手
私の手は何も掴めない。
ペンも。
食器も。
希望も。
夢も。
愛する人の手も。
私の手は掴むことが出来ない。
母はそんな私を抱きしめてくれた。
何処かへ行ってしまいそうな私を引きとめる為に。
私は母の胸で泣いた。
私の手は何も掴めない。
そんな私に母は教えてくれた。
なにも掴むことにこだわらなくていいのだと。
私には掴む為の手はない。
それでも抱きしめる為の腕はある。
目的地へと歩む為の足がある。
愛する者は抱きしめればいい。
夢や希望へ歩めばいい。
私の手は何も掴めない。
でも、私は沢山のものを持っている。
それは私の何もない手が掴ませてくれた人の想いだった。