変化の巻【伍】
(………アイツ、大丈夫か?)
朝食を食べていると、組員に栄が来ていると教えられた。
いつもは栄んちの神社の前辺りで合流するが、今日は違ったようだ。…当たり前か。
昨日は色々あった訳だし、問い詰めたい事が山々だろう。
茶茶と黒杜にいつも通りキュウリと焼き魚を食べさせ、玄関に向かうと壁に寄り掛かっている栄を見つけた。
その顔色はさっきの組員と同じように青白かった。
「あ、おはよ~…逢」
「んなヤバい状態でここまで来る阿保がいるか。取り敢えずここ離れるぞ」
「うん…それは賛成かな…」
栄は闇子や「あやかし」をモヤとして見える分、奴らの影響も見えない人間達より受けやすい。
組員達は顔色を悪くする程度で済んでいるが、栄の場合は体調にも影響が出ている。
俺が起きた時よりも数が減っているのが救いだ。
流石にあの数を栄が見たら、ぶっ倒れるのは間違いないだろう。
「あの尋常じゃないモヤの数は何?逢の家が真っ黒だったけど大丈夫なの?」
「…少し達の悪いストーカー野郎に会っちまっただけだ」
「はぁ?!ストーカー?!」
栄に昨日の事を詳しく話すと青白い顔をもっと青白くさせた。
本当に早急に後ろの奴らをどうにかしないとだな。これじゃ、俺じゃなくて周りにいる人間に迷惑が掛かっちまう。
奴らの狙いは俺。
家を出ればゾロゾロと後ろから物陰に潜みながらついて来た。
(家の心配はなくなったが…今度の問題は学校の奴らだな。)
このまま後ろの奴らを引き連れて行けば家よりも被害が大きいだろう。
俺みたいにはっきり見える奴はいなくても、栄みたいに少しの霊感を持った奴も必ずいる筈。
最悪の場合、その見える人間に興味を持った奴らが現れたら手に負えない。
この数を相手にするのは無謀と言えるからな。
「あのさ、あの…後ろの奴らがどんどん近付いて来てる気がするんだけど…」
「気を抜くなよ、栄。気ぃ抜いた瞬間にパックリ食われるぞ」
「怖い事をサラッと言わないで?!」
コイツらをどうにかする方法は昨日の夜に水蘭から聞いた一つだけ。
だが、それをするのはアイツの思い通り過ぎて嫌だ。…本当に性格が良い烏だよな。
影親はこうなる事を分かっていて契約の印を渡し、俺が自ら妖界に行くようにしたいのだろう。
(俺が今すぐ影親をぶん殴りたいって考えもお見通しなのにも苛つくな…。)
分からないだけで、どこかで影親の仲間が俺達を見ている可能性もある。つか、絶対に見てる。
上を見れば微かに感じる気配。
何か細工をして姿を見せないようにしているらしいが、神経を集中させれば見える。
これ以上周りに迷惑を掛ける訳にはいかない…俺の選択肢は一つ。
「見てないで降りて来たらどうだ。かなり癪だが…アイツの所に行ってやるよ」
「逢?空にも何かいるの?」
「まぁな。…ほら、降りて来たぜ」
「え?」
フワリと前に風が来る。
そして、透けていた何かがはっきりと姿を表した。
一旦木綿に乗った二人の「あやかし」と二匹の慣れ親しんだ「あやかし」。
…何でお前らもそこにいるのかが聞きたい。
「この術も見破っちゃうなんて、百目鬼ちゃんにマジで惚れちゃいそうだよ私ー!」
「僕には惚れるなって言ったじゃないか。万知は酷いなぁ」
『ごめんッスお嬢!コイツらを説得しようとしたんスよ!』
『駄目だったがな。すまぬ』
「え、女子高生?…と、コスプレ男?」
「やっぱりお前らか」
ろくろ首の万知と九狐の…何だっけな。
取り敢えず、これで話し合いは出来そうだ。