魔王
コミカライズ版 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 4巻が 8月7日 に発売予定です。
こちらも応援よろしくお願いします。
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漫画版から原作に来ました! という読者さんも増えているので、自分も嬉しい限りです( ̄ー ̄)ニヤリ
バンフィールド家の領地に一隻の巨大戦艦がやって来る。
帝国軍第七兵器工場で建造されていたリアムの乗艦だ。
ブリッジで狂喜乱舞しているのは、モニターからデータを読み取っているニアスだった。
目をキラキラと輝かせて、自らが造りだした戦艦の素晴らしさに感動している。
「凄いわ! 理論上の数値だと馬鹿にした連中を見返してやりたい! 見て、このデータ! 予想を超えた数値を出しているわ! エネルギーの変換効率が尋常じゃない。それにこの出力よ! これ以上はない戦艦が出来上がったわね。あ~、私は自分の才能が怖いわ」
モニターに頬ずりしているニアスを見るのは、リアムの戦艦を受け取りに向かった軍人たちである。
彼らは、リアムの戦艦を任されたエリートたち。
つまりは精鋭だ。
兵器工場のスタッフが、狂喜乱舞している姿に辟易しているが自分たちの仕事は手を抜かない。
「この人、今の状況を理解しているのかしら?」
「人間性と才能は比例しないって見本よね」
「おい、床を転げ回っているぞ。誰か止めてやれよ」
見るに堪えない。
しかし、ニアスが興奮するのも無理なかった。
何故なら、予想を超えた性能を発揮しているからだ。
ただし、持ち主は不在のままだ。
すると――ニアスの動きが止まった。
何度目になるのか、戦艦のデータを見ていたニアスが首をかしげている。
「あら? 救難信号をキャッチしているわね。随分と遠いけど、こんなものまで拾えるなんて我が子ながら凄いわ。お母さん、褒めてあげる」
戦艦を我が子と呼び、自分を母親として語りかけていた。
もう、周囲は何も言わない。
だが、艦長が立ち上がるとニアスを押しのけてモニターに張り付いた。
ニアスが転んで「ふぎゃ!」とか言っているが、誰も気にしない。
「この救難信号は――おい、すぐに本星に連絡しろ! 連絡の届く全ての味方を集めるんだ!」
艦長の言葉に、ブリッジは慌ただしくなるのだった。
◇
四天王の一人であるノゴが倒された。
魔王城の玉座に座る魔王――【ゴリウス】は、ユラユラと揺らめく炎が人の形を取っていた。
鋭い二つの光が、目の役割を果たしている。
ゴリウスは食事をしない。
もっと詳しく説明すれば、悪意や絶望、恐怖といった負の感情が大好物だ。
そんな魔王ゴリウスは、自分が力を分け与えた獣人が負けたと知り――忌々しそうにしていた。
「獣人などこの程度か」
人間たちに恐怖を与えるために、獣人たちを従えていた。
だが、いずれは部下たちも殺そうと考えていたのだ。
増えすぎた人類から負のエネルギーをかき集めるために、効率的に動いていたに過ぎない。
部下たちが名乗りを上げる。
「魔王様、次はわたくしめに機会を!」
「いえ、俺こそが!」
「あら、私の方が――」
集めた部下たちが、ノゴの代わりに人間たちを苦しめると言い出している。
ゴリウスは辟易していた。
(程度の低い連中を操ることにも飽きてきた。さっさと、世界中を支配したいものだな)
かつて、勇者に何度も倒されてきた。
だが、今のゴリウスは、長い年月をかけて復活し――力を蓄えてきた。
人間たちは黙っていても争ってくれる。
その負のエネルギーが、ゴリウスの力になる。
(どうせ遊びだ。勇者が現れようと、今の私には勝つことなど出来ない。私は――既に魔王を越えた存在なのだから)
実体を持たないゴリウスは、物理攻撃が意味のない存在だ。
部下たちを殺し、自らが人間たちを恐怖に陥れようかと思ったところで――魔王城の謁見の間に、血だらけの巨人がやって来た。
「ま、魔王様――獣人たちが裏切りました。勇者を先頭に、この魔王城に乗り込んできました」
そう言って事切れてしまう。
魔王の目が細く、弓なりになった。
「ほう――この私の首を取りに来たか。せっかちな勇者だな」
◇
アール王国の王城。
女王エノラは、さっさと進軍してしまったリアムの行動に頭を悩ませていた。
重鎮たちが、謁見の間で会議を続けている。
「魔王城に勝手に進軍するなどあり得ない!」
「何故、我々の助けを求めないのだ!?」
魔王を討伐するには、きっと自分たちの助けが必要になる。
そう思っていたのだが、リアムはアール王国の戦力を最初から当てになどしていなかった。
数日休むと、獣人たちを連れて魔王城に向かってしまった。
しかも、百人にも満たない少数で、だ。
リアム曰く「大勢で行軍とか無意味」とのことだ。
水や食糧の確保が出来ず、大勢の獣人を残すことになった。
エノラの悩みは、リアムが出発する前に届けに来た首についてだ。
リアムの暗殺を実行した大臣や将軍たちの首が、リアムの従者によって届けられた。
全員が絶句した。
その従者――クナイが言うには「お前たちは信用に値しない。全てが終わった際は、覚悟しておくことだ」と。
クナイはついでのように告げた。
リアムを助けるべく、既に仲間がアール王国に向かっている、と。
(わくせい? とか、分からない単語を言っていたけど、必ず来ると言っていたわね)
不思議な魔法を使うリアムたちが来るとなれば、国としての応対が求められる。
本来なら、魔王討伐に協力して友好関係を築くつもりだった。
しかし、リアムの勝手な行動や、エノラの知らないところで暗殺を実行した者たちによって、取り返しのつかない状況に陥っている。
「どうする? リアム殿の国が動き、取り戻しに来たら戦争だぞ」
「今までに例がない。あり得ない」
「だが、奴らの魔法が我らを超えていたら」
エノラは、召喚魔法の使い手であるシタサンを横目で見た。
「シタサン、リアム様の国がこの国にやって来る可能性はあるのですか?」
「女王陛下、そんなことは不可能でございます。あの召喚魔法は、魔王を倒せる人材を多数の世界から呼び出すもの。一方通行であり、送り返すことは不可能なのですぞ。あの従者のハッタリでございますよ」
それを聞いて安堵する。
だが、同時に思うのだ。
(何と酷い魔法でしょうね。連れてくるだけで、送り返せないなんて)
香菜美のことを思い浮かべると、心が痛かった。
エノラは確かに女王としては失格でも、個人としては善良な人間だろう。
紛糾する会議の場に、兵士が一人駆け込んできた。
「た、大変です! 魔王軍が我らの頭上に!」
リアム不在のアール王国に、魔王軍が襲来したという知らせが届いた。
◇
――魔王城。
乗り込んできたリアムにより、逆らった幹部や兵士たちが全て斬り伏せられた。
その様子を見ていた魔王ゴリウスは、リアムの持つ刀に興味を示す。
「その武器の材料はオリハルコンだな」
「詳しいな」
リアムが普段から予備として持っている刀は、オリハルコン製だ。
この世界ではとても貴重な品である。
だが、リアムからすればコレクションの一つに過ぎない。
ゴリウスは、リアムを前に勝利を確信する。
「人間にしてはよく集めたと褒めておこう。どうやって加工したかは知らないが、追い込めば人間もいい働きをする。――だが、その程度でこの私には勝てないだろう」
リアムがゴリウスを見ていた。
しかし、次の瞬間には、ゴリウスが座っていた玉座の背もたれが切断される。
リアムが片眉を動かすのを見て、笑うように蠢いた。
「斬れないのが不思議かな? 私は実体を持たないのさ」
リアムがどのようにして自分を斬ったのか分からないが、ゴリウスには物理攻撃も魔法攻撃も意味を成さない。
神聖な魔法ですら、並みの威力では傷一つ付けられないのだ。
ゴリウスが立ち上がる。
「憐れだな。人間たちが鍛えたオリハルコンの剣に、人とは思えぬ剣技。どれだけの時間をかけて、お前という人間を用意したのだろうか? ――だが、無意味だ」
リアムに近付きながら、ゴリウスは体を大きくしていく。
リアムの前に黒い炎が人の形を取った。
そして、ゴリウスはリアムを見下ろす。
「全て――そう、全て無意味だ! 私の糧が何か知っているか?」
リアムは見下されたことに苛立っているのか、眉間に皺を寄せてゴリウスを見上げていた。
「興味ないな」
「くくく、強気の態度だな。だが、いつまでそんな口がきけるのか楽しみだ!」
拳を振るうと、その先にあった魔王城の壁が吹き飛んでしまった。
「ほう、これを避けるか」
ただ、リアムはゴリウスの攻撃を避けていた。
相変わらず見上げている。
そんなリアムに、ゴリウスは機嫌を良くして――絶望を教えてやるのだ。
「私は何度も勇者と戦ってきた」
「そうか」
リアムは動じないが、ゴリウスは気分良く話を続ける。
「何度も倒され、その度に復活する。つまり私は――不死身だ」
自身が不死身であることを明かしても、リアムは動じない。
きっと、どうやって倒すのか考えているのだろう。
「そうやって私を倒す方法を考えているな? しかし、お前には無理だ。私には剣技も魔法も通用しない。私は悪意の塊だからだ!」
「悪意だと?」
「そう! 私こそが悪意! 負のエネルギーがある限り、私は何度でも蘇る! いくらお前たちが私を倒そうとも、私は更に強くなり復活するのだ。剣も、魔法も、あらゆる攻撃がこの身には届かない! たとえ倒されても蘇るのさ! 何故だと思う? ――それは、お前たち人間がいる限り、この私が滅びることはないからだ!」
両手を組んでハンマーを振り下ろすように、リアムに攻撃を行う。
床に穴が空き、魔王城が崩れはじめるがゴリウスは気にしない。
逃げ回るリアムに、拳を振り回していた。
「私は貴様ら人間がいる限り滅びぬ!」
ゴリウスの拳がリアムを捕らえるが、寸前で避けられてしまう。
逃げた場所に蹴りを放つ。
「お前らさえいれば何度でも復活する!」
魔王城が瓦礫の山に変わっていく中で、ゴリウスは天に向かって叫ぶのだ。
「私が悪そのものだからだ!」
高笑いをするゴリウスだったが、炎の揺らめきに何百――何千という斬撃が飛んできて一瞬だけ斬り刻まれる。
しかし、すぐに復活した。
「ほう、まだ諦めないのか」
リアムは無事だった。
「私を倒すために鍛えたのだろうが、オリハルコンでは私に触れることすら出来ない。無駄だったな」
ただ、ゴリウスも気になることがある。
(どうしてかすり傷一つ負わぬ?)
リアムは傷一つない姿だ。
それなのに、苛立っているのか俯いている。
「お前が悪だと? ――人間を舐めるな!」
リアムがこの先に語る言葉に、ゴリウスは絶句する。
◇
何が悪だ。
人間の負のエネルギーを食わせてもらっている癖に、自分が主人にでもなったつもりか?
この惑星では、確かにこいつに逆らえる存在はいないだろう。
だが! ――お前は人間を舐めすぎた。
「お前は、養ってやっている人間様を舐めすぎたな」
「――何だと?」
刀を担ぎ、俺は左腕に装着した腕輪を一瞥した。
「俺たち人間がいる限り、何度でも復活できる――それはつまり、お前が俺たち人間なしでは生きられないという意味だ」
魔王が黙ると、俺は空を見上げる。
天井も崩れ、満天の星が見えていた。
「お前みたいなちっぽけな存在には理解できないだろうが、この世でもっとも邪悪な存在はお前じゃない――人間だ!」
「何を言っている?」
か弱い人間だけを相手にしてきたのだろう。
何にも理解していない。
この惑星の外にも人間社会があると理解していないようだ。
「たった一つの星も支配できずに、何が悪だ! お前が殺してきた人間の数など、俺が殺してきた数に比べれば、端数にも届かないんだよ!」
俺がどれだけ殺してきたと思っている?
俺がどれだけ滅ぼしてきたと思っている?
数えるのが面倒になるくらい、殺してきたのだ。
魔王など、俺から言わせれば地元でいきがっているガキ大将に過ぎない。
猿山の大将だ。
「お前が殺してきた人間の数は億に届くか?」
「――数千万はいくはずだ。そもそも、億単位の人間などこの世界にはいない」
何度も蘇っているくせに、その程度なのか?
「いるね。いるんだよ。それこそ何千億――いや、それ以上に存在する。そして、俺は――億単位の人間を殺してきた男だ」
海賊や逆らった敵を屠ってきた。
俺は大勢に恨まれている。
俺こそが悪だ。俺こそが邪悪だ。
こんな小物の魔王ごときに、邪悪を名乗る資格はない!
「お前に死者の声が聞こえるか? 聞こえるなら聞けばいい――いったい俺が、どれだけ残虐な男なのか」
こいつ、ゴースト系みたいだから死者の声とか聞こえそうだな。
俺を恨んでいる人間の声を聞けば、きっと驚くはずだ。
「な、何だと!?」
魔王の目のような黄色い光が、驚愕したのか丸くなっている。
刀を放り投げた俺は、右手を天に向けた。
「お前みたいな雑魚が邪悪を名乗るな! 名乗っていいのは、人間だけだ。そう、この俺こそが邪悪だ! ――エレン、俺の刀を寄越せ!」
すると、空から流れ星――いや、アヴィドが降りてくる。
魔王が驚いていたが、残った魔王城を吹き飛ばしながら俺の側に降り立った。
「な、ななな、何だ。何だこれは!? 何なのだ!?」
魔王を見下ろすアヴィドのコックピットから顔を出すのは、俺の刀を持ったエレンだった。
「師匠!」
エレンが投げて寄越すのは、俺の一番お気に入りの刀だ。
掲げた手の中に、柄が吸い込まれるようにやって来る。
握りしめ、鞘から引き抜いた。
「喜べ、魔王とやら。俺の一番お気に入りの刀で葬ってやる。二度と復活できないように消し去ってやるよ」
勘違い野郎は俺が斬り伏せてやる。
ブライアン(´;ω;`)「リアム様がピンチで……ピンチ? とにかく辛いです」