変化の巻【弐】
闇子や「あやかし」が見えない組員達は毎朝の日課である庭掃除をいつも通りしているが、地面に這いつくばる闇子につまづいて転ぶ奴らも居たりと明らかに被害は出ている。
上も下も横も前も四方八方を闇子と「あやかし」達に囲まれ、これでは妖界と変わらない。
足元に群がる闇子達を追い払い、組員達に見えない場所へと歩いて行く。
奴らが家中にいる理由を聞かなくては状況判断が全く出来ない。
(水嵐が言ってた契約の印…これが原因だろ…。)
着物の袖を肩まで捲ると見える羽の模様。
この模様に奴らが引き寄せられているのが分かる。現にさっきから涎垂らして俺の事をガン見してる奴らが大勢いるからな。
いつもなら俺を喰おうとか考える最悪な奴らは襲う時は殺気を押し殺して笑顔で近付き、相手を油断させようとする。
だが、今ここに集まる奴らの目は俺を完全に獲物としか見てない。
ジリジリと徐々に近付いて来る奴らを警戒しながら比較的俺に興味のなさそうな「あやかし」を捕まえた。
「ちょい!何すんの!痛いじゃん!」
「へぇ、痛いのか。そりゃ可哀想だ」
「嘘だよーん!全然、痛くな……って、痛い痛い痛い痛い!!」
「面倒な嘘を言うなっての」
この実に面倒な性格をした奴は【天邪鬼】という話すと物凄く疲れる「あやかし」だ。
何でもわざと人に逆らった行動をしたり嘘を言ったりして相手を騙すのを得意とする。
一番の特徴としてはコイツは性別が男か女かがはっきりと決まっていない。
女の見た目だが声が野太い男の声で、ギャップどころの話じゃないくらいの衝撃だ。
(今のところ、俺を獲物として見てない奴はコイツだけだし…仕方ないか。)
詳しい話を聞きたいのに、よりによってコイツとは運がない。
嘘と真実が混じった話の中で本当の事を探らなくちゃいけないのだ。
天邪鬼を俺の部屋へと連れて行き、障子を隙間なく閉めて「絶対に入るな」と言う。
これは言霊という力で、言った言葉が実現する力だ。
「あやかし」はその家の持ち主からの許可がないと家には入れない。つまり、俺が良しと言った奴しかこの部屋には一歩たりとも踏み込む事は出来ないのだ。
「頭が正常なのはお前だけだ天邪鬼。アイツらの今の状況をきちんと説明しろ」
「えー?どうしよっかなぁ…教えよっかなぁ…うーん、やっぱり教えなーいよ!!」
「良し。黒杜やれ」
「ふぎゃーーーーーーー?!」
『ふむ。良い爪研ぎが出来たぞ』
『めっちゃ綺麗になったッスね』
面倒でイライラしてきたから、ここで黒杜を投入する。見事、天邪鬼の顔には黒杜の爪痕がくっきりと残った。