりではない。
メイド服を着た犬族のチノが、ソワソワした様子で窓の外を見ている。
「うわ~、高いな。ここは雲の上かな?」
窓には絶対に近付かず、外を見ていた。
時々「この建物は崩れないのか!?」などと言って、ロゼッタの側にいるシエルに抱きついていた。
本当に可愛い奴だ。
「チノ、はしゃいで落ちるなよ」
からかってやれば、チノは耳や尻尾の毛を逆立てて後退りした。
「こ、こここ、ここから落ちるのか!?」
何かしたら落ちてしまうと思ったのか、脚を震わせている。少しからかいすぎたことを反省しつつ、天城に視線を向けた。
「天城の側にいれば安全だ。天城、チノの面倒をみてくれよ」
「かしこまりました」
頭を下げてくる天城に、チノが飛び付いていた。
涙目になっている。
「わ、私は、もっと下の部屋がいいな! 出来れば、地面に近いところがいいな! た、高いところが怖いとか、そんなことはないからなっ!」
こんな高い場所に居られるかと、チノは下の階に向かいたいようだ。
本当にこいつは可愛いな。
「客室の中で下の階を用意してやる。シエル、チノの部屋を用意してやってくれ」
シエルに話を振れば、内心では俺を嫌っているのにそれを顔に出さない。
「承知しました」
これだよ。これ! この、嫌がっている感じが最高だ。俺を追い落とそうとしているのに、能力不足で手も足も出ないところもいい。
俺を嫌って色々と動いているようだが、その全ての情報が筒抜けになっている。
有能だったら対処していたが、シエルの能力を考えると放置で問題ない。適度に有能で、適度に俺に反抗する――なんとも得がたい人材だ。
一人喜んでいると、着替えを終えたロゼッタが部屋にやって来る。
スカートが膝下のスーツ姿で登場すると、俺に笑顔を向けてくる。
「ダーリンも準備が出来たのね。なら、一緒に出仕しましょう」
気分が一気に落ち込んだ。
「――そうだな」
「今日からダーリンと同じ職場で働くなんて、何だかドキドキするわ」
「同じ職場? 職場は近いが、別だろう?」
「建物が近ければ同じようなものよ」
何それ、大雑把すぎる。
元々、ロゼッタはシエル以上に俺を毛嫌いして反抗的な女だった。それが今では、飼い慣らされた猫だ。いや、犬? とにかく、牙を抜かれた獣だ。
反骨精神など欠片も残っていない。
「どうでもいい。天城、車を用意しろ」
「既に待機しております」
出勤時は送り迎えが当たり前である。
「さて、今日も一日、程々に働くとするか」
高い評価など必要ない。
何しろ、俺は大貴族だ。偉いので、黙って座っているだけでも出世する。
あくせく働く必要すらない。
ロゼッタを連れて部屋を出ると、メイド服姿のティアとマリーが顔を寄せ合って睨み合っていた。
「リアム様のいるフロアの掃除は私がする。お前は出ていけ」
「私が、リアム様のいるフロアを隅々まで掃除するのよ。出ていくのはお、ま、え。理解しないと駄目よ」
朝から元気のいい馬鹿共を前にして、俺はゲンナリしてくる。
どうして俺の部下たちは駄目な奴が多いのか?
やはり、容姿を優先して採用したから駄目なのだ。
騎士など能力や忠誠心で選ぶべきである。
ティアとマリーは、そのどちらも兼ね備えているのに常識がないから駄目だ。
「朝から騒ぐな。そんなに掃除がしたいなら、俺が戻ってくるまでに、全て終わらせておけ」
俺に声をかけられた二人が、慌てて膝をつく。
メイド服姿で膝をつかれてもシュールだな。
「リアム様、おはようございます!」
ティアの挨拶など無視する。
「誰が膝をつけと教えた? お前らに相応しい挨拶を教えただろう? はい、やり直し」
俺がやり直しを要求すれば、それに従うしかないのが騎士である二人だ。
立ち上がると、恥ずかしそうに俺が教えた挨拶をしてくる。
ティアが軽く握った手で、猫耳を再現して腰をくねらせる。
「ご主人様、おはようございますにゃん!」
そして、マリーの方は手を伸ばして兎さんの耳を再現させた。
「リアム様、おはようだぴょん!」
騎士として一流にまで上り詰めた大人が、メイド服で朝から全力でこの挨拶だ。二人が顔を赤くしてプルプルと恥ずかしそうに震えている姿を見ると、気分は最高だ。
ロゼッタはそんな二人から視線をそらしていた。武士の情けみたいなものだろう。
二人の哀れな姿を見ていられなかったようだ。
だが、俺はこれで終わらない。
「今日はこれで許してやる。明日までにもっと完成度を高めろよ」
命令すると、ティアとマリーが肩を落としていた。
「リアム様のご命令ならば」
「リアム様がお望みならば」
悔しそうな馬鹿二人を通り過ぎ、エレベーターに向かう。
エレベーターは広く、俺のためにソファーが用意されていた。
腰掛けると、天城たちもやって来る。
俺の隣に座れるのは、婚約者であるロゼッタだけだ。本当は天城を座らせたいが、本人に「駄目に決まっているでしょう」と拒否されてしまった。
隣に座るロゼッタが、降りていくエレベーターの中で俺に話しかけてくる。
「ダーリン、一つ聞いても良いかしら?」
「何だ?」
「覇王国が攻め込んでくると聞いているのだけど、ダーリンは参加したくなかったの? ウォーレスは、ダーリンが参加すると思っていたみたいよ」
覇王国か。
正式にはグドワール覇王王国だ。
何でも、強い奴が正義というのを地で行く星間国家で、常に争い続けている修羅の国らしい。よくも飽きずに戦い続けられるものだ。
帝国だって戦争は多いが、それ以上というから恐れ入る。
戦国時代で言えば島津。もしくは、鎌倉時代の武士みたいな連中が、この宇宙時代でも平気で幅を利かせているわけだ。
そんな連中と戦うなんて、御免被る。
俺は強い奴と戦いたいんじゃない。弱い奴らを蹂躙したいだけだ。
年がら年中戦っているバトルマニアたちと戦うなど、面倒だから嫌だ。
「やる気がない。それに、しばらくは俺の軍隊も休ませたい」
「ダーリンは優しいのね」
嘘である。
酷使するべき時はするが、俺が動きたくないので休ませているだけだ。
あと、俺は優しくない。
どこまでも自分の都合を優先するし、どこまでも自分勝手だ。
それに、そんなヤベェ覇王国と戦うのは、俺の政敵であるカルヴァンだ。
皇太子殿下自らが、軍を率いて討伐に向かっている。それというのも、クレオ派閥に押されて最近は立場を危うくしているからだ。
「覇王国と戦うのはカルヴァンだ。お手並み拝見と行こうじゃないか」
「カルヴァン殿下は勝てるのかしら? ダーリンの政敵だと理解していても、帝国が負けるのは受け入れられないわ」
ロゼッタは善良な人間だ。帝国全体の利益を考えれば、カルヴァンが勝利する方がいいだろう。だが、俺は違う。
俺が傷つかないのであれば、誰が負けてもいい。
帝国が負けて、俺が得をするなら――帝国が負けてもいいくらいに考えている。
ただ、この場合は別だ。
覇王国が勢いづくのは避けたいし、カルヴァンが完全勝利を得るのも気分が悪い。互いに疲弊してくれるのが一番、というのが本音だ。
「――カルヴァンは無能じゃない。軍人たちの意見を取り入れるだろ。数の上では帝国が優勢だと聞いている。問題ないな」
問題ないと断言する俺の言葉を信じたのか、ロゼッタは安堵した表情をした。
だが、俺は内心で腹立たしく思っている。
そう、カルヴァンは優秀だ。
あいつはこの俺を査問会に呼び出し、皆の前で嘲笑いやがった。
領内で子作りデモを起こされた奴~みたいな空気を作り、俺を馬鹿にしやがった。
だから俺は、あいつを侮らない。
エレベーターが一階に到着し、俺は立ち上がる。
「こっちはさっさと文官の仕事を終えて、貴族としての修行を終わらせる。そうすれば、残りの人生は遊び放題だ」
五十年以上も続いた修行が終わりを迎えようとしていた。
長い。長すぎる。
前世なら、もう人生の折り返し地点を超えているところだぞ。
「あと四年で修行が終わるのよね。そ、そうしたら、私たちは――その」
顔を真っ赤にして手を頬に当てるロゼッタを見て思う。
どうしてお前は、そんなに残念になってしまったのだろうな。
◇
グドワール覇王王国。
リアムに修羅の国と呼ばれた星間国家を訪れていたのは、案内人だった。
そこは強者が弱者を従える国の首都星だ。
帝国の管理された首都星よりも、雑多な感じがする場所だった。
通りでは普通に喧嘩があり、警官の立場にある人間までもがその様子に興奮している。
案内人はそんな様子を見て呆れていた。
「なんと野蛮なのでしょうね」
強さこそが全て。
強さがあれば成り上がれるだけ、ある意味では公平な国だった。
案内人が向かっているのは、コロッセオのような闘技場だ。
ここでは億にも届く血が流れた場所でもある。
覇王国の強者を決める戦いが行われる闘技場は、神聖な場所――には似つかわしくない、何とも不気味な存在がいた。
大地に鋭く尖った細い口を突き刺し、血を吸っている。地面に染み込んだ強者たちの血や汗が大好きな存在だ。
「強者の血はいつ吸ってもうまいな!」
頭部だけだが、このような姿のそいつは、案内人と同じ存在だ。案内人とは違い、彼は人の不幸よりも闘争を好む。
そのため、覇王国を裏で操り、常に戦いが起きるようにしていた。
「見つけましたよ、グドワール」
「お前からこちらに接触してくるなんて珍しいな。世界を渡り歩くお前が、この俺様に何の用だ?」
偉そうな存在は、この国の名前そのもののグドワールだった。
「帝国に攻め込むそうですね」
「国内ばかりでは飽きるからな。何だ? お前の縄張りだから手を出すなと言いたいのか?」
立ち上がったグドワールが戦おうとしてみせると、案内人はすぐに降参する。
何しろ、今はリアムのせいで弱り切っているため、勝てる見込みがない。
「おっと、違いますよ。実は、帝国に強い人間がいましてね」
「――強いのか? 俺の駒よりも?」
興味を示したグドワールが、案内人の話を聞く。
「もちろんです。帝国には、グドワールが大好きな強者がいますよ。そいつを倒してみたくはありませんか?」
「誰だ? そいつの名前を教えろ!」
「リアム・セラ・バンフィールド」
案内人がリアムの名を呟けば、グドワールが嬉しそうにたこの脚を震わせる。
「聞いたことがあるぞ! 剣聖三人を倒した一閃流のリアムだ! そうか、本当に強いのか。楽しみだな!」
やる気を見せるグドワールに、案内人が丁寧にお辞儀をする。
「是非ともあなたの力を貸して欲しいですね。共に――リアムを葬り去りましょう」
案内人がグドワールと手を組んだ。
ブライアン(´・ω・`)「リアム様、覇王国に行かないって……まさか、案内人が初手で詰むとは思いませんでしたぞ。それでは、書籍版の宣伝を――」
若木ちゃん(ノ・∀・)ノ 「えい!」=====┻━┻))゜Д゜)・∵.「辛いです!」
若木ちゃん( ゜∀゜)「【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】略して【モブせか】の【6巻】は【7月30日】に発売です! 今回はドラマCD付限定版も同時発売! みんな、買ってね~♪」
ブライアン(´;ω;`)「俺は星間国家の悪徳領主! 一巻は【7月25日】発売ですぞ。……出遅れてしまいました」




