変化の巻【質】
目を開けると予想通りっつーか何つーか…何でお前らは人の寝顔をそんな見るんだって言いたい。
頭に乗っている奴からは寝息まで聞こえるし。
人の頭の上で寝るんじゃないっての。
『『『『おはようございます!!』』』』
「…………おう」
小鬼、座敷童子、一つ目小僧、豆腐小僧、豆狸。
前も妖界に連れて来られた時もコイツらがいた。小鬼は本当に良く寝る奴だ…。
頭から爆睡中の小鬼を持ち上げて、襖の外に控えているであろう侍女達に話し掛けるとすぐに返事が返ってきた。
「お久しぶりでございます。お召し物をご用意しましたので、ご準備が整いましたら影様のお部屋へご案内致します」
「…ありがとうございます。あの、俺と一緒に妖界に来た男って今どこにいますか?」
「天宮様でしたらお休みになられています。妖界の空気は慣れていない人間には少々辛いのです」
「そうなんですか…」
さっさと面倒な馬鹿烏に抗議して、栄を連れて帰るのが得策だな。
今朝は闇子と「あやかし」達を気にしてたから朝飯をしっかり食べられていない。
イライラでエネルギーを消費しているのか、凄い腹が減っているのだ。…寿司食べたい。
前回とは違う赤の生地に鶴が描かれた着物に着替える。馬鹿烏は派手な着物が好きなのか?
(趣味が悪くないってのがまた気に食わないんだよな…。)
何か馬鹿烏に負けた気がする。
帯に携帯を挟んでから襖を開けると雪女の雪璃さんが白露を踏んでいる場面に遭遇した。
パタンと静かに襖を一度閉める。
(明らかにヤバい場面を見ちまったよな…今。)
…今のは幻覚だったのかもしれない。
もう一回、開けたら普通になってる可能性もあるしな。多分…疲れてんだな俺。
目頭を解して襖を開けると、やはり変わっていない二人の体制。
「…白露、お前ってそういう趣味があったのか?」
「違う違う!女の子は何しても可愛いと思うけど、そんな趣味は持ってないよ僕?!」
「遠慮しないで下さい。このまま息の根を止めてあげますから黙ってて下さい変態狐」
「痛い痛い痛いから!止めて!雪ちゃん!!」
「雪ちゃんと呼ばないで下さい」
何かミシミシ聞こえるけど大丈夫そうだな…白露だし。
雪璃さんは満足したのか、白露から足を退けて俺の手を取ってきた。
本当に申し訳なさそうな顔をしている。無表情だけど。
「万知から白露が逢様に接吻をしたと聞きました故この変態狐は始末しておきます。貴女様は私が守りますのでご安心を」
雪璃さんのイケメン力が凄い。
後ろで倒れて気を失っている白露より百倍格好良い。白露さんが男だったら惚れてるな。
つか、万知はどんな風に伝えたんだろうか。
白露がキス…接吻をしてきたのは頬だし、そんなに気にしていなかった。
アメリカに友人がいるから会う度に挨拶のキスをされていたら慣れた。
身近でも父さんと母さんが新婚かってくらい毎日イチャイチャしてるし過剰反応するまでもないのだ。
(まぁ…格好良い雪璃さんと仲良くなれそうだし、結果オーライか。)
無表情だけど良く見ると表情の違いが分かってきた雪璃さん。
不器用な彼女に俺は笑い返した。