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魔王軍

今日も寝過ごしてしまいました。


六月の報告ですが、既にご存知の方も多いと思いますが【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】の6巻が予約を開始しております。


限定版には【ドラマCD】がつきます。


こちらは、BOOK☆WALKER様で行われたボイスドラマ化企画で実現しまた。


あの時に、応援いただき誠にありがとうございます。


詳細などはTwitterでもご報告していますが、なんと声優さんのインタビュー記事までありますよ!


乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です を今後ともよろしくお願いいたします!

 アール王国の王都を守る城壁。


 王都を取り囲む魔王軍は、多種多様な種族の集まりだった。


 かつて人間に迫害され追いやられた亜人種たちだ。


 獣耳と尻尾を持つ狼族の戦士は、筋骨隆々で背も高い。


 大きな武器を背負い、魔王軍の四天王の一人である獅子将軍の前にいた。


 天幕の中には、他の亜人種たちの代表もいる。


 獅子将軍【ノゴ】は、より獣に近い種族だ。


 ライオンがそのまま二足歩行になったような毛深い姿で、背丈は二メートル半ばもある。


 周囲には獅子族の女性たちが侍り、ハーレム状態だ。


 そんなノゴが、狼族を前に酒を飲んでいる。


「アール王国はいつ攻略できる?」


 狼族の戦士【グラス】は、戦士でもあるが軍師でもあった。


 もっとも、知略に長けてはいない。


 彼らの戦いはいつもシンプルだ。


 圧倒的な力で人間たちを叩く。


 しかし、罠があれば対処する。


 その程度だ。


 それでも、アール王国の軍隊を何度も撃破し、王都の目前まで迫ってきた。


「我が戦士たちなら三日で攻略するでしょう。高い壁など無意味です!」


 壁を上ることを苦にしない亜人種たちもいる。


 彼らが夜にでも忍び込んでしまえば、内側から門を開けてしまう。


 亜人種たちは人間よりも強く、一対一ならまず負けない。


 一人一人が強力な戦士である。


 しかし、これまで迫害され追いやられた理由は、亜人種たちがまとまらなかったからだ。


 魔王誕生で亜人種たちがまとまり、今はこうしてアール王国を追い詰めていた。


 ノゴが大きな口を開けて笑うと、周囲もそれに合わせて笑みを浮かべる。


 皆が勝利を確信していた。


「これで魔王様に良い報告が出来るな! よし、前祝いに酒を振る舞え!」


 天幕の中にいた亜人種たちが雄叫びを上げた。



 天幕の外に出たグラスは、待たせていた娘の【チノ】を呼ぶ。


「戻るぞ」


「はい、父上!」


 まだ年若いチノは、白銀の長い髪が特徴的だ。


 獣耳も尻尾も銀色で、瞳は黄色。


 小柄で胸は小さく、とても戦士には見えない。


 しかし、その小さな体で、並の戦士たちをいとも容易く倒してしまう膂力(りょりょく)を持っていた。


 チノはワクワクしているのか、尻尾を横に振り回している。


「父上、戦争はいつ始まるのですか? 私は初陣が待ち遠しいです」


 今回が初陣のチノに、グラスは落ち着きがないことを指摘する。


「尻尾を無闇に振り回すな。戦士として未熟だぞ」


「し、失礼しました!」


 感情を相手に読み取らせるなど戦士ではない。


 尻尾のコントロールは基本中の基本である。


 天幕から離れ、狼族の野営地に戻った。


 グラスは自分の天幕に入ると、チノを招いて話をする。


 地面に腰を下ろしたグラスは、不満そうに愚痴をこぼす。


「ノゴ将軍はまた馬鹿騒ぎだ。略奪した食糧をすぐに食い尽くす」


「アール王国に蓄えがあるのでは?」


 王都は大きな都市だ。


 だから、チノは食べ物も沢山あると単純に考えていた。


「人間たちも追い詰められている。食糧があるとは限らない。最悪、都市に入った我々で奪い合いになる。チノ、お前もこのことを忘れるなよ」


 まるでイナゴのように人間たちの村や町、そして都市を襲撃して食糧を奪ってきた。


 ノゴ将軍の無計画さに、グラスは呆れている。


 しかし、ノゴ将軍は亜人種たちの中で最強の男だ。


 強い者に従うのが亜人種たちの掟であり、グラスが口を出せない。


「魔王様に力を与えられたノゴ将軍は強い。我々が束になっても勝てないから従うしかないが、何とかしなければ我々も危うい」


 チノは難しいことはよく分からないという顔をしている。


 ただ、勝てば略奪できるというのは話に聞いており、不安そうな父親に楽観的な意見を述べた。


「大丈夫ですよ、父上! これまでも食糧は沢山あったと聞いています。王都ならば沢山ありますよ」


 グラスは呆れたような、そして可哀想だと言わんばかりにチノを見ていた。


「そうだといいがな」



 王城の中でも随分と豪華な部屋。


 そこのベッドに横になる俺は、影から出て来た仮面を付けた女性を見る。


「お前も巻き込まれたのか?」


「――リアム様が無事に戻られた際には、この命をもってお詫びいたします。誠に申し訳ありません。ですが、今しばらくは御身を守らせていただきたく思います」


 俺の安全が確保できた時点で死ぬとか、素晴らしい忠義者だな。


 しかし、ククリたちの一族は数が少ない。


 こんなことで失うのは避けたかった。


 あと、俺個人としては、この事態を悪いとは考えていない。


 無理矢理ハーレムを用意される前に逃げられて、ラッキーだと考えている。


 そもそも、あんな召喚――逃げだそうと思えば逃げられた。


 俺は俺の意志で召喚されたから、これで殺すのは流石に気が引ける。


「お前らは数が少ない。この程度で死なれては困るから、戻って死ぬのは却下だ。それよりも、お前には働いてもらうぞ」


「はっ!」


 膝をついて頭を下げてくるククリの部下。


 こいつらには名前がない。


 あるかもしれないが、絶対に名乗らない。


 そもそも、ククリですら本名を俺に教えない。


「しばらくは二人だ。お前の呼び名を決めておこうか――そうだな、クナイだ」


「リアム様に名を付けていただくなど、望外の喜びにございます。必ず御身をお守りいたします」


 俺に名前を付けてもらえるなんて幸せな奴だ。


 俺が名前を付けたのは数えるほどしかない。


 前世の犬だろ、天城だろ――後は、前世の娘だな。


 それにしても「かなみ」か――偶然もあるものだな。


 俺は感動しているクナイに声をかけてやる。


「励めよ」


 忍者っぽいからクナイを想像した。


 最初に手裏剣を思い浮かべたが、「おい、手裏剣」と呼ぶのはないと思ったからクナイだ。


「さて、最初の仕事だ。まずは情報収集だ。――この城の連中の話が本当か裏を取れ」


「お任せください」


 クナイが床に沈み込み消えていくのを見届けた俺は、ベッドの上で欠伸をする。


「――ま、この部屋を見るにあまり期待できないけどな」


 俺の屋敷と比べても小さすぎる城だ。


 そもそも、比べるのは間違いだろうが、星間国家にいた俺から見ればみすぼらしすぎる。


 それでも彼らの精一杯なのだろう。


 苦しい状況の中、頑張っているようで何よりだ。


 あと、悪徳領主は相手の懐事情を察して待遇を質素にしていい、などとは絶対に言わない。


 たとえ、エノラやその民が苦しんでいても、俺は贅沢(ぜいたく)をする。


 だって俺は悪だから。


「さてと」


 俺は左腕の腕輪に触れる。


 すると、魔法陣が出て来てそこから色々と道具が出て来た。


 その一つを手に取って、ベッドから起き上がり窓へと近付く。


 窓を開けて道具を放り投げれば、空高くに舞い上がる。


「救難信号は出した。しばらくすれば迎えも来るだろ」



 リアムとは別の部屋で、香菜美は武具を身につけていた。


「ちょっと、これ重いんだけど!?」


 鎧など着たことのない香菜美は、金属の鎧の重さに驚く。


 そもそも金属の塊であり、重くて当然だ。


「それにこれ、重くない!? え、剣ってこんなに重いの!?」


 香菜美の姿を見るエノラは、どこか不安そうにしている。


「では、細身の物を用意させましょう」


「こんな鎧を着て動けないわよ。もっと軽いのはないの?」


「軽くなれば、それだけ強度が落ちてしまいます。敵の亜人種たちは、力押ししか出来ぬ野蛮人ですが、その力が脅威なのです。ご理解ください」


 香菜美は、エノラの言葉に少しだけ疑問を持った。


「野蛮人、って言いすぎじゃない?」


「略奪行為で長年我々は苦しめられてきました。彼らは真面目に働こうともせず、我が国の民たちを殺め、食糧を奪う卑劣な魔物たちですから」


 エノラの厳しい目つきに、香菜美は何も言い返せなかった。


「え、そ、そんなに酷い連中なの?」


「魔王が出現し、すぐに尻尾を振った者たちです。勇者様、情け容赦など無用です」


 今から戦おうとしているのに、現実感がわかなかった。


 香菜美は視線を動かす。


「それより、なんでリアムがいないの? 女の私だけ戦う準備をするとかおかしくない? 普通、こういうのは男でしょ」


 エノラもそれは思っていたようだが、困った顔をしている。


「リアム様にもお越しいただくように頼みましたが、不要であると言われてしまいました」


「あいつ、態度が悪くない!?」


 自分だけ戦争に参加させられようとしており、香菜美は不満を募らせていた。



 クナイを送り出して数時間後のことだ。


 クナイが部屋に戻ってくる。


「リアム様、ご報告いたします」


 ウトウトしながら待っていた俺は、欠伸をしながら報告を聞く。


「王都周辺に敵が陣を敷いております。明日にでも総攻撃をかけてくるかと」


「本当にピンチだったのか。女王様が必死になるわけだ」


 アール王国が滅ぼうがどうでもいい。


 ただ、本当に切羽詰まっているのが分かったのは収穫だ。


 クナイは次々に報告をしてくる。


「敵軍は夜明けを前に精鋭を都市内部に送り込み、門を開けるつもりです。容易くこの都市は落ちるでしょう」


「耐えられないのか?」


「子供や老人をかき集めた軍隊です。対して、敵は歴戦の戦士たちですから」


「歴戦の戦士ね」


蹂躙(じゅうりん)されるだけでしょう。リアム様、どうされるおつもりですか?」


 この国の存亡に興味はないが、俺の世話をする人間がいないのは困る。


 ただ、時間はまだあるな。


「お前はしばらく休め。その後に俺が休む。夜明け前に俺を起こせよ」


「いえ、しかし」


「適度な休憩は仕事の効率を上げる。俺がお前に求めるのは最高の仕事と結果だ」


「――はっ」


 クナイが影の中に消えたのを見て、俺はしばらく部屋の中で待機することにした。


 そもそも、やることがない。



 香菜美はエノラに連れられ、城下へと来ていた。


 周囲から逃げてきた人々が道を埋め尽くし、泥に汚れた姿を見せている。


 エノラはそんな人々の手を取って励ましていた。


「大丈夫。我々は必ず勝利しますよ」


「エノラ様」


 老人や子供が多く、生きている成人男性の多くが手足を失っていた。


 香菜美はこの現実を前に、震えてくる。


 戦争というのは知っているが、実感など今までにしたことがない。


 テレビ、写真、ネット――情報でしか、悲惨な現実を知らず、どこか他人事だったのだ。


「酷い」


 その言葉を聞いたエノラが、静かに頷いた。


「えぇ、酷いです。いったい、私たちが何をしたというのでしょうか。魔王は、どこまでも我々を苦しめます。そんな魔王と戦うために、私たちは貴女を召喚したのです」


 香菜美は召喚され、最初こそ怒りがわいた。


 しかし、今ではどうでもいい。


 戻ったところで、酷い暮らしが待っている。


 それなら、人に求められるこの場所が、まだいいと思えていた。


 一度召喚されると、二度と戻れないと聞いた時には少し――悲しかった。


 ただ、目の前にある現実を見て、自分が何か出来るならと考えるようになっていた。


「香菜美様、私たちと一緒に戦っていただけますか?」


 香菜美は城下の景色を見て頷く。


「――いいわ。戦う。でも、私に戦う力が本当にあるの?」


「あります」


 エノラが次に香菜美を連れていったのは、訓練場だった。


 そこでは十五歳くらいの若い子たちが武器を持って初老の男性たちから指導を受けている。


 二十代から四十代の男性の姿はほとんどない。


 代わりに女性の姿が目立っていた。


 香菜美は自分たちくらいの若者が、武器を手に取り戦おうとしている姿に驚いた。


「誰か、勇者様のお相手を」


 全員がエノラに気がつき整列をしようとするが、それをやめさせていた。


 初老の男性が前に出てくると、香菜美を前に構える。


「え、真剣!?」


 驚く香菜美に、初老の男は低い声で語りかけてきた。


「この程度で驚いては、実戦では戦えません」


 斬りかかってきた男を見て、香菜美は目を見開き――腰に提げていた剣を抜いた。


 全ての動きがスローに見えて、まるで自分をからかっているのではないか?


 剣で防ごうとすると、初老の男が持っていた剣が折れる。


 その瞬間に、周囲の動きが普通に戻ってしまう。


 周囲の兵士たちが驚いている中、エノラが状況を説明する。


「召喚された勇者様には不思議な力が宿ります。常人よりも強い力が宿り、戦えば敵の動きが緩やかに見えると伝えられています」


「す、凄いのね」


 こんなの強すぎる。


 それが香菜美の感想だった。


(こ、これなら戦争でも生き残れるのかな?)


 召喚されて与えられた能力に、香菜美の心は興奮するのだった。


ブライアン(´;ω;`)「リアム様が召喚されたのにバカンス気分で辛いです」

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、なるほど。 ククリって、かわいい系の名前だなぁと思っていたが、ククリナイフか。 そっちかい。
[一言] 異世界?召喚されて逃げられてなんかラッキー程度の感想しかないリアム様すこ
[気になる点] ん?ああ、女子高生は前世の娘ちゃんですか。
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