第4話「日常の変化」
最近は、ボスのカフェオレにハマっています。
夜にのんびり飲み、音楽を聴きながらパソコンで話を書いてく毎日です。
朝、目が覚めたのは6時。
結局、昨日なんとか家に着いたのは3時。
そのまま布団に入ったもののなぜか今日は朝早く目覚めた。
でも、今日は学校に行く憂鬱感とかそういったものはない。
目が覚めた時、昨日の出来事は夢だったんじゃないかとも思った。でも、僕の持っていた風邪薬もなくなっている。それが現実だったことの証明だ。でもまさか、中島さんとあんな風に話せる日が来るとは思ってもいなかった。
ほんの少しだけ未来は明るく変わっているような気がした。
朝、いつもの時間に家を出る。
川沿いの道を自転車で進む。今日は少し曇り空で、あたりはいつものような輝きはない。
いつも通り、信号で止まる。でも、今日は中島さんの姿はない。
今日はいつもより早く出かけたんだろうか?
いや、逆に昨日のことだ。もしかしたら寝坊か、妹さんの世話で忙しいのかも。
そう思い、変わった信号を渡る。
久しぶりの一人で走る道。
追う背中がないのが少し寂しい。って何を言ってるんだ僕は。それだけ聞けばただの変人だ。
でも、今日は珍しく中島さんがいないのが、少し心配だ。
そんなことを思っていると見覚えのある背中が見えた。でも、違うところは今日は歩いているということ。
もしかして…、と思ったけれどでも、人違いかもしれない。
ほぼ確信に近いけれど、もし違ったら恥ずかしい。
その人の横を僕は何食わぬ顔で素通りする。
が、その直後「あっ!」という聞き覚えのあることともに僕の名前を呼ぶ。
「おーい!渡辺君!」
自転車を止め振り返ると、僕の方へ走って中島さんが追いかけてきている。
やっぱり中島さんだった。
「渡辺君!おはよう!」
昨日とは違い、今日の中島さんは元気いっぱいだった。
「おはよう。中島さん、なんだか今日は昨日より元気だね」
「うん!昨日はありがとうね!おかげさまで、妹もだいぶ元気なりました!一応念のために今日は学校休ませてるけどね」
「そっか、ならよかったよ。でも、妹さん家に一人で大丈夫?」
「大丈夫だよ!お母さん帰ってきたから」
「そっかそっか、とりあえずよくなったみたいでよかったよ」
中島さんは、いつにもましてご機嫌なようで、少し鼻歌も歌っている。
「あれ、そういえば中島さんって自転車じゃなかったっけ?今日自転車は?」
「あー昨日の学校帰りパンクしちゃってね。それで、今日は歩いてるんだー」
「あ、そういうこと。だから昨日は歩いてコンビニまで来てたんだ」
そんなことを話しているうちに学校に着いた。
「じゃあ俺自転車置いてくるから、また教室でね」
「うん、またねー」
駆け足で元気に校舎の中に入っていく姿に見とれながら、「また今日も中島さんとしゃべってしまった…」と周りに聞こえない程度につぶやいた。
教室に入ると、中島さんは教室で楽しそうに友達と話していた。
いつも通りの中島さんに安心した。
「おい!航!」
後ろから勢いよく肩をつかみ、身を乗り出す。
正面に立っていたのは大樹だった。
「どういうことだよ航!ななななんで昨日の今日でお前が中島さんと一緒に登校してんだ!?」
「え、あ、その、これはー…」
かくかくしかじか、大樹にこれまでの事の成り行きを説明した。
・昨日、バイトの最中に中島さんが来たこと。
・危ないから誘って一緒に帰ったこと
・薬をあげたこと
・登校中、ばったり会ったこと
これらの事情を話すと、大樹は俺の肩をつかんだまま下を見ている。
そして、顔を上げると親指を立てた。
「お前…やるな!」
そして、ウインクを送ってくる。
「う、うるさいな!」
「まあまあそう照れんなって。うれしいくせに」
確かに昨日から今日にかけて、僕の心は満たされている。
願ってもいなかった中島さんという存在と話すということ。それが現実になった今、もうこれ以上望むものはない。
でも、大樹は「この調子で押していけ!」という。押すといっても今まで恋愛をしたことのない僕には、まったくわからないことだ。でも、今確かなことは、僕にも中島さんと仲良くなるチャンスがあるということ。
付き合ったりといった高望みはするつもりはない。
せめて、今のように少し話すような状態が続いてくれればと、願うばかりだ。
次の日の朝も昨日と同じ時間に出た。今日もいるんだろうか、そんな期待に少しばかり胸を膨らませつつ信号を待つ。
すると、右の方から中島さんはやってきた。彼女は本当にいつも同じ時間にここを通るなと、いまさらながら感心する。今日はもう自転車に乗っていた。
中島さんは僕の存在に気づき「おーい」と手を振っている。
中島さんは信号が変わるまで向かいで待っていてくれた。
「おはよう渡辺君!今日はいい天気だねえ」
そう言いながら空を仰ぐ。今日はいつにもまして快晴で、温かい日差しが心地よかった。
それから中島さんと僕はほぼ毎日のように朝、一緒に登校していた。
気が付けば「未来を見る力」は登校時にはほとんど使わなくなっていた。
ただ、運命に任せるように時に流される。そのほうがずっと幸せなんじゃないかと思うようになっていた。
それでも、下校の直前には使う癖ができてしまっていた。
もし帰りに何かあったらと思うと、不安で仕方がない。前より話すようになったことはうれしいことではある。でも、それは同時にだんだんと悲しや苦しみが生まれた時、それはいつにも増して大きくなるということを知っている。
だからか、せめて下校の時だけでも未来を見るようになった。
それから、しばらくした6月。
中島さんとは学校でも時折話すようになった。月に一回の席替えで、僕の後ろになったからだ。
これは神様の祝福なのか励ましなのかわからないけれど、何より僕にはいいことだけだ。
基本的には、中島さんは仲のいい友達と話しているけど、時折後ろから背中を突っついては声をかけてくれる。
僕の心は今までにないくらい満たされていた。大樹からもだいぶ笑うようになったといわれるようになった。
そんなにいつもと変わらないようにしていたけれど、仲のいい大樹からすれば見え見えらしい。
でも、それだけ僕は充実した日々を過ごしていた。
こんな日常がずっと続けばいいのに、そう願っていた。
「ねえねえ、ハコちゃん(中島木葉)。前の席のー…渡辺君だっけ?最近よく話してるよね」
女子4人のうちの一人が木葉に話題を振る。
今はお昼休みで、机をくっつけて仲良くご飯を食べている。
そこには航の姿はない。航は、大樹と一緒に屋上でご飯を食べていた。
「うん、そうだけどなんで?」
「え…だって、渡辺君ってなんかパッとしないし、秋山君(大樹)しかたぶん友達いないじゃん?なんでそんな人とよく話してるのかなーって」
「あー確かに!朝も結構一緒に登校してるもんねー!」
「ハコちゃんが自分から男子に話しかけてるとこ私初めて見たよー」
その中の一人の女子が続けて言う。
「えー別にいいじゃん、私が誰と話してたってー」
そう言いながら思わず木葉は苦笑する。
「渡辺君もよく話すよなー。こんな高嶺の花みたいな人のハコちゃんによく話しかけるよ。私があんな人だったら絶対ハコちゃんには話しかけれないねー」
別に木葉にとってみんな男女問わず平等だった。でも、航だけは自分でも気が付けば話すようになっていた。最初はなぜかよくわからなかったが、話すうちに何か引っかかりが見つかった。
「なんか…渡辺君って私と同じような匂いがする気がするんだよね」
「匂い?体臭?」
「そんなわけないでしょ」
別の女子が突っ込みを入れる。
木葉はふふ、っと笑う。
「なんというか…。なんでかはわからないけど、渡辺君と私ってどこか似てる気がするんだよね…。
だから、話すのかな…自然と…」
「えー?あいつとハコちゃんが似てるってどこが~?」
「ハコちゃん変なのー」
一同が笑う。
でも、木葉の中には何かを感じていた。
周りからすれば、あまり冴えない男と、学校のアイドルという天と地の差だ。
木葉自身はそんなことは全く思っていないが、周りからしてみれば一目瞭然だろう。
だが、むしろ周りのイメージに反して話しやすい航は、木葉にとって男子としては少ない良き友人だった。
でも、何か感じる共通点、そのことに心が突っかかっていた。
登場人物
・渡辺航
・中島木葉
・秋山大樹
・木葉と仲のいい3人の生徒たち