六章エピローグ
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バンフィールド家の屋敷。
そこには、メイド服を着た凜鳳と風華の姿があった。
二人とも苦虫をかみ潰したような顔をしていたのは、可愛らしいメイド服を用意されたからだ。
同門だからとリアムが特別扱いをして、特注で作らせた制服だった。
それが、二人には恥ずかしくて仕方がない。
普段なら、スカートでもかっこいい物を好む。
それがひらひらした可愛らしいメイド服を着ることで、羞恥心を煽られていた。
「何で僕がこんな服を着ないといけないんだよ」
凜鳳は本当に嫌がっている。
対して、風華は普段の強気な態度とは違って、恥ずかしがっていた。
「お、俺がこんな服を着ても似合わないだろ!」
二人を前にしているのは、教育係として任命されたセリーナである。
侍女長であるセリーナから直接教育を受けるなど、特別待遇に他ならない。
「本当に野生児みたいな子たちだね」
ただ、礼儀作法は仕込まれていても、メイドとしてはまったく駄目だった。
剣士である意識が強く、乱暴な振る舞いが目立つ。
セリーナの物言いに、凜鳳が剣呑な空気を醸し出していた。
「はぁ? 調子に乗らないでくれる? 刀を奪われたところで、婆一人くらい――」
すると、物陰から二人を見ている幼子の姿があった。
風華が気付き、凜鳳に肘打ちを入れてその先の台詞を止めるのだ。
「はうっ!」
脇腹を押さえる凜鳳に、風華が慌てた様子で物陰を指さす。
「ば、馬鹿! エレンが見てるだろうが!」
凜鳳も脇腹を手で押さえながら、必死に作り笑いをした。
物陰にいるエレンが、二人を見ている。
「――師匠に言いつけてやる」
その台詞に凜鳳が笑みを浮かべながら青くなった。
「エレン、何でもないから。兄弟子にだけは。兄弟子にだけは言わないで」
二人がリアムを恐れる理由は、安士にあった。
安士は二人を温かく見守り、叱る時も怒鳴り、手を出す、ということはなかった。
だが、リアムは違う。
厳しい上に、二人がわがままを言いすぎれば――刀を抜くのだ。
一定の技量を持ち、剣士として認めている妹弟子たちには容赦がない。
屋敷でリアムの言いつけを破ろうものなら、本当に血反吐を吐くことになる。
エレンが見張っていることもあり、二人はセリーナの前で猫をかぶる。
「よろしくお願いします、侍女長!」
「お願いします!」
キビキビしだす二人を見て、セリーナがこれからを不安がるのだった。
「まったく――リアム様の頼みじゃなかったら、あんたら二人は預からなかったよ」
こんな二人をしっかり教育できるのだろうか?
セリーナは不安に思うのだった。
◇
バンフィールド家の屋敷の地下。
そこには限られた者だけが立ち入りを許される場所がある。
ククリたち暗部の施設があるのだ。
そこを訪れた俺は、棺の中を見ていた。
「――三十人も死んだのか」
首都星で暴れ回ったことで、ククリたち暗部を三十人も失った。
その対価に不満はない。
帝国の暗部――カルヴァンに従った暗部をかなり削れた。
俺の側に立つククリが申し訳なさそうにしている。
「申し訳ありません。ですが、無駄死にではありませんでした」
「当たり前だ。俺のために死んだ。無駄死になどあり得ない」
――死者は裏切らない。
転生すればどうなるか分からないが、こいつらはその人生を俺に捧げた。
裏切らなかった存在たちだ。
それはとても尊い。
裏切るのはいつも生者だ。
俺は人間を信じない。
だが、俺のために死んだ人間は尊い。
暗部の葬式があると聞いて足を運んだのは、彼らを弔うためだ。
「死体はどうする?」
ククリは平然と答える。
「我らの肉体は技術の塊ですので、綺麗に分解します。何も残しません。この世界にいる者たちは、跡形もなく消えるのが運命ですからね」
何とも寂しいことだ。
墓くらい作ってやりたいが、それすら拒否する。
徹底しているな。
「――ククリ、褒美をやる」
「はい? 我らは既に報酬を受け取っておりますが?」
俺は自分の周りにいる連中を優遇する。
そもそも経済的な問題から解放されているので、報酬は幾ら払ってもいい。
だが、俺は悪徳領主でケチだ。
自分に金は使っても、気前がいい振る舞いは気分次第でしかしない。
働きに見合った報酬しか支払わない。
しかし、今回は色々といいことが続いた。
ティアが捨て身で俺を守ろうとしたことや、ククリたちが命懸けで俺の命令を果たしたことだ。
彼らは俺のために命をかけた。
その分の報酬くらいは用意してやる。
「お前たちは役に立った。その分の報酬を用意してやる。何か望みはないか?」
ここで何でも言え! と言わないのがポイントだ。
叶えられない願いを聞き入れる気は全くない!
ククリたち暗部が困惑しているが、しばらくして。
「――では、惑星を一ついただけますか?」
「惑星を?」
「我らの母星は失われております。条件のいい惑星を一ついただければ、そこを我らの母星としたいのです」
条件を確認すると、俺が領地として持つ惑星の中に一つだけ適したものがあった。
その星に住んでいる人間もいるが、数千万とまだ少ない。
ククリが俺の前で膝をつく。
「我が一族の再興が悲願でございます。そのための土地が欲しいのです」
暗部が住まう隠れ里、か。
浪漫がある話だな。
それに、ククリたちが増えれば俺としてもありがたい。
「いいだろう。居住している連中はすぐに追い出してやろう」
「いえ、そこまでは必要ありません。居住者がいる方が都合はいいですからね」
「そういうものか?」
「はい」
「分かった。すぐに必要な物を揃えさせる」
暗部たちが全員俺の前に膝をつくが、葬式なので立ち上がらせた。
棺の中に花を入れていく。
「――死者だけは俺を裏切らない。お前たちは裏切らなかった。せめて、次に生まれてくるまでは安らかに眠れ」
◇
バンフィールド家の屋敷。
メイドとして働くシエルは、首都星での忙しい日々を思い出していた。
「――何も出来なかった」
リアムの本性を暴いてやろうとしたのに、何も出来なかった。
むしろ、真面目に働いていたリアムしか見ていない。
研修として地方の役所に飛ばされたが、汚職まみれの職場を見事に掃除した。
遠征軍を裏方として支えながら、毎日パーティーを開いて精力的にクレオ派閥のために動いていた。
何とかあらを探そうとするが――真面目すぎて見つからない。
「何なの? あいつ何なの? 普通に有能な領主じゃない。それなのに、小物臭だけは人一倍するって何なの!?」
周りに聞いても皆が「リアム様は素晴らしい領主です!」と言うだけだ。
誰もリアムの本質を見ていない。
そして、リアムの側――ロゼッタの側付きとして働けるシエルには、周りから嫉妬の目を向けられることも多かった。
「そんなに羨ましがる立場じゃないでしょ! ここにいる連中は、見る目がなさ過ぎるわね!」
どうしてリアムに心酔できるのか理解できない。
部屋の掃除をしていると、そこにロゼッタがやって来た。
「シエル、ここにいたのね」
どうやらシエルを捜していたようだ。
「ロゼッタ様? お呼びいただければ、すぐにお伺いしたのですが?」
どうしてこの人は、使用人を自ら捜して歩き回るのだろうか?
それが不思議で仕方がない。
「貴女の働く姿も見ておきたかったのよ。首都星とは違って、この屋敷でちゃんとやれているか見るのも私の仕事ですからね!」
シエルは帝国の直臣である男爵家の娘だ。
リアムの寄子――面倒を見ている家よりも立場が上であり、バンフィールド家がはじめて修業先として受け入れた貴族の子弟である。
部下の子弟を受け入れるのとは、また違う。
シエルが成功すれば、次々に貴族の子弟たちを受け入れて欲しいと希望が出てくる。
そうなれば、今後も貴族と縁を繋ぐ機会が増える。
また、修業先として頼み込まれる格式ある家と見なされるのだ。
シエルは思う。
(ここ、うちの実家と同じ田舎なのに、首都星並みにマナーが厳しいのよね。確かに、教育としては悪くないし、修業先としては当たりだけど)
侍女長のセリーナは厳しいが、帝国の宮殿で侍女長を長年務めていた人物だ。
ブライアンも多少問題はあるが、執事としてしっかり仕事をこなしている。
ロゼッタも厳しいが、基本的には優しい。
自分を気にかけてくれるし、根気よく指導してくれる。
環境としては最高だろう。
問題があるとすれば、リアムだけだ。
ロゼッタは、シエルが真面目に働いている姿を見て嬉しそうにしていた。
「屋敷でも問題なさそうね。これなら、修行を終えて実家に戻れる日も近いわよ。でも、そうなると寂しくなるわね」
本当に寂しそうにしている。
(この人、いい人なんだけどな。どうしてリアムなんかに惚れたんだろう? 他の人はともかく、この人だけには真実に気付いて欲しいわね)
ロゼッタだけには、目を覚まして欲しいと思うシエルだった。
◇
オクシス連合王国の領地。
ヘンフリー商会の船団が宇宙を移動していた。
その船団の中に、一隻の宇宙船がある。
特別仕様の豪華客船だ。
トーマスが乗り込み、直接相手をしているのはノーデン伯爵だった。
連合王国で立場を失ったノーデン伯爵は、ヘンフリー商会を頼って国外への脱出を謀ろうとしていた。
目指すはリアムの寄子であるノーデン男爵家だ。
過去に、両家は血の繋がりがあった。
それを頼るつもりで、トーマスを利用している。
船内で酒を飲み、不安をかき消そうとしている。
「トーマス、お前のせいだぞ! お前は、私を責任持って安全な場所まで逃がせ! くそっ! どうしてこんなことに」
冷めた目をしているトーマスは、そろそろ帝国の領地に入ると確認してからノーデン伯爵に本題を切り出すのだった。
それまでは、ノーデン伯爵の相手をしていた。
話を聞くだけだ。
「――ノーデン伯爵」
「何だ?」
「私たちヘンフリー商会は、リアム様の本拠地に本店を置く御用商人です」
「それがどうした? 金なら渡しただろう? 私を安全な場所に逃がせ。まったく、商人風情が忠義だとでも言うつもりか? 金の亡者の癖に」
「これは耳が痛いですね。確かに商人は金に厳しいでしょう。ですがね――私にだって義理や人情くらい持ち合わせているのですよ。何度も助けていただいたリアム様を裏切った貴方に手を貸せば、それは私たち商会にとって不利益になると思いませんか?」
ノーデン伯爵は鼻で笑っている。
「お前が黙っておけば誰も気付かない。こんなの、みんなやっていることではないか。いっそ、リアムを裏切るには幾ら金がかかると正直に言えばいいものを」
貴族ではなくなり、家も家族も捨てて一人で逃げ出したノーデン伯爵。
今持っているのはリアムを裏切り手に入れた大金だけだ。
そして、ノーデン伯爵も一応は貴族である。
商人くらいどうにでもなると思っているし、側には護衛の騎士たちもいた。
家族は捨てたが、護衛の騎士たちは連れている。
そのため、強気な態度を崩さない。
そもそも、ノーデン伯爵がトーマスを頼った理由だが、連合王国に関わる商会が助けるのを拒んだためだ。
裏切り者のノーデンに大金を積まれたから助けたなど、連合王国では商売が出来なくなるので誰も助けなかった。
帝国を本拠地にしているヘンフリー商会しか伝手はなく、仕方なくトーマスを頼った形だ。
そして、遠い親類であるノーデン男爵家へと逃亡を計画していた。
裏切り者がリアムのお膝元にいるとは思わないだろう。
ノーデン男爵家もまた、裏切り者だった。
「ノーデン伯爵、今回の件を不満に思っているのは私だけではないのですよ」
「あん?」
すると、宇宙船が揺れる。
「な、何だ!?」
ノーデン伯爵と護衛の騎士たちが警戒すると、侵入者が乗り込んできたことを警報で知らせてきた。
バタバタと音が聞こえてくると、部屋のドアが蹴破られた。
入ってきたのは紫色のパワードスーツを身につけた女性だった。
その両手に持つ剣は、禍々しい大鉈で刃がのこぎりのようにギザギザだ。
それがチェーンソーのように動いている。
人を痛めつけるための凶悪な武器。
「み、つ、け、たぁ~」
女のヘルメットのバイザーが開き、そのままヘルメット自体が折りたたまれ収納されていく。
頭部を出した女は、恍惚とした表情をしていた。
その後ろには殺気立つ騎士たちの姿。
ノーデンの護衛たちが武器を持って斬りかかると、入り込んできた騎士たちに全員が斬り伏せられる。
ノーデンがそれを見て目を丸くしていると、女――マリーがトーマスにお礼を言うのだった。
「トーマス殿、私を頼ってくれたことに感謝しますわ。あのミンチ女ではなく、よく私に声をかけてくれたわ。貴方、見る目があるわね」
リアムの領地を守るために留守番していたマリーは、数百隻を率いてこの場に襲いかかったのだ。
トーマスは困った顔をしていた。
「確かにお引き渡ししましたよ」
マリーが持つ大鉈の刃が耳の痛くなる甲高い音を立てる。
「ノーデン! リアム様を裏切った罪は重い! この私が、寸刻みにしながらゆっくりとお前の罪を教えてやるわ。大丈夫。薬もいっぱいあるの。簡単には死なせないから」
周囲の騎士たちも同じ雰囲気だ。
「裏切りには死を!」
「リアム様の敵を殺せ!」
「ショーの始まりだぁぁぁ!」
ノーデンが助けを求めるようにトーマスを見れば、そそくさと部屋から出ていくところだった。
騎士たちに押さえ込まれたノーデンは叫ぶ。
「た、助けてくれぇぇぇ!」
マリーが微笑む。
「い、や」
◇
戦争に負けた連合王国は、責任の所在で大揉めになっていた。
「――あれ? そういえば、ノーデンってどうなっていたかな?」
自室でくつろいでいるリアムは、ソファーに横になり端末でニュースを見ている。
連合王国のニュース記事を読み、思い出したのだろう。
部屋で飲み物を用意している天城に尋ねてきた。
「そちらはトーマス様より、マリー様と処分したという報告が上がってきています」
リアムは欠伸をする。
「マリーを見かけないと思ったら、裏切り者の処分をしていたのか。働いているようで大変結構」
天城が紅茶やお菓子を用意すると、リアムは起き上がってそれらの香りを楽しむ。
「天城のお茶の匂いだ」
「普段からその茶葉をお召し上がりですが?」
「お前が淹れてくれたお茶は他とは違う」
「そうでしょうか?」
微妙な違いをリアムは感じ取っているのだろうか?
天城はそう考えながら、リアムを見ていた。
そして、あの日のことを思い出す。
(旦那様の名前を叫んだあの存在――いったいアレは何だったのでしょうか?)
人の形をしながら人ではなく、ノイズの入った不思議な存在だ。
それは人に好意的ではないことだけは確かだった。
(旦那様は狙われているのでしょうか? もし、そうなら――)
人外に狙われているリアムを、天城は心配するのだった。
ただ、リアムは今日ものんきである。
「あれ? 今日はブライアンを見かけないな?」
天城はそんなリアムを見て、普段通りの態度を見せる。
それしか自分には出来ない。
「今日はお休みですよ。お孫さんたちと食事をするそうです」
「ブライアンの孫ね。なら、食事の費用は俺に回すように手配してくれ。こういう時に恩を売るのがいいんだよ」
「かしこまりました」
◇
宇宙空間。
そこに漂う案内人のシルクハットに、小さな手足が生えた。
シルクハットに口が出現し、悔しさに奥歯を噛みしめていた。
「ちくしょう――ちくしょう――」
グズグズと泣いている。
――案内人は死んでいなかった。
「私では勝てない」
リアムに近付くこともままならない。
領地で、そして他の土地で――リアムは感謝されており、そのエネルギーを受け取って人でありながら膨大な力を手に入れていた。
弱り切った案内人ではどうにもならず、全盛期ですら勝負になるか怪しい。
それでも、案内人は諦めない。
「私は復讐を諦めない。必ずリアムを殺してやる!」
どんな手段を使ってもリアムを倒す。
案内人は決意を新たにする。
そんな案内人を見ている犬がいた。
死ななかったことに不満そうにしているが、放置しても問題ないと思ったのか犬はどこかへと消えていく。
案内人は叫ぶ。
「今は敗北を受け入れてやる。だが、私は必ず帰ってくるぞ、リアムゥゥゥ――」
宇宙空間で回転するように漂いながら、どこかへと流れていく案内人だった。
ブライアン。・゜・(ノД`)・゜・。「リアム様! このブライアン、感動で涙が止まりませんぞ!」
ブライアン(´;ω;`)ノシ「そして、六章は本日までとなります。またしばらく会えませんが、皆様再会の時までどうかお元気で」
若木ちゃん( ゜∀゜)「感想、評価、レビューはいつでも受け付けているわ! 下部に評価、感想をつけられるようになっているから、そこから気軽に書き込んでね」
若木ちゃん( ゜д゜)「でも規約は守ってね」
六章はいかがだったでしょうか?
自分の感想は活動報告を利用しようと思っています。
お暇な時にチェックしてもらえると嬉しいです。
次回七章の投稿は未定ですが、他作品の更新を優先する予定です。
それでは、今後とも応援よろしくお願いいたします。




