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あやかし達との宴は如何?  作者: 桜 さつき
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日常の巻【陸】

「ー…であるから、ここはこの公式を使えば良い。次の試験に必ず出すから復習しておくように」



年配のじぃさん数学教師の声を右から左に聞き流す。


自分で言うのもなんだが、俺は勉強が出来る。

教科書と問題集を一回やれば頭に入るから授業を真面目に受けた事なんて数える程度だ。


ちなみに意外過ぎて驚くのが栄も頭が良い。

俺と栄は中学の頃から学年首席と次席を守り続けている。


隣で爆睡している栄の顔に落書きしてやろうかと考えているとタイミング悪く授業終了を知らせるチャイムが鳴った。



「ふぁ~…良く寝たぁ~…って、うわっ?!何でペン向けてるの?!」

「ふん。落書きしてやろうと思ったのに…命拾いしたな栄」

「ほ、本当にネ…」



ペンケースと使わなかった教科書とノートを鞄に仕舞って、帰る準備をする。

午後の授業を終えた生徒達は帰宅部と部活に行く組で別れ始めていた。


机の中に忘れ物はないかと確認すると、奥に一枚のピンク色の手紙を見つける。

可愛い字で体育館裏への呼び出しが書かれていた。何ともベタな場所である。



「栄、先に帰っててくれ。用事が出来た」

「……はっはーん。さては告白だな?モテる男は辛いねぇ」

「殴り込みの可能性もあるだろ」

「そんな可愛い字で殴り込みだったらホラーよ。もっとポジティブにいこうぜ逢さん」



図書室で待ってるからゆっくりして来てね、と軽い足取りで教室を出て行く。

その時の栄の歩く度にピョコピョコ跳ねる結んだ前髪が目に入ってきて笑ってしまった。


手紙の人物と栄を長く待たせるのは悪いと思い、俺も早足で体育館裏へと向かった。



「あ、…百目鬼君!こっちです!」

「おう」



髪を三つ編みにした背が小さく可愛い女子生徒が立っていて、その姿を見て自分と同じ生き物かと疑いたくなる。


プルプル震えている姿がウサギを連想させた。



(けど…何か違和感があるんだよな。)



可愛い姿とは裏腹に少しだけ感じる違う気配。

それは俺が毎日見ている「あやかし」達の気配に似ているのだ。


…もし仮に奴らが人間に化けていたとする。


ここまで気配をなくせるものなのだろうかと考えるが、ふと思い出す。

俺が過去に会った人物で完璧に人間の姿をした「あやかし」の事を。



「ず、ずっと!好きでした!よ、良かったら私と付き合って下さい!!」

「……それだけで良いのか?」

「へ?」



ダンッと女子生徒の後ろの壁に手を突く。


感じた違和感を確信にする。

俺が殺気を向けた瞬間に一瞬だが、黒色の目が赤色に変色した。


かなりの賭けだったがビンゴだったようだ。



「えっと…、百目鬼…君?」

「俺に何の用?それと、アンタは何?」



顔を近付け問い詰めると、下を向いて表情の変化が分からなくなった相手。


攻撃を仕掛けてきたらすぐに動けるように神経を研ぎ澄ましていると、小さな声で相手が何かを呟き出した。


耳を済ませ聞こうとした時、それは突然起きる。


その女子生徒の首が一気に上へと伸びたのだ。



「いやぁぁん!壁ドンされちゃったー!超幸せなんですけどもうヤバーい!!」

「……、」

「っていうか、百目鬼ちゃん格好良過ぎてガチ困る!感激ー!!」



ウネウネ動く長い首と可愛い顔がミスマッチ過ぎてかなり衝撃的だった。


女子生徒の正体は【ろくろ首】。

首を自由自在に伸び縮み出来る「あやかし」で、今も三メートルくらいの長さに伸びている。


まさか学校にまで紛れ込んでいるとは思わなかった。しかも、人間に化けてるし。



「何でこんな場所にいる。目的は何だ?」

「そんな睨まないでよぉ百目鬼ちゃん!私はただ百目鬼ちゃんに会いたかっただーけ!!」

「…普通に道端で待ち伏せしてりゃ良いだろ」

「っんもう!それじゃ詰まんないでしょー?体育館裏での告白を一度は体験してみたかったの!」



乙女心が分かってないわねーとウネウネしながら言われる。「あやかし」に乙女心を説教される日が来るとは…思わず目頭を押さえた。


一通りウネウネして満足したのか、元の首の位置に戻ってきた女子生徒。



「興奮して首が伸びちゃったよ!ちなみに、ちなみに?百目鬼ちゃんったら何で私が人間じゃないって分かったのぉ?」

「微量な妖気の気配を感じたから。後は勘」

「えー?!今回の変化は完璧なのに!…やっぱり、影様が惚れただけあるなぁ」

「影様?」

「んーん!何でもなーい!!」



人間に化けるのは強い力を持った「あやかし」にしか出来ない事だ。


のっぺらぼうの菊乃さんみたいに元から姿が人形のもいるが、異形の者の方が多い。


「あやかし」の特徴としては必ず目の色は赤だ。

暗闇でも赤く光る目は人々を惑わすと昔から言われている。



(…それをこんなにも上手く隠せる奴がいるなんてな。)



赤い目を完全に黒に変え、妖気も最初は全く感じなかった。


俺が知らないだけで人間として化けてる奴らがまだ近くにいるのかもしれないと思うと苦笑いするしかない。



「百目鬼ちゃんにも会えて念願の体育館裏と壁ドンも経験出来ちゃったし満足満足!あ、そういえば自己紹介やってないよね?」

「いるのか。自己紹介」

「細かい事は気にしない気にしない!私はろくろ首の万知(マチ)っていうの!よろしくねん」

「あぁ」

「超クール!好き!…って、あー!私、そろそろ帰らなきゃだよぉ?!

また会おうね百目鬼ちゃん!バイバーイ!!」



そう言って、その場からフッと消えた万知。


パワフルな「あやかし」で、栄と気が合いそうだ。つか、またねって言ってたのが引っ掛かる。


また学校に来るつもりかアイツは。



「はぁ…戻ろ…」



告白でもなく、殴り込みでもなく、「あやかし」との遭遇だった体育館裏の出来事。


ベタを通り越したな。



肩にかけていた鞄を持ち直し、栄が待つ図書室へと足を進めた。

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