第13話「対面」
「うし、む、このっ」
ボタンを押しながら必死に耐え抜く防戦一方の戦い。
それにしてもどうしてこんなに強いんだ。でも、さっきまでとはだいぶ変わっている。今回は運が良ければ勝てるかもしれない。
そして来た、あの必殺技のボールが宙を舞っている。
さらに僕はタイミングが良かった。あのピンクの悪魔と距離をとっているときにちょうど自分のほうに突如出現した。
しかも、当たれば勝てる。
もしかしたら、勝てるかもしれない。必殺技を繰り出す。それは軍人ならではの技で、グレネードランチャーを連射するというもの。しかも、相手は一人。的は一つのみだ。
狙いつつとにかく連射する。数発当たる。
そして…
『GAME SET!』
気持ちのいいゲームの音声とともに、僕は勝った。
あのピンク悪魔を吹き飛ばして僕はついに妹さんに勝利した。
「やったー!勝ったー!」
大人げなく喜んでいると、妹さんはそっぽを向いている。
あ…もしかして泣かせちゃった…?大人げなさすぎたか…?
様子を伺うように妹さんの顔を見ると、ただ頬を膨らまして不貞腐れているだけだった。
よかった。泣いてなかった。
今日、急に出勤になった中島さんのお母さんは、どうやら資料を忘れてしまったらしかった。
その結果、中島さんが届けることになったのだが、でも妹さんはまだしも僕まで家に置いていくなんてどうしてそこまで信用してくれているんだろうか、と思った。
もう一回ゲームやろうかどうしようか。悩んでいた時、お腹がぐう~となる。でも、それは僕じゃない。妹さんのほうだった。
少し恥ずかしいそうに頬を赤くしている。かわいらしいものだ。
その時、家の電話が鳴った。
もう時間は1時を過ぎている。
妹さんが駆け寄って電話に出る。
「はい、中島です」
かわいらしい声だが、はっきりとしている。この年でしっかりしているな。電話の相手はどうやら中島さんのようだった。
話を聞くたびに、「うん」と返事をしてる妹さんの声が落ち込んでいく。
どうやら話の感じだと、お昼が2時ぐらいになってしまうとのことだった。
さっき届け終わり、今から家に帰るけれどお弁当を買って家に帰るから遅くなるようだ。
僕は妹さんの肩をつつき、電話を替わるように言った。すると、少し嫌そうな顔をして、僕に渡してくれた。そんなに嫌がらなくても…。
「もしもし中島さん?俺だけど」
「あ、渡辺くん!本当にごめんね。遅くなっちゃいそうで…」
「それは大丈夫なんだけどさ…、妹さんお腹すいてるみたいだし。人の家の食材使うのもあれなんだけど、よければ俺がなんか作っておこうか?」
「えっ‼‼‼渡辺くん料理できるの‼‼!?」
あまりに大きい声で耳がキーンとなる。
「う、うん。これでも一応たまに料理作ってるから…」
「じゃあ…本当に申し訳ないんだけど作ってもらっていいかな…?本当に何でもいいから!」
そして、僕がお昼ご飯を作ることが決まった。
中島さんに食材の場所を教えてもらい。また、妹さんが食べて平気か大丈夫か聞いた。
「よし、じゃあ作るとするか~」
そう一人でつぶやくと妹さんは少しこちらを心配そうに見ている。そして、少し不貞腐れているようでもあった。
手慣れた手つきで包丁を使い、フライパンを使い炒める。お昼ご飯は、オムライスだ。アレルギーもないらしいい。あと何人前作ればいいか聞くと、なぜか妹さん、僕も含めて4人前作ることになった。
さっき痛めた食材をご飯と一緒に混ぜ、炒める。
そして、最後に薄く焼いた卵をご飯に乗せて、ケチャップをかければ完成だ。
「お待たせ~できたよ~」
恐る恐るこちらにやってきた妹さんは、オムライスを見ると目を一瞬にして輝かせた。
そして、僕のほうを見た。
「どうぞ、召し上がれ」
僕のお手製オムライスは妹さんには大好評だった。
気が付けば、完食していて満足そうにしていた。
「美味しかった?」
そう聞くと、小さくうなずいた。でも、その満足そうな顔に自然と僕も笑顔になった。
「ごちそうさまでした…」
そういうと、妹さんはリビングを飛び出し、どこか行ってしまった。
まあ、家の中だし大丈夫かな。そう思って僕も食べる。久しぶりに作った割にはよくできているほうだ。
しばらくして、僕も食べ終わりひと段落していると、妹さんが降りてきた。
何やら手にはかわいいピンクのポラロイドのカメラと、写真の束を持ってきた。
ポラロイドカメラはなんで持っているのかわからなかったけれど、よく思い出してみれば少し前に女子高生の間で流行っていた気がした。ポラロイドカメラの最大の特徴と言えば、とったらすぐにその場で印刷されるといううこと。それが女子の間で人気になって一時流行っていた気がする。それで、中島さんのを持ってきたのかもしれない。勝手にそう解釈した。
すると、写真の束のほうを僕に渡した。
「私に勝ったから、認めてあげる」
そう言って渡す。ん?認めるってなんだろう。
そう思いつつ写真を見てみると、写っているのは全部中島さんだった。僕は思わず目をまん丸くした。
普段の何気ない私生活から、どこかに出かけているときの写真まで。しかも、中にはパジャマ姿のものまである。
「おぉ…」と、あまりの感動に声が漏れていた。これぞまさに目の保養。是非ともほしいと思った。
でも、そうしてこれを僕に渡したんだろう?そう思っていると、心の声でも聞こえているかのように答えてくれた。
「お兄さんって、お姉ちゃんの彼氏じゃないの?」
思わず吹きそうになった。
「え⁇どうして思ったの⁇」
「だって、前に男の人を家に連れてくるのは彼氏だって友達が言ってたんだもん」
あーなるほど。つまり、妹さんは僕のことを彼氏と勘違いして、この秘密の写真を渡したのか。
さっきの許すっていうのもあいさつで親の許しをもらう的な…。
少し納得しつつもどうしてそんなこと知ってるんだろうか。
その時、ガチャっと玄関のほうで音がした。
ドタドタと慌てた様子で走ってくると、中島さんが表れた。
「ごめんね‼‼マイちゃん遅くなっ…て…」
僕の持っていたものに中島さんが気づく。
まるで時間が止まったかのように、固まり、漫画みたいにだんだんと下から顔が赤くなっている。
「あーーーーーーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼なんで渡辺くんに渡したのーーー‼‼‼‼」
あまりの大声にびっくりする。
そう言って、一瞬にして僕の手から写真を奪った。あ、目の保養が…。宝が…。
中島さんはそれを隠すように抱くと、背中を向けて顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。耳まで赤くしていて、かわいらしかった。
「見てない…?」
恥ずかしさからか、少し涙目になっている。
つられて僕も顔が赤くなる。
「見ました…」
申し訳なく僕がそう言う。中島さんはさらに顔を真っ赤にした。
妹さんは少しにやけながらリビングを逃げるように出ていった。
「こらーーーー‼‼マイちゃん待てーーー‼‼」
そう言って二人とも出ていった。
「にぎやかだな…」笑いながらそう言う。
「ねえ、にぎやかでしょう?」
ん?
声のした方を見てみる。女性が立っている。
ん?
これは幻覚?それとも錯覚?それともまさか残像?
え、え、え?
そこには中島さんより少し背が高い女性が立っていた。
黒い長髪が綺麗な女性だ。年齢は見た感じ30代後半ぐらい。
「自己紹介が遅れました。母です。」
「あ、どうも初めまして…。渡辺航と言います…」
母。その言葉を中島さんの母親と変換するのに数秒かかった。
僕は中島さんの母親とやっと理解した。
「えぇ!?中島さんのお母さんですか!?」
「そうです。母です。いつも娘がお世話になってます。」
僕はなぜか正座してしまった。
「あの、すみません勝手にお邪魔してしまい…。あと、すみません食材まで…」
「いいのいいの。よくあることだから、それよりなんで正座してるの?」
少しおかしそうに言う。
僕ははっとなって立ち上がる。そして、頭を下げた。
「あの、改めまして中島さんの同級生の渡辺航と言います…」
中島さんのお母さんは中島さんとは打って変わって落ち着いた様子の人だった。
「舞のこと面倒見てくれてありがとうね」
「あ、いえいえそんな…」
すると、そこに追いかけっこを終えた二人がやってきた。
妹さんは中島さんにだっこされていた。
僕の顔を見ると、また顔を赤くしていた。
「もー恥ずかしい…。ごめんね渡辺くん。取り乱して…」
中島さんは恥ずかしそうに顔を手で押さえていた。
妹はしてやったぜと言わんばかりのドヤ顔をしていた。
そして、その時さっきのことを思い出した。
「あ、中島さん四人分作ったのってもしかして…」
「そう!お母さんの分!」
「あ…なるほど…」
「お母さんお母さん!今日は渡辺くんがお昼作ってくれたの!」
「そうなの?じゃあいただこうかしらね」
そして、なぜかいきなり僕は中島さんのお母さんの前で料理を披露することになってしまった。
卵を焼いて、ご飯に乗せて、ケチャップをのせて差し出す。
「お口に合うかはわかりませんが…」
中島さんが「ん~おいしそう!」と言い、お母さんのほうは「おお」と言っている。
正直、気が気ではない。
二人は「いただきます」といって食べ始めた。
第一声はどんな反応か…。その言葉が気になる。
「美味しい!」
二人の声はきれいにハモっていた。
とりあえず、口に合ったようでよかった。そして、胸をなでおろした。
「へぇ~渡辺君だったかな?料理うまいわね~」
クールさを出しながらおいしそうな表情を見せ、こちらを見ている。自分が作ったものを食べてもらったことがほとんどないからなんだか恥ずかしい。
「ね!渡辺くん料理までできたとは…。なかなかハイスペックだね!」
「そ、それほどでも…」
二人はあっという間に完食してしまった。
「はー美味しかった~。渡辺くんありがと!」
「美味しかったわ。こちそうさま」
「あ、いえいえ…」
二人から礼を言われて、また再び三人で遊ぶことになった。