第12話「お誘い」
ちなみに自分は骨折したことは一度もないです。
一週間後
完治した足で、僕はいつもの道を通った。
店の中に入ると、僕は久しぶりのバイトに店長に迎えられ歓迎された。
休憩室に入ると、一人の女性がいた。
「渡辺さん、バイト復帰おめでとうございます」
バイトの一人、武田水樹さんに祝福の言葉をもらった。
そして、袋いっぱいに入ったお菓子をもらった。
彼女はまだ高校一年生で、少し人見知りで暗いところがあるけれど、話してみれば結構話しやすいタイプだった。髪は黒髪ショートで、男子のような髪型をしているのが特徴的だ。
「わー!武田さんありがとう。これ、もらっちゃっていいの?」
「はい、店長から今日復帰すると聞いて買いました。遠慮は無用です」
声に表情はないものの彼女のなりの祝福だった。
「じゃあ、遠慮なくいただこうかな。ありがとうね」
「はい、では私はもう上がる時間なので、失礼します。お疲れ様です。」
「うん、お疲れ様ー。ありがとうね」
武田さんを見送って、僕は制服に着替えると休憩室を出た。
店の中に入ると店長はこっちを見て、ニコニコしていた。
僕は慌てて店長のもとに駆け寄る。
「店長。この間はありがとうございました。この御恩は必ず」
「いやいやーいいんだよ。とにかく問題なく治ったみたいだし。気にしないで」
そして、店長から僕がいない間の話を聞いたりしながら、相変わらず客の少ない店で仕事をした。
しばらくして、店長の上がる時間が近づいた。
僕は基本的に夏休みも同じで、夕方5時から夜中の2時までやっている。
店長は8時に上がる予定だった。
レジでボケっとしてると、珍しく店長は少しニヤついたような、うずうずしたような様子でこちらに話しかけてきた。
「渡辺君、こんな話するのもなんだけどさ。彼女でもできた?」
僕は思わず吹き出しそうになった。
「な、なに言ってるんですか!?急に‼」
「いやあさー。実はこの間見ちゃったんだよねー。女の子と一緒に歩いてるの。
それでそれで?あの子は彼女なの?」
ニヤニヤした様子でこっちを見る。
僕は何も言えなくて無言になる。
「んん~?黙っているところを見ると怪しいな~」
こちらの顔伺ってくる。
僕は顔をそらす。
「いや、まあ…彼女ではないんですけど…」
「あーそうなのか。俺としてはてっきり彼女なのかと」
少し残念がっている店長がいた。
まあ、店長になら言ってもいいか…。
「でも…、いつか、恋人になれたらいいなって思ってます…」
その言葉に、店長は口を開けている。どこかの漫画みたいに。
そして、少し微笑んだ。
「いやあ、青春だねえ」
店長はそう言って、肘でつついてきた。
僕はなんか恥ずかしくなって頭を掻く。
お客が来てレジをする。
それが終わったとき、店長は思いもしないことを話した。
「実はさ。俺と君のお父さんはライバルだったんだよ」
「ライバル?」
僕が聞き返すと、店長はクスリと笑い懐かしそうに話し始めた。
「君と同じくらいの時。高校生の二年の時だったかな。
俺と君のお父さんは中学生の頃から仲が良くってさ。
あいつはクールなやつだったけど、いい奴だった。
そんなある日、あいつに好きな人がいるって知った。
まあ、最初はそんなに気にしてなかったんだけど、よく話聞いてみると、偶然同じ子だった。その相手が君のお母さん。
それで修学旅行の時、二人で順番に告白しようってなったんだ。
先にあいつから告白したんだけどさ。そしたらまったく、まさかOKもらっちゃってたんだよ。
俺も、思わず笑っちゃったよ」
そう言って、頬を掻いて少し苦笑いしている店長がいた。
店長と父さんが同じ高校だったのは知っていたけれど、まさか母さんまで同じ学校だったとは知らなかった。
「それで、俺もバカなんだよな。結局、俺は告白しなかった。
結果がわかってはいた。でも、せめて気持ちだけでも伝えるべきだったよ。
あいつにもそう言われたし、せめて言っていいればスッキリしていたんだろうけどな」
店長は少しどこか寂しそうな表情をしていた。
店長が何を言いたいのか分かった気がした。
「だからさ、まあなんていうのかな。
結果は同じでも伝えるのって大切だなって。
その人がいつ死ぬかなんてわからないんだ。それは君が一番よくわかっていると思う。
だから、もし君が今のその子のことが好きなら、絶対伝えるべきだ。
タイミングは大事だから、むやみに言うもんじゃない。矛盾しているとは思うけど。
でも、伝えたいなら絶対に君の思いをその子に伝えるんだよ」
店長は微笑んでいた。でも、目は真剣だった。
僕は家族を失った悲しみを知っている。でも、この人は友人と好きだった人を同時に失ったんだ。悲しみの重さは違っても、悲しみを背負っていることは同じだ。
「後悔」というその言葉の深さ、重さ。
僕は絶対にそんなことは思いたくない。
少し、店長の目には涙の膜が張っている。僕は自然と目線を下に落とす。
もし、店長が気持ちだけでも母さんに伝えていれば、何か変わったのかもしれない。
行動を起こさなければ未来は変わらない。それを心に刻んだ。
時間は過ぎ、店長は家族のもとに帰っていった。
今、店長を支えてくれる家族がいてくれることに安心感を抱いていた。
別のアルバイトの人と二人で作業をしている。
いつもの仕事を終えて、少しレジでぼーっとしていると、夜中の10時、お客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませー」
慣れた掛け声を出すと、その客は真っ先に僕の下に来た。
無言のまま下を向いていた。
フードをかぶって暗そうな恰好をしていたが、どこか前にも見覚えがあった。
まさかと思って顔を少し覗き込むと、その顔に見覚えがあった。
「中島さん!?どうしてここに⁇」
僕が中島さんだと察知すると、彼女はいつものようにパァッと明るい笑顔を作った。
「えへへ、渡辺くんお疲れさま~」
目の前に中島さんが立っている。のんきに僕に手を振っていた。
フードを後ろにやると、いつも通りのかわいい中島さんの顔がはっきりと見えた。
「お疲れ様ー…じゃなくて…。今日はどうしてここに?こんな時間にコンビニに来るなんて珍しいね。
まさか…また妹さんが風邪を⁇」
僕が思わずそういうと彼女は笑った。
「あはは、違うよー。今日は君に用があってきたんだよ」
「俺?」
そう言って僕は自分に指を指す。そういうと中島さんは大きくうなずいた。
「そういえばバイト復帰したんだね!よかったよかった」
うんうんとうなずいている。
「あ、それで用事なんだけど…。渡辺くん、今週って予定空いてる?」
「空いてなくも……ない…といえば…ない」
「というと?」
中島さんからの約束だと断りにくい。というより、さっきの店長の話も合って断りたくないのが心情だった。
「バイトに復帰したからさ、平日は金曜以外は毎日バイトが5時からあるんだよね。それで、バイトがない日はというと…。あとは日曜かな…」
「日曜?私ちょうど空いてる!じゃあ日曜でいい?」
彼女はそれを聞いて嬉しそうだった。
「うん、大丈夫だよ」
僕が微笑みかける。
「やったー!じゃあ、日曜日にこの間と同じ場所と時間に集合でいい?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、よろしくね!またね~、バイト頑張って!」
「うん、ありがとう」
手をぶんぶん振りながら彼女は去っていった。
彼女のこの夏休みの間の罰は、まだまだ続く。もちろん、僕にとってはうれしい限りだけど。
店長が見ていたらきっとまたニヤニヤと見られていただろうなと思うと、少し恥ずかしかった。
そして、日曜日。
いつもと同じようにバス停まで行きバスを待った。
「今日は何しましょうか~」
「あ、今日も決まってないんだ」
「いや、今日は渡辺くんの行きたいところに行こうかなって。この間は、私に付き合ってもらったし」
そういって、彼女は笑顔を向ける。
僕は少し悩んだ後、一つ思いついた。
「じゃあ…ボウリングにしようか。この間行けなかったし」
「え、でもそれじゃあ私が行きたいところみたいじゃん」
「そんなことないよ。俺、ボウリングしたことないし一回やってみたいんだよね」
「え!?そうなの⁇珍しいね~」
その時、携帯のバイブが鳴った。でも、鳴ったのは僕のではなく彼女のだ。
「あれ?お母さんからだ」
中島さんは電話に出る。
それからは少し騒がしく、また僕にとっては嫌な知らせのようだった。
彼女が電話を切った後、申し訳なさそうに電話の内容を話し始めた。
「渡辺くん!本当にごめん!お母さん急に仕事が入っちゃったみたいで、妹の世話しなくちゃいけなくなっちゃって…」
少し残念そうに彼女は話す。
遊べないのは仕方がない。妹さんが大事なのは当たり前だ。
「そっかそっか、じゃあ仕方ないね。じゃあ、今日はこれで解散しようか」
「いや、せっかくだから私の家で遊ぼう!」
ん?今なんて言った?
「え、今なんて?」
「だから、私の家で遊ぼうって言ったの。妹の世話しなくちゃいけないし、渡辺くんにわざわざ来てもらったのに申し訳ないし…」
「いや、俺のことは全然気にしなくていいんだけど…」
そして、少しの間沈黙が流れる。
いや、僕も頭が回らなかった。いきなり彼女に家に来ないかと言われ、でも断った反面、内心は家にお邪魔してみたいという思いもある。
どうしようか、無理やりでも断るべきか、それともそのお誘いに乗るべきか、ぐるぐると頭を悩ませていると、彼女は割り切った様子で僕を見た。
「よし、問答無用!じゃあ、れっつごー!」
そういって、僕の手を無理やり引っ張った。
彼女の手に初めて触れた。柔らかかったその手。もう一生忘れられないだろうと確信した。
結局、何度か断ろうとしたものの彼女は家に着くまで手を放してくれなかった。
家に着く、僕は息をのむ。いつもはここで彼女と別れ、僕は家に帰っていく。でも、今日はこの中に入れるのだ。そう思うと緊張した。
「渡辺くん何ぼーっとしてるの?ほら早く早く!どうぞ入って~」
そういって、僕の背中を押して家の中に押しこんだ。
そして、中島さんは「ただいまー」と大きな声で言った。僕は「お邪魔します」と、控えめにあいさつした。
靴を脱いでる途中、ドタドタと誰かがかけてくる音がした。
そして、中島さんのもとに飛びついた。
「お姉ちゃんおかえりなさい―‼‼」
「マイちゃんただいまー」
そう言って、妹さんの頭をなでていた。
身長は中島さんの顎下ぐらいで、そこまで身長は大きくなさそうだった。
僕が靴を脱いで立ち上がると、妹さんは僕の存在に驚いて中島さんの後ろに隠れた。
「こんにちは」というと、何も言わず陰からじーっと見つめていた。
「こら、マイちゃん。ちゃんとあいさつしなきゃダメだよー」
そう促されて、数秒して妹さんは「こんにちは…」と小さく挨拶してくれた。中島さんが「いい子いい子」と頭をなでる。
すると、かけだしてどこかへ逃げてしまった。
「あらら、逃げちゃった。うーんやっぱり相変わらずだなぁ…」
「妹さん人見知り?」
「うーん…大人の男の人が苦手みたいでね、お父さんの仕事仲間の人がたまに家に来るんだけど、その時もずっとあんな感じなんだよねー…」
そして、僕はリビングに案内された。リビングはきれいで大きく、家族四人で過ごすには十分な広さがあった。
「飲み物持ってくるねー。渡辺くんはオレンジジュースと、お茶と、コーヒーどれがいい?」
「あ、じゃあオレンジジュースで…」
「はーい」
僕は、部屋を少しキョロキョロする。
友達の家に来たのなんて小学生以来だ。小学生の時はまだ友達もそれなりにいたし、楽しかったといえば楽しかった。でも、中学に上がってからはその友達ともばったり遊ばなくなり、やがて一人になっていた。
妹さん以外誰もいないみたいだったけど、それでも緊張して気が付けば足をそろえて座っていた。
すると、どこからともなく妹さんがやってきた。
「私も飲みたいー」「マイちゃんも?何がいい?」「オレンジジュース!」「じゃあ、私もオレンジジュースにしよーっと」
キッチンの冷蔵庫のほうで、姉妹で楽しくしている。中島さんも立派なお姉さんなんだなと思うと、少しほほえましかった。そして、少しうらやましかった。
いやいや、小学生の妹に嫉妬をするって僕はどうしたんだ。落ち着こう。
「渡辺くんお待たせ―。はいこれ、オレンジジュース」
「あ、ありがとう」
時計は11時を回り、もうそろそろお昼かという時間だった。
とりあえず、家に来たはいいもののこれからどうするんだろう。
「ほらおいで~マイちゃん~」
まだ、キッチンのほうにいた妹さんを呼ぶ。すると、コップをもって駆け出すなり、僕から隠れるように中島さんの後ろに隠れた。中島さんもそれを見て苦笑いしている。
僕はテレビの正面、中島さんと妹さんテレビから見て左側にあるソファに座っていた。
「さて…何しようかね…」
中島さんは少し頭を悩ませたあと、「あ、そうだ」と元気よくいい、テレビのほうへと近づいた。
自然と妹さんがソファで一人ぼっちになる。
中島さんの先を目線で追いかけた後、妹さんのほうに目を向ける。自然と目が合う。すると、妹さんは慌てて目をそらし、持っていたジュースをごくごくと飲んだ。
中島さんは何やら準備をすると、よく見覚えのある細長い白いリモコンを取り出した。
「じゃあ、スマブラやろう!ゲームなら三人でもできるし」
「お、スマブラか。いいね」
「うん…」
妹さんはあまり乗り気じゃないみたいだったけれど、ゲームは始まった。
友達の家でゲームはおろか、思い出してみればゲーム自体がかなり久しぶりだ。スマブラも、友達の家でやるゲームではド定番だ。さすがの僕もやったことがある。。
「さーて、なににしようかな~」
彼女は陽気にキャラを選んでいる。その中ですぐに妹さんはキャラを選んだ。
決めるの早。しかも何もかもを吸い込むあの、かの有名なピンクの魔物を選んでいた。僕の一番得意なキャラなだけに少し悔しい。
仕方なく、僕は眼帯の付けた軍人のようなキャラを選んだ。
中島さんは悩みに悩んだ末、ゴリラを選んだ。なぜにあのゴリラ…。
バトルが始まるや否や、いきなりピンクの魔物がスマッシュ攻撃を繰り出してきた。
僕の軍人が吹っ飛ばされる。
そして、その直後にそのまま空中で連続で攻撃を食らう。
僕も何とか応戦しようとするもののまるで歯が立たない。
結局、ほんの少しだけダメージをあたえられただけで、最後はハンマーを食らい画面の軍人は叫び声をあげながら飛んでいき、空の彼方へ消えていった。
僕が唖然としていると、中島さんは少し笑いながら言った。
「あーだめだったかー。渡辺くん男の子だから勝てるかなーって思ったけど。やっぱりマイちゃんは強いねー」
中島さんはそう言いつつも妹さんとやりあっている。中島さんもかなり強い。妹さんはそのまま無言、中島さんは「よっ、ほっ」と声を出して応戦している。
少し、中島さんに形勢が傾いたとき、あの必殺技の出せるボールが空を舞っていた。妹さんはその機を見逃さず、しっかりと取り必殺技を発動。大釜に吸い込まれたゴリラは煮込まれた後、画面外へと飛ばされていった。
「あー負けちゃったー」
そう言って、楽しそうに笑っている。二人の強さに僕は驚愕していた。
「マイちゃん、本当強いんだよー。私未だに一回も勝てないんだよねー」
なぜか、僕は闘争心を燃やしていた。小学4年生の女の子に対してそんなに燃えているのは馬鹿らしいかもしれないけれど、これでも僕はその時、結構強いほうだった。
あまり負けたことがなかっただけに僕のゲーム魂に火をつけた。
「もう一回やろう」
僕は真剣な眼差しで言った。
中島さんはそれを察したのか、ふふと笑いながらもう一回ゲームを始めた。キャラは同じだった。
結果は惨敗、何回やっても妹さんどころか、中島さんにすら勝てなかった。
それでも、徐々に感覚とコツをつかんでいく、そしてついに中島さんには勝った。
そこで、12時半ぐらいになってしまっていることに気づいた。お昼はどうするんだろう。
そんなことをぼーっと考えていた時だった。
また、中島さんのスマホが鳴った。
「あれ?またお母さんからだ。ちょっとごめんね」
そう言って、立ち上がった。
また、妹さんのあったバリケードが消え、妹さんはあらわになった。
僕が、見てみるとまた目が合う。また、妹さんは目をそらす。
何とかしようと、僕は話を振る。
「せっかくだし、二人でやる?」
笑顔を作って見せると、妹さんは小さくうなずいた。
そして、対決が始まってまた負けそうになった時、中島さんが慌ててこちらに来た。
「ごめん!渡辺くん!お母さんが資料忘れちゃったらしくて。それを届けに行かなきゃいけないからちょっと、マイちゃんのこと見ててもらっていい?」
「えっ⁇⁇⁇⁇⁇」
どうしてこうなった。
画面の軍人は吹き飛ばされていた。
更新が大変遅くなり申し訳ありませんでした。
多分、次もだいぶ遅くなると思います…