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正しい悪徳領主

ニコニコ静画様で公開中の 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です コミカライズ21話 ですが、すでにコメントが1500件!?(;゜ロ゜)


ネタバレを気にされない方なら、楽しめると思います。


コミカライズ版は 1~3巻 が発売中ですので、こちらも購入していただけると嬉しいです。

 バンフィールド家の本星から逃げ出したノーデン男爵は、領地に戻って逃げ支度をしていた。


 家族も怯えている。


 金切り声で問い詰めてくるのは、ノーデン男爵の妻だ。


 美人ではあるが、とても派手に着飾った姿だ。


「リアムが戻ってきたというのは本当なのですか!?」


「ほ、本当だ。すぐに逃げなければ、我々は殺されてしまう」


 既に領内に入り込んだ宇宙海賊たちが、リアムが帰還してまとまりを取り戻した私設軍に倒されはじめている。


 ノーデン男爵は、悔しさが滲み出た顔をしていた。


「あいつさえ戻らなければ」


 辺境の男爵家に生まれ、帝国貴族の中では見下されるような立場にいた。


 首都星に出向いても田舎者扱いを受ける。


 贅沢をしたくても、そもそも領地である惑星が酷すぎる。


 歴代の当主たちが重税で民を苦しめ、贅沢の限りを尽くしていた。


 以前のバンフィールド家と同じ状況だったのだ。


 しかし、リアムが力を付けてきたおかげで、ノーデン男爵も多少は裕福な暮らしが出来るようになった。


 リアムに頼めば、領内を無償で発展させてくれたからだ。


 インフラ整備が進み、税収が上がった。


 もちろん、その後に増税して民から搾り取っている。


 リアムが聞けば「こいつ馬鹿だな」と言うくらいには、駄目な領主だ。


「あなたが絶対に大丈夫だって言うから賛成したのよ!」


「わしだって戻ってくると思わなかった! ――くっ、ささやかな贅沢すら許されんと言うのか?」


 甘い汁を吸うために、バンフィールド家にアイザックを招いてこの台詞だ。


 領民たちを苦しめ、贅沢な暮らしを送ってきたのに、自分たちは貧乏だと思い込んでいる。


 逃げようとしていると、部屋に武装した軍人たちが入り込んできた。


 ノーデン男爵家の私設軍の兵士たちだ。


「な、何だ!? まだ準備が出来ていない。迎えに来るなら――」


 文句を言おうとしたノーデン男爵だったが、部下たちは無言で引き金を引いた。


 妻と揃って撃ち殺されると、兵士たちが二人を囲む。


「自分たちだけ逃げだそうなんて、虫が良すぎるな」


「こいつらには長年苦しめられてきたからな。ずっとチャンスを待っていた甲斐があったぜ」


「広場にでも吊すか? みんな大喜びだ」


 今まで苦しめられてきた領民たちは、ノーデン男爵がリアムに敵対したことで行動を起こした。


 後ろ盾がない、もしくは理由なく領民たちが領主を殺せば、帝国がリアムに命じて惑星ごと焼き払わせるからだ。


 彼らはずっとこの機会を待っていた。


 リーダー格の兵士が二人を見下ろしていた。


「死体はバンフィールド家に届ける。領民はバンフィールド家に敵意なしと示さないといけないからな。お前ら、我慢しろよ」


 他の兵士たちがやって来て、死体を運び出そうとしていた。


 すると、ノーデン男爵家の惑星に――バンフィールド家の艦隊が押し寄せてくる。



 ノーデン男爵家の領地に攻め込んだのは、ティアだった。


 宇宙戦艦のブリッジで、報告書に目を通している。


 周囲に投影されたモニターの情報を、瞬時に理解して小さく溜息を吐いた。


「リアム様に盾突いた瞬間に、これまで苦しめてきた領民たちに殺されたか。無能だとは思っていたが、呆気ない最期だったな」


 ノーデン男爵とその妻、そして側室や子供たち――皆が領民上がりの私兵に殺されてしまっていた。


 ノーデン男爵の領地では、領民たちがバンフィールド家の統治を希望している状態だ。


 側に立つ女性騎士が、ティアに次の命令を求める。


「領主殺しは重罪です。実行した兵士たちは処刑しますか? 彼らも覚悟を決めているようですよ」


 いくら理由があろうと、領主を殺したら重罪だ。


 だが、ティアは微笑んでいた。


 リアムに顛末を報告していたのだが、ノーデンの呆気ない最期を気に入ったらしい。


 詳しい報告はこれからになるが、リアムは上機嫌だった。


「リアム様に素晴らしい報告が出来た。実行した者たちは、除隊させて名前を変更した後に他の惑星に移住させなさい。――公式発表では処刑にするわ」


 女性騎士が少し呆れていた。


 処刑するよりも面倒な手間がかかるためだ。


「随分な温情ですね。彼らも覚悟していたはずですよ」


「リアム様を喜ばせた。私個人から褒美を出してあげるだけよ。さて――面倒だけど、ノーデン男爵の領地をしばらく管理するわよ」


 派遣された艦隊は、そのままノーデン男爵家の領地を一時的に預かる予定だった。


 そのままティアが領主代理となり、代わりの者が来るまで統治する。


 残念すぎて忘れられがちだが、ティアは優秀な騎士だった。


 女性騎士がノーデン男爵家の領地を確認し、つまらなそうにしていた。


「絵に描いたような辺境の悪徳領主ですね。領民たちに嫌われるわけですよ。バンフィールド家が手を貸さなければ、領内はもっと酷い状況でしたよ」


 ティアがノーデン男爵家の領内の情報を見れば、酷すぎていっそ清々しい程だった。


 リアムが支援したことで多少マシになっているが、その後すぐに増税して民たちを苦しめている。


 これでは恨まれても仕方がない。


「リアム様とは大違いね。この惑星にリアム様のご威光を示します。このような荒れ果てた惑星など、リアム様がいれば放置などしないでしょうからね」


 悪徳領主により疲弊した惑星を、ティアは本気で統治することにした。


 リアムならば同じように行動するはずだ、と。



「ダーリン!」


 屋敷に戻ってきたロゼッタに抱きつかれた俺は、黙って受け止めてやった。


 泣いているロゼッタを避けてやるのも気が引けたし、近くには天城もいる。


 これで避けたら文句を言われてしまう。


「――お前は元気そうだな」


 離れると、涙を拭うロゼッタが俺の不在時にどれだけ不安だったのかを語ってくる。


「ダーリンがいなくなって、本当に悲しかったわ。それに、ダーリンがどれだけ領内に必要なのかも理解できたわ。私、何も出来なかったの。ダーリンのために何も出来なくて、悔しくて、情けなくて」


 当たり前だろうが。


 お前が領内のことに口出ししてきたら、俺なら怒るけどな。


 そもそも、ロゼッタに実権を渡すなど論外だ。


 お前が好き勝手に出来たら、俺にとっては大問題だよ。


 誰かがまとめるにしても、俺の忠実な部下に任せたい。


 ロゼッタだけは絶対に駄目だ。


「気にするな。だが、今後のこともあるから、お前のために親衛隊でも用意してやろう」


「そ、そんなの悪いわ。親衛隊だなんて贅沢よ」


 確かに贅沢だが、今後必要になってくる。


 あと、マリーみたいな奴を出さないためにも、こいつは自力で身を守れるようになるべきだ。


「お前の身を守るためさ」


「ダーリン」


 感動しているロゼッタだが、こいつは本当に何も理解していない。


 こいつのために親衛隊を用意してやるのは、俺の方針と真逆に見えるかもしれない。


 しかし、だ。


 逆に言えば、ロゼッタが領内のことに口を挟める範囲を制限する意味がある。


 ロゼッタが命令できる軍隊は、自身の親衛隊だけに限定する。


 こいつが張り切りだして、領内のことにあれこれ口を出してくると面倒になるからな。


 こいつは善性の生き物。


 今後、領民たちを苦しめる俺を止める可能性がある。


 その際に、軍や役人たちに口出しさせないためにも、こいつの管轄を作ってそれ以上は関われないようにするためだ。


 これは布石であり、善意ではない。


「ロゼッタ、お前のために立派な親衛隊を用意してやる」


「そ、そう? でも、うまく扱えるかしら?」


「気にするな。お前が自由に使えばいい」


 今までチョロすぎて残念に思っていたが、悪徳領主にとってこれ以上はいない人材だと気がついた。


 チョロい女など、手の平の上で転がしてやるよ。


 俺は天城にロゼッタの親衛隊を用意するように命令する。


「天城、ロゼッタの親衛隊を用意しろ。戦艦も用意してやれよ。ロゼッタの乗艦にする」


「かしこまりました」


 ロゼッタは親衛隊が設立されると聞いて、ちょっと嬉しそうにしていた。


「自由に使える戦艦って贅沢よね。でも、乗らない時はどうしたらいいのかしら?」


 勿体ないと思ったようだ。


 まったく、貧乏くさい奴だ。


「お前の好きにしろ。使わない時は自由にしていいぞ」


「そうなの? 何か考えておくわね。あ、それよりもダーリンがペットを飼うって聞いたの。どんなペットを飼うの?」


 ロゼッタはチノのことを知らないようだ。


「その内に紹介してやる。今は検疫とか、色んなチェックで病院にいるからな」


「楽しみだわ」


 きっと犬でも想像しているのだろう。


 見ればきっと驚くぞ。


 ――さて、俺もそろそろ本格的に動くとするか。


 領民たちにお仕置きする時間だ。



 執務室にやって来た俺は、そこから部下たちに指示を出していた。


 粛清直後とあって、部下たちの動きがいい。


 気が引き締まったようで何よりだ。


「失礼いたします」


 入室してきたのは、ロゼッタが預かっているシエルだった。


 俺は仕事中なので、頷くだけだ。


 シエルが俺のお茶を用意しているのを見ながら、役人たちに指示を出す。


「――そうだ。俺に幻想を抱く馬鹿な領民たちには現実を見せてやれ」


『しょ、承知しました。ですが、本当によろしいのでしょうか? 首都星での活動記録となりますと、パーティー関連ばかりですが?』


「くどい」


 役人が俺の指示に従うため、通話を切ると次の役人に指示を出す。


 その時だった。


 シエルが俺に苦々しい顔を向けていた。


 俺への嫌悪感を隠そうともしていない。


 本当に面白い子だ。


 無視して次の指示を出す。


「おい、例の件はどうなっている?」


『増税の件ですが、理由もなく増税をすれば反発が出ます。そもそも、当家の財政状況的に増税は不要です』


「それを決めるのは俺だ。だが、理由は必要だな」


 思い出せ、俺! 前世で増税の際に、何が一番腹立たしかった?


 色々とあるが――社会福祉だな。


 正当な理由だけに強く否定も出来ず、だが良くなったようにも感じられなかった。


 その後に、汚職とか色々なニュースを見て増税したのに何をやっているのか、と考えていた前世を思い出す。


「よし、社会福祉だ。社会福祉の充実は大事だろ?」


『――では、そのように手配いたします』


 通話が切れると、我慢できなくなったシエルが俺に話しかけてくる。


 メイドとして失格だが、からかいたいので話をしてやろう。


「理由があるから増税するのではなく、増税したいから理由を探すのですか? それは目的と手段を間違えています」


 真っ当な意見だ。


 エクスナー男爵という悪徳領主の娘が、善人というのがまた面白い。


 悪徳領主のサラブレッドみたいなシエルが、悪徳領主を否定するのだからな。


「間違いじゃない。俺は領民を苦しめたいから増税した。理由なんてどうでもいいんだよ」


 俺の言葉にシエルが目を見開くが、どこか納得した顔をしている。


「正体を現したわね。あんたが名君だなんて、私は信じられなかったのよ」


 急に口調が変わったが、俺の本性に気がついて猫をかぶるのを止めたようだ。


 そうだ、お前はそれでいい。


「馬鹿共が勘違いをしているだけだ。だが、気付いたお前は賢い子だ。褒めてやる」


「増税を止めて。領民は苦しめたらいけないわ。ノーデン男爵のことを忘れたの? あの人たちは、最期は領民たちに殺されたのよ」


 自分の領民たちに殺された馬鹿の話か?


 あれは傑作だったな。


 だが、俺には関係ない。


「間抜けな奴だった。それだけだ。俺はうまくやる」


 生かさず殺さず――領民を正しく搾り取るのが、正しい悪徳領主の姿だ。


 失敗するのはただの馬鹿だ。


「そうでしょうね。でも、止めて」


「嫌だね。そもそも、ここは俺の領地だ。俺が好き勝手にして何が悪い?」


「――お願いします。領民の人たちをいじめないで」


 自分の領民でもないのに心を痛めているシエルを見て、素晴らしい拾いものをしたと実感した。


 俺はこういう女を待っていたのだ!


「お前の願いに聞き届けるだけの価値はない。俺は領民たちの苦しむ顔が見たいんだ」


 この子には取り繕わなくてもいいだろう。


 何しろ、エクスナー男爵もシエルの兄であるクルトも俺の仲間だ。


 いくらシエルが騒ごうとも、俺には何の痛手もない。


「最低よ。あんた本当に最低な領主よ!」


「褒め言葉をありがとう」


 そうだよ。俺はこんな女を待っていたんだ。


 ロゼッタがチョロかったという誤算はあったが、まさかシエルが鋼の精神を持っているとは思わなかった。


 俺のやることに文句を言うが、力がないので何も出来ない。


 ただ、逆らうだけ。


 俺の求めた最高の人材が、こんなにも近くにいるなんて嬉しい誤算だ。


 お前は俺の青い鳥だな。


「みんなあんたに騙されている。こんなの間違っているわ」


「間違っているのは俺じゃなくて世の中だ。力のないお前の言葉なんて誰も信用しないぞ。――仕事が終わったらさっさと持ち場に戻れ」


 からかっていたいが、俺にも仕事がある。


 これから、俺が首都星で遊び回っていた映像や動画を領民たちに見せつけるのだ。


 お前たちのお金で豪遊してきたと見せつけてやる。


 更に増税のコンボだ。


 領民たちよ――子作りデモなどして、俺を辱めたことを後悔しろ。


 シエルは、自分の不甲斐なさが悔しかったのか目に涙を溜めて部屋を出ていく。


 代わりに現れるのは、俺の影から姿を見せるククリだった。


 影から顔だけを出している。


「リアム様、よろしいのですか?」


 ククリは放っておくとシエルを殺しそうなので、釘を刺しておくとしよう。


「エクスナー男爵から預かった大事な娘だ。絶対に手を出すなよ。それとな、あの子はからかっていると面白い。困っているのを見かけたら、お前たちも助けてやれ」


「お遊びが過ぎますね」


 クナイの助命もあり、ククリも色々と思うところがあるのだろう。


「あの子も俺のお気に入りだからな。これくらい許せよ。それで、何か用か? わざわざシエル暗殺の許可を求めるために顔を出したのか?」


「お耳に入れておきたい情報がございます。先程確保したのですが、クリスティアナ、マリーの両名がリアム様の遺伝子を所持しておりました。あ、こちらがその遺伝子です」


 試験管に入った俺の遺伝子を、二人が所持していたらしい。


「ククリ、お前は働き者だよ。何か褒美を用意してやろう」


 働き者の部下がいて、本当に助かった。


「リアム様、あの二人の処分はどのように?」


「――俺が直々にお仕置きしてやる」


 俺の遺伝子を何に使うつもりだった?


 ま、分かりきっていることだ。


 とにかく、呼び出して罰を与えてやる。


「勝手に跡取りを用意するなんて許されない行為だ。そうだろ、ククリ?」


「御意のとおりかと」


 今頃領内を動き回っている二人を呼び出し、再度徹底させるべきだろう。


 俺の子を勝手に用意するというのが、どれだけ罪深いのか、と。


若木ちゃん( ゜∀゜)「私このパターン知ってる! 増税を決めても~」


ブライアン(´;ω;`)「変な植物にネタバレされそうで辛いです」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近思ったけどロゼッタに実権渡したくない理由、権力付けたら貴族社会だと目立って命とか狙われるからじゃないだろうか。 全くデレを表に出さないツンデレリアム。隙を見せたら悪意にタカられるからし…
[一言] 懇願するシエルに興奮した 俺はもうダメかもしれない
[一言] 女が絡むとこの主人公ほんとしょうもない感じになるなぁ
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