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勇者召喚

明日は活動報告も更新する予定です。

 滅びの迫る国があった。


 大陸の覇者として栄華を極めたアール王国は、窮地に立たされている。


 女王として即位したばかりの【エノラ・フラウ・フラウロ】は、とても美しい金髪碧眼の姫だった。


 まだ十七歳であり、両親や周囲に大事に育てられてきた。


 しかし、両親は倒れ、兄たちは戦争で命を落としてしまった。


 アール王国はエノラを女王として即位させるしかない状況にある。


 それというのも、魔王が誕生したためだ。


 魔物の軍勢を率いて現れた魔王は、次々に大陸の国々を滅ぼしていった。


 アール王国も戦ったが、敗北を続けて今ではまともな軍事力が残っていない。


 滅びが目の前に迫っていた。


 謁見の間には、老人や若い騎士しかいない。


 戦える者は戦場に駆り出され、未成年である十五歳未満の子供たちが騎士として取り立てられた。


 いかに追い詰められているのかを、この場が物語っている。


 エノラは王権を象徴する杖を持ち、玉座に座っていた。


「いったい神は、どこまで我らに辛い試練を強いるのでしょうね」


 部下からの報告を聞き、エノラは俯いてしまう。


 既に首都に敵が迫っていた。


 兵力などほとんど残っておらず、頼りになる将軍たちもいない。


 引退した将軍や騎士、そして兵士をかき集めている状況だ。


 何もかもが絶望的すぎる。


 老齢な大臣が、エノラに対して進言する。


「女王陛下、最早我々にはどうすることも出来ません。で、あるならば」


「分かっています。――勇者を召喚します」


 それはアール王国に伝わる禁術だった。


 異世界から勇者を召喚し、魔王と戦ってもらうのだ。


 呼び出すのは魔王を倒せる存在。


 ただし、召喚は一方通行だ。


 勇者を一度召喚すれば、その勇者を王国が面倒を見ることになる。


 それは、諸刃の剣だ。


 魔王すら倒せる存在を抱えることになる。


 勇者が反逆してきた場合、王国には太刀打ちできるか分からない。


 また、国の命運を異世界の人間に託すというのは、現地を預かる王族としても葛藤があった。


「一刻の猶予もありません。勇者召喚をはじめます!」


 エノラが立ち上がり宣言すると、家臣たちが「はっ」と返事をした。


 エノラが召喚の儀式を行う部屋へと向かう。



 場所は異世界。


 地球と呼ばれる惑星。


 そこで一人の女子高生が、自宅であるアパートに戻ってきた。


 放課後にアルバイトをしてから戻ってきたので、もう夜になっている。


 家賃の安い古いアパートのドアを開けると、建て付けが悪いため変な音がする。


 いつものことだ。


「ただいま」


 戻ってきたことを母親に告げると、テレビを点けたまま眠っているようだ。


 そろそろ暖かくなる季節だというのに、こたつをしまおうともしない。


 昔は綺麗だった母親が、今は見る影もなかった。


 帰りにスーパーで買ってきた特売のお惣菜を取り出し、夕食の準備をする。


 台所で物音を立てていると、母親が目を覚ました。


「あら、おかえり。それより、今日は給料日よね? 幾ら稼いだの?」


 女子高生――【安久井 香菜美】は、三万円を母親に渡した。


 母親は三万円を受け取り、最初は喜ぶがすぐに不機嫌になる。


「たったのこれだけ?」


「学生のアルバイトに期待しないでよ」


「香菜美、今は学歴なんて意味がないし、もっと稼げる仕事をしない? 香菜美は私に似て可愛いし、きっと人気が出るわ」


 暗に娘に対して夜の店を進めてくる母親に、香菜美は嫌悪感をあらわにする。


「あんたが働けばいいでしょ!」


 香菜美は髪を染める余裕もなく、黒髪で一見すると清楚に見える。


 しかし、生活は貧しく、母親との言い争いも絶えないため口が悪くなった。


 昔はもっとお淑やかだった。


「無茶を言わないでよ! 母さん、働いた経験がないのよ。パートだってすぐにクビになったのよ」


「何年も前の話をしないでよ。いい加減に働いてよ」


「香菜美までそんなことを言うの? 母さんがどれだけ辛かったか知っている癖に」


「自業自得じゃない」


 苛立った香菜美は、部屋を出て散歩をすることにした。


 家にいれば母親がいて落ち着けない。


 夜道を歩く香菜美は、疲れたように笑みを浮かべていた。


「あ~あ、もう疲れた」


 昔はもっといい暮らしをしていた。


 だが、母親の自業自得で、自分は父親を失った。


 本当の父親ではなかったが、それでも自分を愛してくれたのは最初の父親だけだった。


 今はもういない。


 それに、子供の頃に自分は父親を傷つけた。


 新しいパパがいいと言ってしまった。


 その後に、新しいパパには母親と一緒に捨てられた。


「もうどうでもいいな」


 高校を中退して働くのも悪くない。


 いっそ家を出て一人で暮らそうかと考えていると、急に地面が輝きはじめた。


「え?」


 魔法陣が出現し、香菜美の体は吸い込まれていく。


「ちょ、ちょっと!」


 そのまま香菜美は、異世界へと召喚されてしまう。



 目を覚ますと、香菜美は知らない場所にいた。


 目の前には、金髪碧眼の女性がいる。


 杖を持ち、そして王冠をかぶっていた。


「え、な、何!?」


 香菜美が困惑していると、女性が恭しく挨拶をしてきた。


「お初にお目にかかります、勇者様。私はエノラ・フラウ・フラウロ――このアール王国の女王です」


「女王? え、勇者って?」


 混乱して状況の整理が追いつかない香菜美に、焦りを感じるエノラが事情を説明する。


「異世界の勇者様、どうか我らの無礼をお許しください。ですが、我々にはどうしても貴方を召喚するしか方法がなかったのです」


「召喚?」


 一体何の話をしているのか?


 香菜美は周囲を見渡すと、そこは見慣れた場所ではなかった。


 怪しい儀式をするような祭壇の上に自分がいて、周囲にはローブをまとったいかにも魔法使いという老人たちの姿があった。


 老人たちが嬉しそうにしている。


「成功だ。成功したぞ」


「大魔法使いシタサン様の勇者召喚が成功した!」


「ウヒャヒャ、これで我らの栄達は思いのまま!」


 しわがれた老人たちの口元は、歯が抜けていた。


 周囲ではそんな老人たちの弟子たちもいて、香菜美を見て喜んでいる。


 それを怖いと思う香菜美に、女王であるエノラが眉をひそめて見せた。


 香菜美に苛立っているのではなく、老人たちに怒っている。


「シタサン、静かになさい。勇者様が怯えておられます」


 シタサンと呼ばれた魔法使いたちの長は、女王に対しても図々しい。


「聞き捨てなりませんぞ、女王陛下! 我ら召喚魔法の一族がいなければ、勇者殿は召喚など出来なかった。我々がいなければこの国は――」


 何やら揉めはじめている。


 香菜美はこの状況についていけず、混乱するばかりだ。


(い、一体何が――え?)


 すると、魔法陣から放電しはじめる。


 バリバリと音を立てて、魔法陣から出現するのは黒髪の男だった。


 紫色の瞳をしており、どう見ても十代後半。


 しかし、異様な雰囲気をまとっている。


 魔法陣から出現すると、不機嫌そうに周囲を一瞥する。


 香菜美と違って慌てた様子がない。


 そして、エノラをはじめとした周囲の人間が、異例の事態に取り乱していた。


「シタサン!?」


 エノラが名前を呼び、何が起きたのか説明を求める。


 しかし、シタサンは慌てふためくだけだった。


「い、いえ、このようなことは記録になく、いったいどうなっているのか見当もつきません」


 先程までの強気の態度がなりを潜めてしまった。


 魔法陣からもう一人――男性が出現したのは異例である、と香菜美にも何となく理解できた。


 ただ、男性の格好を見て思う。


(これ、随分と高い服じゃないかな?)


 ラフな格好をしている。


 下は黒のズボンに革靴。


 上は白いシャツだが、どれも上質な物に見えた。


 貴金属を身につけており、どこの金持ちだろうと香菜美はボンヤリと考える。


 そして、どこか懐かしい気配がした。


 その男は不満そうに魔法陣を見ている。


 屈み込み、ケチを付けだした。


「何だ、この雑な魔法陣は? この程度の魔法陣に俺が呼び出されたとか、情けなくなってくるな」


 雑と言われたシタサンは、顔を真っ赤にして反論する。


「な、ななな、なんと大それた事を! この魔法陣は、今から三百年も前に我らのご先祖様が作り上げた勇者召喚の魔法陣! この世に二つとはない偉大な魔法陣だぞ!」


 複雑な模様にしか見えないが、きっと意味があるのだろう。


 だが、男は鼻で笑っている。


「三百年もずっと古い魔法陣を使い続けてきたのか? 進歩のない連中だな」


 太々しい態度。


 男は堂々としていた。


 困惑するしかない香菜美とは違い、まるでこれから何が起きるのか知っているような態度だ。


「まぁ、召喚直後に隷属させるようなことはしてこなかったから、話だけは聞いてやる。そこの女が代表だな? さっさと事情を話せ」


 何も聞かずにエノラが女王だと見抜き、男は事情を話させた。


 周囲は無礼な態度に腹を立てていたが、エノラが黙らせる。


「失礼いたします。まさか、勇者様が二人も来られるとは思わず、取り乱してしまいました」


「予定外か。本当に下手くそだな」


 シタサンが悔しそうな顔を向けてくるが、その男はエノラから事情を聞くと笑い出した。


「何とお詫びをすればいいのか分かりません。ですが、勇者様。どうかこの国をお救いください」


「国を救え、だ? アハハハ、お前ら正気か?」


 笑い出した男は名を名乗る。


「このリアム・セラ・バンフィールドに頼るのか? よりにもよって、この俺に!」


 周囲の反応がどうにもおかしい。


 どうやら、ミドルネームまで持っているのが気になったようだ。


 エノラが恐れながらも尋ねる。


「あ、あの、貴方様はもしや、異世界の貴族でしょうか?」


「お前らに言っても理解できないだろうが、そういうことだ。まぁ、いい。暇潰しに助けてやろう。ほら、さっさと案内しろ」


 周囲には武装した騎士たちがいるのに、その男――リアムは欠伸をしていた。



 その頃。


 リアムの屋敷では大勢の人間が慌ただしく動いていた。


 リアムに仕える魔法使いの一団が、顔面蒼白でリアムの消えた部屋を調べている。


 魔法使いたちを監視しているのは、激怒しているマリーだった。


「貴様ら、いったい何をしていた!」


 その手には武器が握りしめられており、魔法使いたちは震えている。


「も、申し訳ございません! し、しかしながら、この屋敷には召喚魔法を妨害するセキュリティーが何重にも用意されております。ここを突破したと考えるなら、かなりの――ひっ!」


 マリーが魔法使いの首筋に剣の刃を当てる。


「この部屋でリアム様が何者かに召喚されたのは映像からも分かっている。つまり、これはお前たちのミスだ。違うか?」


「ち、違いません!」


「お前たちを斬り殺せないのが残念だよ。リアム様が不在で処分できないからな。そのことを忘れるなよ。何としても痕跡を見つけ出せ!」


 リアムが抱えている魔法使いたちは、無能というわけではない。


 好待遇で召し抱えており、優秀な者たちが揃っている。


 そんな者たちが用意した魔法的なセキュリティーが、いとも簡単に破られるなどあってはならない話だ。


 責任者の首はもちろん、関係者の首が物理的に飛ぶ。


 しかし、それをやってしまえば痕跡を見つけるのが困難になる。


 新たに魔法使いを雇いたいが――リアムが消えたことを誰かに知られるのはまずかった。


「リアム様が消えたとなれば、せっかくまとまった派閥がどうなるか」


 苛立っているマリーのもとにやって来るのは、ロゼッタだった。


 随分と顔色が悪い。


「マリー」


「ロゼッタ様!? 誰か、ロゼッタ様をすぐにお部屋にお連れしなさい! ロゼッタ様、部屋を出られてはなりませんわ。お倒れになったばかりですよ」


 リアムが召喚されたと聞き、ロゼッタは倒れてしまった。


 そのため、ロゼッタの後ろにはメイドや医者が控えている。


「ごめんなさい、マリー。無理を言って部屋を出たの。それより、ダーリンは捜せそう? 捜せるわよね?」


「――もちろんです。さぁ、お部屋へお戻りください」


 召喚されてから丸一日が経過しているが、ろくな痕跡が出ていなかった。


 映像を解析した魔法使いたちが言うには「あんな原始的な魔法陣が、どうやってこのセキュリティーを突破したのか理解できない!?」だった。


 そちらは激怒したティアが監視し、今も解析を続けさせている。


 ロゼッタが去ると、マリーは床を強く踏む。


 出てくるのはククリだった。


「乱暴に呼び出しますね」


 床から顔が出てくると、魔法使いたちがギョッとする。


 マリーは魔法使いたちに「手を止めたら殺すぞ」と脅し、それからククリに顔を近付けた。


「ククリ、私は貴方を誤解していたわ。リアム様を連れ去られて、まだ生きているなんて恥というものを知らないのかしら?」


「貴方に言われたくないですね~」


 剣呑な雰囲気を出す二人だが、ククリが引き下がる。


「ま、こちらの落ち度は認めましょう。ただ、部下もリアム様と共に行方不明となっております」


「使えない部下をリアム様に配置したのか?」


 マリーの挑発にククリは笑っている。


「クヒヒヒ――我らの中でも手練れでしたよ。まだ若いですが、十分な技量を持っていました。だからこそ、このように」


 リアムの影に潜んでいたククリの部下は、咄嗟にメモを残していた。


 マリーがメモを受け取る。


「暗号?」


「召喚魔法のキャンセルを試みたが、失敗したようです。召喚魔法の種類は、原始的であったのにもかかわらず、です。これは何かありますね」


 シンプルすぎる。


 召喚魔法の構造がシンプルすぎて、どのような目的で召喚したのか判断できなかった。


 マリーがメモを投げ捨てる。


「お前たちもリアム様を捜せ」


「言われずとも。ですが、一つ言わせていただければ――貴女には我々に命令する権利がないとお忘れなきように。我々の主人はリアム様ですから」


 不気味に笑って床に吸い込まれるように消えていくククリは、マリーにわざとらしく殺気を向けていた。


 マリーは冷たい笑みを浮かべ、ククリの挑発に余裕を見せた。


「私をやれると本気で思っているのかしら?」


 リアムを欠いたバンフィールド家のまとまりは、早くもなくなりつつあった。


若木ちゃん( ゜д゜)「・・・・・・なんでみんな、登場すらしていない世界樹に期待できるの? 私以上に酷いパターンを考えないの? 私なんて、あいつに比べれば可愛いくらいよ」


ブライアン(´;ω;`)「後書きが乗っ取られて辛いです」

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― 新着の感想 ―
エレンが娘の転生先とかじゃなかったか… でも娘がなんだかんだと身内(仲間)になりそうなのは良い シタサン…名前からしてただの三下魔法使いか マリーとククリは2000年前組だけど仲良くなかったか 現…
[気になる点] マリーうるさいだけでぱっとしないんだよな 要所で役割果たしてるけど読者からするとマリーだから出来たって描写が無さすぎてヘイトだけが高くなっていってるわ
[良い点] 前世の娘出てくるとか激アツすぎだろ
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