運命の巻【伍】#茶茶
いつもと同じようにお嬢が告白されるという話を聞いた俺達はテルテルと一緒に図書室で待つ事にした。
テルテルは俺達の事がモヤにしか見えてないッスけど、たまに話し掛けてくる時もある。
嬉しそうとか悲しそうとかは何となく分かるらしいんッスよね。
んで、勉強を始めたテルテルを観察するのにも飽きてきた時に良く知る妖気を感じた。
あのテンション高めで超面食いな「あやかし」が何で学校にいるんッスかね。
黒杜と顔を見合わせた時、興奮していた妖気が消えのが分かった。どうやら妖界に帰ったらしい。
もうすぐ、お嬢が帰って来ると思って出迎えようと動き出した時にグワンと一瞬視界が歪んだ。
(うえっ?!な、何でッスか?!)
この感じは良く知っていた。
「境目」が歪む時に起こる現象で、この影響で物凄く困る問題が闇子の大量発生。
闇子達のいる空間とこちら側の空間が混じり合って、最悪あちら側に引き込まれてしまうッス。
そんで最悪な事が起こってしまったなう。
さっきまで感じていたお嬢の気配が突然消えた。
『ふむ。困ったな』
『冷静過ぎッス!お嬢がまた境目越えしちゃったんッスよ?!ヤバいッス!!』
『逆に落ち着け。逢が簡単に倒されてしまう人物か?』
『そ、そうじゃないッスけどぉ~…』
「境目」の歪みはいつどこに現れるか予測不可能でこちら側からの干渉は無理。
お嬢が自分であちら側から「境目」の切れ目を見付けないと脱出が出来ない。
強い闇子も一蹴りで蹴散らしちゃうくらい凄いお嬢を信じてはいるが不安は増えるばかり。
黒杜も落ち着けと言っているけど、二本の尻尾がバシバシと机を叩いてる。
お嬢が心配なのは同じッス。
「どうした。何かあったのか?それに、逢も遅いし心配だな…」
俺達の不安を直感で感じ取ったテルテルの言葉にギクリと反応しちゃう俺達。
お嬢を心配して探しに行こうとするテルテルをどうにか止めようかと焦る。
むやみやたらに動いたら、まだあるかもしれない「境目」に彼まで引き込まれてしまうかもしれない危険性があるッスからね。それはマズイ。
黒杜のテルテルの首を叩いて気絶させようという考えにヒヤヒヤしていると、カツンと後ろから足音が聞こえた。
「待たせて悪かったな。帰るぞ」
「…逢!もう待ちくたびれたよ~今日は随分、長かったから心配しちゃったじゃん」
「途中で資料運び頼まれちまったんだよ」
「なぁんだ!そっかそっか!」
現れたのは間違いなくお嬢だった。
けど、それは俺達の知るお嬢とは少し違う…というか大分違うお嬢。
詫びだと言ってお嬢が缶ジュースを渡すと、嬉しそうにそれを受け取ったテルテル。
本当にお嬢が好きッスよねと呆れていると、それを飲んだテルテルがゴンッと机に頭を打ち付け寝始めてしまった。…すまねぇッス。
「はぁぁぁ…女の子の寝顔は大好きだけど、男の寝顔見ても何も嬉しくないなぁ」
雰囲気がガラッと変わったお嬢は眠ったテルテルを確認するとボフンと体が煙に覆われ、煙が消えた次の瞬間には頭に耳と後ろに尻尾を生やした男に変わっていた。
ピクピクと動く耳とフサフサと不機嫌そうに揺れる尻尾。この人が自分から男に関わるのなんて何十年ぶりかに見たッス。
『助かった。礼を言うぞ白露』
『いやぁ本当に焦ったッス』
「まさか急に妖界からいなくなったと思ったら人間のお嬢ちゃんと一緒にいるなんてね。同棲なんて羨ましい事この上ないよ」
『相変わらずッスね~ツユツユ』
この女の子大好き男は【九狐】の白露。
銀髪と銀色の瞳、それと銀色の耳と尻尾を持つ彼は妖界でもそりゃ有名人の一人。隙あらばナンパしてナンパしてナンパする。
男は滅びろ精神の「あやかし」ッス。
「よっこいしょっ…と。ほんじゃ、僕はコイツを家に返して、とっとと帰るね。化け猫の弓ちゃんとデートあるんだ僕」
『お嬢は?!お嬢は無事なんッスか?!』
『逢の無事が確認出来るまで帰さんぞ白露』
「ちょっとちょっと。僕が可愛い女の子を危険な目に合わせる訳ないでしょ?お嬢ちゃんは影様がちゃんと助け出したよ」
ただ一度に大量の闇子の相手をしたから邪気に当てられちゃって今は妖界で寝てるよと説明された。
お嬢が無事だと知って黒杜と同時に長い長い息を吐き出す。
影様の治癒力があればもう安心。
俺達も妖界に早く向かわないとッスね。
「あ、僕さぁ…まだお嬢ちゃんに会えてないんだよね。どんな子?どんな子?あの影様がベタ惚れな子…会ってみたいなぁ」
『『絶対駄目だ/ッス』』
「冷たいなぁ」
こんなチャラい狐に俺達のお嬢を会わせる訳がない。超危険人物ッス。
テルテルを担いで煙と一緒に消えたツユツユを見送った後、お嬢に会う為に俺達もすぐに妖界へと向かう準備を始める。
『…影様がとうとう迎えに来たか。時とは早いものだな』
『そうッスねぇ。ある意味お嬢が心配ッス』
『ワシも同感だ』
向かうは「あやかし」の国。
求めるのは大切な彼女。