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七章プロローグ

五月に更新すると宣言して五月末になってしまいました。


反省しております。


今回の七章は、12時の毎日更新で進めさせていただきます。


また、六月には色々とご報告できると思いますので、前書きや後書き、そして活動報告をチェックしていただけると助かります。

 星間国家アルグランド帝国。


 皇帝を頂点とした貴族制の国が星間国家などを建国できるのか?


 そのような疑問を抱くが、それは逆だ。


 星間国家という規模は、支配者側からすると管理しきれない。


 支配するためのコストを考えると、誰かに任せた方が安上がりということだ。


 そのため、貴族制が復活した。


 本来はその前に、色々とあったのかもしれないが――そんな細かい話はどうでもいい。


 この俺【リアム・セラ・バンフィールド】が、そんな巨大な帝国の伯爵という地位にいて、いくつもの惑星を支配していることが重要なのだ。


「俺の領地にあるものは、全て俺のもの。それがたとえ、人の命だろうと例外ではない。そうは思わないか?」


 自領に戻ってきている俺は、屋敷の応接間で美しい女性を前にしている。


 長身で特徴的な耳が長いエルフが、民族的なドレスを着用して俺の前に座っていた。


 薄地の白く綺麗なドレスは、体のラインがハッキリと分かる。


 刺繍(ししゅう)がされ、それがとても独特だった。


 女性エルフは、白く美しい肌に青い瞳をしていた。


 まるで作り物のような美しさだ。――反吐が出る。


 その両隣には、これまた高身長のエルフ二人が立っている。


 護衛のつもりなのか、ソファーに座っている俺を見下ろしていた。


 表向きは俺に気を使っているように見せているが、こいつらは心の中で俺を見下している。


 エルフ――それは長寿の種族だったが、人間が五百年以上も生きられるような世界だ。


 三百年程度しか生きられないエルフなど、短命種扱いだ。


 また、人間のように大きな勢力を持たず、非常に立場が弱い。


 それにも関わらず、こいつらが人間を見下しているのは、自分たちが美しく――そして求められていると考えている傲慢さ故だろう。


 多くの人間が未だにエルフに魅入られる。


 外見的な美しさだけではなく、魔力的な魅力を感じ取っているというのが定説だ。


 エルフはこの世界でも神秘的な存在というわけだ。


 俺にはまったく興味がない。


 そんなエルフたちの前で図々しい態度を見せている理由は、ここが俺の領地である事が一つ。


 もう一つは、こいつらが俺の所有する惑星の一つを「返せ」とのたまってきたからだ。


 女性エルフは、ハイエルフというエルフの中でも特別な種族で、エルフたちの中では王族扱いを受けていた。


 そのため、態度もどこかこちらを見下している。


「貴族らしいお考えですね。しかし、伯爵が所有する惑星は、古の我らの故郷でございます」


「滅んで干からびたような惑星が故郷? 俺がようやく緑地化に成功した途端に、返せとは都合が良すぎるな。エルフとは図々しい連中だな」


 挑発してやれば、護衛の二人の騎士が視線を少しだけ細めた。


 しかし、エルフの女王様は慌てない。


「我らの故郷が復活したのは、きっと我らに再び故郷に戻り、繁栄させよというこの宇宙の意志です。復活した惑星には、世界樹が存在します。伯爵様では、世界樹の管理は難しいはず。違いますか?」


 世界樹――それはエリクサーを生み出す神聖な植物だ。


 ただし、人では管理できないとされている。


 エリクサーの確保ができれば、領地的に非常に旨みもあるが、今の俺には関係ない。


 エリクサーが欲しいなら、海賊共を狩ればいい。


 奴らは倒すことで俺の功績となる。


 発生した残骸は俺の持つ錬金箱で資源に変わる。


 そして、その魂は惑星開発装置で回収され、エリクサーになる。


 骨までしゃぶるという言葉があるが、俺は魂すらしゃぶり尽くす悪徳領主だ。


 海賊は俺の財布である。


 やつらは各地で暴れ回り財宝を集め、俺を儲けさせるために命まで捧げてくれる存在だ。


 海賊がいる限り、俺は少しも困らない。


 しかし、だ。


 世界樹を確保しているというのは、領主的に一種のステータスである。


 貴族同士で話をする際に「うちの領地には世界樹があるんだぜ!」と、マウントを取れるのだ。


 そういった見栄を張るために、こいつらエルフを飼うのも悪くはないと思っている。


「まぁ、いい。少しは考えてやる。お前らが俺のために働くなら、存在することくらいは認めてやってもいいからな」


 傲慢な態度を見せると、エルフたちは笑みを浮かべながら俺に殺意を向けている。


 ――まぁ、その程度で俺は殺せないけどな。


 会話を聞いていた天城が、俺に次の客を案内する。


「旦那様、そろそろ次のお客様との面会時間です」


「今日は客が多いな」


 朝からこんな会話を何十回も繰り返している。


 俺が屋敷に戻ると、いつもこのように客が押し寄せてくるのだ。


 エルフたちが退室していく。



 退出したエルフの女王が、眉間に皺を寄せていた。


「あの薄汚い人間の小僧が」


 自分よりも若いくせに、太々しい態度を最後まで崩さなかった。


 自分の美貌を前にしてなびかなかったため、女王はリアムが嫌いだ。


 これまで相手をしてきた人間たちは、貴族だろうと自分を前にすれば喜んでいた。


 それがリアムには通じない。


 護衛の一人が話しかけてくる。


「しかし、世界樹のある惑星は貴重です。必ず手に入れなければなりません」


「そうね。そうすれば、エリクサーを使って一族を繁栄させられるわ。世界樹が枯れるまで絞り尽くしても、数百年は安泰ね」


 エルフは確かに世界樹を管理できる種族だが、本来なら数万年を生きる世界樹を数百年で枯らしてしまう。


 エリクサーを搾り取り、惑星を滅ぼしながら繁栄してきた種族だ。


 こうしたエルフたちは少なくない。


 世界樹を正しく管理しようとするエルフたちからすれば、憤慨ものである。


 ただ、人間が星間国家を誕生させ、かつて称えられたエルフたちが今では少数民族的な扱いを受けている。


 それが許せないエルフたちも存在した。


 巨大な廊下を歩いていると、次の客人たちがやって来る。


 小男と大男。


 二人の大きさは極端に離れていた。


 小男の身長は百二十センチ程度なのに対し、大男は二メートル半ばもある。


 二人ともスーツを着用しているが、不格好過ぎて女王が笑ってしまった。


 小男はゴブリンであり、大男はオークだ。


 人間の感覚で美醜を語れば、エルフと比べれば何とも醜い姿をしている。


 反対側からやって来る二人は、女王を見ると悔しそうな表情を見せた。


 この世界、元を辿ればエルフ、ゴブリン、オークなどは先祖が同じである。


 美しく進化したエルフと、醜く進化したゴブリンとオークたち。


 どちらも、この宇宙では少数民族的な扱いを受けている。


 女王は、二人がどうしてリアムのもとを訪れたのか予想できる。


「世界樹のある惑星を手に入れたいようだが、少しばかり遅かったな。伯爵は必ず我々を選ぶ。醜いお前たちには、宇宙で放浪するのがお似合いだ」


 ゴブリンもオークも、世界樹の管理ができる種族だ。


 しかし、どちらも醜いために故郷を奪われることが多い。


 理由は、エルフたちが人間を利用し、二種族を追い出させてその惑星を奪うから。


 領主たちも、自分の惑星にいるなら美しいエルフの方がいい。


 たとえ、エルフたちが世界樹を枯らしてしまうとしても、だ。


 エルフたちが枯らしているなど人間は知らないし、信じない。


 それは、皮肉にも真面目に世界樹を管理しているエルフたちが存在するためだ。


 そして、リアムの下を訪れたゴブリンとオークは、過去にエルフたちに故郷を追われて宇宙を放浪する民になってしまった。


 世界樹のない惑星では、彼らも生きるのが辛い。


 宇宙をさまよいながら、世界樹のある惑星を探しているのだ。


 ゴブリンは、エルフの女王たちが何を企んでいるのか気が付いている様子だった。


「神聖な世界樹を枯らし、星を滅ぼすのは悪いことゴブ。それに、あそこは我々ゴブリンやオークの故郷でもあるゴブ」


 リアムが手に入れた惑星の一つが、偶然にも彼らの先祖が誕生した故郷だった。


 そこには、かつてこの宇宙で見ても立派な世界樹が存在した。


 それを枯らせたのは――エルフたちだった。


 オークも強く抗議する。


「お前たちは一体どれだけの世界樹を枯らしてきたのだ? 枯らした数だけ、星も荒廃したはずだ。一体、どれだけの命を殺せば気が済む?」


 エルフの女王は、そんな二人の真剣さを嘲笑う。


「それがどうした? 我らエルフの糧になれたのだ。世界樹も星も、そして全ての命も我々の糧だ。お前らが幾ら足掻こうが、あの惑星は我らのもの。人間に世界樹の正しい価値など理解できるわけがない。あの小僧も我らに世界樹の管理を任せるさ」


 ゴブリンはそれでも、リアムに期待しているようだ。


「――バンフィールド伯爵は名君と呼ばれるお方でゴブ。きっと、説明すれば理解してくれるはずでゴブ」


 エルフの女王が不敵な笑みを浮かべる。


「名君? あの小僧はただの人間だ。人である限り、醜いお前らよりも、美しいエルフを選ぶに決まっている」


 そう、それがこの世界だ。


 だが、彼らは一つ理解していなかった。


 ――リアム・セラ・バンフィールドは、悪徳領主を目指す男だということを。



 ゴブリンとオークがやって来た。


 存在は知っていたが、実物を目にしたのはこれが初めてである。


 先程のエルフたちよりも、俺はワクワクしている。


「伯爵様、どうか我々に世界樹の管理をお任せください。世界樹というのは――」


 オークが必死に説明してくるが、何やら世界樹はエリクサーを生み出すのが本来の目的ではないらしい。


 そこに存在することが大事であるとか――まぁ、あれだ。


 スピリチュアル的な話?


 俺は興味がない。


 それよりも、俺が興味を持ったのはゴブリンとオークだ。


 ――悪徳領主として味方にするなら、エルフよりもこいつらではないだろうか?


 あの高飛車なエルフは嫌いだし、どうせ雇うならこいつらの方がいい。


 俺が悪であると実感できる仲間たちだ。


 そもそも、美女ならいくらでも集められるが、こういう奴らは集まりが悪い。


 ゴブリンもオークも、少数しか存在しないからだ。


 この世界では貴重な存在らしい。


 ゴブリンとかオークなんて、大量にいると思っていたら違った。


 どうせ、世界樹など見栄のために所持したいだけだし、任せるならこいつらの方がいい。


 ゴブリンが何やら必死に説明していた。


「伯爵様のために協力は惜しみませんゴブ。どうか、我々の仲間をお救いくださいゴブ」


「ほう、俺に協力は惜しまない、と。――気に入った」


 ゴブリンとオークが顔を上げる。


「ゴブ!?」


「え!?」


 二人とも驚いているところを見るに、あまり期待していなかったのではないだろうか? 俺がエルフを選ぶと思い込んでいたようだ。


 エルフなんて捕まえようと思えばいつでも捕まえられる。


 そうしたら、こいつらに捕らえさせて薄い本みたいな展開をさせるのも悪くない。


 (あく)って感じがする。


 昔、後輩が薄い本について熱く語っていたのを思い出す。


 悪徳領主がエルフをどうのこうの、って。


 その際に出てくるのは、ゴブリンやオークが定番のようだ。


「世界樹のある惑星はくれてやる。今後は俺のために働け」


「は、はい! ――あの、我々は何をすれば?」


 オークが返事をするが、何をすればいいのか分かっていないようだ。


 困った。俺もあやふやな知識しかないので、こいつらに何をさせたらいいのか分からない。


 そもそも、薄い本の話もほとんど聞き流していたからな。


 ごめんよ、後輩。


「――用があれば呼ぶから、それまでは世界樹の管理をしておけ。立派に育てろよ」


「は、はいでゴブ!」


 まぁ、うちには立派な世界樹があります! と俺が自慢したいだけだからな。


 何か思い付いたらこいつらを呼ぶとしよう。


ブライアン(´;ω;`)「辛いです。結果的に正しいのに、そこに至る過程が酷すぎて――辛いです」

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― 新着の感想 ―
時たま出てくるよな後輩。こっち来てたりしないのかな?
ものの見事に期待を裏切られたようですね、ゴブリンとオークが善良すぎる。この世界では幸せになって欲しい所ですね!
[一言] 語尾ゴブかわよ
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