私は、『私』の為に死を選ぶ。 ー後編ー
忙しくてどこまで書いたのを忘れてました・・・。(汗)
「と言うわけで、後の事はよろしくお願いします、チーフ。」
月の光が反射する湖の真ん中で、私は上司に電話をしていた。ここはとある国の山奥にある直径1.5kmと小さめの淡水湖で、ボートの上で電話している私は釣り人の装いをしていた。
「ふむ、分かりました。孤児院の事は僕に任せて下さい。出来うる限りのサポートはしますから。」
電話口から聞こえる柔らかく、少し重い声の主は私の上司にあたるチーフである。常に柔和な笑顔を浮かべている初老の男性で、たまに私が育った孤児院を訪ねては孤児院の子供達と遊んでくれている。その為、孤児院の子供以外に私が信頼を置いている数少ない「例外」の一人だ。
「しかし、本当に『いく』のですね?」
「はい。現在は何とか抑えられていますが、やがて『自我』を失ってしまうでしょう。まあ、この『復讐鬼』にはお似合いの末路です。」
「そうか・・・。」
苦笑混じりに言った私の言葉に、返ってきたチーフの声色に、僅かな悲哀が滲んでいた。まあ、それも当然だろう。チーフは自身の部下が傷つく事を嫌う優しい性分だし、加えて私とチーフは、私が『機関』に所属した時からの付き合いであり、彼からすれば「子が親より先に居なくなる。」事と同義なのだろう。本当に、すまない事をする・・・。
「では、そろそろ失礼します。今までありがとうございました。再三になりますが、後の事よろしくお願いします。」
「了解しました。孤児院の事は私が責任を持って面倒を見ましょう。だから安心していきなさい。じゃあ、さよなら、『ロボ』。」
「ええ、さよならチーフ。本当に、すみません。」
そう言い残して私は電話を切った。「ロボ」というのは私の本名ではなく、暗号名である。何でも機械的に任務を遂行する姿と、或る物語に登場する古狼の名から来ていると言う。
「さて、そろそろ準備をするか。」
そう言って私はポケットから取り出したスキットルの蓋を開け、満月を見上げながらウイスキーを体内に流し込む。
「綺麗な満月だ、飲み納めには丁度良い。」
アルコールが身体中に巡っていくのを感じながら私はそう呟いた。『月に叢雲』とはよく言ったもので、今宵の空は、月が朧雲のヴェールに包まれ、より一層儚く、それでいて幻想的な雰囲気を醸し出している。それは私の最後を悲しみ、看取ろうとしているように感じられた。
ー さて、そろそろ逝こうか。 ー
私は徐に立ち上がると、重心を後方へと移動させていく。すると体はボートの外へ行き、静かな水面を波立たせる。そしてそのまま、我が心を蝕む闇の如く暗く、深い水底へと呑まれて行った。後は誰にも知られず土に還るか、発見された私の遺体からかなりのアルコールが検出され、『釣り中の飲酒による事故』として片付けられるだろう。私がエージェントであるという証拠は全て処分した。やり残した事ももう何もない。ただ1つ、未練があるとすればーー。
「私の保険金で、孤児院の皆が良い暮らし出来れば良いな・・・。」
『獣』に成りつつある僅かな人心で思い浮かんだのは、私の大切な『家族』の顔であった。体は止まる事なく、底に向かって沈んで行く。それで良い。我が魂よ願わくば、地獄の底で安らかに眠れ。
今や遥か向こうにある月を見つめ、私は静かに眼を閉じた。
続きがまだ出来上がってないので時間がかかります。楽しみにしている方はすみません!