僕達は我に返る(3)
お待たせいたしました!
今回は化学の先生です。果たしてご期待に答えられたのやら…………。
たまたまお昼休みに、渡り廊下を歩いていた時の事。先生と呼ばれた気がして、下を見ると三人の女子生徒が、楽しそうにお昼を食べていた。どうやら呼んだ訳ではないらしいが、ここで立ち止まった事で、俺は運命をかえたのかもしれない。
「乙女ゲームでさー、教師と生徒の禁断の恋って感じのルートがあるでしょ? あれってさー、ゲームならいいけど、現実でいたらロリコン確定よね! ないわー」
グサッ! ストレートに人が気にしている事を! 確かに俺は、教師なのに一人の女子生徒に夢中になっている。だからといってロリコンはないだろ! 俺はまだ27歳だ!!
内心突っ込んでいると、下では会話は進んでいた。まあ、当然か。
「ロリコンかぁ…………先生、人気あるもんね〜、内面がロリコンって知ったら、皆の反応が怖いね〜、ゲームだから許せるけど〜」
グサッァァァ。何故、彼女達は、俺の心をえぐる言葉ばかり言うのだろう。ん? ゲーム? そういえば最初、乙女ゲームとか言ってたな…………。ポケットからいそいそと携帯を出し、意味を調べてみる。出た意味を見て、流石に絶句した。え? 俺はこれに見られてるわけ!? グサッ、と自分で自分の傷をえぐってしまった。
「大体のルートって〜、先生が真面目な生徒であるヒロインに、興味をもつんだよね〜、そのまま自分の葛藤とかと戦うんだけど〜、ヒロインと真剣に付き合うって感じだよねぇ〜、ルート的に美味しいし♪」
マジか…………。絶句しか出てこなかった。何故なら、彼女との出逢いもまさにそれで………。
「そういえば、科学の先生って、私の一番上のお兄様と同級生だったみたいなの」
はっ!? その発言に慌てて向かい側に行き、生徒の顔を見て、ようやく納得した。河中の妹だったか………。何故、顔を知っているかといえば、河中兄に写真を何度も見せられたからだ。あいつの妹自慢はマジで凄かった。
元の場所に戻ると、何故か俺の話になっていた。
「先生ってね? 生徒会長してたんだって」
「それマジ?」
「そうなの〜? みほりん」
「凄いモテモテだったみたい、でね? その時の副会長だった人が、凄い美人さんで、先生の初恋の人なんじゃないかって、お兄様が話してたわ…………凄く不機嫌そうだったけど」
その話に、おいっ!? と河中兄を内心でぼこる。あいつ妹になんて話をしてんだよ!? 確かに俺は生徒会に入っていた。家が公務員一家だからな。既に決定されていた道だった。
「お兄様、その副会長に告白したらしいんだけど、断られたんだって、先生が好きなんだって言われたらしくて、かなり凹んでたし」
へっ……………。まさに晴天の霹靂。あのマドンナが? 彼女の事は気になっていたけど、上手く話せなくて、確か生徒会の仕事にかこつけてようやく話せたくらい。それも全て、事務的なもの。つーか、河中兄よ。お前は本当に、妹に何を話してるんだよ!! 確か前に自慢されたな………。歳の離れた自慢の妹がいると。あ、何か不味い。あいつの惚気が思い出されて……………慌てて頭を振って考えを切り替える。
ふと、そういえばもうすぐ同窓会だった事を思い出す。マドンナも来るだろうか……………。何だかあの甘酸っぱい思いが溢れてくる。
そういえば、河中兄が今回の幹事だったな。後で確認しておこう。
そしてその夜、河中兄に久しぶりに電話した。最初はまともな話をしていたのに、話の流れで妹を担任している事を話すと、またしても惚気られた。いい加減ブラコン治せよ……………。なんでも妹が婚約してしまい、兄の自分が婚約していない事が問題になったらしく、最近はお見合い写真とにらめっこしているらしい。
「なあ、マドンナは今回来るのか?」
『ん? 来るぞ?』
その言葉が聞けただけで、この2時間近い妹の惚気まくりの話を我慢して聞いたかいがあったと言うものだ。今度、電話をするときは、絶対に妹の話はしないでおこう……………。
◇◇◇◇◇
そして同窓会当日。俺は憧れのマドンナと会うため、久しぶりに美容院に行き、外行きの服を着て。マジで頑張ってお洒落してきたんだ!! あ、勿論、姫にも後で会って、大人デートを…………。
「久しぶりだな〜、柊!」
「相変わらずキラキラしてんなー!」
久しぶりの同級生との再会に、姫との事も吹き飛んだ。まあ、懐かしい奴らだしな。勿論、幹事たる河中兄には、関節技をかけておいた。周りは久しぶりの馬鹿な行動に、苦笑いしてたけどな。けど、それとこれは別だ。妹にまで人の個人情報をバラすんじゃねぇ!!
そうこうしていると、視界に待ちに待ったマドンナの姿が!!
マ ジ か ! !
まさに一輪の花。昔も綺麗だったが、歳を取り更に美しくなった彼女に、姫の事なんて頭から吹き飛んだ。彼女が欲しい! この手に抱き締めて、そして…………。
そこまで考えて、慌てて頭を切り替える。マズい、宇宙の彼方に行く所だった…………。
「お久し振り、柊くん」
「久し振りだね、白戸さん」
俺は慌てて最上級の笑顔でかえした。
マドンナこと、白戸 由美さん。黒い髪を腰までストレートにして、顔立ちはおしとやかな大和撫子を連想させる。花で言うなら、百合だろうか。今日は水色のお洒落ながらセンスのいい、ワンピース姿。ヒールは白で彼女に似合っている。何より、昔は感じられなかった、大人の色気を感じて。思わず唾を飲み込んだ。
「柊くん、感じ変わったね? 学校の頃は真面目な感じだったけど」
「え、そ、そうかな?」
マジか、あれ? もしかして、嫌われた!? 内心ビビっていると、次の彼女の言葉に、俺はマジで焦った。
「もしかして、付き合ってる人とかいるんじゃない? 昔からモテてたしね」
一瞬、姫との事が出てきたが、それは即座に頭から吹き飛ばした。彼女、彼女だけは、絶対に! 絶対に!! 自分の物にしたいのだ!!!
「いないよ!! 俺、学校の先生だから、出会いもないし! 白戸さんは? 付き合ってる人とかいないの?」
慌てて彼女にそういうと、何故かクスクス笑われた。は、恥ずかしい………。
「いないよ? ほら、うちは父が議員だから、そういうの厳しくてね」
苦笑気味に言われて、あぁ、そんな顔も可愛いなと思う自分に、改めて確信する。間違いない、俺は彼女、白戸 由美さんが今でも好きなんだ!
「えっとさ、良かったら今度、食事いかないか?」
「えっ? いいけど………」
この日、俺は決心した。彼女と共に歩む道を探していきたいと…………。
◇◇◇◇◇
次の日、朝に姫と会った。
が、何故か分からないが、年の離れた妹を見ているような気分しか、出てこなかった。おかしい、書記や会計と話していると、いつもイライラして此方を向かせたくなるのに、何故かしない。こう、妹が戯れていて可愛いな〜くらいしか出てこないのだ。時折、姫が此方をチラチラ見て来るが、微笑みしか出てこない。姫の媚びるような視線さえ、大人ぶっている年下にしか見えなくて、全く好きだという気持ちがこない。というより、こう、可愛い生徒の一人としか感じない。
やっぱり、俺には由美さんしかいない!
あー、由美さんに会いてー。
日に何度も出てくるのは、そればかり。この前の美しい姿が、瞼の裏に焼き付いて離れない。もう重症としか言い様がない。
◇◇◇◇◇
あれから、何度か白戸 由美さんと食事やデートをした。そのたびに、惹かれていく自分を感じた。もう早く、彼女を自分のものにしたい!
「由美さん、お、俺と、結婚を前提に、付き合って下さい!」
俺は何度目かの食事の帰り、夜景の美しい広場で、彼女にプロポーズした。心臓が飛び出るんじゃないかってくらい、緊張した。指輪は、給料を貯めて買った立派なもの。ただし、宝石が邪魔にならないようにこだわってもらった。
「わ、わたしでいいの?」
戸惑った彼女は、しかし嬉しそうに笑って受け取ってくれた。
が、それからが大変だった。
まずは、彼女の家へご挨拶。ご両親に会ったのだが、父親の方は、議員は議員でも国会議員だったのである! 流石に顔が引きつりそうになるものの、なんとか挨拶は終える。もう殺されるんじゃないかって思うくらいに睨まれたが、俺の家族たる長男の話になった途端に、父親の態度が激変した。更に次男の話になると、冗談まで飛び出るくらいに良い方になった。因みに、俺は末っ子たる三男である。長男は既に国会議員の娘と結婚し、婿になっている。次男は警察のキャリア組で、大恋愛の末に上司の娘さんと結婚。
因みに俺の親父は、公務員の中堅である。
こう考えると、中々に凄い家族だよなぁ。
「娘を宜しく頼むよ」
無事に許可を貰い、彼女を俺のお嫁さんになる事が決定した。よっしゃぁぁぁぁぁ!! やったぞ、俺!
次に俺の家族を紹介するために、我が家に彼女を招待した。母は彼女をすっかり気に入ったようで、娘になるならと今からウキウキとしていた。母さん、フライングしないでくれ…………。
そんなこんなで、俺は可愛いお嫁さんをゲットしたのだ☆
◇◇◇◇◇
副会長、生徒会長が婚約し、学園が上から下への大騒ぎになってから、2ヶ月後。今度は化学の先生が婚約した。お相手は、国会議員の重鎮の娘である。先生を狙っていた女性達は、絶叫したという。しかし肩書きが立派な婚約者であり、品行方正、更に美人とくれば、誰もが納得するしかなかった。勿論、それでもという肉食女子はいたものの、先生の惚気やら、婚約者の自慢話が出れば、流石にあきらめるしかなかったのである。
勿論、あの女子生徒はすぐに行動に移した。が、先生からは一生徒としか相手にされず、流石に諦めるしかなかったのである。
こうして、彼女はまた、また、また! 攻略対象者に逃げられたのである。
読了、お疲れ様でしたm(__)m
長らくお待たせいたしましたが、ようやく書けました。ご満足、いただけたでしょうか?
このお話、次は誰にしようか、マジで考えています。どなたか希望がありましたら、メッセージの方で宜しくお願いしますm(__)m
感想、ご意見、誤字脱字、いつでもお待ちしております。なお、秋月は小心者ですので、優しくお願いしますね。