七章エピローグ
本作「俺は星間国家の悪徳領主!」がオーバーラップ文庫様で書籍化決定しました!
発売は7月25日です!
活動報告にてカバーイラストを掲載していますので、是非ともチェックしてください。
リアムが去ったアール王国では、一つの変化が起きていた。
「天城様」
エノラ女王が、天城が着ていたメイド服に似せて作った衣装を身につけている。
天城を模した像まで用意されている。
エノラの他にもメイド服を着た者たちがいる。
女性ばかりではなく、男性も、だ。
皆が等しく天城の像に祈りを捧げていた。
理由は単純だ。強すぎるリアムをもってしても、逆らうことが出来ない存在だったから。
きっと天城は位の高い存在なのだろう。
そんな天城の像を用意し、着用していた衣装に似せた祭服を作らせた。
エノラたちには、メイド服が天の衣に見えたのだ。
そのため、天城を神と崇める神官の祭服に採用されてしまった。
エノラが熱心に祈りを捧げている。
「獣人たちと盟約を結び、互いに不干渉を取り決めました。これで良かったのですよね?」
天城がエノラたちに物資を用意した理由だが、それはリアムが原因だ。
獣人たちは自分のものと宣言してしまったので、最低限の面倒を見る必要があった。
もし、何もせずにリアムが去っていたら、食糧を奪い合って戦争になっていただろう。
それを防ぐために、天城がフォローをした。
それすら、エノラたちからすれば天の恵みだ。
「女神天城様、我々をお救いくださり感謝いたします」
メイド服を着た老若男女が、天城の像に祈りを捧げる。
◇
狼族改め、犬族の族長であるグラスは村の中央にリアムの木像を建てていた。
「俺の娘はリアム様に嫁いだ! すなわち、我が犬族は神の一族である!」
チノがリアムのペットになったのを利用し、このまま獣人たちの間で存在感を増していく方針を打ち出した。
リアムとは似ても似つかない木像が作られ、飾られている。
ただ、他の仲間たちの反応は鈍い。
「いや、犬はないだろ」
「俺たち狼だぞ」
「グラスの野郎、プライドはないのか?」
他の獣人たちからすれば、犬族は娘をリアムに嫁がせている。
無下には出来ない存在になっていたが、仲間内では反応が鈍い。
グラスはそんな仲間たちの尻を蹴飛ばすように、檄を飛ばす。
「あの場で逆らえなかったお前らに口答えする資格はない! そもそも、プライドを捨てなければ全滅だぞ。お前ら、それでいいのか?」
戦士として戦って死ねればいいが、リアムとは戦いが成立しない。
リアムが一方的に蹂躙するだけだ。
そんな存在に戦士らしく挑めない。
最早、犬族にとってリアムは武神だ。
グラスの息子が手を挙げて発言する。
「親父、それよりチノは戻ってくるのか?」
「あの子は我が部族の礎になった」
(そもそも、宇宙とか言われても――その、困る)
それらしいことを言っているグラスだが、実は何も知らない。
星間国家、宇宙、惑星――それらを理解するだけの下地がなく、チノがどのような扱いを受けているか想像も付かない。
(無事だとは思う。思うが――きっとあの子も辛いのだろう。チノ、お前のおかげで我らは生き残った。お前のことは必ず語り継ぐぞ)
圧倒的なリアムの前に、娘を差し出したことを後悔はしない。
だが、父親としては情けなく思う。
「チノも我らの村で崇めよう。あの子がいるから、今の我々がいる」
村にはチノの木像も用意されているが、まったく似ていなかった。
◇
バンフィールド家の屋敷。
侍女長であるセリーナの前には、新人のメイドたちが配属されていた。
「クリスティアナです!」
「マリーです!」
メイド服を着て可愛らしいポーズをする二人は、ぎこちない笑顔を浮かべていた。
本人たちも似合っていないと理解しているが、これをさせたのはリアムだ。
リアムの命令は絶対である二人にとって、メイド服で可愛いポーズを取るのは命を賭けるに値する任務である。
セリーナが溜息を吐く。
「笑顔がぎこちない。やり直し」
やり直しを要求するセリーナに、ティアとマリーが噛みついた。
「私は問題ないわ! 問題があるのはこの化石女よ!」
「ミンチ女ぁ! お前の可愛くないポーズが足を引っ張っているって理解しろや!」
口汚く罵り合っている二人に、セリーナは冷めた視線を向けていた。
「リアム様も面倒な仕事をこの婆に与えてくれたものだね。お前たち、そっちの新入りを少しは見習ったらどうだい?」
セリーナも口調を崩し、争っている二人の視線をもう一人の新人メイドに向ける。
三角の犬耳に、フサフサした尻尾を持つチノがメイド服に身を包んでいた。
「私は誇り高き狼族のチノ! メイドをやれと言われたからやってやる。さぁ、誰を倒せばいいんだ!」
メイドというのを何も理解していない。
セリーナは頭を抱えたくなったが、チノはこれで問題なかった。
何故なら、リアムが許している。
ティアがチノを見て、鼻で笑っている。
「セリーナ殿、このちっこい獣人を見習えと言うのですか? これでも私はメイドとしても一流ですよ。この獣人に学ぶところなどありません」
勝ち誇っているティアに、セリーナは事実を突きつける。
「あんたは最初から勝負になっていないんだけどね」
それを聞いて喜ぶのはマリーだ。
ティアに指をさして笑っている。
「聞いたか、ミンチ女。お前は原始人みたいな獣人以下だとさ!」
口が悪いマリーに、セリーナがチクリと言い返す。
「その口の悪さを少しは隠しなさい。いつもみたいに猫をかぶるくらいじゃないと、あんたの方が原始人以下だよ」
「な!?」
マリーが仰け反り、ティアはチノに顔を近付ける。
「私がこいつに負けるというのは納得できませんね。教養、礼儀作法、そして強さ――どれを取っても負ける気がしませんよ」
ティアの威圧に、チノが尻尾を丸めて震えていた。
犬耳がペタリと倒れている。
「わ、私は狼族一の勇者の娘らぁ!」
恐怖で声が裏返るチノに、今度はマリーが顔を近付けてきた。
「こんな獣人をリアム様が可愛がるのがあり得ないな」
二人に威圧され、涙目のチノが全身を震わせている。
その様子を見たセリーナが、二人に大事な話をするのだった。
「あんたら二人より、よっぽどまともだよ」
「どこがです? 何度も言いますが、私は一流の騎士にしてリアム様の剣。この獣人に負けるとは思いませんが?」
二人がチノを獣人と呼び続けるのは、リアムが「獣耳と尻尾」に興味を持っていると感じているからだ。
つまりは嫉妬である。
普段なら分け隔てなく接する二人も、リアム絡みでは暴走する。
セリーナはたとえ話をはじめた。
「そうだね。なら、あんたたちに一つ質問だ。ある女には好きな男がいた。その女と男では身分が釣り合わず、男の方が高嶺の花だ。その男との繋がりを求めた女が、その男の子供を勝手に身籠もろうとした。――あんたらはどう思う?」
明らかにティアとマリーの話だが、二人はドン引きしていた。
「ちょっと怖い話ですね。その女は病院に行くべきです」
「同感だわ。頭か精神の方の病院がいいわね。勝手に男の子供を身籠もるとか、人としてどうかと思うわよ」
セリーナは思った。
(自分のことだって理解できないのか? この二人、本当は優秀なんだけどね。リアム様のことになると暴走するから面倒だ)
セリーナが姿勢を正して、残酷な事実を突きつける。
「今の感想が、あんたたちに対するリアム様の感想だよ」
ティアとマリーが顔を見合わせ、笑い始めた。
「セリーナ殿は冗談がうまいわね」
「そうね」
どうして自分たちは違うと思えるのか?
それをセリーナはすぐに知ることになる。
瞳からハイライトの消えた二人が、笑顔で両手を広げている。
「リアム様は高嶺の花なんて言葉では言い表せないわ。もう、私の中では神です。尊敬するリアム様の子を身籠もるのは、神事よ」
マリーは手を組んで祈る仕草をしている。
「暴走した頭の悪い女と一緒にしないで欲しいわ。たとえ、禁忌を犯そうともリアム様の子を身籠もれるなら、何だってする。それこそが私の忠誠よ」
セリーナは天を仰ぐのだった。
「この二人の面倒を見ろだなんて、リアム様も酷な命令をしなさるね」
チノが二人にドン引きしていた。
「話の内容はよく分からないが、お互いの理解が大事だと思うぞ」
真っ当な意見を言うチノに、セリーナは「まだこっちの方が教育しがいがある」と呟いた。
そんな場所にリアムがやって来る。
「チノ! お前、パンケーキを食べたことがないだろ? パティシエに作らせたから、一緒に食べるぞ」
ウキウキしたリアムがやって来ると、チノが尻尾をぶんぶんと振り回していた。
「パンケーキとはなんとおいしそうな響――じゃなかった。そ、そんなことでこのチノを懐柔できると思うにゃよ!」
最後は噛んでしまったが、食べたそうにしている。
リアムはそんなチノを連れて行こうとする。
「セリーナ、チノは借りていくぞ」
「構いませんが、そちらの二人はどうします?」
セリーナが視線を向けると、チノに冷たい目を向けるティアとマリーがいた。
二人の後ろに嫉妬の炎が幻視出来てしまうほどだ。
チノが怖がってリアムの後ろに隠れた。
「ひっ!」
すると、リアムがティアとマリーを見て嫌そうな顔をしている。
「俺のチノに何かしたら斬るからな。お前らはさっさとセリーナから教育を受けて、少しは淑女らしさを学べ――さ、行くぞ、チノ」
「う、うむ! ついていってやろう」
リアムがこの場を去って行くと、チノは二人から逃げるためについていく。
ティアとマリーに怖がって、リアムの手を握っている。
その姿を見たティアとマリーが、膝から崩れ落ちた。
「リアム様ぁぁぁ!」
「どうしてあんな小娘にぃぃぃ!」
泣き崩れてしまった二人を見たセリーナは、頭が痛くなってくる。
「こんな問題児を預かったのは初めてだよ。お前ら、今日からは厳しく教育してやるから、覚悟しておくんだね」
(どうせ並の騎士よりも頑丈だから、多少厳しくしてもいいだろ)
ティアとマリーの二人は、セリーナのもとで厳しく教育されることになった。
◇
ロゼッタ、ユリーシア、シエルの三人が集まる部屋。
そこではロゼッタの親衛隊について話し合いがされていた。
ユリーシアがロゼッタの方針を聞いて、少しだけ驚いていた。
だが、すぐに頷く。
「困っている者たちを助けるのですか? 確かに、悪くはありませんけど――余計な出費と時間がかかりますよ」
「構わないわ。私は思い出したの。自分が何を望んでいたのか、って」
リアムに自分で決めろと言われたロゼッタは、過去を思い出す。
「名ばかりの公爵家として辛い人生を歩んでいたわ。それでも、ダーリンと出会って私は助けられたの。でも、それは私と周りの人たちだけ。今の私なら、もっと大勢を助けられると思うわ」
親衛隊の隊員を集めるために、わざわざ困っている人間を雇うと言い出した。
貧乏、借金、様々な理由で苦しんでいる者たちを集める、と。
ユリーシアは現実的な意見を述べる。
「借金も貧乏も、本人の責任である場合も多いですよ。全員を救うつもりですか?」
ロゼッタは首を横に振る。
「そんなのダーリンは認めないと思うの。親や先祖、それにどうしようもない状況にある人たちを選ぶつもりよ」
「ま、それなら構いませんけど、予定よりも予算がかかりますね。最精鋭に仕上げると時間も予算もかけて、三百隻程度にまで縮小しますよ」
「構わないわ。最精鋭でなくとも、並の実力でもいいわ。チャンスをあげたいの。そして、困っている人たちを助けるわ」
ユリーシアがロゼッタの要望に叶う艦隊を編成するため、計算をする。
「それなら三千隻くらいですかね?」
「お願いするわ」
話を聞いていたシエルは、当初の予定とは違うが――諦めていた。
(やっぱりロゼッタ様は優しいわね。でも、きっと優しいロゼッタ様が設立する親衛隊なら、素晴らしい艦隊に仕上がるわ)
それがきっと、いつかリアムを止める力になるとシエルは信じている。
ロゼッタがやる気を見せていた。
「そうと決まれば、すぐに実行するわ! 領内では集められないでしょうから、帝国の直轄地や他領からスカウトしましょう」
ユリーシアは面倒な仕事が増えたと、少しだけ嫌な顔をしている。
ただ、仕事が出来て嬉しそうでもあった。
「やりますけどね。でも、これはちょっと大変な仕事になりますね」
こうして、ロゼッタの親衛隊設立に向かって動き出した。
◇
「どいつもこいつも馬鹿ばかりか!?」
歯を食いしばって悔しがる俺は、天城と一緒にモニターを見ていた。
天城が世論調査の結果を見ている。
「領民たちは多くが増税に賛成ですね。税金が社会福祉に回れば、恩恵も受けられますからね」
「役人共が頑張りすぎたな」
古来より役人たちにフリーハンドを渡せば、余計なことばかりする。
放置すると駄目になるのが役人だ。
だから、俺が下手に手を出さなくても悪さすると思っていたし、実際しているはずだ。
俺ならする!
しかし、社会福祉の充実を謳い増税したのはいいが、どうやら政策――悪さが巧妙すぎて領民たちには本当に社会福祉が充実しているように見えるようだ。
そのため、あまり堪えていない。
「俺の完璧な計画が狂うなんて!」
「旦那様に完璧な計画が今までにあったでしょうか?」
「天城、すぐに役人に繋げ!」
「モニターに映します」
今までニュースを見ていたモニターに、汗をかく役人の姿が映し出された。
『リアム様、何事でしょうか?』
「社会福祉の件に決まっているだろうが! もっとシンプルに出来なかったのか!?」
もっと分かりやすく領民たちから搾り取っている感じを出さないと、領民たちは何が起きているのか理解してくれない。
俺は馬鹿な領民たちが何も知らずに税を搾り取られている姿が見たいのではなく、苦しんでいる姿が見たいのだ。
これは子作りデモの復讐だぞ!
『シンプルに、ですか? いえ、しかし、これ以上は――』
「お前らなら出来るだろ!」
昔から役人というのは抜け道を作って色々とやる。
出来ないはずがない。
『す、すぐに見直しに入ります!』
「それでいい。しっかりやれよ――期待しているからな?」
最後に圧力までかけてやった。
上司から「期待しているからね?」なんて言われてみろ。
それはただの圧力だ。
これで役人たちも張り切って社会福祉を役に立たない政策にして、領民たちを怒らせてくれるはずだ。
「俺を怒らせたことを後悔させてやる」
天城が、子作りデモの件を引きずる俺に呆れた顔を向けてくる。
「まだ諦めていなかったのですか?」
「当然だ。俺を怒らせた罪深き領民たちを苦しめてやる」
首都星に戻る日も近い。
早く領民たちの苦しむ顔が見たかった。
◇
数ヶ月後。
政庁の発表により、社会福祉の政策について見直しが入った。
領民たちはこの話で盛り上がっている。
「前よりも分かりやすいな」
「リアム様が分かりやすくしろ、って直接命令したそうだよ」
「役人たちが期待していると言われて、やる気になったとか聞いたな」
これまでもありがたい政策だったが、シンプルになってより使いやすくなった。
領民たちは大歓迎である。
「それにしても、前のままでもよかったのにリアム様は手を抜かないな」
「あの人は本当に立派だよ」
「今は首都星に向かっているんだったかな?」
「もうすぐ貴族様の修行が終わるらしいから、あと数年で戻ってくるらしいぞ」
「早く戻ってこないかな」
「修行が終わっても落ち着くかな?」
リアムの予想とは違った方向に話が進み、領民たちは更に感謝することになった。
◇
首都星で借りている高級ホテルの最上階。
俺は報告を聞いて膝から崩れ落ちた。
領内では、俺が政策の見直しをさせたことで評判が上がっているらしい。
天城が無表情ながらも、少し嬉しそうに報告してくる。
「リアム様のおかげで、より分かりやすくなったと好評です。領民たちから感謝の声が届いていますよ」
「お前らを苦しめるためにやっているんだよぉぉぉ!」
ここまで馬鹿だと恐ろしくなってくる。
俺はゆらりと立ち上がり、側にいた天城に命令する。
「天城――領内の教育を見直すぞ。今のままだとレベルが低すぎて駄目だ」
「教育ですか? 現在のレベルでも十分だと思いますが?」
「自分たちが苦しめられていることにも気がついていないだろうが! 何で感謝するんだよ!? 普通逆だろ!?」
これが前世なら、政権与党の評判はガタ落ちしていたはずだ。
どうして感謝するんだ!?
俺の領民たちは馬鹿ばかり。
それが怖くなってきた。
俺の領地の教育レベルが、実は低すぎるのではないかと不安になってくる。
「現在、義務教育は九年ですよ」
「十二年に延長して、内容も見直せ。もう少しマシな教育をしろ」
自分たちが苦しめられていることに気がつかないなんて、逆に恐ろしい。
これが裏でコソコソやる場合なら良かったが、今回は領民たちに苦しんで欲しかったのだ。
――悪徳領主って難しいな。
ブライアン(*´ω`)「このブライアンもついにイラスト化……嬉しいですぞ」
ブライアン(`・ω・´)ノシ「それは皆様、またしばしのお別れです」
これにて七章は終了となります。
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※ただし小説家になろうの規約は守ってください。
八章の投稿開始は未定となっておりますが、7月は二冊が発売するので宣伝目的で投稿するかもしれません。
詳しい内容は活動報告を利用するつもりなので、そちらをチェックしていただけると嬉しいです。